第八十七話 海藻漁。
「海? ですか?」
「はい」
「それならそこら中にあると思いますけど……」
次の日の朝、宿の人に海水浴ができそうな場所を聞いてみた。
「そーなんですけど……。例えば砂浜とか岩浜とかが無いかなと。みんなが遊ぶ様なところですよ」
「それでしたら少し外れたところに大きな砂浜がございますよ」
「何処らへんですかね?」
「ここを出て大通りを抜けてそのまま……」
聞いた限りだとそんなに遠くはなさそうだ。お礼を言って宿を後にし、教えてもらった場所へと歩き出す。
「今日はとりあえず海藻系を探そうと思うんだけど藻場を探さないと」
近くにあればいいけど沖の方になるとちょっと怖いな。そんなに泳ぎ得意じゃないし。
砂浜に着くと子供たちが水辺で遊んでいた。保護者同伴なしってちょっと怖くない?大丈夫なのかな。
別に泳いでるわけじゃないしいいか。砂で泥遊びしてるよ。可愛いね。
「アリスも混ざってきたら?」
「子供」
フッと、遊んでいる子供たちを横目に鼻で笑うアリス。
アリスも十分ぴったりだと思うけどなんだその上から目線はどこから来るんだ……。
「まぁいいや、早速取りに行こうか」
「ん」
水着に着替えて屈伸したりアキレス腱を伸ばして準備運動を済ませる。
「アリスはどうやって潜るの?」
「このまま」
「服のままでの大丈夫?」
「問題ない」
着衣泳って結構難しいよね? 小学生の頃にやったけど気持ち悪いし最悪だった。
洗うのがめんどくいのでパーカーだけはアリスからはぎとってアイテムボックスに仕舞い、代わりにシュノーケルを取り出して装備する。
「うー……。えっち」
「誰が洗うと思ってんだ」
パーカー許されるのは水着の上に可愛い子が羽織る時だけだよ。
アリスも可愛けどね。
「なにそれ」
頭につけたシュノーケルを珍しそうに見つめながら聞いてくる。
「これは意味に潜る時御用達のアイテムだよを海の中を見ながらこの棒で息ができる」
「……必要?」
「普通の人間はこれが無いと辛いんだよ。探すスピードが違うよ」
昔はシュノーケルってつけて潜ればずっと息ができると思ってた。棒を出さなくてもずっと息できるなんてやばい! って使ってみて、もちろんそんなはずもなく溺れました。
あの棒で息を循環してるんだと思ってたのかな……?
準備も出来たので海に入ろう。冷たくないといいけど……。
「意外と冷たくないや。これならたくさん探せそうだ」
「ん」
肩の深さまで進んでそのまま泳ぎながら沖に向かう。
少し進むと岩場地帯が広がっている所に着いた。海藻はこういう岩にたくさん付いているはずだからここで当たりかな?
「アリスり多分ここにたくさんあると思うよ。とりあえず探してみるから待ってて。集めるものまだわからないでしょ」
「わかた」
シュノーケルを口に咥えて体を横へ真っ直ぐ伸ばし、勢いよく上半身を折り曲げて水中に潜る。
足のつけるフィンがないのでちょっとめんどくさいけど潜れないことはない。
岩場までたどり着くとそこには大小様々な魚の群れが泳いでいて、海藻類も海の流れに身を任せて揺られている。
よくテレビで見るような綺麗な海のワンシーンっぽい。語彙力がないのでこれ以上は表現できないや。
まぁなんにせよ当たりっぽいね。少なくとも見た感じワカメが嫌という程生えてるしこれだけでも十分な成果だ。
ひとまず、ほかの目当ての物を探すために岩に近づく。赤い枝分かれした紅葉のような海藻を探す。
見つけた、これこれ。とりあえず1つ千切って酸素を求めてアリスの元へと戻る。
「ただいま」
「それをいうならおかえりでしょ」
「おかえり」
ぷかぷかと1人、水面に浮かんで揺られているアリス。すごい寛いでる。
「なにしてるの?」
「疲れるからゆったりしてた」
「なるほど」
確かにずっと足をパタパタさせてたら疲れるし、攣りそうだよね。気をつけないと。
髪の毛をテングサみたいにゆらゆらと広げているアリスに先程採ったテングサを渡す。
「とりあえずこれを集めようと思うんだけど」
「なにこれ?」
「テングサって言って物をゲル状とかにできるアイテム」
「ゲル状……?」
「簡単にいうとお菓子の作れる範囲が広がります」
「頑張るっ」
目を輝かせて浮かんだ状態のまま頭の方から水中に沈んで消えていってしまった。
なんだその技術……。





