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現実

 気づいたらテーブルの上で寝落ちして朝を迎えていた。

 現実に呼び戻される。

 あぁ、仕事か。

 少しだけ空いたカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。

 昨日飲んだ空き缶がテーブルに転がっている。

 割と長距離運転したから疲れすぎたんだな。

 って冷静に考えてる場合か?

 今何時だよ!?

 急いで携帯の電源をつけようとするが、真っ黒の画面から進まない。

 目覚まし時計に飛びつくと出社までは余裕がある時間だった。

 よかった。

 風呂に入って身支度を整える時間はありそうだ。

 固まった体をどうにか叩き起こして、立ち上がる。

 首と肩が痛い。

 変な体勢で寝ていたせいだ。

 昨日の幸せな気分はどっかにぶっ飛んだ。

 重い体を引きづりながら風呂場へ向かう。

 シャワーを浴び、乾ききったタオルで身体の水分を取りながら背広を探しに部屋を徘徊する。

 まぁいつも通りのとこにあるんだけどね。

 シャツを羽織り、ネクタイを締め、スーツに袖を通す。

 財布を取り、いつものビジネスバックにぶち込む。

 忘れないよう携帯にバッテリーをぶっ刺し、余裕を持って家を出た。

 家を出て最寄りまでのコンビニで朝食を仕入れて、満員電車が待つ駅へと足を向ける。

 またウィークデーが始まる。

 当分は車に乗る機会も無いだろうし、こうして何一つ変わり映えのない日々がスタートするんだと思うと憂鬱でしかない。





 普通に電車に乗り、二十分。会社の最寄駅に着く。

 オフィスも多いが、休日になると買い物客でごった返し、いつも人が多いような街。

 平日は毎日同じ道で通勤している。

 駅からまた歩いて十分。会社に着く。

 オフィスビルに入っている普通の会社。

 ここが私の職場だ。

「おはようございます。」

「松永、おはよう。今日はまだ月曜日だぞ?なんでそんな疲れた声出してんだよ。もっと元気よくいてくんなきゃ困るんだよ。」

 朝っぱらから直属の上司である中川さんにダル絡みされる。

「平日から二日酔いでくる中川さんには言われたくないですよ。」

「それは言わないお約束だろ。気づいたら飲んでるんだから。」

「先輩、それアルコール依存症って言うんですよ?」

「んな訳ないだろ。禁断症状で手が震えたりしてないんだから。」

「それじゃ予備軍ですね。」

「それは否定しないでおくわ。酒がなきゃやってられん。」

「いつも言ってますよね。」

「なんだよ。文句あっか?ほら、ボチボチ朝礼始まるぞ。準備しろ。」

「ウィッス。」

 どうでもいい会話で気を和らげてくれる中川さんにはいつも助けられてる。

 可愛がってくれるし。

 こういうタイプなので仕事とかしてくれなさそうだが、実際のところかなりハイペースで仕事を進めているらしく、周囲からの評判もいい。

 酒グセの悪さには定評があるのだが。

 自分のデスクに荷物を置き、気づけば朝礼が始まる。

 あーあ。また仕事に追われながら生活するのかぁ。

 悲しみが襲ってくる。

 何事もなく朝礼が終わるといつも通りのデスクワークが始まる。

 私はパソコンに向かいながら朝食を食べ始める。

「相変わらず行儀が悪いですね。」

 ボソッと同僚の川崎が呟く。

「別にいいでしょ。仕事はしてんだし。」

「そういう問題じゃない。」

 朝から冷たいなぁ。

 ボブヘアの端から出る黒縁のフレームの中から放たれる冷凍ビームみたいな視線が痛い。

 もっと可愛げがあれば男からモテるはずなのになぁ。割と美人寄りだし。

「なに?」

「なんでもないっス。あと、マジで目が怖いからやめて。小動物みたいに震えちゃう。」

「松永がそんな風になる訳ないでしょ。あと、目のことは言わない。生まれつきのものなんだから。」

「はい。すいませんでした。」

 心の中で音速土下座をした。


 デスク周りの整理をしつつ、パソコンに向かう。

 気づかぬうちに、溜まっている仕事に潰されそうになっているとあっという間に昼休みになる。

「松永、ちょっと一服付き合えよ。」

 中川さんが時間きっかりに声をかけてきた。

「説教しないならお付き合いします。」

「生意気だなぁ。そんな怒られるようなことしてないだろ?すべこべ言わずついてこいよ。」

 へい。と短く返事をしてデスクを離れる。

 オフィスから少し離れたところに喫煙所(スモーカーエリア)はある。

 特に話すこともないのに、中川さんはめっちゃ見てくる。しかも、めっちゃニヤニヤしながら。

 どっかのRPGならいくらパラメーターが高そうな上司であっても、仲間になりたそうにこちらを見ているなら速攻逃げたくなる。

 逃げたとてなにも変わらないどころか、場の空気が悪くなりそうなので、流石に声をかけた。

「何かご用件はございますでしょうか。」

「お前そんな硬かったか?もっとテキトーに話ししてるだろ。むしろちょっとナメくさってるくらいの勢いで会話してるのに。」

「いやぁ。そんな目で見られたら話しにくいでしょ。中川さんが悪いんです。」

 年齢を感じさせない若そうな顔から、年相応とは言い難いイタズラ心が垣間見える笑顔が漏れてくる。

「そうか?というか松永。なんか朝からあんま元気ないよな?なんかあったか?」

 昨日の疲れでも顔から出ていたのだろうか。

「中川さん。それまるでストーカーみたいですよ。」

「何言ってんだよ。体調管理も上司の立派な職務だっつーの。」

「え、上司でしたっけ?」

「おー。言ってくれるじゃねぇか。松永はそうじゃないとな。」

 こういう雰囲気さえ許してくれる中川さんが上司としては本当に目標だった。

「そんなことより、なんか悩んでないか?」

 ギクッ。

 確かに、昨日色々あった。

 ひらりちゃんにだってビビって連絡できてないし。

「なんかありそうな顔してんな。俺でよければ聞いてやろうか?一応上司の仕事でもある訳だし。」

 いや、目の奥完全に笑ってるんですけど。

 確かに、中川さんはいい人ではある。しかし、この人に相談すれば社内のパイプが太いだけに、噂が一気に広まってしまう。そんなリスキーなことしても大丈夫なのか?

「ほらほら。遠慮なんかしないで。」

 悩みも解決していないのにドヤ顔なんですけど。この人、ドヤ顔なんですけど。

 悪い人ではないのは確実だ。

 ここで言わないままなのはこれからの業務に支障が出かねない。

 とりあえず、さわり程度なら広まっても大丈夫だろう。

 どうしてそう判断したかわからないが、なぜか中川さんに昨日あった一部始終を話し始めてしまった。

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