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第九十話 世間話。


「海で泳いでたんですか?」


 ちょうどタイミングよく、通りすがりの人に話しかけられる。

 釣りとかしてる時に話しかけてくる近所のおじいちゃんおばあちゃんだ。こっちにもいるんだなぁ。別に嫌ってわけじゃないけど意外だ。


「はい。ちょっと運動と海藻を取りに」


「海藻? 海に生えてる草のことかい?」


「そうですよ」


「あんなの何に使うんだい?」


「食べるんですよ。といってもなかなか信じてもらえないと思いますけどね……」


 習慣のない食文化は否定されるのが常だし。

 俺だって芋虫食べるって言われたら引くもん……。だから別に変な目でみられても気にしてはいけない。

 どうせ美味しいものを作って広めるんだから偏見の目を向けてた奴だってどうせ食べるんだ!

 とまぁ根拠のない自信を胸の内で展開させたところで通りすがりのおっちゃんは予想とは離れた反応を繰り出してきた。


「へぇ。どんなのを採ってきたんですか」


「これとかですね」


 まさかの食いつきに戸惑いながらアイテムボックスからこっそりと取り出して目の前に晒す。

 といっても明らかに大きいから不自然なんだけどね……。


「よくたくさん生えてるやつだ。美味しいの?」


「好みはありますけどね。俺は好きですよ」


「そちらのお嬢さんも好きなのかな?」


「……ん」


 いつも通り安定の人見知りを拗らせて背中に隠れるアリスことお嬢さん。

 この幼女が恥ずかしがって隠れるのってロリコンからしたら需要高そうだよね?

 ほらアリス可愛いしさ。いやけっしてロリコンじゃないですよ?


「可愛いお嬢さんだね」


「自慢の子です」


 痛い。なぜか後ろからアリスに背中を抓られた。なんもおかしなこと言ってないのに……。


「違う……」


 後ろで俺にしか聞こえない声でぼそりと呟く。

 なんだその微妙なプライドは。


「ははは。仲がいいね。もう1ついいかな? 暇なおじさんの質問に付き合ってもらっても」


「どうぞ」


 そこまで急いでるわけでもないし、知らな人との会話は旅の醍醐味だしね。


「その黒いとげとげは?」


「そーですね。これはマキビシにでも……」


「マキビシ?」


「ええ、こう床に撒いて踏んだらとげとげなので痛いでしょう? なのでそうやって追っ手を……」


 ついふざけてしまった。マキビシなんかに使うために持ってたらまず自分が生臭くなってしまう。


「なるほど……」


 普通に納得してしまった。まぁいいか。面倒だし。美味しいもの取られたら食べる量が減るもんね。せこい考えだけど。


「まぁ、誰にも追われてないんですけどね」


「お兄さんは面白い人ですな」


 くすりと笑って少し先の、海に突き出している地形の方を指差しこう教えてくれた。


「あそこの場所の真下にそのマキビシになるとげとげがしたくさんありますよ? 好きなだけ取っていって追っ手からうまく逃げてくださいな」


「まじですか」


「みんなあそこに捨てて行きますからね。みんな海の何かから逃げているんでしょうな」


 笑いながらそのまま何処かへ行ってしまった。

 もしかしなくてもマキビシのくだりで馬鹿にされた? 忍者を知らないとこうなってしまうのか……。辛い世界だ。


「着替えちゃった」


 パーカーの裾をつまみアピールを始めるアリス。

 分かってますよ。回収しにいけばいいんでしょう。どうせほぼ自分のためたからね。


 言われたところに移動し海を覗いてみるとおっさんのいうとおり、海底が真っ暗だ。


「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」


「?」


「いや気にしないで、言いたくなっただけだから」


 この言葉って元々は哲学者の言葉な筈なのになぜか厨二感が漂ってきてしょうがない。

 深淵ってだけでももう厨二心がくすぐられるんじゃないかな?


「ユウタたまに変」


「傷つくからやめて」


 俺らの中では1番まともな筈なのに……。


「まぁいいや。とりあえず取ってくるから待ってて」


「ん」


 火の近くでぬくぬくと丸まって暖をとるアリスを置いてマキビシ集めのためにもう1度海に入る。

 シュノーケルをつけて軍手をし、仕舞えないので入れ物として洗濯カゴをもって回収にあたる。

 それにしても凄い量だな……。密猟者が見たら発狂して喜びそうな量だぞ?

 取りすぎてもあれなので籠を山盛りに埋めて終了にしよう。これでも凄い量になるけどね。中身はともかく。


 アリスの元へ戻って海水を洗い流し着替える。

 火を消して帰って作業をしようか。


「これ持つのも一苦労だ……」


 洗濯カゴに山積みになってるからではなく側面の穴という穴からトゲトゲが飛び出ているのだ。そのせいで抱えるのも難しい。


「かして」


 そう言ってカゴを奪い取って頭に乗っけて悠々と歩き出す。

 ……。何もいうまい。アリスの半分ぐらいのカゴを何の苦もなくインド人みたいに運べるのはアリスにとっては当たり前なのだ、そうだ。うん。


「ありがと」


「ん」


 少して照れ臭そうに顔を背け、早足で先を歩いて言ってしまった。

 思春期の女の子か。お父さんは嬉しいぞ……。

 なんて冗談は置いておいてアリスの後を追って宿に戻ることにした。



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