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ブリーフィング

 よく晴れた日の昼下がり――学校は昼休みだ。

 バスケットボールを抱えた俺は、ゴールリングを見据えてふうっと息を吐いた。


「行くぜ……」


 ザっと身をかがめ切れ味鋭いドリブルでゴール下にカットイン。1、2の3で足を踏切り宙へ舞い上がり――


「置いてくるだけっ……」


 タンッと軽やかに着地し背中越しに振り向くと、サイドラインの外に座ってもぐもぐパンを食っている将司と目が合う。


「どうだ? ゴールまでの流れは完璧だろ?」

「まあ、イメージトレーニングとしては」


 将司が投げて寄こしたボールを受け取り、懐疑的な目で見つめる。ドリブルの最初の一歩目でボールは手からすっぽ抜けあらぬ方向へ飛んでいってしまった。

 俺は将司のそばまで移動し、再びリングに立ち向かう。

 ドリブル中のボールの予測不可能な動きを制御しようとすると今度は敵を抜き去るためのスピードが激減してしまう。


「なかなかどうして奥が深いな……エイッ」

「あのさぁ、さっきからなんでそればっか練習してんの?」

「よくぞ聞いてくれたっ」


 リングまで届きすらせず落ちてきたボールを拾い、ズカズカ将司に歩み寄る。

 床に置いたボールに座ってバスケ部感を演出するも、将司はパンで頬を膨らませたアホ面で見つめ返してくるばかり。

 張り合いのない奴だ。


「次の授業……五限目の体育は2クラス合同。男女それぞれチームに分かれバスケの試合を行う。保健委員という立場を利用し体育教師に接近した俺は他のだれよりも早くこの情報をつかみ、そして綿密な計画を練ってきた」

「計画?」

「そっちのクラスに高瀬明日菜っているだろ」

「高瀬……? いたっけなぁ……」

「おい長曾我部。お前のすぐ前の席に座ってるだろ。出席番号で並んでるんだから」

「あっ、あー!! あのちっちゃい女子か」

「こんなゴーレムに背後から威圧されて、高瀬さんもかわいそうに……とにかく、実は俺は授業のことに加えもう一つ超重要な機密情報をとある筋からゲットした」

「情報?」


 俺はズボンのポケットから一冊の手帳を取り出しパラパラとめくる。


「それは……」

「校内の一定レベル以上の容姿を持つ女子のプロフィール収集を目的とした、個人情報の塊……通称『メスノート』だ」

「まずはネーミングどうにかしような。更生の第一歩として」

「えーっと、高瀬明日菜……ほうほう? スリーサイズ上から84、61、82……」

「84! それってけっこう大きいんじゃ……」

「平均の約4センチ上をいってるな。とはいえ高瀬さんの体型を考慮すればバストだけが過剰に突出しているのは間違いない。いわゆる『ロり巨乳』というやつだ」

「そ、そっかぁ。背はすごい低いのになぁ」


 将司の目がいやらし気に細くなり、チラチラと物欲しそうな視線を手帳に向けてくる。


「なんだ? 君にはこんなもの不必要だろう?」

「いや、名前がどうかなってちょっと思っただけで……まあ言っても名前だって悪くないよな! メスって別に、生物学上の区別なんだし。うん、全然問題ない」

「部活動、調理部。趣味は好きなキャラクターのぬいぐるみ集め、得意料理は木の実とキャラメルのタルトフィーヌ特製濃厚ミルクのソルベオレンジ風味。性格は内気で恥ずかしがり屋、二人の距離が縮まるにつれて徐々に積極的になってくる過程を楽しみたいと俺は思う」

「ギャルゲーかよ」

「さあ、では超重要な情報とはいったいどれ?」

「え? えっと、趣味?」

「正解は……誕生日だ!」

「言ってないだろ! あれ、言ったっけ……?」

「高瀬さんの誕生日はな、なんと今日なんだよ!!」





「じゃあいったん通しでやってみっか」

「あ、ああ」


 ボールをいったんコートの中に置いておき、コートサイドの将司の隣に立つ。


「よーい、スタッ!」

「よ、よお高瀬。試合終わったの?」

「うん……負けちゃった。私運動苦手だから、みんなの足引っ張っちゃって……」

「そっか、それは残念だったな。でも運動神経は生まれつきのもんだし」

「はーあ。どうして運動音痴に生まれちゃったのかなぁ」

「そんなに落ち込むなよ。ほら、あいつ見てみ」


 俺はコートの中に入ってボールを拾い上げドリブルを始めるも、手からすっぽ抜けたボールは転々と後ろへ転がっていく。


「くそっ……!」と天を仰ぎながら将司の横に移動。

「あいつのほうが高瀬なんかよりもっと下手くそだしチームの足引っ張ってる」

「あれは……」

「毛利だよ」

「毛利くんも運動音痴なんだね」

「高瀬と同じでな。ただ一つ違うところがあるとしたら……諦めてないってとこかな」

「え?」

「それはそうと高瀬、俺誕生日占いが趣味でさ。高瀬のこと占ってやるよ。誕生日いつ?」

「あっ、実は今日なの!」

「ええっ、今日が誕生日!?」


 俺はコートの中へ。サイドライン際でパスを受けた刹那、驚いたような表情で将司のほうを振り向いた。しかしすぐさま意を決して前を向き、間合いを詰めてきた敵を流麗なドリブルでかわしシュートを放つ。

 ボールの行方を追う間もなく将司のもとへダッシュ。


「占いの結果は……『今日はあなたが生まれ変わる日。運命の人があなたにきっかけを与えてくれるでしょう。』」

「はあっ、はあっ、運動が得意かどうかを決めるのは神様だけど、はあっ、諦めないかどうかを決めるのは自分なんだ……そう、毛利くんに言われた気がした……はいっ。こんな感じでいこうと思うんだけどどうだ? はあ、はあっ……」

「無理だな」





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