存在の咆哮
第六話どぅえす。
「これより!!”勇者召喚完了の儀”を執り行う!!」
パパンッ!!
ワァァァァァァァァァ!!
王座の隣に控える側近の大臣が式の開始を合図をし、大広間が大きな歓声が包み王宮直属の音楽隊が祝福の音楽を奏でる。誰もかれもが礼装に身を包み、民衆は皆笑顔を振りまく。
子供大人関係なく大広間にいる全ての者が今か今かと勇者の登場を待つ。
国の高官たちは王の前にひざまずき自らの功績、地位、権力、その全ての誇りを持って自らの君主への忠誠を改めて示す。そしていま再び勇者召喚という名誉に酔いしれる。
だが、その彼らを見下ろす国王の目は一切の揺らぎがない。
そして大きな歓声と共に国王は金箔に包まれたマントを翻し、勇者の召喚完了を高らかに宣言した。
「我!ガルフレア魔術皇国国王、シュバリエ=ラキナス=ガルフレアはここに!我らが救世主!”革命の勇者達”を召喚したことを宣言する!!」
ワァァァァァァァァァァ!!
広間に再び割れんばかりの歓声が上がり、国王は民衆からの呼び声を一身に受けて再び王座に君臨した。その目には光は差さず、ただ暗闇だけが瞳を染めていた。民衆に向ける笑顔に、大臣らに見せる威厳に満ちた眼差しには一切の光が映らない。
(勇者...)
式が始まった頃、俺達生徒は扉の向こう側に待機させられていた。
「なぁカナタ、国王ってどんな奴だろうな」
「さぁ、普通にひげ長い爺さんじゃない?」
「おいおい、それバーロスだろ」
「バーロス二人か...手に負えない」
「絶対嫌だな...」
レオが頭を抱えてうなる。扉に奥からはたくさんの人の歓声が聞こえてくる。
着々と式が進みついに俺たちの出番になった。
扉の奥で勇者登場の合図がされ兵たちが豪壮な扉を押し開ける。扉の隙間から歓声が入り込み、期待と熱量が伝わってくる。
「人がどんだけいるんだろうな」
「え、レオそれって...」
ワァァァァァァァァァァァ!!
「すっ...すっげぇ...」
「何人いるんだ...」
大広間の壁は全面金色に染まり天井にはひときわ大きいシャンデリア。
大理石の床は鏡のように光を反射して自分たちの地面の下にもう一つの世界がどこまでも広がっているように見える。
俺たちの花道には豪華なカーペットが敷かれその周りには所狭しと貴族たちが並び「かの勇者様のご尊顔を一目でも!」と首を伸ばす。
皆が歓声を上げる中俺たちは中央の台座の前に歩みを進める。
生徒はみな「勇者様ー!」と自分たちに手を伸ばす人々を見てすっかり英雄気分だ。みんなうっとりして手を振り返す。
ところが、
(人がいっぱい...怖い怖い怖い...)
俺は顔面蒼白、内心ガクブルである。これからのことに頭がいっぱいで自分たちが”勇者”としてこの国の民から注目されていることをすっかり忘れていた。
いつも一人だったからこそ大人数から注目されるのは大の苦手だ。ボッチがいきなり人気者になるとこうなるのである。
「お、おいレオ!なんでこんなに人がいるんだよ!?」
「はぁ?いやそんなもん当たり前だろ、俺達勇者なんだから」
「そ、そうだけど...」
(それにしても多過ぎる!わんさわんさと暇かこいつらっ!!)
俺はみんなにあまり見られないようにとっても笑顔の貴族連中に全力のしかめっ面でお返しする。
カナタに見られた貴族たちは「勇者の中に魔族がいるっ!?」と思ったに違いない。
レオはそんな俺を見てなんだか憐れむような眼で見てきた。なんだか切ない。
俺たち全員が祭壇に上がり終えると玉座から国王が近づいてくる。先ほどまで歓声でいっぱいだったが国王の合図一つで一瞬にして静まり返る。
みな片膝をつけて頭を深く下げる。俺達も頭を低くするように指示され生徒もしぶしぶ腰を落とす。
「勇者殿、顔を挙げるがいい」
顔を挙げるとそこには髭が長いおじいさん、ではなく立っていたのは金髪金眼の好青年。
背丈は俺達よりも高いが年齢には大した差はないだろう。そしてなんといってもその甘いマスク。
国王の顔を見た女生徒たちの大半が釘付けになっている。
きらびやかなマントや礼服がどの貴族よりも華々しく、その権威が一目見て分かる。
イケメンに加えて国王という立場、正真正銘の勝ち組である。
あまりのまぶしさに目をそむけてしまう。
というより、シンプルにイケメンは見たくない。
「我は国王シュバリエ=ラキナス=ガルフレア。ようこそ我がガルフレア魔術皇国へ...歓迎しよう勇者殿」
丁寧に頭を下げるシュバリエに女子たちは胸のうちで黄色い悲鳴を飛ばし、男子たちは心の中で目一杯の罵詈雑言を飛ばす。
「早速だが、ぜひ勇者殿達の名前を聞かせてくれ。」
自らを国王と名乗るその青年シュバリエ=ラキナス=ガルフレアは儀礼的なあいさつを済ませすぐさま本題に入った。
俺たちはクラスの中心グループから自己紹介を始めた。最初に名乗りを上げたのは昨日のバーロスの話で盛り上がっていたアホメンバーのトップ、柏崎ユウトだ。
ユウトもまたシュバリエに負けず劣らずの超イケメン。
彼が一度微笑めばクラスの雰囲気はさながら社交界のような平和な空間になり、一度彼が学校を休んだ日にはクラスが世紀末のような雰囲気になったという噂の持ち主だ。
ある意味で世界を変えているユウトは成績優秀でもちろん勉強もできると言う完璧な人間だった。
そんなユウトがアホ連中とつるんでいるのが不思議でならないと言うのが周りの総意だ。
「俺は柏崎ユウト!必ずこの世界を救って見せます!!」
ユウトの言葉にまたも歓声が上がり、ユウトは満足そうに手を振り返した。この時点ですでに貴族たちの心をばっちりつかんでいた。
その後もユウトのグループから次のグループへと移り自己紹介は進んでいった。
その言一つ一つにを国王シュバリエは真剣なまなざしで耳を傾ける。いや吟味しているという目だ。
いよいよ、俺達のボッチ軍団に順番に来ると言うところでもう一人俺のような生徒がいるのに気付いた。
「広瀬リョウマ、俺に関わるな。それだけだ」
シーン
(ええぇ...)
リョウマの威圧的なセリフに俺同様会場が一瞬押し黙る。ざわつく会場にイライラしたような態度のリョウマはまんざらでもない様子だ。
普段から制服を着崩して教師に反抗していたリョウマからしたら当然と言えば当然のセリフだった。
体も他の男子に比べてがっちりしていて他校の生徒を何度も病院送りしたというもっぱらの噂だ。
シュバリエはなお動じない。ただ観察するのみだ。まるで何かを探しているようだ。そして次に、セナの番。
「私は高梨セナ、元の世界に還るために戦います。先程のアホな男と一緒にしないでください」
(おおい!?セナァァ!?)
セナの挑発的なセリフにまたも俺と会場が押し黙る。セナも会場の雰囲気にどこ吹く風である。そしてリョウマの肩がピクリと動いた。
「おい...てめぇ今の、まさか俺のことじゃねぇだろうな...」
「はぁ?あんたのことに決まってんでしょ、アンタ日本語も分かんないの?」
「ああぁ?」
「なにっ?」
(やめてぇー!!喧嘩しないでぇ!?)
恐怖で俺のキャラが崩壊しかけたところで、一触即発の二人に急いで兵が仲裁に入り事なきを得た。
二人からは依然殺気がもうもう立っているが、自己紹介は続けられた。
シュバリエは二人の殺気には何とも思っていないようだ。さすが国王というところだ。
「如月レオです、自分も国に還るために全力を尽くします」
レオが無難にすましたところでやっと最後、俺の順番が来た。みんなが注目する、みんなが俺の自己紹介を今か今か待ち構える。
俺からしたら一種の拷問である。簡単に考えよう、これはただの自己紹介。一言言えばお終いだ。俺もレオのごとく上手くやろうと心を落ち着かせた。
(くっ...平常心平常心...幼稚園のお遊戯会を思い出せ!観客は葉っぱ、観客は葉っぱ...よし!!)
幼稚園に戻るまでにかなりの数の黒歴史を見た気がするが今は泣いている場合ではない。
漢、神原カナタ、いざ行かん!
「俺は神原カナタ!!この世の不条理をすべて消し去り!丸ごと世界を救ってやる!!」
シーン
「な、なんちゃって...」
会場中が息をのみ、世界を変えると言った背の低い華奢な男の子を見た。会場の人々に彼の涙声の”なんちゃって”は聞こえてない。
そしてその世界を変えるとまで言った男があまりの羞恥に既に泣きそうになっている。
というかそれは俺だった。
(ああああああああ!////死にたいぃぃぃぃぃぃ!!///)
会場が未だ静寂を守る中俺は顔を真っ赤にして立ち尽していた。なんでこんなことを言ったのか自分でも分からない。
しかし、もう言ってしまったのだからやるしかない。隣でレオが必死に笑いをこらえているのが一番腹立つ。
俺は顔を覆ってサイレントに悶える。
(いっそ殺してくれぇええ!!てかみんな静かすぎない!!?なんか言ってよ...)
本当に静かだ。ほんとに泣きそうになってくる。いつも俺を避けてくるクラスの連中も一言も喋っていない。レオの笑いに苦しむ雰囲気も感じない。
するとレオがひそひそ俺に何かを伝えてくる。
「憐れな僕に何か用ですか...」
ふてくされる俺と緊迫した声色のレオが全くかみ合わない。
「ちげぇよ!カナタ!おい!目開けろ!」
「は?なんだよ...」
渋々目を開けた俺の目の前に広がるのはひざまずく貴族たちの姿。
誰一人として言葉を発する者はなく、彼らの羨望の眼差しには皇国に召喚されし最後の勇者しか映してはいない。
誰もが平伏しカナタをただ見つめる。まさに圧巻、少年はただ呆然とするばかり。しかし彼らは確かにこの少年に希望を見た。
その少年の魂の高潔さに魅せられた彼らは皆思ったことだろう。
『彼こそが”革命の勇者”だ』と。
俺は茫然とその異様な光景を見ていた。しかし俺は、自分を見る彼らの眼差しは今まで自分に向けられたどの眼差しとも違う、今までに向けられたことの無いものだと言うのはなんとなくわかった。
(なっ!?なんだこれ....どうなってんだ......!?)
「勇者殿、もう一度貴殿の名を聞かせてくれないか」
シュバリエの真剣な表情に俺も期せずして気を引き締められる。
「神原...神原カナタです」
「そうか...この世界に来てくれたこと、改めて感謝する」
シュバリエは俺に深々と頭を下げた。表情は硬く緊迫した表情をしたままだが、俺にはなんとなく彼が少し笑ったような気がした。
シュバリエは再び貴族たちの方へ向き直ると声高らかに勇者召喚を宣言したのだった。
「聞け皆の者!!」
皆一斉に顔を挙げて国王に顔を向けた。
「我々人類は今!再び滅亡の危機に瀕している!!我々人類はこのレスティーレにおいて最弱の種だ!魔族のような魔力も持たず!獣人のような肉体も持たず!そして精霊のような不死性も持たない!我々は弱い!!
流された血と涙は海をも染め、死んでいった兵たちは山をも凌駕した!
我々人類の歴史は常に敗北に塗り固められてきた!」
誰もが固唾をのみ若き国王の言葉を聞く。皆の表情は苦渋に歪み、あるものは涙し、ある者は肩を震わせる。
「しかし!何も持たぬ我らは何物にも成り得る唯一無二の種族!人類はその弱さゆえに知恵を、技術を、その憎悪を磨いてきた!
そしてついに我々は最古の奇跡をも成し遂げた!もはや恐れるものはない!我々の英雄はここに現れた!!我は今宣言しよう!!」
皆の目に光が差し希望を映った。数え切れないほどの人類がこれまで嬲られ、虐げられ、そして命を落としてきた。
だが、最弱種の王は、今決然と反逆の狼煙を上げる。
「これより人類が歩むのは勝利の茨!今こそ人類革命の時だっ!!!」
ウオォォォォォォォ!!!
皆、腕を天高く掲げ国王の宣言に胸を震わせた。彼らは新たな人類史の誕生の瞬間を目撃したのだ。地をなめ続ける歴史は終わったのだ。
歓喜とも喜びとも違う魂の咆哮。彼ら自身が革命をなすという覚悟の叫びだった。
「なぁ、カナタ...せいぜいしぶとく生き残ろうぜ...」
「ああ...そうだな」
俺たちもまた革命の始まりの目撃者の一人だった。鳴りやまない身震いするほどの怒号。今まで余裕の表情だった生徒たちも戦争の始まりを悟ったようだ。
それと同時にいかに自分たちの”覚悟”と呼ぶものが、赤子のおままごと程度のお遊びだったのかを、否応なく思い知らされたのだった。