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現状説明

「苦しくないですか?」


「大丈夫です」


他愛もない会話に幸せを感じる。


「いつもそう言いますね」


彼女の声は甘い。

僕は小さい頃から人の声が好きだった。

声というのは注意深く聞くと、子供よりも大人の声の方が個性がある。

演じている声もそう。

小さい頃から、子供向けアニメよりも洋画の吹き替えとかの方が好きだった。

他人の声は僕がこの世界に独りではないと教えてくれた。

だから、聞こえてくるだけでよかった。


「また、考え事ですか?」


「すみません。何か話してましたか?」


「いえ、特には。無視されるのにも馴れましたし」


そういって、無邪気に笑う。

口数が少なく、明らかにネクラな僕にも彼女はそういう風に接してくれた。


「なにか飲みますか?」


「紅茶で…あと砂糖を…」


「いつもの…ですね」


「…はい」


髪を切ったあとは、お茶を飲むのが常だ。

そして、お互いの近況報告をする。

世にいう声オタであった僕の話は、界隈にいない彼女には珍しいらしく、いつも真剣に耳を傾けてくれた。


「あ、それ。私もわかるなぁ」


そしていつも、共感を示してくれる。

あの甘い声で…

有り体に言えば、僕は彼女が好きなのだ。

それまで気にしたこともなかった髪型を整えるのに、月に一回床屋に通うほどには。

今思えば、少し露骨だったのかもしれないけど…


「すみません…話ながらで片付けしても?」


「…あぁ、邪魔ならおいとましますけど」


「いえ、今日これで終わりだったので…気にしないでください」

「ゆっくりしていってください」


彼女はそう言い残し、奥の部屋へと消えていった。

一人になり、思考が戻ってくる。

そして自分に言い聞かせる。


"決して彼女には告白しない"


告白とはもちろん、お付き合いを始める前にするものである。

世間一般の男性と違って、彼女はほしいし異性に興味もある。

将来的には結婚もしたいし、子供もほしい。

だからこそ、好きではない相手を選ぶ。

僕は天使(ヒト)が人であることをしっている。


「今日も暑いですね」


「そうですね」


頷きながら外を見ると、どこまでも青い空が永遠に広がる。

少なからず汗をかいた髪を触らせることが、とても嫌だった。


「何のしがらみもなく、生きていけたらいいんですけどね」


そんな彼女の一言から想像を膨らませてしまう。


………

……

…


彼女は少し前に独立したばかりの理容師だ。

前の店に通っていた頃に髪を切ってもらったことはないけれど、その店は閉じてしまった。

その頃に僕を担当してくれていたのはもう老齢の女性で、もしかしたら引退したのかもしれない。

店を閉じるということで、後継ともいえるここを勧められた。

どうやら引き継ぎもしていたらしい。

説明することもなく、彼女は僕のことを知っていた。


「はじめまして…ですね。」


「あの…仙里さんの紹介なんですけど…」


「知っていますよ…小さな頃から」


そう言って笑った。


………

……

…


彼女の年は知らないけれど、親につれられてあの床屋に通い始めたときから、彼女はいた。


「あれから…もう何年ですか?」


「10年くらい?」


「そんなになるかぁ」


「あんまり言わないでください。歳がばれるから」


「そういえば、歳はいくつなんですか?」


「秘密です」


僕は在宅ワーカーになり、ある程度、時間に自由があった。


「今日はこの辺で暇しますね」


「はい。またお待ちしています」







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