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第九十七話 茶碗蒸し。


 買い物を済ませて宿へ戻ると、既に入れ違いでアリスが戻ってきていた。


「あれ、アリス帰ってたの?」


「ん」


「何してきたの?」


「イカ見てきた」


「イカってクラーケン? どうだった?」


 アリス情報だと腐るほどいるらしいけど……。ギルドの掲示板にもずっと貼ってあるところを見ると今も沢山蔓延ってるのだろう。


「うじゃうじゃ」


 頰を緩めてヨダレを垂らしながら何かを思い浮かべてニヤニヤするアリス。


「討伐しないとね」


「もち」


 でも今日と明日は別の料理だ。もう予定が決まってるのです。買い物に行ってる間に色々と考えて決まってしまったし、イカはその後でもいいだろう。


「あとこれ」


 建物の陰から昨日の洗濯カゴに山ほど積まれたツブを持ってきて、目の前に差し出す。

 アリスの凄いドヤ顔が輝いている。本当に表情豊かになったものだ。口調は未だに少ないが。


「うお、これ全部ツブ?」


「ん」


 ちょうど使いたかったからありがたい。こっそり使っちゃおう。


「後で食べよっか。その前にアリスもっかい昨日のテングサ洗って干してくれない?」


「また?」


「何回もやらないといけないんだよ。白くなるまで」


「ん」


「頼んだよ」


 その間に茶碗蒸しを作ってしまおう。

 まずは鰹節と煮干しで出汁をとって冷ましておく。海老とツブは殻から外して一口大に切って、鳥肉とキノコも同じ大きさに揃える。

 野菜がないのはバランスが悪いな……。人参の葉っぱでも千切って入れておくか。


「後は出汁と溶き卵を混ぜてっと。容器に具材を入れて静かに注いでいけば……。後は蒸すだけ」


 安定の竹の容器に入れた茶碗蒸しを鍋にセットする。

 最後に雲丹をふんだんに入れ、蓋をしてスが入らないように蒸していく。


「次は明日の用意しちゃうか」


 アリスはまだテングサをゴシゴシとしているみたいなので完成まで下ごしらえを進めることにした。

 大根と人参の皮をむいて乱切りに。買ってきた貝は海水につけて砂抜き。

 昨日採ったワカメを茎から外しててきとうな大きさにカットしていく。


「このワカメ茶碗蒸しにも入れればよかったかも」


 歯ごたえがしっかりしていて凄い美味しい。今度作るときはちゃんと入れてみよう。

 具材はこんなものか。ちょっと少ないかな? 玉ねぎも追加しておこう。


「おわた」


 テングサを干し終わったアリスがこちらへ戻ってきた。まだ作業終わってないのに……。

 まぁ、ちょうど茶碗蒸しもできる頃だし休憩としますか。


「おつかれ。ありがとね」


「ん」


「ツブ焼く?」


「ん」


 当然のことを聞いてしまった。食べるためにあんなに大量に採ってきたんですよね。アリスさん。

 というかいつも『ん』ばっかなのによく聞き分けできてると思う。アリスマイスター1級の資格を頂きたい。

 そんなふざけたことを言ってる間に茶碗蒸しが完成したので火から下ろして、代わりに網を乗せてツブを所狭しと並べて焼いていく。


「焼けたら自由に食べてね」


 アリスに串を渡してツブを任せ、茶碗蒸しの様子をみてみる。串を刺して火が通っているか確認。

 うん。大丈夫そうだ。2つだけ残して後は閉まっておこう。これでいつ食べても出来立てホヤホヤが食べられる。


「アリスー。これ食べる?」


「ん」


「熱いから気をつけてね」


 スプーンと一緒に熱々の茶碗蒸しをアリスに渡す。ツブに気を取られてうわの空みたいだけど、火傷しても知らないぞ。

 アリスはともかく今は茶碗蒸しの味が気になる。

 熱々の茶碗蒸しをスプーンで掬って口へ運ぶ。出汁が効いていて美味しい。海老や貝も入っているので凄い旨味が凝縮されてる。


「熱っ」


「熱いって言ったじゃん。大丈夫?」


「ん……」


 井戸から水を汲んでアリスに渡してあげる。よほど熱かったのか一気に飲み干しておかわりを要求された。

 もう井戸に直接飲みに言った方が早いんじゃない? アリスなら全部飲み干しちゃいそうだけど。


「ゆっくり食べなよ。誰も取らないから」


「ん」


 ちゃんと学んだのかスプーンで掬って、湯気が出る茶碗蒸しを小さな口でふぅふぅ。と冷ましてから口に運ぶ。

 これは可愛い。最近アリスが人間味が増してローゼよりアリス派になってきた。ロリコンではないけど、ばいばいローゼ。


「ローゼ元気かな」


「そろそろ来そう」


「いくらなんでもそれはないでしょ。……ないよね?」


 流石にこんな遠くまで単独で乗り出しはしないでしょ。ニズリさんが止めるはずだし。


「おいし」


「あ、そう? それは良かった。結構うまくいったと思うんだよね」


 アリスはいつも通りローゼよりも食べ物が大事みたいだ。

 焼けたツブを食べながらのんびりと会話を楽しむ。


「アリス明日はどうするの?」


「特に」


「ならちょっと手伝って欲しいんだけどいいかな」


「潜る?」


「いや、海藻は明後日くらいに取ろうかなって。明日は昨日の浜辺でご飯作ろうと思ってるんだけど」


「わざわざ?」


「ちょっとね。まぁついでに昆布とか取ればいいかなって」


「そ」


 大丈夫らしい。ってもアリスにしてもらうことは特にないんだけどね。

 明日は今日見かけた子供達にご飯作ろうかなって思ってる。別にその子達だけじゃなくて遊んでる子供とか思って周りの大人とかにもね。


「まぁ、仲良くしてやってよ」


「?」


 何のことかさっぱりわからないうちのアリスちゃんはツブを頬張りながら不思議そうな顔をしていた。



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