隠し事はすぐバレる ③
シエナのこの沈黙こそが一番の答えであったかもしれない。
だが、言葉に詰まっていたことは本当だ。
自分が「未来から来た」だと言ったところでアッシュが信じてくれるとは思わない。
シエナが口を閉ざしていると、アッシュはひとつため息をついた。
「……最初はお前のことをどこかのスパイだと思っていた。だから、シルフにお前を尾行するように言ったんだ。だから、お前らが俺の家に行ったことや研究所に行ったことも……さっきアイビーの部屋で何かを読んでいたことも知っている」
そこまで知られているのなら、シエナは尚更アッシュに何も言えなかった。
だが、アッシュもシエナのことを読めないでいた。
この国に対しての無知具合も演技に見えないし、何より敵ならばゼファを助ける理由がわからない。
「そろそろ教えてくれよ……お前は何しにこの国に来たんだ?」
アッシュの眼差しがシエナには冷たく感じた。その眼、言動、一つ一つがシエナを追い込んだ。
――だが、俺は。
シエナの拳がぎゅっと握られる。
力を込めたその拳は微かに震えており、彼の覚悟を鼓舞しているようだ。
意を決してシエナはアッシュに告げる。
「ごめん、アッシュ……俺もどうしてこの街に来たのかわからないんだ」
「わからないだと?」
そんな曖昧な答えにアッシュは顔をしかめた。
だが、もうシエナには迷いも戸惑いもない。
「――それでも、信じてくれないか」
凛とした眼差しでシエナはアッシュに告げる。
「俺も……この街を助けたい気持ちは同じだから」
シエナに力強い口調で言われ、アッシュも呆気に取られた。
だが、やがて力なく笑い、そっと瞼を閉じる。
「……信じるよ。お前、噓下手そうだし」
その口調は先ほどまでと比べてずっと穏やかで、どこか安堵しているようにも見えた。
柔らかくなった空気感に、シエナも胸を撫で下ろし、そのままアッシュの隣に座った。
「あー……びびった。びびった」
緊迫感から解放され、シエナも自然と笑みがこぼれた。
「なんだよ、びびったって」
「だって、アッシュの顔マジで怖えんだもん。本気で殺されるかと思った」
「なんで俺がお前を殺さなきゃいけないんだよ」
呆れたようにアッシュは鼻で笑う。
だが、シエナの顔を見ていると和むのか、アッシュの頬も綻んでいる。
「……変なこと言うけどよ」
「ん?」
「シエナがスパイじゃなかったら……未来からでも来たのかと思っていた」
「はっ!?」
アッシュの突然の核心にシエナは目を見開き、驚きの声をあげる。
だが、動揺した彼の顔がおかしく見えたのか、アッシュは腹を抱えて笑った。
「なんつー顔してるんだよ」
「なんつーって……お前が変なこと言うからだろ!」
「あはは……悪い悪い」
へそを曲げるシエナにアッシュは平謝りをする。
だが、アッシュが反省していないことはシエナもわかっている。
笑い終えたアッシュは「あーあ」と呟きながら夜空を見上げる。
そよぐ夜風が彼らの髪を靡かせる。
そんな穏やかでひんやりと冷たい風を感じながら、アッシュはぽつりと呟いた。
「なあ、シエナ……お前呼んだの……俺かもしれねえわ」
「…………え?」
突然の発言にシエナは思わず訊き返す。
だが、アッシュは「なんでもねえ」と首を振っただけで、それ以上は何も言わなかった。




