隠し事はすぐバレる ⑨
* * *
「ゼファと国王が……従兄弟同士?」
アッシュの言葉にシエナの目は点になった。
けれども、その言葉で今までの彼の行動の謎がようやく解けた。
貧困な国での裕福そうな身なり、敵対しているはずの兵士の対応、そしてアイビーの店が安全地帯の理由。
全て、彼が今や国王唯一の親族だからという理由から来ていたのだ。
「そりゃ、兵士たちも迂闊に手出しできんわな……」
納得したようにシエナは頷く。
逆に言えば奴らがゼファに抵抗できたのは国民が寄り付かない処刑場。初めて出会ったのがその唯一の場所だったからこれまでシエナもわからなかったのだ。
ただ、従兄弟とはいえ、国王の唯一の親族ということは、王位継承順位は第二。
そのことに気づいたシエナは、一気に汗が冷えた。
「俺……ゼファにすっげー無礼なことしてる気がするんだけど」
出会いが出会いだったし、ゼファ自身も説明がなかったが、あの馴れ馴れしい態度はシエナのような平民風情が行うと間違いなく無礼だし、下手すれば首が飛ぶ。
そう怖気ついたシエナだったが、うろたえるシエナを見て、アッシュは腹を抱えて笑い出した。
「それなら俺はどうなるんだよ。お前、変なところビビりなんだな」
「う、うるせえ!」
からかうアッシュにシエナは顔をしかめる。
不貞腐れるシエナの横でまだ笑っていたアッシュは、やがて「あーあ」と夜空を仰いだ。
「……いいんだよ、お前はそのままで」
途端に声のトーンが変わるアッシュにシエナは首を傾げる。
「この街じゃあいつはーー公爵の息子か国王の親族としか見られないんだ」
悲しげそうに告げるアッシュの言葉に、シエナは思わず口を噤んだ。
アッシュ曰く、ゼファはこの国に大事に育てられた。
それは正しく、触れてしまえば壊れてしまいそうなガラス玉ーーウィスタリアが国王になるように、彼もまたこの国の公爵になる運命を背負っていた。
だがそれも、例の事件から事情が変わってきた。
国民の中には何もせずに死んでいった前国王と公爵を恨んでいるものもいる。
なんせこの国が貧困になったきっかけは、彼らの死からだ。
けれども、その恨む相手はもういない。
公爵も公爵夫人もなくなった今、怒りの矛先を向けられるのがゼファしかいないのだ。
それでも彼がめげずにいるのは、元からの真面目さと彼自身強い意思があるからなのだろう。
「でも、本当はあいつもキツイと思うんだよ」
アッシュは嘆くように息を吐き、視線を落とす。
公爵家でもあり、王族でもある。
だが、この国の国王はウィスタリアだ。権力では彼には敵わない。
それに、二十歳という年齢はこの国を背負わせるには若すぎる。
それは、ゼファ自身もわかっているのだろう。
公爵と王位継承者。
そんな狭間の立場でゼファは生きていた。
ゼファのことを思うと、シエナも色々考えられずにはいられなかった。
だが、俯いているとその重い空気を壊すようにアッシュは大きなあくびをした。
「……帰るぞ。流石に眠い」
目を半目にしたアッシュは有無を言わせずにシエナの手を取った。
「あ! ちょっとお前――」
いきなりのことでギョッとしたシエナだが、気づいた時にはすでにアッシュに腕を握られていた。
「シルフ」
アッシュのその一言で強い風が吹く。
そして、風がやんだ頃には二人の姿は消えていた。
二人がいなくなったのを見ていたかのように、彼らが見上げていた月も厚い雲に覆われ、辺りは一気に静まり返った。
まるで、初めから誰もいなかったかのように。
ーー信じていたものを疑う者、真実を知りながらも傍観する者、そして、運命に抗おうとする者。
様々な思惑が交差する中、長い夜が終わろうとしていた。




