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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行
19/54

日記、勝手に見てごめんなさい ④

「でもさあ、精霊って普通に視れるもんなんだな。それにもびっくりしたわ」

「まあ、あんなにはっきり姿を現すのはあいつくらいだな。オーブくらいならお前でも視えるんじゃないか?」

「ふーん、オーブねえ……」



シエナは一息ついて腹を擦る。

アイビーが与えたパンやスープも完食し、ようやく満たされたようだ。

「ごちそうさん。助かったよ」

シエナが手を挙げたながらニッと笑うので、アイビーも「いえいえ」と丁寧に会釈した。



だが、シエナのその笑みもすぐに真顔に戻る。 

「それにしても、なんで国王軍はアッシュたちをあんな目にしてまで捕えたんだ?」

無抵抗な召喚士を国王軍はほぼ全滅まで追いつめた。

その理由がシエナにはわからなかった。



「あれだけ凄い力があるなら、本来なら独占してでも召喚士を利用するんじゃねえの?」

あんな幼い子供たちが労働していたくらいだ。

この国が裕福でないことはシエナも気づいていた。



それほど窮地に追い込まれているのなら、召喚士の力は利用価値が高いはす。

なんらかの理由があって「反逆」としても、無害な赤子まで殺すこともない。

「わかんねえなあ……もう……」

そう呟きながら考え込むシエナにゼファはぐうの音も出なく、返答に窮していた。



シエナの言う通りだ。

だからこそ、ゼファは何も言えなかった。



「……俺も今の国王の考えはさっぱりわからないんだ」

って?」

「この国は半年前に国王が変わったばかりなんだよ。名をウィスタリア・ヴァイナス・クラーレット。まだ二十四だ」

「二十四って、俺たちと大して変わらないじゃないか」

「……前国王が急死したんだ。跡が継げただけマシだったよ」



ゼファはため息をつきながら腕を組む。

「そもそもこの国は物資も豊かで平和だったんだよ」

ゼファ曰く、アクバールは元々炭鉱が有名だったらしい。

街の東に鉱山から多種多様の鉱物を運び、加工して流通させていた。

琥珀もその一つである。



「鉱物の中には魔力を含んだ石もあってな。グライス家は鉱山で集められた魔石の研究もしていたんだ」

「は? アッシュの奴、研究員なのか?」

一応・・な、一応・・

敢えて強調させるゼファにシエナも心中を察して苦笑する。



それはさておき。



「それがある日、鉱山から金塊が発掘された。それまで鉱山に何一つ興味を示さなかった他の国の奴らが目の色を変えてきやがった。どの国も資産がねえからな。だから……略奪を仕掛けてきたんだ」



だが、当時の初代クラーレット王はあくまでも「領土はアクバールのものだ」と主張し、戦争を避けようと試みた。

それで執り行ったのが首脳会議だ。



「あくまでも平和的に解決したかった国王はなんとか話し合って済まそうとしたんだ。それでこの国が主催となって会議が開かれた。だが――」

あれだけ流暢に語っていたゼファと口が突然止まる。



「……ゼファ?」

不安になったシエナが彼の顔を覗き込むが、彼の表情を見て息を止めた。

ゼファの表情が険しい。

眉間に深いしわを作り、眼光も鋭い。

まるで何かに憎しみと怒りをぶつけているようだ。



やがてゼファは深く息をつく。

「……うちの国王の考えの甘さは、最初からあいつらも想像ができてたんだよ。あいつらは――首脳会議に参加した国共は、始めから話し合う気はなかったんだ」

俯くゼファにシエナも不穏になる。

だが、ゼファは表情を曇らせながらも、はっきりとシエナに諭した。



「……アクバールの国王と鉱山の領地主であった公爵の暗殺。奴らは共通の敵を消すことで戦争を起こす前に決着したんだ」

そのあまりにも惨い事態にシエナは言葉を失った。


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