未来ぶち壊し大作戦 ③
* * *
広間ではゼファの勇ましい声と、剣同士がぶつかり合う金属音が鳴り響く。
しかし、歴然な力の差にゼファは悔しさで歯を食いしばった。
こんなにも斬撃を与えているのに相手に決定打を与えられない。
一方で攻撃を避けるとなるとどんどん体力が削られている。
もうゼファは肩で息をしており、額には汗が光っていた。
このままでは兵士たちに切られるのも時間の問題だ。
「ゼファ! もういい!」
今まで静観していたアッシュがたまらず声を荒げる。
「俺のことはもういいから、お前だけでも――」
「黙れって言ってるだろ!」
アッシュの声にかぶせるようにゼファは怒声をあげた。
剣を退かないのはもうゼファの意地だった。
「どうしてここまでして」と誰も彼もが思っていた。
勿論、彼が圧倒的に不利だということはゼファ本人が一番良くわかっている。
それでも剣を振るうが、その剣も兵士たちに軽々と避けられるようになってきた。
それもただゼファの力が弱まっているだけで彼の細い腕はガクガクと震えており、剣を持つので限界だった。
こんなにも追い詰められているのに、それでもゼファの戦意は未だに失っていない。
殺気を帯びた鋭い眼差しはキッと三人の兵士たちを捕えていた。
「まだまだ……終わらないぞ……」
ぜえぜえと息を切らしながら、ギュッと剣の柄を握る。
彼の闘志に応えるように兵士たちも剣を構えた。
これで終わりにする。
少なくとも、兵士たちはそう思っていた。
――背後からの気配にも気づきもせずに。
それはあまりにも突然で、兵士たちだけでなくゼファもアッシュも何が起こったかわからなかった。
いきなり聞こえた「ガンッ!」という打撃音と共に、一人の兵士が無言で膝から崩れ落ちた。
全員が倒れた兵士の後方に目を向ける。
そこにいたのは剣を握った青年だった。
兵士の背後に近づいた青年は剣の柄で力のまま兵士の首元を打った。
柄は鎧と鉄仮面の間を上手く避け、延髄を突かれた兵士は脳震盪を起こしそのまま気絶。
その一連の流れに気づくのに全員が時間を要した。
青年は無言のまま俯いて動かず、ただ静かにブロンズ色の髪が風に靡く。
この異様な光景に誰もが言葉を失い、呆然と立ち尽くした。
「お前は……」
アッシュの掠れた声がこぼれる。その声に応えるように青年は顔をあげた。
露わになった青年の顔を見て、アッシュは目を丸くする。
「――誰だ?」
その困惑するアッシュの顔を見て青年――シエナ・メイズはニヤリと笑った。
「シエナ……お前……」
驚愕したままゼファは彼の名を呼ぶ。
その声に兵士たちもハッと我に返った。
そしてようやく状況を呑み込めたのか、兵士たちもワンテンポ遅れて慌てて剣を構え直す。
「誰だ貴様!」
「一体どこから来た!」
兵士に切っ先を向けられてもシエナは余裕だった。
むしろ不気味にククッと肩を揺らして笑い、余計兵士たちを警戒させる。
「……どこから来たって?」
ゆらりと揺れながら、シエナの頭がガクッと項垂れる。
再び顔を上げた時、殺気立つ凄まじい顔つきに兵士たちは慄いた。
眉間にしわを寄せながら、シエナは叫ぶ。
「こっちが知りてぇわこのヤロー!!」
そして剣を構えて戦闘体制になったシエナはそのまま兵士たちに突っ込んでいった。
驚いた兵士は咄嗟に剣でシエナの振るった剣を押さえ込んだ。
しかし、パワーに押し負け、そのまま弾き返される。これではまずいと思ったのか、兵士たちは急いでシエナと距離を取った。
チッと舌打ちをしながらもシエナは軽く振るって剣を下げる。
しかしその目は血走っており爛々としていた。
「おいお前ら……ぶっ飛ばされる覚悟はできてるんだろうな」
シエナのただならぬ雰囲気に兵士たちはごくりと唾を呑む。
そんな兵士たちの様子にシエナは不敵な笑みを浮かべながら切っ先を兵士たちに向けた。