第二話 情報収集へ。
俺の名前は小向祐太、18歳。日本の料理の専門学校に通う普通の学生だ。いや、だったと言うべきなのだろうか。
今日の朝まで学校にいたのだが気がついたら異世界に転移してしまったらしい。
帰れる保証がないからもう学生には戻れないかも知れない。
まぁ、帰る帰らないの前に無一文で生きていく方法を考えないといけないんだが。
状況の整理から始めるとするか。
まずは持ち物。
鞄に包丁ケースに携帯、財布。
勇者の剣とか魔法の杖なんていう便利なものが増えてたりはしないか……。
鞄の中身は教科書、筆記用具、携帯の充電器とエプロンとお菓子。
「ろくなもんがないな。せめてライターとかあればいいんだけど」
包丁ケースに入ってたっけ? 普段からケースに色々と調理用具を詰め込んでたから記憶が曖昧だ。
流石にこんな人通りのあるところで開けるのも憚られるので確認は後回しにしよう。
とりあえず身の回りの事はわかったので次はこの世界の事について調べたいのだが、完全に怪しい服装で話しかけてもまともに取り合ってもらえるとは思えない。
ぶつかってきたおっさんのお陰で言語が通じるのはわかったが、それ以外に今のところ収穫がない。
街の造りは異世界モノの定番で中世っぽい石造りの家や道路でみんなの服装地味な感じだ。
街を眺めていても何も解決しないのでなるべく目立たないように移動しながら話を聞いてくれそうな人を探す。
こういうのは子供の方が聞き出しやすいのか? 人にものを訪ねるのって苦手なんだけどなぁ。
少し歩くと開けた噴水のある広場のような場所に出た。
そこで遊んでいる3人組の子供に近づいて話を聞いてみる。
「ちょっといいかな?」
「だれ?」
「旅のものなんだけどちょっと聞きたいことがあるんだ」
それを聞いて子供達がヒソヒソと話し出す。
「ほんとうかな?」
「知らない人と話しちゃダメってお母さん言ってたよ?」
「変な服着てるよ?」
やはりうまくいかないか。どうにかして服を手に入れないとこのままでは詰んでしまう。
「大丈夫だよ。変な人じゃないから安心して。色々教えてくれたらお菓子もあげる」
鞄から飴を取り出して見せる。
「お菓子くれるならいーよ!」
ちょろかった。子供達はどの世界でもやっぱりお菓子の誘惑に勝てないのか。
「ありがとう。なら手を出してこれを口の中に入れて。無くなるまでコロコロ転がしてね。飲み込んだから危ないからちゃんと口の中に入れとくんだよ?」
個装された飴を袋から取り出して子供達の手に乗せていく。 この袋すらこっちの世界になさそうだからなるべく注意しておかないとあとあと面倒に巻き込まれるかも知れない。
「お人形さん? これ食べられるの?」
「綺麗な色だね!」
「いい匂いするよ」
子供達は見たこともないお菓子に夢中になってる。
「食べれるよ。ほらこうやって口の中に入れて溶けて無くなるまで味わうの」
手本として袋から取り出した飴を口の中に入れて舐める。
それを見た子供達も一斉に口に入れる。
「甘くて美味しい! でも食べたことない味だね」
この世界には葡萄がないのか。てことはワインが存在しないのか。料理するときどうしてるんだろう。
「美味しいなら良かった。これは葡萄味って言うんだけど葡萄食べたことないの?」
「葡萄なんて知らないなー」
こう言うことはやはり大人に聞かないといけないっぽい。子供でもわかるようなことを聞き出すとするか。