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化石

作者: 目262

 モロッコのとある化石採掘場で奇妙な化石が発見された。

 大型のプテラノドンの翼、ティラノサウルスの脚と尻尾、トリケラトプスの角のようなもの、そして大型哺乳類の胴体と頭部、これらの異なる生物の一部分がひとかたまりになっていたのだ。

 しかも発見された地層は三畳紀。五億年も昔の地層だった。研究者たちは化石をテントに運び、話し合うことにした。

「なんだか涼しくないか?」

 研究者の一人が化石を前にしてつぶやいた。別の研究者がうなずく。

「涼しいな……。真夏のモロッコでエアコンなんかないのに……」

 彼らの声をさえぎって調査団の団長の声が響く。

「諸君、ありえない地層でありえない化石が発見された。このことについて意見を求めたい」

 ひとりの研究者が答えた。

「大きな穴が開いていて、そこに複数の生物が落ちて、化石化したのでは。他の部位は腐食してしまったのでしょう」

「五億年前から五百万年前まで、そんなに長い間穴が開いていたのか?」

「では、五億年前は普通の海で、途中から崖になってそこに落ちたとか」

「そんなところでしょう。ただの偶然ですよ」

 奇妙な状況は偶然の産物という結論になった。しかし翌日、別の場所から同じ組み合わせの化石が十数体も発掘されて調査団は衝撃を受けた。全ての化石がテントに持ち込まれ入念に調べられた。

「やはりどの化石も同じ組み合わせです。しかも至る所に孔が開いており、これらは生きている時に付けられたものです。つまり、時代の違う複数の生物が同じ傷を受けて死亡し、化石化したと思われます。これだけの数が採掘されたのだから、化石は他にも大量に埋まっている可能性があります」

 もはやただの偶然ではありえない。研究者たちは頭を抱えた。この奇怪な化石たちを、スポンサーにどう説明すればいいのだ?それにしても寒い。真冬のような寒さだ。

 そこへ採掘を手伝っている現地人の子供が紛れ込んできた。テントの中に何があるのか興味を持ったのだろう、科学者たちの足のあいだをかいくぐり、化石の群れのまえにたどり着くと納得したようにこう言った。

「やっぱりいたんだ」

「坊や、邪魔だからあっちに行きなさい」

 研究者のひとりが子供を追い出そうとすると、団長がそれを止めた。子供の発した言葉が気になったからだ。

「きみ、これがなんだか知っているみたいだね」

「みんな知っているよ。おじさんだって知っている」

「私たちはこんな奇妙なもの、初めて見るよ。だから困っているんだ。よかったら、これがなんだか教えてくれないか?」

 団長は偉い学者だと両親から聞いていたので、子供は少し驚いたが、この場所で真実を知っているのは自分だけだと気付き、得意げに胸を張って答えた。

「大きくて、角があって、羽が生えてて尻尾がある。これは悪魔だよ。大昔に神様と戦って負けたんだよ」

 その場の全員が息を呑み、化石の群れを凝視した。

 部分に注目し過ぎて気付かなかったが、全体を見れば、確かに……。

 悪魔の化石。そんな馬鹿な。

 団長たちはそう思ったが、絶句しかできなかった。

 テントの寒さはいっそう増していた。

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