第一話 「幽霊祓います」
連載小説です。初投稿となります。初心者故に、文章が未熟な点がございますが、読んでいただけると嬉しいです。
とある国の隅の隅。そんな隅にあるボロアパート。
その一室で、玄関と一時間近くにらめっこしている少年が一人。
震える手で、何度もドアノブに手をかけようとするものの…
「うん、よし!今日は学校行かない!今日のオレはよく頑張りましたということで、もう一度寝て…―――」
「っざけんな!!」
ドゲシッッ
その瞬間玄関の向こう側、つまり外からものすごい轟音と、少年の怒り狂った怒声が聞こえた。
「いや~毎日様子を見に来てくれるのは、ありがたいんだけどさ?とてつもなく感謝してるけどさ?」
玄関とにらめっこしていたオレは、ドアを壊し入ってきた少年に渋々茶を入れる。
「毎回のごとく、ドアを壊すのやめて」
「ダイナミックお邪魔します」
「何それいらない」
ドアを壊した張本人。綺麗な金髪に碧眼の、黒いバンダナをした少年…榎條 岸に呆れ気味に答えた。
「そんなことより光太郎、今日テストあるって…言ったよな?」
怒りに満ちたその視線を岸は、光太郎に向ける。
光太郎は「聞いたような、聞いてないような…」など、訳の分からないことを抜かし始める。
岸は我慢ならず、少年に掴みかかった。
すると光太郎は
「うそうそ!!だからこうして制服にも着替えてるんだよ!!」
と慌てた様子で、苦笑いしながら降参のポーズを咄嗟に取った。
そう、その少年。茶色い髪をツンツンさせ、エメラルドの瞳を持つその少年の名は、上野 光太郎16歳。
オレはわけあって只今絶賛、引きこもり生活を送っているわけだが。
それでも昔よりは、外へ出れるようになったのだ。それでも、未だに抵抗はあるわけで。
クラスメイトである岸とは、あることをきっかけに仲良くはなったものの。
それでも人と話すのは、すごく今でも苦手だ。
オレは岸に直してもらった、テレビの電源をつけてみる。
するとちょうどニュースが流れ始めた。
「次のニュースです、昨晩S市に住む井ノ原 伊代さんが、何者かによって鋭利な刃物で切り付けられるという犯行が…」
近くに住むオレと岸は、咄嗟にそのニュースを聞き始める。
そこで現場が流れる画面を見つめていたオレは、あることに気づいてしまった。
岸がそれに気づき、不思議そうにこちらを見てきた。
そんな岸に答えるように、オレはある事実を呟いた。
「…なんだ、この映像…犯人がまるわかりじゃないか」
「は?どこに?」と岸は画面をくまなくチェックし始めるが…
分かるわけないんだ、霊感のない岸には。
「岸には視えないよ、これ"幽霊"だからね」
オレがそう岸に告げると、「ああ、またか」と言いたげな目でこちらを見てくる。
案の定岸はこう告げた。
「お前、またかよ」
オレは苦笑いするしかなかった。
別にオレ自身、視たくて視ているものでもないし、勝手に視えてしまうのだから。
なにせ、オレは何でも一通りこなせてしまう、"超能力者"なのだから。
霊が視えるのはもちろんのこと、除霊だってできるし火も電気も、お金を払わなくても使えてしまう。
物心ついた時から備わっていたそれは、今のオレには欠かせない生活源でもあった。
「まあ、もう慣れたし…オレも人のこと言えないけどな」
岸はため息をつきながらそう呟く。岸にも心当たりがあるらしい。
オレはそれが何か知っているけど。
「さ、くだらん事言ってないで、学校に行くぞ」
「マジで!?!?嫌だ!!こんな人通りの多い時間に…って!あ!ちょっと!」
言い終わる前に岸に襟を掴まれ、引きずられるようにして、オレたちは家を後にした。
登校時間なので、当たり前のように道を人が行きかう。
ガタガタと身を震わせながら、嫌々岸の後を追う。
「帰りたい…もう帰りたい…」
「帰ってもいいぞ、どうせ追試が待ってるけどな!」
「鬼!!」
こいつは鬼畜か何かか。本物の鬼か。
そんなことを思いながら、ふと人ごみの中にある少女を見つけた。
その少女はふらふらと、顔を真っ青にしながらこちらへと向かってくる。
その少女の背後には、くっきりと低級霊の姿が確認できた。それもかなりの数だった。
何だ、あの子は。あのままじゃあの子は…。
仕方ない、そう思い手を構える。今すぐにでも、除霊してあげなければと。
少女に手をかざす。フッと少女に憑いていた、低級霊たちの姿が消えるのが確認できた。
少女も肩が軽くなったのか、驚いた様子だった。
「何だ?珍しく除霊したのか?」
岸が少しばかり驚いた様子で訪ねてきた。
「うーん、だって今にも死にそうだったから…見殺しはちょっとね」
とにかく誰が除霊したのか、少女が気付いてしまう前に行こうと、岸に告げる。
気付かれるとやや面倒くさいことになりそうな予感がしたからだった。
そう、オレは行こうとしたのだ。だが、既に腕は少女の手に掴まれていたのだった。
「待って!!」
可愛らしい声の、白髪と赤眼のその少女はオレを逃がすまいと、必死になって腕に掴まってくる。
オレは自分の顔から血の気が引いていくのを、苦笑いを浮かべながら感じていた。
「あの、今霊を祓ったのって…あ…あなたですよね?」
少し困った様子のその少女は、オレに遠慮がちに訪ねてきた。
「な…何のことでしょうか?オレは何も…」
「少しだけでいいんです!お話を聞いてもらえないでしょうか!?」
オレの言葉を遮るように、少女は捲し立てる。
これは面倒くさい。非常に、面倒くさい。
できれば相手にしたくないオレは、咄嗟に明後日の方向を見、「あ。」と指をさす。
「え?」とつられる形で、少女もその方向を見る。
その瞬間、オレと岸はその少女から逃げ出していた。
遠くから「あっ…!」と聞こえたが、そんなことは気にしない。
ただでさえ地獄の登校に、更に追い打ちをかけるような出来事だった。
「ハハ…まさかここまで出来ないと思わないよなあ…」
今は放課後。つまりテストが終わった後。
乾いた笑いが自分からこぼれる。案の定、散々な結果だった。
オレは先生から特別に用意してもらった別室で、テストのことを嘆いていた。
「はあ~しかしびっくりしたなあ、今朝の子、まさかオレが除霊したのに気付くなんて」
朝出会った少女のことを、ふと思い出した。
オカルト関係に詳しい、または興味がなければ、まず"除霊"なんて言葉、出てこないであろう。
ふーっとため息をついたところで、部屋のドアがガララと音を立て、開かれる。
「光太郎、そろそろ出てきてもいいぞ、人が少なくなった」
「よし、んじゃ帰ろう、疲れたよ」
なるべく人と行きかいたくないオレは、岸にチェックしてもらってから、別室を後にする。
目の前にはまだ女生徒が残っていたが気にしないで帰ろうと思った。そう、思ったんだ。
女生徒の隣には、つい今朝見た白髪の少女が佇んでいたのだ。
「おい、光太郎…」
「うそ…」
話を聞く限り、オレの特徴を話して、探している様子だった。
女生徒がオレの存在に気づいてしまった。
「あ、来ましたよ、多分その人ですよね?」
「あ…」
白髪の少女も女生徒に言われ、こちらに気付く。
白髪の少女は申し訳なさそうにこちらを見ながら、何かを言いたげにしていた。
岸がポンッとオレの肩をたたく。
「ご愁傷様」
オレは固まって何も言うことも出来なかった。
覚悟するしかなかった。
別室に戻って、少女の話を仕方なく、聞くことにした。
「ごめんなさい、学校にまで来てしまって…」
少し困った様子で、少女は頭を下げる。
「あの、今更だけど、何でオレなの?」
「それは…!」
少女は言葉を詰まらせる。言いにくいことなのだろうか。
「誰も…誰もこんな話、信じてくれなくて…」
「こんな話?」
オレの問いに対して、少女は静かに、そしてゆっくり話し始めた。
「あ…あの…私、錦織 七瀬っていいます。今朝やっていたニュース、知っていますか?女子高生が襲われた、あの」
そのニュースなら、今朝オレと岸が見ていたやつだ。確か切り付けられたっていう。
「あの、首を切りつけられた事件の被害者…実は私の友達なんです」
「―――!?なっ…」
突然のことに、オレも岸も驚きを隠せなかった。
まさかニュースでやっていた事件の、関係者だったなんて。
今、絶対安静で入院していることを、錦織さんは告げる。
「でも、ケガだけならともかく…妙なことを呟くんです」
その被害者は「ハサミが」や「女の子が…殺さないで」などを永遠と呟いているという。
そこで錦織さんは更に、気になることを呟いた。
「何もかも、あの心霊写真を撮ってから、なんです」
そう言って、錦織さんはカバンから写真を取り出し、オレと岸にそれを渡した。
その写真には三人の女生徒が写っていて、一人は錦織さんだと分かった。
分かったが、その写真には大きく赤い線がくっきりと、首元に引かれていたのだ。
この写真を撮ってから、友達は襲われ、自身も低級霊に憑かれたと告げる。
「あなたを訪ねたのはこのことなんです。あなたなら…その、信じてもらえるんじゃないかと思って」
錦織さんは続ける。
「今朝、除霊をしてくれたあなたなら…"何とかしてくれるんじゃないかと思って"」
だから、そう続けようとした錦織さんの言葉を、オレはある言葉で遮った。
「断る」
錦織さんはとても驚いた様子だった。岸はオレの言いたいことが分かったのか、黙って聞いていた。
オレは正直に、錦織さんに説明した。
「要するにこれは"自業自得"じゃないか」
「えっ…」と錦織さんは呟くが、はっきり言って、我慢の限界だった。
「話は信じる。でも、君らは静かに眠っていた人を、くだらないことで起こして怒らせてしまったんだよ」
更に錦織さんに捲し立てる。
「何を勘違いしたか知らないけれど…オレはそんな人たちを助けるなんてごめんだ。そんなお人好しではないよ」
「でも…」と錦織さんは言った。除霊のことだろう。
「今朝君に憑いていた霊を祓ったのは、けして君のためなんかじゃない。"あくまで自分自身のためだよ"」
そう告げた時、錦織さんは肩を震わせながら、少し笑った。楽しくて笑っているのではないことは分かった。
必死に声を絞り出しながら、錦織さんは続けた。
「そう…自業自得ですよね。なのに私ったら…人にすぐ頼ろうとして…本当…いつも…」
錦織さんの目には涙がたまっていた。こぼれる涙に構うことなく、錦織さんは告げる。
「お話…聞いてくれて、ありがとうございまいした…!"ごめんなさい"」
そう言って、錦織さんは荷物を持って、別室から慌てて出て行った。
岸は泣いていたのが気になったのか、ちょっぴり申し訳なさそうにしていた。
「泣きながら言っちまったぞ。しかし…お人好しじゃない、ねえ」
オレは色々なことを頭の中で巡らせ、岸に言う。
「岸、ちょっと頼まれてくれないか」
走っても走っても。あたりの景色は変わらないまま。
息が切れたところで、七瀬は立ち止まる。正直体力の限界だった。
「何で……? 確かにこっちから来たはずなのに……?」
息も絶え絶えになりながら、七瀬は不思議に思い、首を傾げた。
「カエサナイヨ」
ふと、小さな女の子の声が聞こえる。機械じみた喋り方だった。
「えっ……?」
その瞬間、気付けば七瀬は、見知らぬ教室に佇んでいた。先程まで、廊下にいたはずなのに。
「ツギハ、オネエチャンノバン」
再び機械じみた少女の声が聞こえる。七瀬が顔を上げると。
首のない、血で汚れた服に身を包んだ者の姿が、くっきりと七瀬の瞳に映りこんでいた。
宙にふわふわと浮かぶその者を見て、七瀬は後ずさる。
「あ……ああ……あなたは……」
その者が、機械じみた喋り方で七瀬に告げる。
「オネエチャンタチ、ユルサナイ。 ダカラダカラダカラ」
壊れたラジオのように、同じ言葉を言い続ける。そして。
「シンジャエ」
そういった瞬間、辺りの机や椅子が一斉に飛び始め、七瀬に向かって飛んできた。
咄嗟に目を瞑った。ここで自分は死ぬのだと。そう確信した瞬間だった。
誰かが走ってくる音、ロッカーから何かを出した音が聞こえた。
ガキンッと鈍い音と共に、薄く目を開けるとそこには、先程の少年がモップを盾にして立っていたのだ。
「あ……あなたは……除霊してくれた……!!」
どうして助けてくれたのだろう。七瀬は質問してみる。
「どうして?」
「別に君を助けに来たわけじゃないよ……ただ、この霊を放っておくわけにはいかないんでね」
除霊してくれた少年は、霊を見据える。
「オニイチャン、カンケイナイ、ジャマ、ドイテ」
「はは……そうしたいのは山々なんだけど、生憎それはできないな」
少年は霊に対して、笑って見せた。
――――――――――――
ひとまず、錦織さんをどうにかしないと。
そう思い、オレは簡易結界を錦織さんに貼る。
「これは?」
七瀬が不思議そうに、貼られた結界を見つめる。
「結界。全て防ぎきれるかは分からないけど……ないよりはね」
そう言ってオレは、錦織さんにある事実を伝える。
「君さ、オレを霊能力者と思ってるみたいだけど、オレは"超能力者"だ」
錦織さんは、唖然としていた。
「ちょう……のう……りょく……?」
すぐには理解できないらしい。別に理解を求めていったわけでは、ないけれども。
「ドウシテドウシテドウシテ、ジャマヲスルノォォォォォ!!」
再び霊の猛攻撃をくらう。オレはそれに耐えつつ、霊に語りかける。
「君にこれ以上、誰かを傷つけてほしくないからだ!!」
霊はオレの言葉を拒絶する。「イヤダイヤダ」と繰り返す。
これ以上は埒が明かない。そこで、オレはある提案をした。
「寂しいなら、オレを殺して連れて逝けばいい」
霊に首がないため表情は分からないが、それでも驚いていることは伝わってきた。
錦織さんもその言葉に驚いたらしく、身を乗り出してきた。
「えっ!? あの……!?」
オレは構うことなく、霊にコツコツと近寄る。霊もそれに対し、オレへと近寄ってきた。
「起きてしまって……そしたら一人ぼっちで、寂しかったよな。 安易に起こされて、怒るのは当然だと思う」
オレは続ける。
「オレが代わりに一緒に逝くからさ。 だからこの子達のこと、許してやってくれよ。 な?」
頼むよ。オレは霊に対して、笑って見せた。
その言葉に少女の霊の心が揺らいだのが分かった。
「オニイ……チャン……」
少しだけ霊の殺気が消えたのを感じ取る。もちろん、言った言葉はすべて本当にするつもりで伝えたことだった。
――――――――――――
少年の言葉に、七瀬は戸惑いを隠せなかった。
違うのに……!! 全部私がいけないのに!! だってあの時。
「もちろん七瀬も来るよね? 私たち、友達でしょ?」
そう言われ、何も言い返せなかった。 やっちゃいけないことだって、分かっていたのに。
ハブられるのが怖くて、何も言えなかった。
「待ってぇ!!」
七瀬は声を荒げる。 光太郎も霊も、突然のことに驚いているようだった。
「その人は関係ないの!! 私が……断る勇気がなかったせいで……!! だから、連れて逝くのなら私にして!!」
自分の弱さのせいで、招いてしまったことだ。少年は関係ない。
罰を受けなくては。七瀬の決死の覚悟だった。
―――――――――――
錦織さんのまさかの言葉に、オレは驚きを隠せないでいた。
正直、自分勝手な子だと認識していたからだ。 なのに、違った。
この子は自分がしてしまったことの重大さに、気付いていたんだ。
そこでタタタと走る音が聞こえる。どうやら間に合ったみたいだ。
「光太郎!! 例のもん、見つかったぞ!!」
岸は丸い包みを、「探しもんだ」と光太郎に渡した。
「それは、一体……?」
錦織さんは首を傾げる。そこで代わりに岸が説明してくれた。
「オレのは視えないが、そこにいる霊の"首"だ」
「あっ……そうなんですか……って、え!? 首!?」
四年前の出来事だ。当時まだ七歳だった少女が、バラバラ死体となって発見された事件があった。
他の部位は見つかった。 だが、一つだけ……頭部がどこにも見つからなかったのだ。
オレは霊に包みを掲げて、微笑んだ。
「これ、ずっと探していたんだろう?」
「ア……アア……ア」
少女の霊がパアアっと光りだす。失っていた頭部が露わになる。
「私の……顔……!!」
ずっとずっと探していた顔が、戻ってきたのだ。
少女の霊が、錦織さんに近寄る。
「ごめんなさい、本当はお姉ちゃんはいい人って、私知っていたの」
霊は錦織さんに、事実を述べていく。
「お姉ちゃんだけが、写真を撮ることに反対してくれた。 でも自分をコントロールすることができなかった」
だからごめんなさいと。少女の霊は、深く頭を下げた。
「それからお兄ちゃん達、私の首を見つけてくれて、ありがとう」
少女の霊は微笑む。 これでようやく眠れる……。
感謝の言葉を残し、少女の霊は静かに、溶けるように消えていった。
「……おやすみ」
――――――――――――――
「本当にありがとうございました!!」
錦織さんは深々と頭を下げる。
「言ったはずだよ。 オレは"あくまで自分のため"だって」
きょとんとする錦織さん。 そしてすぐにっこり笑って、こう告げた。
「はい! そうでしたんね!」
オレもつられて笑ってしまう。つくづく不思議な子だなと思う。
「そういえば」と錦織さんは考え込みながら、オレに訪ねてきた。
「超能力者って……何なんですか?」
オレもすべてを知っているわけでは、実はなかったりする。 ただ。
「とにかく"何でもできます"。 まあ、こんな力、気持ち悪いで―――」
そう言いかけた、次の瞬間。 思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「素敵な力ですね! ……少なくとも、私はそう思いますよ」
その言葉にオレはびっくりしていた。 気持ち悪い。 そう、言われるものだとばかり思っていたから。
今までこの力を使って気味悪がらなかった人は、岸とあともう一人くらいなものだった。
「それでは私は、友達のお見舞いがあるのでこれで失礼します!」
錦織さんはそう笑みを浮かべながら言って、その場を後にした。
「なあ、岸。 ありがとうって言われるのも……悪くないかもしれない」
「そう……だな」
――――――――――――――
数日後。 今日は日曜日。
ゆっくり寝ていられると、布団の中で微睡んでいたところ。
ブーッブーッと携帯の着信バイブ音が、部屋に響き渡る。
オレは仕方なく、もそもそと携帯に手を伸ばし、電話に出た。
「はい……」
『よう、その様子じゃ寝ていたな?』
「うん。 今まさに」
今日は日曜日だぞと、オレはぶつぶつ文句を岸に垂れる。
そして何故か岸から、部活に入ってないか聞かれた。
入るわけないだろう、このオレが! そう答えると岸から訳の分からない返答が来た。
「じゃあ明日から、お前部活な?」
意味が分からない。 理解が追い付かず唖然としているオレに、岸は更に追い打ちをかける。
『お前、何でもできるだろ? だから相談部みたいな感じで。 そんで、お前部長な』
「は……? え……? は……!?」
「ハイ決定、じゃ明日から活動、開始!!」
岸は何故かハイテンションでそう告げる。 本当に意味が分からない。
「ちょっと待て!? オレの意思は!? やるなんて一言も……!!」
「お前の意思とか、関係ないし?」
「ちょっと待てって!! お……」
そこでプツッと電話は、無情にも切れてしまう。
「おいぃいいいいいいい!! 岸ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
それはあまりにも残酷で、非道で。 誰かに助けを求めることもできず。
心を閉ざすには、十分すぎる理由だった―――……。
引きこもりの主人公が、今後どのように事件に巻き込まれ、どのような運命を辿っていくのか、次回もお楽しみください。