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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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30/54

隠し事はすぐバレる ①

その日の夜のこと。

 

ゼファに呼ばれたアイビーは店を閉めるとすぐに店を出て行った。

部屋に残されたアッシュとシエナは借りた屋根裏部屋のベッドで休んでいた。

特にアッシュは仰向けになったまま目をつぶっている。



一方、シエナもベッドに横たわっていたが、眠れずにいた。

むくっと起き上がり、アッシュが眠っていることを確かめる。

アッシュは眠っている。

アイビーはいない。

一人で行動するには今が絶好のチャンスであった。



アッシュを起こさないよう、静かにベッドから出たシエナはそのまま下の階へと向かった。

明かりも点けずにリビングの奥へ行く。

この奥にはアイビーの寝室があることをシエナは知っている。



物音を立てずにそっと扉を開け、忍び足で部屋に入る。

ベッドの横には小さなランプが置いてあったので、ここは明かりを拝借する。



定位置がここなのか、アイビーの日記帳は現代のアクバールと同じようにランプの隣に置かれていた。

背表紙やページは劣化していないものの、十中八九以前彼が見た日記だ。

シエナはためらうことなく、日記帳に手を伸ばす。

そしてそっとページを開いていき、最新の日記に目を通す。

筆跡も現代のアクバールで見たものと同じだ。

アイビーが書いたもので間違いないだろう。



ただ、違うのは、書かれている内容だけ。

日記にはこう書かれていた。



『B.H.715.6.20



ゼファ様がアッシュを連れて店にやってきた。

ゼファ様はここ最近アッシュのことで頭がいっぱいだった。

けれども慎重なあの方だ。

おそらくずっと侵入ルートや見張りが手薄になる時間帯などご研究されていたことだろう。

無事にアッシュを救いさせて私も心底安堵している。



そして、アッシュもよくここまで生きながらえてくれた。

独房ではろくに飯もでてこなかったのだろう。

あんな細やかな料理でも泣きそうになりながら食す彼の顔を見ていると、こちらまで涙が出てきそうになった。

 


だが、気になることが一つ出てきた。

ゼファ様が連れてきたあの青年のことだ。



ゼファ様は彼のことを「命の恩人」と言っていたが真意は一体どうなのだろう。

そもそもゼファ様と同年代の青年ならば私が知らないはずはないのだが、あの青年の顔は見たことが

ない。

それに、見ている限り彼はこの街について全くの無知のようだ。

本当に他所から来たというのか? 

けれども、今のアクバールにそんなことがあるのだろうか。



彼は一体、何者なのか。

そして、どこから来たというのか。

疑うべきことはたくさんあるはずなのに、彼の凛とした眼差しからは何一つ悪意を感じない。

今はただ、これ以上何も起こらないことを祈るだけである。』




――ひと通り見終えると、シエナはパタンと日記を閉じた。

頭に引っかかっていた蟠りが少しほぐれた。

本来なら今日こんにちはゼファとアッシュはこの世にいない。

つまり、アクバールの未来は今日この日から変わっているのだ。



だが、決定的だと言える確信はシエナもまだ掴めていなかった。

現代のアクバールと絶対的に変わっていること。

それが、この日記の内容……そこに目を付けたのは彼も間違いではなかった。

 


それでも、これだけではあの悲惨な未来を避けられたように思えない。

崩れた壁、飛び散る血液、転がる骸。

不意にあのアクバールが脳裏に過る。

それに、アクバールがあそこまで滅んだ原因はまだ掴めていない。



「絡んでいるとしたら、あの国王か……」

独り言ちりながら、シエナはガシガシと髪を搔く。

彼の目論見さえわかればもう少し手を打てそうなのだが今のところまったくわからない。

アイビーの日記を見つめながら、深いため息をつく。



その一連の流れを背後から一部始終見られているなんて、シエナは思っていただろうか。



リビングを繋ぐ扉はうっすらと開いており、その隙間から黒い影が蠢いた。

アッシュだった。

その周りには緑色のオーブがふよふよと飛んでいる。



しかし、アッシュは壁にもたれたままじっと天井を見つめるだけで何もせず、深く息をつくだけで再び部屋へと戻っていった。

その様子を緑色のオーブ……シルフだけがその様子を心配そうに見つめていた。


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