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第四十一話 キースの休日2。


「じゃあ刺身というのは?」


「これですよ」


  大皿に先程のタコが薄くスライスされて並べられている。火を通してる様にはみえないが、これも前の奴みたいに生で食べられるのか?


「生で食べるんですか?」


「そうですよ。これにつけて食べるんです」


 そう言って小皿に入ったら黒色の液体にタコをつけて食べ始めた。


「これは?」


「醤油と言ってこっちでは今んところないレア調味料ですよ。こっちは山葵と言って辛いので好みが分かれますけど。どっちもローゼには内緒でお願いしますね? バレたら貴重な食料がなくなっちゃいますから」


 笑いながらタコを食べるユウタさん。

 フォークに刺して醤油につけて口に運ぶ。

 かなり弾力があってなかなか小さくならない。噛んでも噛んでも残るな。でも味はすごく上手いぞ、あいつはこんないいものを海に戻してるのか。今度からは全部持ってきてもらおう。


「この醤油というのは独特な味ですね」


「魚にしてもタコにしても刺身で食べるなら必須ですよ」


 こうやって食べるために作られたものなのかな? 次は山葵という辛いらしいものも付けて食べてみる。


「辛い! ……げほげほっ」


「苦手でしたか。はい水ですよ」


 水を受け取って一気に流し込む。死ぬかと思った……。こんなに辛いとは、辛いを通し越して痛い。


「無理ですねこれは」


「山葵は大人になるにつれて食べれるようになるらしいですよ。歳をとると味覚が衰退していくので食べれるようになるとか」


 それじゃあ当分先のことだ。これが癖になる時が来るのだろうか、想像もできないな。

 山葵に苦悶しているとユウタさんはたこ焼きを木の細い串でくるくると回転し始めた。


「え?なにしてるんですかこれは」


「たこ焼きはこうして丸くして食べるんですよ。だからこうして丸い穴がは空いてるです。、よかったらやって見ますか?」


 まぁ回すくらいなら俺でもできるだろう。せっかくだし記念にやらせてもらおうかな。


「せっかくなんでやってみます」


「それじゃあ、この竹串でこう刺してクルンと」


 竹串? を受け取って言われた通りに刺して回転させてみるが長々上手く回らない。コツがあるのかな? 何回も試しているうちに段々とコツを掴んでクルクルと次々に回していく。


「上手いですね」


「これ結構楽しいですね」


「後は焼けるまでたまに回転させて待つだけです。その間に串焼きと刺身を食べちゃいましょう」


 このタコは刺身が凄く美味い。気付いたらもう無くなってしまった。次に串焼きを食べる。顔に近づけるとタコの焼けたあの独特な匂いが鼻を射す。匂いだけで口の中に唾液が出てきてしまう。

 くるりとカーブした先端に齧り付くとタコから旨味のエキスが溢れる。


「熱っ! これも美味いな……」


「いいタコですね。いままで誰も食べてこなかったからしっかり育ったんでしょうね」


「確かにこれは食べないと損ですね。今度ちゃんと伝えていつでも食べれるように売ってもらいたいですね」


 タコが美味いのかユウタさんの作り方が上手いのかは分からないが取り敢えずここに持ってきたのは正解だった。

 これはローゼ様が夢中になられるのも無理はない。

 焼き魚を食べながらたこ焼きが焼けるのを待つ。


「出来ましたよ。とりあえずまずはなにもつけないで食べてみてくださいよ」


 言われた通りにシンプルにそのまま齧り付く。街で売っている似たような食べ物とは全然違った。こっちを食べてしまったらもうあんなの食べられないくらい美味しい。

 もっちりしっとりした生地にネギとタコがアクセントになっていくらでも食べられそうだ。


「こんなに美味しいもの初めて食べたかも……」


「今度はこれとこれをかけて最後にこれで完成。はいどうぞ。こっちが完成形です」


 手渡されたそれは先程とは違う茶色のソースに最近見るようになったマヨネーズに茶色く薄いくねくねとした物に細かい青い粒が乗った凄く豪華なたこ焼きだった。


「凄い色々乗せましたね」


「全部ないと物足りないんですよねー」


 まぁ、取り敢えず食べてみれば分かる。

 一口食べると夢中になって気づいたら完食してしまった。本当にいくらでも食べられる気がしてきた……。


「今度よかったらこの作り方教えてください」


「そんなに気に入りましたか? 良かった。いいですけどこの鉄板がないと作れないですよ?」


「この鍋を作って貰うところから始めます」


 取り敢えず帰ったらそのまま鍛冶屋に直行だ。あの頑固オヤジを何とか説得して作ってもらわねば。


「そんなに好きですか……。出来たら教えてくださいね」


「はい。もちろん!」


 そんなやりとりを交わしてる間に次のたこ焼きを焼いていく。早く食べたいな。

 至福の休日を堪能していたが、その時間も終わりがきてしまう。


「はーい! 2人とも私が知らない美味しそうなものを食べてるね? 私にもちょーだい? あとこれお土産ね」


 3人になると食べられる分が減ってしまう……。そう悲しみにくれていると。


「今日は何持ってきたの?」


「しらなーい。街歩いてたら知らない人から貰ったヌメヌメしたやつ?」


 その言葉を聞いて一気に元気取り戻す。


「ローゼ様。一緒に食べましょう? このたこ焼きというのが凄いですよ!」


 ローゼ様に椅子の丸太を持ってきて焼けたばかりのたこ焼きを振る舞う。

 その様子を見てユウタさんは全てを察した様に笑った。どうやらお見通しのようだ。


「じゃ俺はこれ切って来るからキースさんそっちは任せましたよ」


「了解です」


「あれ? 君たちってそんなに仲よかったっけ?」


 ローゼ様が疑問を口にする。

 こんな美味しいものを作って貰えるならまだ2回目だがこれからもローゼ様みたいに休みの日は通うことになりそうだ。


「ユウタさんは美味しいものを作る天才ですからね」


「なにそれ答えになってないじゃん。まぁその通りだけどさ」


「ユウタさんがここに住んでくれて本当に良かったです」


 それから3人で暗くなるまでたこ焼きパーティーを楽しんだ。

 あといつの間にか刺身の痕跡だけがローゼ様がきた時にはさっぱりと消えていた。

 どんな手品なんだろうか。



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