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第六十二話 魚醤とタコ。


「誰か来る」


「誰? ローゼかな」


「わからない」


 来るのがわかるだけでも十分凄い。アリスは本当に野生児みたいだ。

 つい先日までそうだったんだけどね。


「暇だし見て来るよ」


「ん」


 家でアリスとゴロゴロしてただけだから誰か来るならいい暇潰しになりそうだ。

 扉をあけて外を見ると大きな箱を手にキースさんがこちらに歩いてくるのが見えた。

 たこ焼きのプレートもう出来たのかな?

 まだ早いと思うけど……。


「ユウタさんお久しぶりですー」


「キースさん。お久しぶりです今日はどうされましたか?」


「前に頼まれていたタコを持ってきたんです」


「あ、もう持ってきてくれたんですか?」


「はい。取ろうと思えばいくらでも取れると言ってましたよ? とりあえず50匹ですけど足りますか?」


「十分すぎます。それでおいくらでしたか?」


「青銅貨5枚ですって」


「え? そんなに安いんですか?」


「相場なんてわからないからてきとうだって言ってました」


 そんなんでいいのか……。こっちとしては助かるありがたいんだけども。


「わかりました。お礼言っておいてください。キースさんもありがとうございます」


 キースさんに代金の青銅貨を払う。


「ありがとうございます。伝えときます。それじゃ仕事なのでもう戻りますねまた休みの日に何か持ってきますよ」


「戻られるんですか。残念ですね……。お待ちしてますよ!」


 せっかく暇潰せると思ったのに。


「それじゃあまた」


 行ってしまった。

 貰ったタコを持って家に戻る。


「誰だた?」


「キースさんだよ。わざわざタコ持ってきてくれたんだって。もう帰ったけどね」


「そ」


 聞いといてその反応は寂しい。

 せっかく持ってきてくれたんだしもう茹でて用意しておこうかな?アイテムボックスに仕舞えばいつでも出来立てだしね。

 タコを茹でるために鍋でお湯を沸かす。


「そうだ。ラーメン用の焼豚とメンマも作っておきたかったんだった」


 肉と筍はあるから煮込むだけなんだけど。

 いかんせん醤油が切れてるんだ。魚醤でいいかな?

 魚醤焼豚。聞いたことないな……。気になるから作ってみよう。不味かったらローゼ行きだ。


「アリス。魚醤取り出してみるけどくる?」


「いく」


「って言ってもすぐそこなんだけどね」


 アリスと一緒に家を出て魚醤を埋めた穴へ向かう。

 乗せてある石を退けて板をずらす。

 この時点で魚醤の特有の匂いがしてくる。

 取り出して袋を外す。


「相変わらず臭ぇ……」


「死ぬ……」


 アリスも臭いがダメなようで袖を摘んで口と鼻を抑えている。

 萌え袖可愛い。けど臭いのせいでそれどころじゃない。

 とりあえず蓋を外してオタマで中身をかき混ぜて掬ってみる。

 結構ドロドロしてるけど色も茶色っぽくそれらしい感じになってる。


「これを濾したいんだけどどうしようか」


「いやだ」


 アリスはどうやら魚醤が嫌いらしい。

 これが醤油がわりになったら嫌でも毎日これを使った料理になるのだよ?

 今のうちに慣れとくべきです。


「てなわけで一緒にやるよ?」


「どんなわけ!!」


「細かことは気にしない気にしない」


「細かくない……」


 そんなに嫌なのか。


「これ無いと美味しいものがいつまでたっても完成しないんだけどこれが嫌いなら仕方ないね。もし出来たらアリスの分は抜いておくよ」


「むぅ……! 意地悪っ」


 袖を使ってぺちぺちと腰あたりを叩いてくる。

 アリスの力って強いから軽くでもちょっと痛いんですけど……。


「じゃあどうするの?」


「むー」


 アリスは腕を組んで唸りながら考えだす。

 考えてるというよりは葛藤してるのか?

 美味しいものと臭さの天秤はどちらに傾くのか。


「ユウタやってアリスが食べる。完璧」


「な訳あるか」


 おでこに軽くデコピンをかまして続ける。


「大人しくやればいいんだよ。どうせなんだかんだでやるんだから」


「仕方ない」


 やれやれ。正直じゃないんだからうちのアリスちゃんは。


「っても布で濾して一回加熱しておくだけなんだけどね」


「1人で……」


「こんな臭いのボッチでやだよ!」


「……」


「とっととやっちゃおか。このままでも臭いだけだから」


「んー」


 ボウルに布を乗せて魚醤を落とす。


「これを手で触りたくないな……」


 ちらりとアリスの方を見る。


「無理」


 ですよね。なんかいい方法ないかな。

 とりあえず四つ角を結んで吊るす。枝を2本拾って布を挟んでクルクルと回転させて絞る。


「案外上手くいくもんだ」


 枝を持って吊るした布を中心にずっと回ってるから側からみたら変人ぽい。

 しかも目も回るし。

 アリスを見ると目が死んでいた。

 そんなに臭いものでもないと思うけど……。

 作業してる方がもっと臭いのに甘えだ。


「よし終わり。これどうしようか」


 絞りかすの入った布の処理を考えなければ。


「埋める」


 そう言って一瞬で移動し、少し離れた場所の地面に5mほどの縦穴が出来た。

 アリスの本気が見れた気がした。そんなに嫌かこれ。

 確かに臭いからもしかしたら売れないかもなぁ……。大豆が欲しいです。切実に。


「それじゃあここに封印するか」


「永遠に」


 穴に布ごと放り投げてアリスが穴を埋める。

 布と魚だし分解されるよね?

 自然破壊じゃないことを祈ろう。


「さてと……。もうこれだけでやりきった感が凄いんだけど」


「焼豚メンマタコ」


「わかってるよ。ちゃんとやるって」


 家に戻って沸いているお湯にタコを突っ込む。

 茹で上がったら取り出して冷水に入れて冷ます。


「くるくる」


「タコの足って茹でるとくるくるになるの面白いよね」


「可愛い」


 可愛い……かな? 可愛さはわからないけど美味しさはわかる。

 足を一本切り取ってスライスしてアリスに渡す。


「食べたことないでしょ?」


「ん」


 我らがお嬢様のアリスの口に合うのかな?

 硬いというか弾力があって飲み込みづらいからちょっと好みが分かれる気もする。


「美味しい……けど硬い」


「それがいいんじゃないか?」


「柔らかくていい」


「なら今日のご飯はタコにしようか」


「ん」


 持ってきたキースさんには悪いけど1匹食べちゃいますか。

 心の中でキースさんに謝っておいた。



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