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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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23/54

眼中になければ死んだのと同じ ②

ウィスタリアは整列する兵士を全員見回し、先頭にいた兵士に問いただした。

「……アッシュ・グライスが死んだのは本当なんだな?」

ウィスタリアの低い声調と刺すような目つきに兵士は息を止める。

それでも兵士は「おっしゃる通りです」と言い切った。



その場にいた兵士は誰もが「よくやった」と思っただろう。

声も震えず、緊張した様子もない自然な切り替えしだった。

もうこのまま突き通すしか彼らの行く道はないのだ。

面の下で冷や汗を流しながら、行く末を見守る。

 


だが、ウィスタリアは兵士の言葉に頷きもせず、横たわる死体に目をやった。

ウィスタリアは無言で死体を凝視する。

死後から数時間が経ち、すっかり死後硬直し死班が出ている死体は生前の面影はなかった。



大丈夫、誤魔化しきれる。

そう言い聞かせるものの、気が気でなくこの空間が重苦しい。



早く終われ。

早く終わるんだ。

敬礼しながら、兵士たちは心から祈っていた。



兵士たちが見守る中、ウィスタリアは一瞬眉間にしわを寄せた後、息をついた。

「すぐに処分しろ」

それだけ言うと、ウィスタリアは死体に背を向け、そのまま再び歩き出した。



「ハッ!」

と、兵士たちも敬礼するが、その頃にはもうすでにウィスタリアは兵士たちを見向きもしていなかった。

これは、なんとかなったのか?

あっさりすぎる対応にぽかんとなる兵士もいたが、大半の兵士は何かを訴えるように両隣同士顔を見合わせる。



グライス家の処刑を命じたのは紛れもなくウィスタリアだ。

グライス家はアッシュのように晒し者にして処刑した者の他に拷問で死んだ者もいる。

それくらいグライス家の者は苦しめて殺していった。

しかし最後の一人であるアッシュに対しての呆気なさはなんだ。

てっきりグライス家の虐殺にこだわっていたのかと思っていたが、この呆気なさは興ざめているようにも見えた。



ともかく、首の皮一枚繫がった。だが、

兵士たちの胸騒ぎは治まらない。




一方、ウィスタリアは兵士たちの異様な雰囲気も感じ取っていた。

兵士たちは何かを隠していることにも気づいていたし、なんなら死体が偽物だということもわかっていた。

それでも言及しなかった理由は、もう彼にとってアッシュの死などどうでもいいことだったからだ。



彼の目的は、グライス家最後の一人であるアッシュを魔法陣に入れた時点で達成していたのだ。

自室に戻る道のりの中、彼はこれまでのことを思い返していた。

先代の死、そして首脳陣の死。

この数カ月でアクバールは随分と廃れてしまったものである。

ぼんやりと廊下を灯すロウソクの火は、この国の風前の灯火を表しているようだ。



ウィスタリアは怒っていた。

どうして、先代は平和的に解決しようとしたのか。

どうして、グライス家は召喚術という力を持ちながら戦おうとしないのか。

国の繁栄など、力がなければできるはずないというのに。

だから彼は立ち上がったのだ。

――グライス家が戦わないなら、自分が戦えばいい。

もう自分には、絶対的な力があるのだ。

この国を落ちぶらせた憎き敵国を一捻りしてしまうほどの。

そして、国、いや世界ですら服従できるほどの力が自分にはーー……



あとは時が満ちるのを待つだけだ。



ウィスタリアはそう思いながら自室の扉を開けた。

部屋に入るとすぐに鍵を閉め、そして小さく笑った。



以前は使用人に部屋の掃除を任せていたが、数か月前から彼は誰一人自室に入れていない。

常に鍵をかけているし、誰にも近づこうともさせない。

それくらい彼は自室の管理を徹底していた。

それは、誰にもこの変わり果てた部屋を見られないようにするためだ。



高貴なプライベートルームなどとっくの前に捨てていた。

部屋の床には大きな魔法陣が描かれ、それをなぞるようにロウソクが不気味に置かれている。

その陣内には鉱山で取れた無数の魔法石が散りばめられていた。

ウィスタリアはその縁にしゃがみ込み、天を仰ぎ祈りを捧げる。



ウィスタリアの同行の意図を見せなかったのにも彼なりの深謀があった。

鎖国にしたのは自分の計らいを外部に漏らさないため。

そして、少しでもこの魔法石が他国に渡らないように流通を抑えるため。

グライス家を滅ぼしたのは……自分の策略を誰にも邪魔させないためである。



まどろっこしい極刑にしたのは、グライス家への恨みでもなんでもない。

全ては兵士を含めた国民の目を自分から避けさせるため。

何より、この『召喚儀式』の時間稼ぎのためだ。



ウィスタリアの祈りに反応するかのように魔法石がぼんやりと光り始める。

その光が宙に浮き、魔法陣の真上に不気味な紫色の光を帯びて魔法石から溢れ出た粒子を吸い込んでいく。



もうすぐ。もうすぐだ。



光が輝くたびにウィスタリアは笑みをこぼしてしまう。

「待っているぞ……ヴァルヴェルン」

そう呟く彼の言葉に反応するように、紫色の光はゆらりと揺れた。

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