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終焉ヲ照ラス月光  作者: ポロすけ
3/13

月下の歓談

第三話なのです


「はぁ...一体何だったんだあいつは...何しに来たんだよ...」


(それに最後、人間の俺に向かって”生きろ”? 魔族は俺達の敵じゃないのか?マジで分からん...)


 分からないと言えばこの世界に来る前からずっとそうだ。自分だけが受ける不幸な出来事の数々。

自分が特別な人間だとかうぬぼれるつもりはないのだが、自分はみんなとは何かが違うのは確かだ。


「また面倒なことになりそうだなぁ」


 俺は新たに発生した謎に大きく嘆息した。


「ゆ、勇者様...ただいま戻りました...のですけれどぉ、とりあえず、そのぉ...大丈夫ですか?」


 帰ってきたプチメイドが曲がり角からひょっこり顔を出す。ひどく怯えているようでプルプル震えながらこちらの様子を伺っている。


「あぁ~、とりあえず無事だよ。なんというか疲れた...」


 それからガラスの割れた音を聞きつけたメイドや使用人達が割れた場所探し回っていたようで、そこでたまたま使用人のおじいさんが割れたガラスの傍で倒れてる俺を見つけてて、すぐに兵を連れてきた。


 ちなみにその間プチメイドはその使用人に見つからないように壁に隠れていた。


 しばらくして兵が集まると俺は窓を突き破って突然魔族が現れて殺されかけたことを話した。すると兵たちは皆顔面蒼白になりすぐに魔族の捜索を始め、他のメイドたちが俺にケガがないか診てくれた。


兵たちによると結局その魔族は見つからなかったらしい。


 そして小一時間かけて事情聴取を受けた後俺とプチメイドはやっと兵士達に解放されたのだった。


「では、失礼します勇者様。本当に無事でよかったです。今夜はゆっくりお休みください。

それからアリサ!今度こそ!無事に!勇者様を!部屋にお連れするんだぞ!」


「は、はい。心配をおかけしました...」


「うぅぅ...分かりました...ごめんなさいでした...」


 兵を呼んでくれた使用人さんは近くの部屋で俺から詳しく事件のことを聞いた後、外に隠れていたプチメイドを引っ張り出して正座させ説教が始めた。

 

プチメイドがトイレに行くためにわざわざ遠回りしたこともすぐにバレて使用人さんのお説教も約一時間にも及んだ。

 


 説教を終えた後、プチメイドは目を真っ赤にはらしながらも無事に俺を部屋まで案内した。

ここまで何度も泣かれるとなんだかこっちが申し訳なくなってくる。


「ええと、ここが勇者様のお部屋です」


「おぉ、すごいな...」


 扉を開けると、そこはさながら王室のような部屋だった。天井では大きなシャンデリアが揺れ、カーペットは綺麗な赤色でベッドは一人が寝るには大きすぎるほどの豪華な代物だった。

壁には勇猛な男性が描かれた絵画が飾り付けてある。


窓からは相変わらず異世界の町が見下ろせる。


「ん?この部屋はもう一人誰か生活するの?」


 よく見ると部屋の奥にもう一つ手前のとおんなじ豪華なベッドが備え付けてある。すると後ろから良く知った声が聞こえた。


「ようカナタ!やっと来たか!」


「レオ!」


「勇者様はこのもう一人の勇者様と一緒に生活していただきます」


 どうやら同居人はレオのようだ。他のクラスメイトだったら確実に追い出されてたが相手がレオなら安心できる。


 レオはあの後、メイドに連れられすぐに部屋についたようだ。そしてちょうどその時俺のもとに魔族が現れレオについていたメイドさんもガラスの音を聞きつけて出て行ってしまったらしい。

 

そのあと完全に放置されたレオは何を血迷ったのか。部屋を抜け出し宮殿の探索をしていたらしい。

そして探索から帰ってみたらカナタ達が部屋にいたと言うことだそうだ。

 

(いきなり異世界に来たっていうのに最初にするのが宮殿の探索とか...それを実行する行動力も当然スゴイんだけど...我が友達ながらなんだこいつ..)


 探索していたことを話すレオはなぜかとても誇らしげだった。そいえばレオは異世界に来てからもそんなに動揺していない気がする。


俺が始めに目覚めたときも俺に冷静に起こったことを説明してくれた。

 

俺も何度も死にそうになってるせいでそこら辺の感覚が鈍っているのかそこまで混乱していないからあまり人のことは言えないけど。


「ある程度行けるとこまで探索して回ってきたけど、なんでか兵士達が一人もいなくって安心して探索できたぜ」


(その時俺死にかけてたんだが...)


 俺とプチメイドは顔を引きつらせるが、レオに変な心配をかけたくないので魔族とのことは黙っておくことにした。


「それで、何か収穫はあったのか?」


「いやぁ、それがどんだけ歩いても同じような部屋しかなくて収穫はゼロだ」


「そうか、」


 そういうレオは心底「残念!」という表情で肩を落としてベッドに腰かけた。なんだかレオは俺とは違う意味でデンジャラスな奴に思えてきてしまった。


「そいえば結局カナタたちはどこに行ってたんだ?みんな怪しんでたぞ、”疫病神がさっそく幼女に手を出した” とか言われてたな」


「はぁ...なわけないだろ? ちょっとトイレに行ってただけだよ」


(このプチメイドがな...)


 隣に立つプチメイドの方を見ると俺からサッと目をそらして顔を赤くしている。


「ふぅん、そっか、まぁなんにも無かったなら良かったけど」


「あ、うん、なんもなかったよ」


 レオに嘘をつくのは少し心が痛むがやはりなるべく心配されるようなこと言いたくない。

そうして少し俺がシリアスな気持ちになっていると、レオがとんでもない爆弾を落とした。


「そいえばなんでお前のメイドだけ子供なんだよ、他の奴らはみんなきれいなメイドさんだったのに」


 あ、プチメイドがビクッとした。なんかほんとにかわいそうに見えてくる。プチメイドはフルフルと震えて、上からは表情が良く見えないが、そうとう怒っているようだ。こっちまで怒気が伝わってくようだ。

 

質問した当のレオはそれに全く気付いてないようで黙ったままのプチメイドに「何で?ねぇねぇ何で?」とさらにプチメイドを追い込む。そして、


「...ぃもん」


(あ、これは完全に怒っちゃったな...)


 俺は呆れ顔いち早く耳をふさいだ。レオは急に神妙な面持ちで耳をふさぐのを見て、ようやく状況を悟ったようで急いでなだめようとしたが、ひとあしまにあわなかったようで、


「わ、私はアリサ、アリサ=ヴァリエンテです!...子供じゃないです!!

立派なメイドですぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 その瞬間、部屋いっぱいに甲高い悲鳴が響いた。その声を超至近距離でもろに聞いたレオはそのままベッドに倒れ込み気を失ってしまった。    

 

プチメイド改め、アリサ=ラルメルクは顔を真っ赤にして名乗った。失神したレオの前で怒りは収まらないようで「ふんっ!」とぺったんこの胸を張っている。

 

プチメイド、アリサ恐るべし。


叫び声一発で高校三年の男子をノックアウトとは。さっき俺も廊下でこの大声を近くで聴いていたらと思うと… 考えるだけでも恐ろしい。


俺は自分自身のためにも彼女を二度と怒らせないようにしようと固く誓った。


(それにしても、アリサか...妙にしっくりくるなぁ、まぁ名乗られたから自然にそう感じるだけだろう)


俺がまた考え事をしていると、アリサの怒りもだいぶ収まったようで表情は元のおどおどした感じに戻っている。


レオはそのまま眠ってしまったようなのでベッドに横にしてやった。


「そいえば食堂でバーロスさんが言ってた詳しい話っていうのは?」


「あっ...」


(忘れてたのか...)


 アリサ今思い出したようにはっとして、一度咳払いすると今後についての話を始めた。


「ではまず地図で説明します、《地図よ》」


ブゥゥゥゥン


 アリサが目をつむって呟くと、アリサの手のひらの上に鈍い音を立てながら青く輝く半透明の宮殿の立体地図が現れた。


「おお...それがいわゆる”魔法”ってやつか...?」


「はい、これは人間の使う魔法の中でも比較的簡単なものですが... 勇者様でもこのぐらいの魔法ならすぐに使えるようになります。では―」


 俺とアリサの間で光る地図がゆっくり移動しだした。立体の地図は部屋に青い粒子を落としながら俺の見やすい位置で停止して再び鈍い音を出しサイズをひとまわり大きく変化させた。

 

それからアリサは魔法の地図に呆気にとられている俺を不思議そうにながめ、改めて今後の予定についての話を始めた。

 

「まず明日は七時から先程の食堂で朝食をとって頂き、その後皆さんにはこの、”大広間”に移動していただきます。そこで私たちの国王様との面会、勇者召喚を祝う儀式を行います。

 

 その後、みなさんが召喚された神国室にて勇者様方のステータスチェックを行います。

 

 それから、王宮の地下まで降りて、この宝物庫にて皆さんに合う武器を各々探していただきます。

明日の予定はこれだけです。それから、また詳しくお伝えますが明後日からは―」

 

 それからアリサは明後日からのこの世界での生活について簡単に話してくれた。

 

他種族との戦争に備えた本格的な訓練、そしてこの世界、魔族、精霊族、獣人族についての座学だ。異世界に来てまで訓練や勉強をさせられるとは思っていなかった。

 

しかし、訓練にはどうやら魔法の訓練もあるようでそれが唯一の楽しみだ。

 

 アリサが話を終えると立体地図は全体が青い粒子になり霧散した。俺はきれいな光の宮殿が名残惜しく思いながら今後について真面目に考え始めた。


(国王か、んーやっぱり顎鬚がもじゃもじゃしてるような爺さんなのだろうか...いや!

それだとあのバーロスとかいう爺さんとキャラがかぶるなぁ...あれ?俺何でこんなしょうもないこと考えてるんだ...)


 気付いたらこんなどうでもいいことを考えていた。いきなり異世界に来たので少々頭がバカになってきた気がする。


クラスのアホ連中と同類だけは嫌だ。今後気を付けよう。顔を挙げるとアリサが小首をかしげて少し不安そうに俺の様子をうかがっている。


「あのぉ...勇者様やっぱり魔族に何かされたんですか...?私があの時寄り道したばっかりに...うぅぅ...」


「あー、いや大丈夫だよ!ちょっと考え事してただけだから!」


 しかしアリサはイマイチ納得していないようだ。本気で俺のことを心配してくれているようだ。

俺のことを心配してくれるのはレオとアリサだけだ。異世界に来て初めての嬉しいことだ。


「ところで、神国室ってどんな場所なの?大広間はなんとなく分かるけど」


「え?神国室は勇者様方が召喚された部屋です。一回見てるはずですよ?」


「ええと、俺この世界に来て最初に目覚めたのベッドの上だったから...」


「?...じゃあ言語魔術はどこで受けんたんでしょうか?」


「え?なにそれ?」


「え?」


(いやこっちが”え?”なんですけど...)


 二人の間に沈黙が流れ、アリサの頭の上にはてなマークが三つ。


「俺ホントにその言語魔術ってのを受けた覚えがないんだけど、いつの間にかかけられてたとかそんな感じじゃないの?」


「そ、そんなはずないです!言語魔術は人の脳に働きかけて一つの言語を丸ごと覚えさせるっていうとっても高度な呪文なんです!とても長い時間がかかるんです!」


 アリサの表情がだんだんと困惑にみちていき食い気味にまくし立ててくる。


「じゃ、じゃあ俺が寝てる間にかけたんじゃない!?」


「言語魔術は対象の人間の脳が覚醒している状態でないと効果はありません!」


「あ!じゃあバーロスの話を聞いてる最中だろ!あの時誰かが俺にその魔法をかけたんじゃないか!?」


「私、食堂の隅で待機していましたが...バーロス様のお話中にそんな魔法を使っている人はいませんでした!!」


「ええと、じゃあ!俺とアリサが寄り道している間に―」


「その時にはとっくに言葉分かってたじゃないですか...」


「うぐっ...」


 ひとしきり聞いてもなんで俺がこの世界の言葉が分かるのか全く分からない。


通じないよりはましだが、また俺だけがみんなと違う。日本での不幸体質とは何かが違っている感じがしていつにもまして嫌な予感がしてしまう。


 アリサの方は先ほどまでハテナだらけだった頭が、今度はプシューっと煙をあげている。

 

「うぅぅ... 勇者様!なんで私と喋れるんですか!!」


「ええぇ~、こっちが聞きたいんですけど...」


 ちなみに普通に神国室で目覚めたレオや他のクラスメイト達は、突然教室からこの世界に来たことでひどく混乱して騒ぎになりそうだったところでバーロスに不可視の壁を作る魔法?で閉じ込められている間にじっくり言語魔術をかけられたようだ。

 

 一方、目が覚めてすぐに食堂に向かった俺にそんなゆっくり術をかけているような時間はなかった。


「あとは術をかけられる時間があったとは思えないんだけど...」


「うぅ~...どういうことでしょう、あの魔法をかけられていないなら”元々この世界の言語が知っていた”としか考えられないんですけど...」


「いやいや、そんなのありえないでしょ...ん?」


 そいえばここに来る前にも夢の中の、花畑のような場所で少女とも話をしていたのだった。


あの時はほんの最後だけだったが彼女が俺に”バイバイ”といったのを覚えている。

 

あの言葉もおれが気づかなかっただけこの世界の言語だったのだろうか。そうすると、その時点で俺はこの世界の言語を習得済みだったと言うことだが。考えれば考えるほど分からない。

 

(そういえば、彼女は最初なんて言ってたんだ?)


 彼女はあの花畑で確かに俺に何かを伝えようとしていた。あんなに必死に。あの少女についても謎のままだ。


「俺知らないことだらけだなぁ...」


「うぅ~ん... とりあえず今日のところはもう休みましょう! 明日の式に遅れてしまいます!」


 いつの間にかかなりの時間二人で話し込んでいたようだ。部屋の机の時計の針はすでに午前二時を指している。


レオは相変わらずぐーすか眠りこくっている。レオの自然な振る舞いが逆に、少し安心させてくれる。しかし、そんなレオを見るアリサは少し不安そうだった。


「...まぁそうだね、今考えても分からなさそうだし今日はもう寝るよ」


「では、おやすみなさい勇者様」


「あ、そうだまだ俺の方は自己紹介してなかったよね、俺神原カナタ、これからよろしくね」


 そういうとアリサは少し驚いたようだったがドアの前でくるりと振り返り、精一杯の笑顔を作った。


「は、はい!これからもよろしくお願いしますね!カナタ様!」


 部屋の奥の窓から赤い月の光がはいり、アリサの金髪をキラキラと照らした。その髪は魔法のようにきれいだった。


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