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終焉ヲ照ラス月光  作者: ポロすけ
9/13

束の間の日常

第八話でやんす。

 あれからしばらくして俺も少し眠ってしまったらしい。

 気づくともう宝物庫の中にはほとんど人はおらず、生徒たちの姿ももう見えない。


 俺は重い瞼を軽くこすり隣の二人の様子をうかがう。


「ん...あれ?私いつの間にか眠ってたのね...」


「!...ほんの数十分だよ、気にしないでいいから」


 セナが瞼をこすって目を細めて俺を見る。寝起きのセナの普段とのギャップに少し動揺しながらも、俺は彼女に素直に伝えた。


「ねぇ...私眠っていた時になにか喋っていなかったかしら?」


「!!」


 彼女は心から心配そうに俺に尋ねる。


しかし、彼女にありのままを話したところで、今の俺は彼女に踏み込んでいくことは難しいだろう。

だから俺は一言「いや、なにも言ってなかったと思うぞ」とだけ言った。

 セナもしばらくして「そう、ならいいのだけど」とだけ答えて、俺達二人は先に防具を見に行ったレオに合流した。


 防具は全て兜からブーツまでセットになっており、武器を選ぶよりは簡単になりそうだ。防具のエリアは左からより重装備であるものが置かれている。


持ち上げるだけでもおっくうになるようなものまである。そうかと思えば学校の水着と大差ないようなものまである。

 

「.......なかなか悪くないデザインだな」


「神原くん....それ女物なんだけど」


「.......!!あ、ホントダー..」


「最低.......」


「すんません....」


俺達三人は手早くエリアの中間程においてあったバランスが良くて少し軽めのものを選んで宝物庫を後にしようとした。


「この防具とか武器って誰かメイドさんとかが持ってくれたりしないのか?めっちゃ重いんですけど...」


「ないものねだりしてもしょうがないだろ...」


 選んだ武器や防具は自室まで個人個人で持って帰り、明日の訓練に着ていくことになっている。


武器、防具ともにとても丈夫に作られている分その重量は馬鹿にできないものだ。男の俺やレオにとってもこれを自室まで持っていくのは決して楽なことではないだろう。


「大丈夫かセナ?」


「え、ええこれぐらい大丈夫よ...自分の物を自分で運ぶのは当然なのだから...」


 すでに息が上がっているところは見ると相当辛そうだ。少しもってやろうにも、彼女は間違いなく拒否するだろう。


「高梨さんは真面目ですねぇー」


「あなたが不真面目なだけでしょ?」


「へいへい、そうですよっと」


 ため息交じりのレオにいつもの調子で言い返すセナの首筋には汗がにじんでいる。少しドキッとしながらもここは男として一言声をかけてみることにした。


「なぁセナ、やっぱりいくつか持つよ」


「...そうね、では少しお願いするわ」


(よし!!ナイス俺!!)


 俺は気付かれないように拳をグッと握ると、セナの抱える荷物から胴と籠手を取り上げて自分が抱える防具の上に乗っけた。するとそれを見たレオはニヤニヤしてうんうん!満足そうにうなずいた。


「なぁ高梨とカナタって今日初めて会ったにしては二人ともなんだか仲が良すぎないですかな?んん?」


(うぜぇ...)


「...如月君?」


「!!?」


 あ、レオが飛び上がった。人間ホントに怖いものを前にすると飛び上がる生き物らしい。いつもならレオを援護すところだが今回ばっかりセナの援護に回るしかない。いいぞ、もっとやれ!


「カ、カナタ...?」


「レオ、君は罪を償わなければいけない」


「なっ!?裏切るのか!」


 俺はレオに満面の笑みを送っていち早く部屋にもどろうと速足で歩きだした。


「如月君?」


「はい...」


 セナの表情は今まで見たことがないほど穏やかだ。なのに放っているオーラが常人のそれじゃない。さよならレオ、楽しかったぜ。そしてセナがレオに顔をズイッと近づける。


「次言ったら...生きたままもぐから...」


「ひゃ、ひゃい...!」


 セナの顔が一瞬にして歪み、瞳孔が開いた。そしてレオが崩れ落ちるのを見ると、元気よくこちらを振り向き歩き出した。


「じゃ!行きましょうか!神原君!」


「お、おう...」


 その時のセナの表情はまさしく女神さながらの笑みだった。アレをもぐと言われたレオの顔にはすでに表情という言い表せるものは残っていなかった。


 その時、何時間か前に聞いた声がセナを呼び止めた。望月ミリアだ。


「ねぇ、アンタちょっと待ちなさいよ」


 宝物庫の扉の前まで来ると望月一行が俺達の行く手を阻んだ。取り巻き達も俺やレオの顔を見ると鬱陶しそうに顔をしかめた。


「はぁ...どちら様でしょう?」


 望月達の表情から余裕が消えて、怒りに歪んだ。


「っ!!アンタホントにいい加減にしなさいよ!?ただじゃ済まさないわよ!柏崎君たちに頼めばアンタを二度と外に出れなくしてやることもできるんだから!」


「ふふっ...それはつまりあなたにはそれが出来ないからあの男にお手伝いしてもらうということかしら?あなた人を笑わせることに関しては一流ね」


 セナはふふっと笑い、望月のそよ風のような脅しを交わす。俺達二人も思わず「ブッ!」と噴き出す。


「...!!今のうちに笑っておきなさいよ!すぐにその顔で笑えなくしてやるんだから!!」


「ふふっ、私をあなたよりも下に落とせるようにせいぜい努力しなさい」


 望月は再び怒りに体を震わせ、そのまま踵を返して取り巻き達宝物庫の外に出て行った。


「あら?もう終わりなの、残念だわ」


 セナは彼女たちが出ていく様子を見ながらうっすら笑いを浮かべる。もうここまで来るとどちらがいじめているか分からなくなってくる。


「おい高梨、あんまり泣かすとまた柏崎が飛んでくるぞ?」


「あの男は如月君に任せておけば大丈夫でしょう?」


「ええぇ..俺あういうやつ一番苦手なんだけど...」

  

 そんなことを話しつつ俺達は地上への階段を昇り始めた。地上に出ると一気に光が増して思わず目をつむる。ほんの数時間地下にいただけなのに何日も地下にいたような気分になる。

 その後俺達は外で待機していた兵士に連れられ自室への廊下を歩き出した。

 

 俺が昨日魔族に襲われた廊下はもう魔法で元あったように修復されていた。窓の外からはすでに夕日が差し込み俺達の影を長く伸ばす。この世界に来て二日目の夕日だ。いつまでこの暖かい夕日を見ていられるだろうか。

 戦争が始まってしまえばこんな夕日を眺めようという気にすらならなくだろう。


 それから俺達はセナと別れて自室に戻った。


「あ!二人ともおかえりなさいです」


「ああ、ただいまアリサ」


 部屋を見渡すと俺達の部屋がきれいに掃除されてベッドには太陽のぽぽかした熱がこもっている。式が終わり、先にもどったアリサはずっと部屋の掃除をしてくれていたようだ。


「それがお二人の選んだ武器ですかぁ?」


「うん、決めるのにずいぶん時間がかかったよ」


 アリサがトコトコッと近づき、俺達の荷物をまじまじと見つめた。アリサの目は子供がおもちゃを見るそれだ。「おぉ~」と目をキラキラと輝かせている。


「私もこんなかっこいい武器欲しいです!」


「さすがに無理だろ?お前一応メイドだし」


「一応は余分です...でも残念です、私も皆さんと一緒に戦いたいです...」


 アリサはしょぼくれて肩を落とした。今朝のこともあって彼女の気も焦っているようだ。


「実際戦うのは俺達の役割なんだから、アリサが気にすることじゃない」


「うぅ...でも...」


「ま、お前はここの掃除でもしてゆっくりしてればいいんだっつうの!」


「うぅーっ!やーめーてーくーだーさーいー!!?」


 アリサはやっぱり納得できないような表情で俺を見上げる。レオがアリサの髪を少し乱暴に撫でる。しかし、アリサの髪をいじくりまわすレオの表情はどこか焦燥にかられているように少しうつむいていた。


 それから俺達はお馴染みの食堂に移動して、セナも含めて四人で今後のことについて話しつつ夕食を取った。その際にセナとも協力して、なんとかアリサを納得させて、彼女を自身の寝室に帰した。


 俺達がアリサを帰し自室に戻った時には、既に時計の針は九時を指していた。俺達は軽くシャワーを浴びた後用意された寝間着に着替えた。


「じゃあ、レオ電気消すぞ」


「あいよ」


 俺は天井の明かりを消して、思い切り布団をかぶった。


 この世界に来て二度目の夜。まだ二日目、なのにも関わらずもう何日分もの出来事があった。

 

 明日からはついに戦闘訓練。アリサによると俺達勇者の指導をする皇国騎士長は、この大陸で最強の人類と称されるほどの剣技の持ち主だそうだ。その後は座学も待っている。明日からはもっと忙しくなる。


 俺の視界から、夜風に揺れるカーテンの向こうにかすかに見える満月が消えていき、そのまま意識を闇に落とした。


 

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