第一話 ようこそ異世界へ。
気がつくと喧騒の中にいた。
さっきまで学校にいたはずで、こんなところに来るような心当たりがない。
そんなことを考えていると、後ろから来た男に思いっきりぶつかりよろける。
「こんなところに突っ立ってんじゃねぇ! 危ねぇだろ!!」
「すいませっ……」
男は足を止めることなくこちらを罵倒すると、そのまま通り過ぎていく。
ひとまず通路の端に移動しながら辺りを見回すが、見たこともない場所だった。
見た感じ、露店が並ぶ商店街のようだが、明らかに現代の町並みと言えるようなものじゃなかった。
「夢か……?」
授業中に居眠りをしてしまったのだろうか。夢にしてはやけにリアルだなぁ。
自分の頬っぺたを思いっきりつねってみる。
「痛っ!?」
ちゃんと痛覚がある。夢じゃないのか?
「これはもしかして異世界転移とか言うやつ?」
ネット小説やラノベとかではよくこういう話を読んでたからこの状況は理解できるが、まさか現実に自分が巻き込まれるとは思わなかった。
でもこういうのって勇者の召喚とかで呼ばれてさ、チートスキルで無双してハーレムルート辿ってなんだかんだで幸せ。じゃないのかよ……。
着のみ着ままで異世界に放り出されるのはちょっとハードモードすぎないか?
「せめてどっかに召喚されてたらチートスキルとかなくても働かせて貰えたのに」
とりあえずこの服装は目立つ。
先程から珍しいものを見るような目に晒され続けて正直いい気分ではない。
そのうち衛兵とかにでも通報されて連れてかれるんじゃないか? そしたらここの領地のトップのところに行けるかもしれない。
そこで異世界から転移して来ましたって伝えて保護して貰えないだろうか?
世界の概念があればいいが、無ければ完全に見た目も頭のおかしいヤバいやつになってしまう。
そしたら普通に殺されそうだな。
この案は却下だ。
とは言ってもここの通貨なんて持ってないし、売れるような宝石なんてものも勿論ない。
「どうしたもんかね?」
そんなこんなで俺、小向祐太は異世界に転移した。