第八十九話 とげとげ。
「よし、それじゃ一回帰ろうか」
海藻を探して海を探索して回った。
ここら辺はテングサばっかりで目新しいものは見つからなかったね。
よく考えると昆布とか陸に近いところに生えてない? ひじきとかも……。
こんなことになるなら生息地くらい勉強しておくべきだったな。
「まだたくさん」
海底を指差して首をかしげるアリス。
「これ以上採ると本当に絶滅しちゃいそうだからやめようね」
採りすぎはいけません。テングサが無くなって困るのは自分だし。
個人がトラック1台分採ったくらいで絶滅なんてしてたらとっくに消えてるだろうけど、ここら辺で採れなくなるのは困る。育つのにも時間はかかるし……。
養殖はともかく離れたところにてきとうに捨てて繁殖してくれないかなぁ。
陸に向かって戻っていく途中で足に激痛が走った。
「痛っ……」
ガラスかなんか踏んだかな? この世界にガラスは存在してないか……。なら貝殻とか?
気になって見てみると黒くて丸い物体がころりと転がっていた。
なるほど。あんなもの踏んだらそりゃ痛い。今度サンダルでも作ってもらおうかな。
それを拾い上げて指でつまんだまま海から上がる。
「なにそれ」
「さっき踏んだ奴。未だに痛い」
アリスはそれを聞いて指で突いてくる。
あ、そんなことしたら……。
「痛い……」
涙目になって刺さった指を咥える。
好奇心は時に
「痛いっていったじゃん。なにやってんのさ……」
「これ嫌い……」
「いいじゃんこれ」
「どこが?」
恨めしそうにこちらを見ながら眉を顰める。
自業自得なのに……。ていうか踏んだ身になって欲しいね。比じゃなくらい痛いんだよ?
「れっきとした食べ物だよ。俺の知ってるやつならだけども……」
「棘食べる?」
「割ってたべるんだよ」
流石に殻を食べるほど口内と胃腸は発達してない。
なんで1個だけここに落ちてたんだろう。レアだな。
踏んだ痛みよりも発見できた喜びの方が大きい。発見というよりも遭遇? かもしれないけど。
「一応高級食材な部類だよ。あっちではね」
殻を破るとオレンジ色の身が姿を現す、自然の宝箱だ。
大袈裟に言ってるけどただの雲丹です。
「食べれるの?」
「後で見せてあげるよ」
今日は庭をちょっと借りて作業がしたいしちょうどいいかも。1個しかないのが寂しいけど。
海から上がって砂浜に火を熾し、頭から水を被り海水を洗い流す。
アリスにも水をかけてあげて、着替えとタオルを用意してあげる。
「そーいえば雲丹は仕舞えないんだよなぁ……」
生きているからなんだろうけど、ワカメとか海藻は根と離してしまった時点で仕舞えるのに……。
まさか死ぬまで待つしかないのか? 鮮度が落ちちゃってるんだけどなぁ。
「不便」
「全くだね」
アリスも着替え終わったみたいだし、とっとと着替えてテングサの処理をしに戻ろう。