雨と廃墟と時々骸 ③
本を閉じた時、シエナは息苦しさに深く息を吐いた。
今まで呼吸を忘れていた証拠でもあった。
とんでもないものを見た気がする。
日記の背表紙を見つめながら、シエナは口を噤む。
殺された二人の人物。
謎が多い国王軍の行動。
そして「召喚された」という獣らしき生物。
この日記の内容が真実だとしたら、この生物が街を滅ぼしたというのか。
しかし、たかが獣一匹で街一つ滅んでしまうのだろうか。
「最初が『ヴァ』で最後が『ン』……か」
自分の記憶に刻むようにシエナは小さく呟く。
この日記を見てぼんやりとバックボーンを掴んだシエナだが、それでもまだ謎は多い。
それに加え、胸騒ぎが止まらない。
ふと顔を上げると雨音がやんでいた。
窓から陽光は射し込んでこないが、先ほどよりはマシな天気になったらしい。
こんなところにいつまでもいたって仕方がない。
そう思ったシエナは日記をベッドの上に置き、一旦部屋を後にした。
まずは、水と食料。
それから暖炉の焚きつけ。
探すものはまだまだある。
外に出ると雨は霧雨になっていた。
この天気だと、もう雷も落ちてこないだろう。
シエナは「今がチャンス」とばかりに街の奥へと進んだ。
街は奥へ行けば行くほど栄えていたようだった。
そして緩やかな石の坂が続く先に白い建物が見えた。
他の建物が木造なのに対し、目の前の建物の材質はレンガだろう。
シエナは黙々とひと際目立つ建物に向かった。
破壊され機能していない噴水を横切り、石の坂を突き進む。
石の坂の両端は元々高い塀になっていたようだ。
ただし、これも粉々に砕かれた跡があり、何も意味をなしていない。
歩みを進めていくと、塀の奥にだだっ広い広場が見えた。
雑草すら生えていないほどの広場だったが、その中央には異様なものがあった。円柱の木材が地面に深く突き刺さっているのだ。
しかもその木材にはシエナのいるところからでもはっきりと見えるほど黒々とした液体がべっとりとついていた。
ひょっとしなくても血液だろう。
あの木材は囚人を磔にしていた、いわば処刑場なのだろう。
街と城の間に処刑場。
国王は罪を犯した囚人を城から見下ろしていたのか。
なんて悪趣味なのだろうか。
円柱の木材を見つめながら、シエナはそんなことを考えていた。
日記の内容から国王がいい性格ではないことはシエナも予想ができていた。
城には何か残っているかもしれない。
ただし、それは水でもなく食料でもない――
シエナは静かに佇む木を見ながらそう思ってしまった。
しかし、それは彼の淡い期待だった。
城は入り口が塞がれるほど崩れている。
壁もあらゆるところに爪痕がついており、屋根には火事が起きたのか焦げたような跡すら残っていた。
レンガの強度ですら塀も壁も粉々に崩れている。
間違いなく街の建物で一番損害が酷い。
こんな状態なら、おそらく中にいた人物たちはーー……。
この惨い光景にシエナはただ絶句していた。