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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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32/54

隠し事はすぐバレる ③

シエナのこの沈黙こそが一番の答えであったかもしれない。

だが、言葉に詰まっていたことは本当だ。

自分が「未来から来た」だと言ったところでアッシュが信じてくれるとは思わない。



シエナが口を閉ざしていると、アッシュはひとつため息をついた。

「……最初はお前のことをどこかのスパイだと思っていた。だから、シルフにお前を尾行するように言ったんだ。だから、お前らが俺の家に行ったことや研究所に行ったことも……さっきアイビーの部屋で何かを読んでいたことも知っている」

 


そこまで知られているのなら、シエナは尚更アッシュに何も言えなかった。

だが、アッシュもシエナのことを読めないでいた。

この国に対しての無知具合も演技に見えないし、何より敵ならばゼファを助ける理由がわからない。



「そろそろ教えてくれよ……お前は何しにこの国に来たんだ?」

アッシュの眼差しがシエナには冷たく感じた。その眼、言動、一つ一つがシエナを追い込んだ。



――だが、俺は。



シエナの拳がぎゅっと握られる。

力を込めたその拳は微かに震えており、彼の覚悟を鼓舞しているようだ。



意を決してシエナはアッシュに告げる。

「ごめん、アッシュ……俺もどうしてこの街に来たのかわからないんだ」

「わからないだと?」

そんな曖昧な答えにアッシュは顔をしかめた。



だが、もうシエナには迷いも戸惑いもない。

「――それでも、信じてくれないか」

凛とした眼差しでシエナはアッシュに告げる。

「俺も……この街を助けたい気持ちは同じだから」



シエナに力強い口調で言われ、アッシュも呆気に取られた。

だが、やがて力なく笑い、そっと瞼を閉じる。

「……信じるよ。お前、噓下手そうだし」

その口調は先ほどまでと比べてずっと穏やかで、どこか安堵しているようにも見えた。



柔らかくなった空気感に、シエナも胸を撫で下ろし、そのままアッシュの隣に座った。

「あー……びびった。びびった」

緊迫感から解放され、シエナも自然と笑みがこぼれた。



「なんだよ、びびったって」

「だって、アッシュの顔マジで怖えんだもん。本気で殺されるかと思った」

「なんで俺がお前を殺さなきゃいけないんだよ」



呆れたようにアッシュは鼻で笑う。

だが、シエナの顔を見ていると和むのか、アッシュの頬も綻んでいる。



「……変なこと言うけどよ」

「ん?」

「シエナがスパイじゃなかったら……未来からでも来たのかと思っていた」

「はっ!?」

 


アッシュの突然の核心にシエナは目を見開き、驚きの声をあげる。

だが、動揺した彼の顔がおかしく見えたのか、アッシュは腹を抱えて笑った。

「なんつー顔してるんだよ」

「なんつーって……お前が変なこと言うからだろ!」

「あはは……悪い悪い」

 


へそを曲げるシエナにアッシュは平謝りをする。

だが、アッシュが反省していないことはシエナもわかっている。



笑い終えたアッシュは「あーあ」と呟きながら夜空を見上げる。

そよぐ夜風が彼らの髪を靡かせる。

そんな穏やかでひんやりと冷たい風を感じながら、アッシュはぽつりと呟いた。



「なあ、シエナ……お前呼んだの……俺かもしれねえわ」

「…………え?」

突然の発言にシエナは思わず訊き返す。

だが、アッシュは「なんでもねえ」と首を振っただけで、それ以上は何も言わなかった。

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