雨と廃墟と時々骸 ②
街のメインストリートを歩いていると細い路地を見つけた。
路地の奥へ行くと木造の一軒家があった。
家の前には看板が建っている。
文字はもう読めないが、どうやら飲食店だったようだ。
こんな街の外れにあったおかげか、他の家よりも廃れていなかった。
窓も壊れていないし、目立った損壊もない。
ドアノブを握ると鍵がかかっていなかった。
シエナは恐る恐る扉を開ける。
最初に目に飛び込んできたのは数々のテーブルと椅子だった。
端にはカウンターもある。
飲食店というよりかは、酒場だったらしい。
襲撃されなかったおかげか、ここだけ時が止まったようだった。
食器棚には皿もコップもあるし、テーブルも椅子も倒れていない。
ただ、埃がかぶっているだけだ。
幸い雨風は凌ぐことはできるのでここで雨宿りはできそうだ。
最悪、ここで寝ることもできるだろう。
一夜くらいなら過ごすことができるはずだ。
一夜なら。
流石に何日も外にいる骸たちといるのはシエナも憂鬱だった。
野宿は避けられそうだがまだ問題はある。
食料だ。
食料と水がないのはシエナも厳しいと考えていた。
カウンターの裏に蛇口があったので捻ってみたが水路が廃れているのか水は出てこなかった。
勿論、何年も放置されているのだから食料も期待はできない。
どうしようかと辺りを見回していると、カウンターの横に扉があった。
扉を開けると短い廊下があったので、シエナはさらに奥へと進んだ。
屋根を叩く雨音と共に、ミシミシと床が軋む音が静かに響く。
廊下の先を行くとリビングらしき部屋に出た。
ソファーやテーブルの他、食器棚とキッチンもある。
ここからはマスターの自宅らしい。
ちょうど暖炉があったので木材があれば火を点けられそうであった。
何か燃やせるものはないかとシエナはさらに部屋の奥へと進んだ。
奥の部屋はマスターの寝室で、ベッドと本棚が置かれていた。
どれもこれも埃かぶっていたが、荒らされた形跡もなく、当時のまま残されている。
もう、このベッドで寝てやろうかな。
ベッドを見つめながらシエナは深く息をつく。
ふとベッドの脇を見ると一冊の本がポツンを落ちていた。
シエナは本を拾い上げ、ついていた埃を払い落す。
表紙の文字はすっかり消えてしまっているが、ページをめくってみると頭に年号と日付らしき数字が書かれていた。
誰かの日記だ。
さらにページをめくる。
ところどころ字か消えて読めないところもあったが、なんとか内容は把握できた。
そこには震えた文字でこう書かれていた。
『B.H.×15.6.××
××と××様が死んだ。
××様は処刑される××の悪あがきによる巻き添えを食らって死んだと兵士たちは言っていたが、果たして本当なのだろうか。
××は××様とは古い仲だ。
××が××様を易々と手にかけるとは思えない。
国王軍は彼らの死を隠してどうなさるつもりなのか。
それに加えて、××が死んだことにより××家は全滅となる。
それが今後のこの国にどう影響を与えるのだろうか……』
『B.H.××5.6.×3
××家の隔離、そして処刑。
それ以外にも××軍が何か企んでいるという噂を聞いた。
だが、我々のような平民には何の情報も届いていない。
我々はただこの状況を指を咥えて見ていることしかできないとで言うのか。』
『B.H.××5.6.2×
今日も空が晴れない。
一体いつからこんなに空が暗くなってしまったのか。
それすらも思い出せないでいる。
国王は相変わらず姿を見せない。
国民たちが飢えていく中、彼は何を考えているのだろうか。
嫌な静けさだ。
これが嵐の前の静けさではないことを祈るばかりである。』
『B.H.×××.6.2×
今、起こったことを可能な限り記しておく。
城の天辺に雷が落ちたと同時に獣のような遠吠えが街中に響き渡った。
まさか、あれがヴァ××ンの声なのか。
国王は本当に召喚させたとでもいうのだろうか。
あの噂が本当なら、この国はーー』
ーー日記はこの文を最後に途切れていた。