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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行
4/54

雨と廃墟と時々骸 ④

それはそうと、城がこのような状態では探索は不可能だ。

仕方なくシエナは来た道を戻り出す。

結局わかったことといえばあの日記に書かれていたことだけだ。

ほとんど無駄足に終わってしまった。



深い嘆息をつき、苦虫を噛むような顔でシエナはくしゃっと髪をつぶした。

打つ手もないし、雨も弱まってきた。

ここで食料や水を探すより、明るいうちに次の街を目指したほうがいい。

そうは思っているのだが、どうもこの街のことが気になってしまう。



「どうしたもんかねえ……」

独り言をこぼしながら、シエナは曇天を見上げる。



石坂を下り、処刑場の前を横切る。

そこで思わずシエナは歩みを止める。

その時彼は、「どうして立ち止まってしまったのか」と心底後悔した。

彼は見てしまったのだ。

処刑場の中心に聳え立つあの木材の近くで青いオーブが浮遊しているのを。

 


先ほど見た時はあんな光なんてなかった。

それに、ここは処刑場。

考えられるとしたら――人魂ひとだま



いやいや、そんなはずはない。

シエナはかぶりを振って自分に言い聞かせる。

しかし、何度見たって現状は変わらず、青いオーブはまるで意思を持ったようにふよふよと浮いている。



やがて青いオーブはゆっくりとシエナのほうへと近づいてきた。

驚いたシエナは目を剝きながら咄嗟に後退りする。

青いオーブはというとシエナの様子を窺うように彼の前でピタリと止まった。



急に動かなくなる青いオーブにシエナも戸惑う。

だがそれも束の間。

青いオーブはシエナを誘導するように噴水があるほうへと向かっていく。

ついて来い。

シエナにはそう言っているように見えた。

 


シエナは青いオーブが導くまま石坂を下る。

不思議と先ほどまでの恐怖は消えていた。

ただ、あのオーブが自分に何を伝えているのか。

それは未だにわかっていない。



そうしているうちに青いオーブは噴水の前へ留まった。

ただ、動かないそのオーブからは今までにないような威圧感を感じた。

ただの青いオーブだ。

それなのに、オーブはシエナが逃げないよう立ち塞がっているようにみえる。

 


暫時の沈黙にシエナはごくりと唾を呑んだ。

その時、彼の正面から声は聞こえてきた。

「やはり、なんじには我が見えるな?」

それは男の声だった。

抑揚はないが渋みのある声だ。



突然聞こえてきた声にシエナは肩を竦み上げながら辺りを見回した。

無論、ここには自分と青いオーブしかいない。

「え……今の声、お前?」

恐る恐る青いオーブに尋ねると、オーブは頷くように上下に動いた。



「どこから声が出てるんだ?」

シエナは目をパチクリさせながら青いオーブをまじまじと覗き込む。

だが、青いオーブはシエナの問いを無視して彼に語りかけた。

「汝、我のあるじの願いを叶えてくれぬか?」

「……ああ?」

唐突な請いにシエナは怪訝そうに眉間にしわを寄せる。



「なんだそれ? 全然話が読めねえんだけど」

ただでさえ青いオーブが喋っているということですら違和感があるのに、さらに「主」なんて言われてシエナはもう話についていけなかった。



「そもそもその主ってどこにいるんだよ。さっきから人ひとりいないぞ」

青いオーブに突っかかるようにシエナは言うが、彼は冷静だった。

「ならば、主に会うか?」

きっぱりと言ってくる青いオーブにシエナのほうが口籠る。



「ま、まあ……人がいるなら会いたいけど……」

頬を掻きながらシエナは困惑気味で答える。

「決まりだな」

すると、青いオーブはその言葉を待っていたと言わんばかりに急に青白く光り出した。

強く瞬く光にシエナが戸惑う。



「おい! ちょっと待て――」

だが、シエナが抵抗する暇もないくらい光は一気に強くなり、シエナの体を包み込んだ。

あまりの眩しさにシエナは目も開けられなかった。

 


刹那。

彼にとってそれくらいの出来事であった。



「主のこと、頼んだぞ」

遠退く意識の中、彼の声が聞こえる。

だが、シエナはその声に言葉を返すことも頷くこともできず、ただ光に溶けていった。


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