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とらななちょころし!【声劇用】【舞台用】男1女1以上【連載中!!】  作者: 七菜かずは
第一章●再会と縁付け。君さえ居れば。
8/12

第六話【男2女2不問1~2:2】~その指に光る煌めきは、永遠に光るもの。~約45分

第六話


出演(MAX男2女2不問1~2:2)

虎越とらこし 辰哉たつや (26) ♂ :

宇佐美うさみ なな子 (24) ♀ :

丸山まるやま 慎二しんじ (24) ♂ :

柏木かしわぎ リナ (24) ♀ :

・ナレーション  (※なな子と虎越以外は掛け持ちが出来ます)  性別不問  :

・レストランの店員  (※リナさんが変装しています。兼ねて下さい):






役解説

虎越とらこし 辰哉たつや  (26)  ♂

 渋谷署の刑事。刑事課係長。ぶっきらぼうだけど優しくて、真面目で、心根は熱い人。ポーカーフェイス。クール。もう七年も彼女が居ないらしい。

 丸山親子のようにイタズラをしたり、人が嫌がるようなことはしない。システミカルアロペシア(全身脱毛症)。

 なな子のことは、自分が彼女に手錠を掛けた過去の逮捕歴のこともあり『教師と教え子』のようなものだと思っている。が、一緒に住むようになって彼女への意識も変わってしまった。

 身長177センチ。靴は27センチ。


宇佐美うさみ なな子  (24)  ♀

 ウエディングプランナー。本作ヒロイン。気弱でか細い女の子。照れ屋さん。虎越のことを幼少期から知っており、憧れを抱いている。

 気配りが出来て家事も出来る「お嫁さんにしたい」タイプ。すこし悲観的で臆病。自分の根本にあるネガティブさを隠す為にいつもポジティブ&笑顔でいることを強く心がけている。連絡がマメで、同性の友人が多い。人見知りしない。

 身長155センチ。靴は23センチ。


丸山まるやま 慎二しんじ  (24)  ♂

 渋谷署の若手刑事。虎越の後輩であり弟分。キャリア。犬っころみたいになつっこい。甘え上手。合コンばかり開いて遊び歩いているらしい。誰にでも優しくて明るい。家族や友人をとっても大切にする。 


柏木かしわぎ リナ (24) ♀ 

 独身。恋人なし。男に興味がない? 長身。美女。金髪ゆるふわ軽めロール。機械のように喋る時がある。事務的な感じ。本作ヒロインのなな子とは今の職場で出会い、仲良くなった。今までの人生、友人がほとんど居なかったが、最近ではなな子に誘われて女子会など開くことも多く。他人に心の壁を作りやすいリナも、なな子や秘書課の女の子たちには腹を割って物事を話すことも多い。警視庁警視総監の娘だという噂がある。色んな車を持っている。高校の時慎二と同級生だったが、会話をすることはあまりなかったらしい。最近再会した慎二と、お試しで週間恋人の契約を交わしている。






 ――再開幕。


ナレーション「自宅アパ-トが火事に遭い両手を火傷してしまった宇佐美うさみ なな子を、自宅マンションでかくまっていた、刑事の虎越とらこし 辰哉たつや。二人は、お互いの過去のしがらみにより、好意を寄せてはいけないとわかっていても、徐々に惹かれていました。微妙な距離を保っていた二人ですが、勇気を出して想いを伝えあい、これからも共同生活を続けて行くこととなったのです」


 お台場。


ナレーション「しかし、二人の共同生活も三週間を越えたある日の夜……。なな子の火傷を治療してくれていた、辰哉の幼馴染の神谷かみや 菜月なつきに偽造書類を渡され。なな子は、菜月に騙され、自分は殺人鬼の娘だと勘違いしてしまいます。なな子は、辰哉の弟分の丸山まるやま 慎二しんじの協力のもと、辰哉のマンションから出て。辰哉から離れようとしました」


ナレーション「なな子の暗い気分を変えてあげようと慎二が連れてきたのは、お台場のアウトレットショッピングモール。辰哉はそこへすぐに駆け付け、幻想的な噴水広場で二人きりに。再び、互いの想いを伝えあうのでした」


 ヴィーナスフォート、噴水広場。


なな子「ふぁ……。綺麗な噴水と……凄いライトアップですね……。すごい、なんていうか……豪華……」


虎越「……ここで、死んだんだ」


なな子「……え……?」


虎越「……オレの……」


なな子「お爺さんと、お婆さん……ですか」


虎越「うん」


なな子「……虎越さんがここに通っているのは……。お二人の気配を感じたいからですか?」


虎越「……どうだろうな……」


なな子「お話……聞かせて、貰えますか?」


虎越「……オレがトイレ行ってここに戻って来たら、婆ちゃんは爺ちゃんに寄り添ってて。二人とも、もう意識が無かった」


なな子「っ……。と、虎越さんは……」


虎越「死に場所を、選んだのかなって、思った」


なな子「っ……ここがもう、天国のような場所ですもんね……」


虎越「幸せだったのかな」


なな子「……きっとそうですよ。虎越さんがずっと一緒だったんですから」


虎越「……なな、これ……」


 ペアの腕時計を、ポケットから出して差し出す。


なな子「あっ……。時計……」


虎越「オレのこと、好きでも嫌いでもいいから。これだけは貰って欲しい……。な、無いと……困るだろ?」


なな子「っ……。すきです……」


虎越「……っ」


なな子「と、時計……。もう一度、つけて、いただけますか……?」


虎越「うん……」


 ななの左手に、腕時計をつけてあげる。


なな子「すみません……。ありがとうございますっ……。も、もう、置いて出掛けたりしませんっ……。に、二度とっ……!」


虎越「……壊れても?」


なな子「こっ壊れても!」


虎越「もし壊れたら修理出そうな」


なな子「っ、はいっ」


虎越「っ……」


 また、彼女を強く抱き締めて。


なな子「っ……」


虎越「……もう、どこにも行かないで欲しい……」


なな子「……虎越さん……」


虎越「……オレのこと、……っ、……そ、傍にいるのイヤなら……」


なな子「っ! ――……っ」


 辰哉にキスをする。


虎越「ん……っ!」


なな子「……っ……わ、わたし……っ。虎越さんと……っ……。もう、離れたくありません……っ!」


 じわじわと沸き起こる感情と一緒に。涙があふれてしまうなな。


虎越「っ……なな……」


なな子「っ……ごめんなさい……っ。か、勝手に出て行ったのにっ……!」


虎越「……ううん」


 繋いでいた手を引き寄せて。彼女の頭をぎゅっと抱き締める。


なな子「っ……私……っ……私……っ」


虎越「オレも一緒にいたいよ」


なな子「……虎越さん……っ」


 二人、笑いあって。もう一度口付けを交わす。


なな子「んっ……」

虎越「ん……」


 天井が星空に変わっていく。


なな子「……っ……。ここって本当に……きれいな場所ですね……」


虎越「うん……。あ……多分、慎二、この奥に居ると思うから」


なな子「っ。い、行きましょう……っ!」


虎越「うん」


 奥の教会広場の横にあるレストランへ、二人手を繋いで走って行く。

 既にテラス席に座っていた慎二が、店員さんに注文をしていた。


慎二「えーと……あ、このイタリア前菜の六種盛り合わせとー。サラミとマスカルポーネのピザとー。あと燻製くんせいたらことほうれん草のスパゲッティーニとー。あっ、カジキマグロのグリルとチーズのリゾットだったらどっちがいいかな……。あー、ポークカツレツも捨てがたいなぁ~。ん~! いいやっ。これとこれとこれ、全部下さいっ」


(レストランの店員さん「かしこまりました」)


なな子「マルくんっ……!」


慎二「あっ。ななちゃん、先輩! こっちこっち!」


虎越「お前もうちょい後先考えろって……」


慎二「先輩何飲みます!? ビール!?」


虎越「いやバイクだって!」


なな子「わ、私お水で……っ!」


慎二「えー!?」


虎越「絶対飲むなよ。お前も車だろ」


慎二「えー! んーじゃあー僕コーラでいいですぅ……」


なな子「すみませんっ。お願いしますっ」


(レストランの店員さん「かしこまりました。ご用意させていただきます」)


虎越「なに頼んだんだよ……」


慎二「えっ。先輩もななちゃんもお腹空いてるでしょ!? ねっ」


なな子「そ、そうですね……私は空いてますけど……」


慎二「先輩だってどうせ食べてないでしょ?」


虎越「んーまぁ……」


慎二「いっぱい頼んだからっ」


なな子「わ~。なにが来るのかな」


虎越「はぁ……。慎二お前とりあえずななにさっきの金戻せって」


慎二「え? なんで?」


虎越「なんでじゃねえっ」


なな子「っ! いいんですっ! ここで使いましょうっ! あとは、残りはお二人のガソリン代とかで使って下さいっ!」


慎二「やったーラッキー」


虎越「慎二!」


慎二「うるさいなぁ……。先輩、カネカネ言ってると嫌われちゃうよ?」


なな子「そうですよ!」


虎越「えっ!?」


慎二「ん、で。仲直り出来たの? 二人」


なな子「なかなおり……」


虎越「喧嘩してねーから」


慎二「でも、ちょっとは先輩怒ったでしょ?」


虎越「お前にな」


慎二「えー!? なに!? なんで!?」


虎越「その胸に聞いてみろ!」


慎二「いやいやいやいや……。僕は、ななちゃんがどうしても夜のうちに先輩ん家から出て行きたいわぁって言うから。仕方なく……」


虎越「っいやじゃあなんでななの荷物積んでお台場なんかに来てんだよっ!」


慎二「は? それはぁ……僕がイルミネーション見たかったからだけど?」(ドヤア)


虎越「むかつくっ……」


なな子「と、虎越さん……」


慎二「先輩。そんな顔して! ななちゃんが怖がってるでしょ!」


虎越「いやお前のせいだろうが!」


なな子「っ……わ、私が……! 私がマルくんを連れ回しちゃったから……っ!」


虎越「なながここに来たいって言ったのか?」


なな子「えっ?」


虎越「違うだろ?」


なな子「で、でも……っ」


慎二「先輩が、悪いんだよぉ。仕事なんかしてて神谷さんの魔の手からななちゃんを危険にさらすから!」


虎越「それは……っ」


なな子「っ……と、虎越さんは関係ないよ……っ!」


慎二「そーお? 本当にそう思う?」


なな子「関係ないっ」


慎二「じゃあこうして豪華イタリアンを食べれるのは誰のおかげ?」


なな子「えっ!?」


慎二「誰がお金払うの?」


なな子「わっわたし!」


慎二「ふふふ……」


(レストランの店員さん「お待たせいたしました。コーラと、前菜の盛り合わせでございます」)


慎二「きたきた! はや~い。食べよっ」


 色んな種類のサラダやチーズが乗っているプレートに直接フォークを突き刺して、もりもり食べ始める慎二と辰哉。


虎越「……なな」


なな子「はっはいっ」


虎越「……前から慎二にため口だったっけ」


なな子「えっ!?」


慎二「は? いいじゃんタメなんだから! 嫉妬かよ! そーゆーとこお前クサいんだよ!」


虎越「くさい!?」


慎二「ねえななちゃん!?」


なな子「えっえっえっえ!?」


虎越「くさいかな……」


なな子「えっ!? え~とっ……。っ……くんくん……」(立ち上がって辰哉の後ろにまわり、彼の両肩に手を置いて匂いを嗅ぐ)


虎越「えっ?」


なな子「あーっ。雄之助さんの煙草の匂いがします! キャラメルポップコーンみたいな、あの匂い……っ!」


虎越「昨日はマルさんとずっと一緒だったから……」


慎二「あーお腹空いた」


虎越「なな、座りな」


なな子「はいっ」


慎二「ちょっと先輩、ちゃんと反省してんの!?」


虎越「え?」


なな子「っ!?」


慎二「先輩が、神谷さんにハッキリ嫌だって言わないから。こんなことになったんでしょ?」


虎越「いや、オレは……」


なな子「かっ神谷さんを責めないで!」


慎二「えええ!? 何言ってんの」


なな子「だ、だって……。か、神谷さんは……っ。虎越さんのことが好きだから……。だから私が邪魔で……」


慎二「ななちゃん……」


なな子「か神谷さんは……! 恋してただけだから……っ! 私と、お、同じように……っ!」


慎二「ななちゃん、どんだけいい子なの! ビンタまでされて!」


なな子「えっビンタ!?」

虎越「っ……」

慎二「っどう考えたってね、先輩が悪いよ! そうでしょ! ハッキリと関係を断ち切らないから!」


なな子「っ違う! 虎越さんは悪くない! (水を飲みほしてグラスをドンと机に置く)っ! 悪いと言うなら虎越さんがっかっこいいのが悪いっ!」


慎二「だ大丈夫!? それ水に見えて日本酒だったりしない!?」


なな子「っだめです!! っもう! (立ち上がって)とっ……虎越さんを、傷付けないで……っ! うっ……ううっ……うううう」(泣き出す)


慎二「それお酒でしょ!」


虎越「いや水だろ……」


慎二「っ先輩! いい加減にして!」


虎越「なな、落ち着いて。オレは大丈夫だから」


なな子「うう……虎越さん……」(虎越のことを後ろからハグして)


虎越「すみませんお水下さい」


(レストランの店員「かしこまりました。お注ぎいたします」)


虎越「……なな、座って」


なな子「はい……」(自分の席に座る)


虎越「ごめんな。オレから菜月には、ちゃんと話すから。もうあんなことさせないから」


なな子「……私は……もう大丈夫ですよ……。あ、あの、神谷さんを……怒らないであげてください……」


虎越「……なな、あのさ」


なな子「っ神谷さんだって、ずっと好きだった人が急に私みたいなのと同棲してたら、傷付きますよ……っ! い、いつまでもズルズル、かくまって貰ってて……っ! 火傷だってもう、私生活には影響ないくらいには、治ったのに……っ!」


虎越「なな」


なな子「はいっ! だからねっ!」


虎越「結婚しよう」


なな子「はいっ」


慎二「え?」


なな子「……え? えーっ!?」


虎越「……指輪、買ってきたから」


 辰哉のコートのポケットから出された細長く白いガラスの指輪ケースの中には、二つのエンゲージリングが入っていた。ななの前に置く。


なな子「うっ……っ!?」


慎二「わあ」


なな子「うーっ!?」


慎二「わーすっごい」


なな子「こっここっこれは!? これはぁ!?」(目がぐるぐるしながらも、そのケースを手に取って震えてる)


虎越「あとこれも……」(鞄の中から、プーさんが描かれた大きな封筒を取り出して、ななの前に見せる)


なな子「あっ。こ、これ、本物の戸籍謄本……です……か? あれ?」(嬉しそうに中身を取り出す)


慎二「へ~。プーさんの柄の戸籍謄本なんてあるんだ」


 そのプーさんの書類を広げる。ななの目に入って来たのは、“婚姻届け”という文字と、辰哉と雄之助とみねねのサインとそれぞれの住所。


なな子「ッ……? っ……? ッ……!?」


慎二「え、それなに?」


虎越「本物の戸籍謄本はこっち」(茶色い封筒を取り出して慎二に渡す)


慎二「えっそっちなに!?」


虎越「婚姻届け」


慎二&なな子「婚姻届けー!?!?」


慎二「はぁ~」


なな子「こ、こ、こ、こ、こ、こ、こっ」


慎二「大丈夫か」


なな子「こっ!」


虎越「水飲んで」


なな子「こっ! こ、この、と、虎越……みねねさん、というのは……」


虎越「母親」


なな子「いっいつお会いしたんですか!?」


虎越「昨日の夜」


なな子「えー!? に、日本にいらっしゃるんですか!?」


虎越「うん。いつもは元旦に来るんだけど、今回はまあ色々あって……。みねねだけ先に来たみたい」


なな子「ごっご挨拶しないと……っ!」


慎二「ってか、まだ会ってないのにみねねちゃん保証人のとこ書いてくれたの?」


虎越「うん。これもみねねが用意してくれて」


なな子「そっ……そうなん、ですか……」


慎二「みねねちゃん、プーさん好きだもんね」


なな子「こっ……コピーとらないと……っ!!」(立ち上がる)


虎越「えっ、今?」

慎二「今!?」


なな子「しょ、証拠をっ……!」


虎越&慎二「なんの!?」


なな子「うわああ……!」(席に座って真っ赤な顔を婚姻届けで叩く)


虎越「お、おいっ……!?」


なな子「っううぅわあぁ……」


慎二「な、泣いてる?」


なな子「虎越さんっ! ぎゅっぎゅ! ぎゅっぎゅしてくださいっ!」(泣きながら腕を開いて)


虎越「はいはい」


 ななを抱きしめて背中を撫でてあげる。


なな子「……っ……っ……」


慎二「よかったね。ほら、指輪」


なな子「っ! は、はめてください!!」(左手を辰哉に突き出しつつ、右手で指輪ケースを差し出す)


虎越「うん」(指輪ケースを受け取り、ななの左薬指にななの指輪をはめる)


なな子「っ! っ! っ! あああ……」


慎二「わあ~ななちゃん、フィアンセだね~」(拍手しながら)


なな子「ひっヒアンセ!!」


慎二「ほら、先輩にも」


なな子「っ。と、とらこしさん……お、お、お、お手てを……」


慎二「ふふふ」


虎越「はい」(自分の左手を差し出す)


なな子「っ……こ、これをはめたら……」(手が震えてる)


慎二「もう夫婦だね!」


なな子「ふうふ!! ふ、ふ、ふぅ……」


虎越「なな」


なな子「ふうう……気を失いそうです……」


虎越「今は頑張って」


なな子「はぃい……っ」


虎越「……大切にするから。ずっと。……約束する」


なな子「あ、あ、ありがとうございます……」


虎越「あっ。……一つだけ、もう一つだけ引っかかってることがあるんだけど」


なな子「え……」


慎二「先輩、こんな時に」


虎越「幼稚園から小三にかけてと、高校の時のななのことを、オレが覚えてないこと……。ななも、気になってるだろ?」


なな子「っ……」


虎越「それでも、オレのこと……許せる?」


なな子「わ、私が……っ」


虎越「……」


なな子「私が覚えています……! 昔のことは、全部、私が……っ! 覚えているから……。……それに、私が好きなのは……。い、今の虎越さんです……。ずっと、ずっと、もっと、一緒に居たいって思うのは……っ。いまの、虎越さん、だけです……っ!」


虎越「……わかった。ありがとう」


なな子「……っ……。い、いきます……! は、はめはめ……!」(辰哉の左薬指の先端に、指輪を当てる)


虎越「はい」


なな子「い、いきますよ……っ!」


慎二「ちょっと待って」


なな子「!?」

虎越「なに」


慎二「いや~やっぱりほら、結婚ってさ、相性とか計画性とか、人生設計? みたいなの、大切? ねっ! あるじゃん? 二人ほら、同棲はじめてまだ三週間とちょっとだし……。もうちょっとじっくり付き合ってからでもいいんじゃないかなぁ? って……」


なな子「と、虎越さん……っ。私、やっぱり……っ! ど、どうしたら……! わた、わたし……っ自分に自信なんか、あ、ありません……っ」


虎越「オレはなながおどおどしてるのは、愛嬌があってうさぎみたいで可愛いなと思うけど」


なな子「えッ!?」


虎越「んー……結婚に計画が必要だって言うなら……」


なな子「あ、あの……あの……」


虎越「子供が出来たらななは仕事を続けても辞めてもバイトしてもなんでもいいとオレは思ってるし」


なな子「こ、子供!?」


虎越「オレは親の高配のおかげで貯金もかなりあるから、ななが専業主婦になって扶養に入ってもある程度は贅沢させられると思う」


なな子「わ、私、贅沢したいなんて思ったことありません!」


慎二「はいっ! 今世間を騒がせている、日本専業主婦のぐうたらなストライキについてはどう思われますか」


なな子「ぐうたらストライキ!?」


虎越「今ですら家事が取り合いになってるのに、わりと潔癖症のななが仕事辞めた途端に家事の手を抜くようなことはしないと思う」


なな子「そ、それはお約束します! なんなら誓約書を書きます! レベル高い家事代行並みのお掃除とお料理とお洗濯をしますから!!」


虎越「いや……この子家事に対してプライド高すぎるから……。実際はもうちょい手を抜いて欲しいくらいなんだけど……」


なな子「え!?」


虎越「まあ結婚は……。ななも気付いたと思うけど……。……正直、オレは……その、女の子から、いっぱいプレゼント貰ったりして……」


慎二「は!? オレ、モテるから!! アピール!?」


虎越「いやいやいやいや、ちょっと待って。……菜月のことも。……他の女の子のことも。……オレが結婚すれば少しは毎回のイベントの時の騒ぎが治まるかなって……」


慎二「なにそれ!! やめろ、モテアピール!」(おしぼりを辰哉に投げる)


 おしぼりを空中で受け取る辰哉。


なな子「ま、マルくん……」


慎二「利用してない!?」


虎越「ななを守る為なら。そのほうがいいって思ったんだよ。ただ付き合ってるより効果あるだろ」


なな子「……そ、」

慎二「成る程っ!! じゃあよし!!」


なな子「えっ!?」


慎二「ななちゃん、『私が虎越さんと結婚したら神谷さんが傷付いちゃう~!』とか、思ったでしょ」


なな子「よ、よくわかったね……っ!」


慎二「ははは。ばかめ」


なな子「!?」


慎二「ななちゃん。恋の勝者はいつだってたった一人なのさ」


なな子「恋の勝者……」


慎二「つまりね。ななちゃんが、先輩に恋してるその他大勢に同情していることによって、先輩はずっと苦しいの」


なな子「苦しいの!?」

虎越「うん」

慎二「辛いの」

なな子「辛いの!?」

虎越「うん」


慎二「だって先輩が好きなのはななちゃんだけだから」


なな子「……っ。虎越さん……!」


虎越「はい」


なな子「私は……ずっと、ずーっと、虎越さんのことを、見てきました……! 小さい時も……。高校生の時も……。今も……」


虎越「うん」


なな子「三回目の、だいすきを……伝えられるだけでも……っ。とっても、幸せです……」


虎越「……うん」


なな子「虎越さんと……。で、出来ることなら……っ。いつまでも一緒に……いたいです……!」


虎越「……うん」


なな子「まっマルくん……!」


慎二「はぁい」


なな子「私、マルくんのお姉ちゃんになります!」


慎二「ふふふ。りょーかい」


なな子「だ、だからっ。今からマルくんのことは……! し、し、し慎二くんと、呼びます!」


慎二「ははは。そっか」


なな子「ってことで行きます! ゆっゆびわを……! 行きますよ! 虎越さん!」(辰哉に指輪をはめていく)


虎越「え? ちょっと待って」


 くーっと奥まで指輪を押し込むなな。


なな子「え!? あっ! 入っちゃった!」


虎越「ああーっ……」


なな子「あーっ!? だ、ダメでした!?」


虎越「いや……いいんだけど……」


なな子「っやったよっ! 慎二くん!」


慎二「よかったね! やったね! ななちゃん! おめでとう!」


なな子「ありがとうっ! 虎越さんっ。私、幸せですっ」


虎越「あー……うん……」


なな子「つ、つかれた……っ! と、糖分を……! 糖分を補給しないと……! あ~緊張した~!」


慎二「コーラ飲む!? パスタ食べなー! ほら来たっ!」


なな子「は、はひ……っ! ん~っ!」


(レストランの店員「お待たせいたしました。サラミとマスカルポーネのピザと、燻製たらことほうれん草のスパゲッティーニと、カジキマグロのグリルと、チーズのリゾットと、ポークカツレツでございます」)


慎二「わ~いっただっきま~す!」


(レストランの店員「こちらにお取り皿置かせていただきます」)

 サーヴィス側に、小さい取り皿数枚を置かれる。


なな子「ありがとうございます! いただきます! わ~おいしそうっ……!」


慎二「先輩も食べるでしょ!? 先輩のはななちゃん、よそってね!」


なな子「はいっ」


虎越「ありがと」


慎二「うまうま!」


なな子「はいっ。虎越さんっ」(虎越にピザとパスタを乗せた小皿を手渡す)


虎越「いただきます」


なな子「ふぅ、ふぅ……っ」(パスタを冷ましてる)


虎越「つーか、どんだけ頼んだんだよ……」


慎二「ふふふーっ。あ、先輩。ななちゃんに印鑑も買わないとですね」


虎越「あー、そうだな……」


慎二「結婚ってあと何が必要なのかな?」


なな子「なんだろ……名義変更、とか?」


慎二「あー。名刺とか通帳とかカードとか?」


なな子「あ、あの、苗字は……か、かえてもいいのでしょうかっ」


虎越「ん? ああ、そうだな……。ななが良ければ」


なな子「わぁ~虎越さんになるんだぁ」


慎二「ななちゃん、汚しちゃうから先輩の鞄にまたしまっときな? 婚姻届けと戸籍謄本」


なな子「うんっ。ありがとう、慎二くん。っ……虎越さん、お願いします!」


虎越「ああ、うん……。今の流れで少しは気付いて欲しかったな……」


慎二「え? 嫌がらせでしょ?」


なな子「えっ?」


慎二「先輩がななちゃんのこと思い出さないから……」


虎越「やっぱり怒ってる……!?」


なな子「!? な、なにがですか!?」


慎二「ななちゃん。コショウ取ってっ」


なな子「うんっ。はいっ、チーズは?」


慎二「んーとりあえずいいやっ」


なな子「おいしいねっ」


慎二「うん! おいしいね!」


なな子「今度私もこれ作ってみようっと」


虎越「ななオレにもコショウ取って」


なな子「はいっ。小皿もいりますか?」


虎越「置いといて」


なな子「はいっ」


虎越「あ……」


なな子「どうしました?」


虎越「……オレもそこそこ傷付いたりするんだけどなぁ……」


なな子「っ!? なんです?」


虎越「なんでもない」


慎二「wwwwwwww ざまあ」


虎越「慎二お前うざいんだよ!」(おしぼりを投げる)


慎二「うっせー!」(受け取る)


なな子「?」(にこにこしてる)


慎二「先輩、ほら。車の鍵! 僕バイクで帰ってあげるからっ」


虎越「おぉ」


 慎二の車の鍵と、辰哉のバイクの鍵を交換する。


なな子「えっなんでっ……」


慎二「だぁって僕もう疲れちゃったし……。ななちゃんの荷物片付けるの面倒くさいし……。一人で帰ったほうが気が楽っつーか? 二人きりで帰れば? 的な?」


なな子「あっあっそっかっぁ!?」


虎越「いや少しは手伝えよ」


慎二「荷物大した量じゃないってば」


なな子「あ、あの、私が一人でやりますからっ」


虎越「いや手伝うけど……。ってか、お前コタツ置いてったことつきみさんたちに言ってやるからな」


なな子「ぎゃあ~! そっそれは!」


虎越「本棚も……」


なな子「ごめんなさい……っ!」


慎二「いーじゃん後から送ってもらう予定だったんだよっ」


虎越「まあどうせ慎二が置いてけって言ったんだろうなとは思ったけど……」


なな子「あの、あの、あの、」


慎二「ななちゃん悪く無いから」


なな子「いやいやっ」


虎越「慎二が悪い」


なな子「っそ、そんなことありませんっ」


虎越「今つきみさんかちぃさんに電話してやろうか? なながコタツ捨ててったって」


なな子「ひゃ~! ダメダメ! ダメです!!」


虎越「じゃあリナさんに言う」


なな子「もっとダメです~!」


慎二「あっ。そーだ。言ってなかったけど僕彼女出来た」


虎越「え?」  なな子「ええっ!?」


虎越「いつの間に……」


なな子「お、同じ警察の方?」


慎二「今度連れてくるね!」


なな子「うっうんっ!」


虎越「突然連れて来られても困るって」


慎二「え、なんで? 親友なんだからいいでしょ~」


なな子「親友?」


慎二「うん」


虎越「誰の」

なな子「?」


慎二「リナさん」


なな子&虎越「リナさん!?」


なな子「待ってどういうこと……!」


虎越「いつから……!?」


慎二「ふふふ」


なな子「あっ。こないだ二人でリビングで……!」

虎越「あの時!?」

なな子「……はっ……」


慎二「なに?」


虎越「リナさんって慎二みたいなのタイプなの?」

なな子「わ、わかりません……。リナさんに恋人が居たのを見たことが無いのでっ……」


慎二「リナさん恋人出来るのはじめてだよ」


虎越&なな子「ええー!?」


慎二「え、なに? なんか変?」


虎越「お前……! 彼女居るのに他の女連れ回して……!」

                                                   

慎二「なんで? お姉ちゃんになる人とドライブしただけじゃん」


虎越「いやいやいやいや……」


なな子「リナさんに謝らないと……!」


虎越「いやここは黙ってたほうがいいんじゃ……。リナさん、ななのことになると冷静じゃ無いし……」


慎二「あはは」


なな子「あははって……」


慎二「いや~お試しでちょっと付き合って貰ってたんだけどね」


虎越「は!?」


なな子「お、お試し!?」


慎二「うん。リナさんが恋愛したことないって言うから」


虎越「お前……。人様の娘さんにそんな適当なことして……」


なな子「で、でも、結局慎二くんのこと好きになったってことですか?」


慎二「ん? そうなんじゃない?」


なな子「そ、そうかあ……。慎二くんは……リナさんのこと……」


慎二「とっても可愛いな~って、思ってるよっ。ウブだし! 誰より美人だしねっ」


なな子「そ、そう、ですね……美人ですっ」


慎二「今度またデートするんだけどね」


なな子「っ。そうなんだ!」


慎二「先輩たちは? 結婚式とか、ハネムーンとか」


虎越「あー……」


なな子「ゆ、ゆっくり決めましょう……っ」


虎越「そうだなぁ……。突然のことだったし……」


慎二「いや~でもなぁ……。やっぱ刑事だと……。何日も家に帰れないこともあるし……」


なな子「それは仕方ないですよね……」


虎越「ななが嫌なら……オレ、仕事辞めてもいいよ」


なな子「え!? なっ、どっ……え!?」


虎越「だって……。休みに急に呼び出されることもあるしさ……。オレは出来るなら家庭優先にしたい……」


慎二「もぐもぐ」


なな子「まっ待って下さいっ! 私……! 虎越さんが転職する夢を見たんですよ……! 一昨日……っ!」


慎二「へ~」


虎越「正夢かもな」


なな子「ええーっ!?」


虎越「他にやりたい仕事が無い訳じゃないし」


なな子「っ消防士!?」


虎越&慎二「消防士?」


なな子「ですか!?」


虎越「あーいや、うーん」


なな子「やっぱり消防士なんだ……! ううう……なんで危ないお仕事ばっかり……っ」


慎二「おい先輩。悲しませんなよ」


虎越「いや、うん、ごめん?」


なな子「消防士って……誘われているんですか?」


虎越「うん、まあ」


慎二「消防だったらほとんど定時で帰れるらしいし、今よりは楽そうじゃん?」


なな子「でも結局危険だし……」


虎越「まあ何年か先の話かもってだけ。すぐには転職出来ないよ」


なな子「そっか……」


虎越「あーそうだ、みねねが……」


なな子「はい?」


虎越「籍入れたら一緒にアメリカで暮らさないかって言ってた」


なな子「えっ!?」


虎越「断ったけど」


なな子「えっあっ」


虎越「ななだって、まだ今の仕事続けたいだろ?」


なな子「は、はい……」


虎越「オレだって急には辞めれないし。突然FBI入れって言われてもピンと来ないし」


なな子「えっFBI!?」


虎越「うん。前から言われてたんだけど。両親も兄も弟二人も、みんなFBIだから」


なな子「す、凄いですね……」


慎二「コネで入れんの? FBIって」


虎越「サンフランコ警察を通して日本警察宛てに指名で推薦が出来るみたい」


慎二「へ~。いーんじゃない。とっとと二十年前の事件片付けて。二人で気分新たに新天地で子育てでもしたら?」


なな子「……」


虎越「うーん……。なな、少しだけ考えておいて」


なな子「は……はい……」


慎二「そう言えば……。確かさぁ、手の整形って……出来ないんだよね?」


虎越「ん、ああ」


慎二「あの犯人って、左手の甲に四つ並んだホクロがあるんでしょ? それって、レーザーでも消せないのかな?」


虎越「多分な」


慎二「先輩……あの、さ」


虎越「ん?」


慎二「お父さんが、あの時の犯人を見つけたら、殺そうとしているって……本当?」


虎越「っ……なんで知って……」


慎二「狩野かのさんから聞いたけど……。どうなの? お父さんには直接聞きにくくてさ……」


虎越「……今も、マルさんの気が変わってないならな……」


慎二「みねねちゃんも?」


虎越「……他のやつには言うなよ。ななも。妃は知らないんだ」


なな子「……あ、あの、」


虎越「お前まで復讐しようとか……考えないでくれよな……。オレは知り合いが誰かを殺すとこなんて見たくない……」


なな子「……虎越さんは、犯人を捕まえたら……それで満足なんですか?」


虎越「……あぁ。どんな刑を与えられるかはわからないけど、これ以上野放しには出来ない……」


慎二「……ま、二十年も経っちゃってたら……日本に居る確率なんて……」


 ガラスが大量に割れる音がする。


(レストランの店員「っきゃあああーっ!!」)


慎二&虎越&なな子「ッ!?」


(レストランの店員「やめて下さいっ! 落ち着いて下さいっ!! どういうつもりですか!!」)


虎越「なんだ?」


慎二「せ、先輩っ! 奥の客……っ! あれ、刃物持ってますよ……!」


 三人が座っていた席から対角線上の奥。刃物を持った男が、店員に向かって罵声を浴びせたりナイフを振り回したりしていた。


なな子「っ! あ、あぶな……っ!!」


虎越「なな、待って! 外に出て警察に電話してくれ。出来るな?」


なな子「とっ虎越さんと慎二くんは!?」


虎越「他のお客さん外に出さないと……! 行くぞ慎二!」

慎二「はっはいっ! ななちゃん、安全な場所に行ってね!!」


 辰哉と慎二、暴れている犯人にバレないよう。出口に近いお客さんや従業員に警察手帳を見せて、外へ出るよう誘導する。


なな子「っ……ひゃ、ひゃくとうばん……!」


 ななは携帯で警察に電話しながら、外へ。


(レストランの店員「いい加減にしてください! 警察を呼びますよ!! っ!!」)


 犯人の蹴りを避ける店員さん。ウイッグが取れ、金色の髪がほどける。


慎二「んん!? あっあれ!? リナさん!?」


虎越「えっ、リナさん!?」


リナ(レストランの店員さん)「あっ……丸山くん……」


慎二「なっなんで!? 何してんの!?」


リナ「あの……実は丸山くんの車にGPSをつけていて……」


慎二「はあ!? もしかして後つけてたの!?」


リナ「えーとえーと」


虎越「っリナさん危ない!!」


 犯人がリナに向かって刃物を振り下ろした。


リナ「っ!!」


慎二「リナさん!!」


リナ「ふんっ! ……女だからって舐めないで……!!」(犯人の股間を蹴る!)


 犯人は呻き、蹲ろうとする。


慎二「っナイス! リナさんっ!! ――っ先輩!!」

虎越「おらっ!!」


 慎二と辰哉が同時に犯人の両脇から掴みかかり、ナイフを取り上げ。辰哉が犯人の腕に技をかける。


慎二「っ! っ!!」  

辰哉「っ――ッ!! ……っ!? 左手の四つホクロ……!?」


リナ「っ――……はっはっ……ふぅ……っ。……まったくもう……私ってこういうこと多い気が……」


慎二「っ先輩!! とりあえずそのままで! すぐ警察来ますから! 技かけといて! 押さえ付けといて!」


 犯人はリナの一撃によりノビている。


虎越「はいはい。警備も呼んで」


慎二「……っ。……~ちょっと! リナさん!?」


リナ「はい」


慎二「説明してっ」


リナ「先週、丸山くんの車にGPSを取り付けて。昨夜、いつも通り夜に通話かメールが来るだろうと待ち構えていたのですが……」


慎二「あ、ああ……そっか……」


リナ「一向に連絡が来なかったので」


慎二「ご、ごめんね。先輩ん家行ったらななちゃんが号泣してて……。僕もなんか……アアーッてなっちゃって……っ! 微妙にテンパって……その~……」


リナ「……なな子が泣いていた?」


慎二「うん。なんか、お医者さんに意地悪されたみたいで……。それで、」


虎越「ッ――……」

 

 銃声が聞こえる。


慎二&リナ「ッ!?!?」


 犯人に腹を蹴飛ばされ、倒れ。踏みつけられた辰哉の姿が。慎二とリナの目に入った。


慎二「っ……先輩?」


リナ「っ――虎越さん!!」


 犯人はレストランの仕切りの植え込みを薙ぎ倒し、逃げてしまう。


なな子「虎越さん……?」


 警備員を連れてきたななの目にも、倒れて息を荒げている辰哉の姿が映った。


慎二「っ先輩!!」


リナ「丸山くん……! 止血しないと……!」


慎二「わぁあ先輩どうしよう死なないで!! おああああ……!」


虎越「バカ、慎二……っ追い掛けろ……っ!! ッ……手首かすめただけだって……っ!」


慎二「わあ血が! 血がやばい!!」


虎越「落ち着けって! お前こんくらい見たことあんだろ……っ!!」


 ななも虎越たちに駆け寄ってくる。


なな子「慎二くん……っ! 虎越さん……!!」


慎二「ななちゃんどうしよう先輩死んじゃうかもおおおお」


リナ「っ大丈夫です!! っ救急車呼びますから……っ!! 警備員さん、お願いします!」(辰哉の右手の止血をする)


なな子「犯人、追い掛けないと……っ!」


虎越「ちょっと待っ……! 慎二!!」


慎二「先輩ぃぃぃい!!」


なな子「っ私が……!!」


虎越「待ってっダメ……!!」


リナ「虎越さん動かないで下さい!! 血がっ……!」


虎越「待ってなな動くな!!」


なな子「でもやり返さないと……!」


虎越「ダメ!! 警備さん助けて!! 警察まだ!?」


慎二「ひえぇ先輩いぃ……!! 先輩ぃぃぃぃいいいい」


なな子「ちょっと行ってきます!!」


虎越「ダメお願い待って……!!」


リナ「虎越さん!!」 慎二「先輩死なないで!!!!」 なな子「やり返してきますから!!」


虎越「お前ら待てそこ座れ!!」


 がちゃがちゃしながら。辰哉、痛みで気を失いっけるが、ななを捕まえて慎二を宥める。

 リナは結束バンドで辰哉の止血をする。






 犯人は逃してしまったが、一段落つき、家路へとつく辰哉たち。 

 慎二の車を、リナが運転し。助手席には未だにべそをかいている慎二が乗り、後部座席には辰哉とななが乗っている。


虎越「ごめんな、リナさん。運転させちゃって……」


 辰哉の右に座っているななは、包帯で巻かれた辰哉の右手首を両手でそっと包んでいる。


リナ「いえ、お気になさらず。ここは甘えて下さい。大事に至らなくて良かったです。虎越さんは当直明けでお疲れなんですよね? そのままお休み下さい。マンションに着いたら起こしますので」


なな子「すみませんリナさんっ! 私も運転出来れば良かったんですけど……」


リナ「丸山くんのこの車はマニュアル車ですからね……」


慎二「先輩ぃぃ! 明日またちゃんと病院行って下さいねっ! あっ、神谷病院じゃなくって、公園のほうの総合病院に行ってね!!」


虎越「はいはい」


なな子「利き手でなくて良かったです……」


虎越「うん」


なな子「っ今日から、私が辰哉さんの右手になります!!」


虎越「え?」


慎二「えろい話……?」


なな子「っおっお風呂とか……! お着換えとかっ!」


虎越「あぁ……でも左は使えるし……。大丈夫だよ」(左手でななの頭を撫でる)


なな子「うぅ……」


リナ「虎越さんのバイクは、お宅まできちんと配送して頂けるよう手配しましたので、ご心配なく。です」


虎越「そこまでしてもらって……」


リナ「先程のショッピングモールの代表と父が知り合いなので。電話一本で了承していただけました」


虎越&なな子「え!?」


リナ「丸山くん、とりあえず今から順を追って説明して下さい」


慎二「ん?」


リナ「なな子が泣いていた理由と、昨夜からの一部始終をです」


慎二「え? あぁー」


なな子「あっ、あの、リナさん……! 全部私のわがままで……っ! 私のせいでっ!」

リナ「なな子は虎越さんを膝枕でもして、一緒に寝ていて下さい。一晩中こんな狭い車の中に居て、貴女も大変疲れているはずです」


なな子「はっえっはっ……はいっ! と、虎越さんっ。ここはいうこと聞いたほうがいいですっ!」(コートを脱ぎながら、座り位置を少しずらして、自分の膝を叩く)


虎越「う、うん……」(ななの膝に頭を乗せ、横になる)


 なな、自分のコートを辰哉の身体にかける。


リナ「道が混んでいますので、虎越さんのお宅まで時間がかかります。……丸山くん」


慎二「は、はいっ……」


リナ「お話出来る時間はたっぷりありますので。さあどうぞ」


慎二「ええ~と……どこから話せばいいかな……」


なな子「あっ……あのっ……リナさんっ!」


リナ「なな子、うるさいです。虎越さんがゆっくりお休みできるよう、貴女は、今、騒がしくすることしか出来ないのですか」


なな子「あ、あの、いや、その、ごめんなさい……」


虎越「なな……」


なな子「は、はいっ」


虎越「なんで犯人追い掛けようとしたんだ」


なな子「えっ……と……。ごめんなさい……。頭に血がのぼって……」


虎越「まったく……。オレの知り合いはみんな、復讐することしか思い付かないのか……」


なな子「……ごめんなさい……。もうしません……あんなこと……」


虎越「うん……。オレになにがあっても、友達や家族になにがあっても、一人で追い掛けたりやり返そうとしないで……。ななまで怪我したらイヤだから……」


なな子「……わかりました……」


リナ「丸山くん」


慎二「はいっ」


リナ「……話してくれないなら今後盗聴器も仕掛けます」


慎二「そんなに!? って、あっ! 盗聴器ってどうしたんだっけ……」(ふと、三週間前に辰哉のベッドに父と仕掛けた盗聴器のことを思い出す)


リナ「え?」


慎二「はえっ!?」


リナ「どこの」

慎二「いやいや待って。嘘。なんでもない」

リナ「今盗聴器って」

慎二「言ってないっ」

リナ「言いました」

慎二「言ってないよ!?」

リナ「どこに仕掛けたんです」

慎二「も~! 後で二人きりになったらちゃんと話すから~! ってか、車のGPSってどこに!?」

リナ「助手席の下です」

慎二「おお!?」

リナ「取っちゃダメですよ」

慎二「なんで!」

リナ「不審な動きをしないよう見張る為です」

慎二「それ公言してやること!? あのねえ、盗聴とか、そういうのはね、違反だよっ犯罪だよっ!?」

リナ「知ってます」

慎二「あんだって!?」


なな子「ふふふ……」


リナ「なんですか、なな子」


なな子「お二人、本当に付き合っているんですね」


リナ「あ……はい」


なな子「リナさんは慎二くんのどこを好きになったんです?」


リナ「え? ……どこだろう……う~~~~~~~ん……んー………………」


慎二「そんなに悩むとこ!?」


リナ「……犬……みたいな、所……?」


なな子「あ~確かに! ワンちゃんみたいな所ありますよね!」


慎二「ええー!? そうかなぁ……?」


リナ「……さっきの犯人って、結局まだ捕まって無いんですよね」


慎二「うん。なんとか捕まるといいけどね……」


虎越「……四つのホクロが並んでた……」


なな子「えっ?」


虎越「オレがずっと追ってる奴と同じ特徴があった」


リナ「そうだったんですか……」


なな子「……虎越さん……」


慎二「やっぱ僕追い掛けるべきでしたね……すいません、先輩……」


虎越「……他の特徴は微妙に違ったからな……微妙だ。それに、ここは管轄も違うし……。今日は仕方ない。マルさんにも、すぐに戻って来いって言われたしな。一旦出直すしか……」


慎二「でも先輩……っ」


虎越「次は、逃す気無いけど……。でも犯人は拳銃持ってたし……。……被害者がもっと出なきゃいいんだけど……」


なな子「……あの、結局私の両親って……。会話も出来ない状況なんでしょうか」


リナ「両親……?」


なな子「あ……。埼玉にある病院に、長期入院? 匿われている……? みたい、なんです」


リナ「……本当の、ご両親ですか?」


なな子「はい……」


リナ「……なな子と虎越さんの指輪といい、先週から着けているその腕時計といい、……詳しく聞かなければならないことが多そうですね」


慎二「あはは……」


虎越「なな……」


なな子「はい」


虎越「ご両親の所に行くのは、さっきの犯人の話を渋署でもしてからになっちゃうかも……」


なな子「い、いいんですよ! 虎越さんのご都合のいい時に、一緒に行きましょう……っ!」


虎越「……みねねに、個人捜査をやめろって……言われた」


なな子「えっ……」


虎越「マルさんにも何度も言ってるみたいな感じだったから……。もしかしたらもう捜査させて貰えないかも知れない……」


慎二「先輩。上からも釘さされちゃったらその後動き辛くなっちゃいますよ!」


虎越「わかってる……。もう本当に時間が無い……」


なな子「虎越さん……」


虎越「……大丈夫だよ」(ななの頬にそっと右手を当てて)


なな子「……もう、いいです……。もう、やめませんか……」


慎二「ななちゃ……」

なな子「虎越さんが危険な目に遭ったり、怪我をするのは……もういやです……」


虎越「……なな」


なな子「私の為に警察官で居て下さってるのなら、もうやめて下さい……っ。私は雄之助さんが復讐を考えていることよりも……。虎越さんが傷付くことのほうがこわいです……」


虎越「……ごめん……」


 四人を乗せた車は、高速道路を駆け抜けて行く。


【次話へ続く】

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