バッシュが好きだと叫びたい
結局練習では一本もシュートを決められなかった。
だが別に不安はない。本番で結果を出せばそれでいい。
「一回も成功してないくせに、清々しいな」
「バカよく考えろ、今成功させたら試合で決められないだろ? 確率の問題だよ」
「確率ゼロ%じゃん」
「は? ……いやお前、え? マジで? ……あっ。お、おおそうだよな。確率ゼロだわ、そうそう」
「えっゼロじゃねーの!?」
「さーてと、次はこいつを昼休みが終わるまでに仕上げないとな」
俺は将司の隣に腰を下ろし、体育館用のシューズを脱ぎ捨てた。
「それ、どうすんの?」
「バスケと言えば!」
シューズを持ち上げ将司の顔の前で小刻みに動かして見せるが、やはり察しの悪いこの男はまったくピンとこないらしい。
「音だよ、音。バッシュの裏が体育館の床と擦れて熱気を立てるときのキュキュ、キュキュッっていうあの音! あれがないバスケはもはやバスケとは呼べんだろう。が、ただの体育館シューズじゃどうにも物足りなくてな」
「昔っからすぐにアニメと漫画に影響されるし、変なところにこだわるよなぁ」
「というわけで工作室からニスを拝借してきた。もちろん本来の用途とは違うが、程よいベタつきでグリップ感をもたらしてくれること間違いなし!」
シューズを裏返し、ゴム面に刷毛でニスを塗りたくる。
「うっしできたー! 早速試すぜ」
俺は意気揚々とシューズに足を突っ込み走りだそうとするが、シューズはビクとも動かず体だけが前のめりになって危うく転ぶところだった。
「ん? んんっ!?」
「どした」
「うっ……動かん! シューズが床にへばりついとる!!」
「おいっ」
将司が刷毛の入った缶を手に取り、素っ頓狂な声を上げた。
「これ接着剤って書いてあるぞ」
「なん……だと……」
飛び上がるようにして脱いだシューズを両手で思いっきり引っ張る。しかし無情なるかな、シューズは体育館の床に完璧なまでの融合を果たしていた。
「どっ、どうする」
「とりあえず……それ貸せ」
もう片方のシューズの裏にも接着剤を塗り込み、一足先に体育館の一部と化していた片割れの横にそっと安置。
「片方だけよりも、ちゃんと揃っていたほうが違和感は少ない」
「こうして人は罪を重ねていくのかな……こうなったら、体育館シューズはだれかに貸してもらうしかねーか」
「だれかって……別にお前が貸してくれりゃそれでいいじゃん」
「俺のじゃサイズでかすぎるだろ。ピッタリのやつじゃないと、ただでさえ実力っていうハンデ背負ってんだからさ。高瀬さんにいいとこ見せるどころじゃなくなるぞ」
「……いーよ。お前が貸してくれないんならしゃーねえ……盗むわ。小学校の運動会で赤白帽忘れたとき以来の盗みを働く。お前のせいだぞ! せっかく足を洗った俺をまた悪の道に突き落としやがって!!!!」
「なんでそんな頑なに……あっ」
将司はようやく気づいたようで、バツが悪そうに顔を伏せる。
「そっか……いないのか、頼めそうなやつ」
「いなくはねーよ? ただ全員が俺と同じチームだから、俺が試合してるときはそいつらも試合してるっていう」
「分かった、俺が貸してやるから泣くなって」
「泣いてねーし!!!!!!!!」