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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行
14/54

未来ぶち壊し大作戦 ④

その笑みに兵士たちはぶるっと震えたが、相手はシエナだけだ。

一人戦闘不能になったとはいえ、有利なのはこちらだと思っていたのだろう。



「い、行くぞ!」

まごついた声を合図に兵士たちは一斉に飛びかかる。

だが、シエナは至って冷静で大きく振りかぶられた剣をさらりと避けた。

それどころか、隙ができたところで鎧ごと腹部を蹴った。



シエナに力強い蹴りと入れられた兵士はよろけ、そのまま後ろにいた仲間にぶつかる。

重たい鎧でバランスが崩れた二人はすってんと尻もちついて転んだ。



「おいゼファ!」

シエナに名を呼ばれたゼファは驚いて肩を竦み上げる。

この怒涛の展開に唖然としていた彼だが、ようやく我に返った。

「俺がこいつらの相手するから、早くアッシュを!」

「だが、お前は――」

しかし、そこまで言いかけたところでシエナが「うるせえ!」と遮った。



「俺だって……お前を放っておけるほど割り切れる人間じゃねえんだよ」

そう言いながらシエナはまた剣を構え始める。

その隣では転んでいた兵士たちが体裁を整えてゆっくりと立ち上がっていた。



兵士たちが殺気立っている。

シエナの実力が明確になったから彼らも本気を出さずを得なくなったのだろう。

それでもシエナは焦りなど見せなかった。



「安心しろ。俺、つええから」

歯を見せて笑うシエナは、ゼファに向けパチンとウインクをする。



そんなシエナにゼファも呆気に取られたが、やがて小さく口角を上げた。

静かに剣を鞘に仕舞うゼファ。

その様子に一番驚いたのが他でもないアッシュだった。

あの慎重で用心深いゼファが命を取り合っているくらい切羽詰まっているこの事態に、どこの知らない男に背中を任せ悠長に鉄線を解くだなんて思いもしなかった。



一方、奥ではシエナが兵士二人を相手に果敢に闘っていた。

勇ましい声と共に剣を振るっている。

その斬撃はあの細身の腕から来ているとは想像できないほどパワフルで兵士の剣がはじき出されるほどであった。



もう一人の兵士も負けずに襲いかかるが、死角から来ているにもかかわらずシエナはその攻撃を察知してバックステップで避ける。

その反射神経には兵士だけでなく、見ていたアッシュも驚愕していた。



そんな激戦をしているのに、ゼファは完全にシエナに背中を預けていた。

「なあ、ゼファ……あいつ、一体何者なんだ?」

シエナの闘う姿を見ながら、アッシュは消え入りそうな声で彼に尋ねる。

するとゼファは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑った。

「……俺と同じ、ただの大馬鹿野郎さ」

その返しにゼファはぽかんと口を開ける。

 


そうこうしているうちに彼らの前方で大きな金属音が聞こえた。

慌てて音のしたほうを見ると、剣が回転しながら宙を舞っていた。

そこには剣を振るった後のシエナと、剣を手放した兵士がいた。

シエナの力に押し負け、剣を手放してしまったのだろう。



宙に舞った剣は数メートルも離れたところまで飛んで行き、そのままサクッと地面に刺さる。

「あと一人!」

声を荒げたシエナの声と同時に、アッシュの右腕についていた鉄線がハラリと落ちる。

「こっちもあと一本だ」

ニッとシエナに微笑んだゼファはその流れで左腕の鉄線を解き始めた。



「いけません、ゼファ様!」

慌てる兵士はゼファのもとに駆け寄ろうとするが、すかざずシエナが立ち塞がった。

「お前の相手は俺だって言ってるだろ」

そのほくそ笑むシエナの顔に兵士は悔しそうにしつつも警戒するようにシエナから距離を置いた。

 

再びシエナと兵士の闘いが始まる。

だが、一対一サシの勝負だと分が悪いのは兵士のほうだった。

シエナのパワフルな攻撃に完全に圧倒され、手も足も出ていない。

 


剣同士がぶつかり合う音を聞きながら、アッシュは久しぶりに自由になった右手をじっと見つめていた。

「ゼファ……」

名を呼ぶアッシュにゼファは短く返事をする。

「俺……あいつを信じていいんだよな?」

その問いにゼファは表情を緩め、静かに首を縦に振った。



「――そうか」

その答えにアッシュは口を一文字にして噤む。

だが、ゼファは気づいていた。

彼の伸び切った長い前髪から顔を出すアッシュの瞳が、生気に溢れるくらい燃えたぎるものになっていることに。



アッシュは諦めていた感情を抱いてしまったのだ。

ここから逃げたい。

いや、生きたい、と。

空いた泥だらけの手を見つめながら静かに願う。



今、こうしてアッシュは喉から手が出るほど望んでいた希望が目の前にあるのだ。

もう少し。もう少しで自由になれる。

焦りながらゼファはアッシュを繋ぐ鉄線を解く。

それをアッシュが今か今かと待ち望んでいる。



しかし、この焦りこそが、彼らの視界を狭めた。

最初に気づいたのはアッシュだった。

「ゼファ! 後ろ!」

アッシュの声でゼファは慌てて振り向く。

そこにいたのは、丸腰になって戦意喪失していたと思っていた兵士だった。

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