第三話【男2女4】~愛を深めたくて。気持ち、閉じ込めないで。~約60分
第三話
出演(MAX男2女4)
・虎越 辰哉 (26) ♂ :
・宇佐美 なな子 (24) ♀ :
・丸山 慎二 (24) ♂ :
(※慎二役、ナレーションと掛け持ち)
・息成 つきみ (24) ♀ :
・東宮寺ちやこ(ちぃちゃん) (24) ♀ :
・柏木 リナ (24) ♀ :
役解説
・虎越 辰哉 (26) ♂
渋谷署の刑事。刑事課係長。ぶっきらぼうだけど優しくて、真面目で、心根は熱い人。ポーカーフェイス。クール。もう七年も彼女が居ないらしい。丸山親子のようにイタズラをしたり、人が嫌がるようなことはしない。幼少期から、システミカルアロペシア(全身脱毛症)。なな子のことは、自分が彼女に手錠を掛けた過去の逮捕歴のこともあり『教師と教え子』のようなものだと思っている。が、ひょんなことから二週間近く一緒に暮らして、彼女に徐々に惹かれている。
・宇佐美 なな子 (24) ♀
有名女性雑誌制作会社のウエディングプランナー兼社長秘書。本作ヒロイン。気弱でか細い女の子。素直で照れ屋さん。虎越のことを幼少期から知っており、淡い憧れを抱いている。気配りが出来て家事も出来る「お嫁さんにしたい」タイプ。悲観的。大人しい性格の割には女の友人が多く、いつも誰かに守られている。最近火事に遭い、それから虎越にかくまってもらっている。
過去に二度、虎越とも関わる大きな事件に巻き込まれている。
・丸山 慎二 (24) ♂
渋谷署の若手刑事。虎越の後輩。キャリア。犬っころみたいになつっこい。甘え上手。合コンばかり開いて遊び歩いているらしい。誰にでも優しくて明るい。家族や友人をとっても大切にする。恋人募集中。
常におどけたりバカなふりをしたりすることが多いが、虎越の幸せを誰よりも望んでいる。
・息成 つきみ (24) ♀
新婚さん。小さい商店街で旦那家族と一緒に果物屋と八百屋を経営していたが、なな子の紹介で一年前ウエディングプランナー兼社長秘書の職に就く。なな子の幼馴染。じゃじゃ馬。黒髪ふんわりおだんご頭。なな子には昔から恩があり、友人としても同僚としても彼女の心の弱さをずっと心配してきた。
・東宮寺ちやこ(ちぃちゃん) (24) ♀
新婚さん。お金持ちの家のご令嬢。旦那さんは婿養子。やや肩身が狭い思いをして生きてきたが、つきみとなな子のお陰で腐らない人生を送れてきた。明るい茶髪リボン型ポニーテール。(お洒落なので、髪型いつも違う)眼鏡っ子。太眉。社長秘書の面接をきちんと受けて入社したのはリナとちやこだけ。
・柏木 リナ (24) ♀
独身。恋人なし。男に興味がない? 長身。美女。金髪ゆるふわロール。機械のように喋る時がある。つきみ、なな子、ちやことは今の職場で出会い、仲良くなった。今まで友人がほとんど居なかったが四人で女子会など開くことも多く。他人に心の壁を作りやすいリナも、つきみなな子ちやこには腹を割って物事を話すことも多い。警視庁警視総監の娘だという噂がある。色んな車を持っている。
――再開幕。
ナレーション「火事に遭い両手を火傷してしまった宇佐美 なな子を、自宅マンションでかくまうことにした、刑事の虎越 辰哉。二人は、お互いの過去のしがらみにより、好意を寄せてはいけないとわかっていても、生活を共にしていくにつれ、徐々に惹かれていたのでした。今日は、なな子を心配した同僚の三人が急に虎越の家に偵察に来てしまい……。皆でカニ鍋をつつきながら。なな子に、虎越のことをどう思っているのか問いただしており……?」
彼――虎越 辰哉のこと。なな子は、手が届くような相手では無いと、ずっと……思ってた。今も、これからも、彼への尊敬の念は変わらない。
なな子「迷惑掛け過ぎてて申し訳無さ過ぎて……いち早くここを出て行かないと虎越さんまで私のこの疫病パワーに汚染されてしまいそうで……毎日割と鬱です……」
リナ「彼は迷惑そうにはしていませんでしたが」
なな子「優しいからぁーっ!!」
つきみ「確かに優しさは強め」
なな子「ほんとそうこわいほど。神」
リナ「あの。なな子は彼に好意は無いんですか?」
なな子「はぁ、だから……私は……」
リナ「彼の優しさや一緒の生活は心地が良くないのかと聞いているんです」
なな子「それは……その……」
ちぃちゃん「無理にすぐ出て行かなくても。いいんじゃありません?」
なな子「そういうわけには……っ!」
つきみ「もしななちゃんが虎越さんのこと好きならさ。応援したいんだよ? あたしたち」
なな子「……虎越さんには、恨まれる理由はあっても好かれる理由は、ありませんから……」
リナ「一緒に居てドキドキしないんですか?」
なな子「し、しますよ。そりゃ。虎越さんカッコイイし……いいひとだし……でも」
つきみ「ななちゃん、あたしたちになんか隠してる?」
なな子「え……?」
つきみ「好きなら好きでいいじゃん! 嫌いなら嫌いでも、いいじゃん!」
なな子「……感情的なもので……。対等な立場にはなれないんです……私と虎越さんは……」
リナ「何故ですか」
なな子「……っ」
ちぃちゃん「ななさんもしかして、虎越さんが刑事を続けているのは自分のせいだとか思ってます?」
なな子「っ! ……そ、れは……」
つきみ「……さっきね、聞いたの。虎越さんは、ななちゃんのこと守りたくて。一緒に住んでるんだって。そう言ってたよ?」
なな子「え? うそ、そんな」
リナ「本当です」
ちぃちゃん「虎越さんに、もっと甘えてみたら……ななさんきっともっと楽になれますよ。みーんな、ななさんの味方なんですから」
なな子「……私……っ! 私は……っ!」(泣き出す)
虎越、戻ってくる。
虎越「ただい……――え……」
なな子「おっおかっおかえりなさいっ」
虎越「なんで宇佐美泣いてんの」
なな子「うっ、うっ、うっ、……!」
リナ「虎越さんのせいです」
虎越「え!?」
つきみ「そうです。あたしたちもう帰る!?」
なな子「えっ!? もう帰るんですか!? けっケーキは!?」(鼻をかんで涙を拭く)
つきみ「あー忘れてたっ」
ちぃちゃん「ななさん、先に虎越さんに選んでいただいて……」
なな子「あーそうですねっ! 取って来ます!」(キッチンへ駆けて行く)
虎越「ケーキ買ってきたの?」
リナ「虎越さん、甘いものお好きですか?」
虎越「いや、あんまり食べないけど……」
なな子「みなさん珈琲でいいですかー!?」
つきみ&ちぃちゃん「はーい」
リナもキッチンへ。
リナ「なな子、手伝います。手をあまり使わない方が良いですよ」
なな子「ありがとうございます! いや~でもほんと、もう指は結構平気なのでっ!」
リナ「なな子はおっちょこちょいですから……」
つきみ「あー結構お腹いっぱいになったなー」
ちぃちゃん「そうですね」
つきみ「虎越さんって刑事なのに煙草吸わないの!?」
虎越「え? あー、まあ。持ってはいるけど……」
ちぃちゃん「んん? どういう意味です?」
虎越「捜査する時とか。色んな喫煙所に結構いい情報が転がってたりするから」
つきみ「へー! だからやっぱり刑事さんって煙草吸うんだ!」
虎越「まぁ……付き合いで、かな」
なな子「虎越さん! 見て見てっ! 見て下さいっ! ケーキです!」(ケーキの箱を抱えて虎越の傍へ)
リナ、大きなトレーに人数分の珈琲カップとフォークを並べる。お湯を沸かして珈琲を淹れる。
虎越「わー……甘ったるそう」
なな子「どれか食べますか!?」
虎越「あー…………いいや。オレちょっと外行ってくるから。一時間くらい」
なな子「えっ……あっ」
虎越「みんなで食べて」
ちぃちゃん「どこ行くんです?」
虎越「ちょっと最近運動不足で……」
ちぃちゃん「へ? あ、あの、私たち、ケーキ食べて片付けたらすぐに帰りますので……」
虎越「ゆっくりしてって下さい。あ――宇佐美」
なな子「はいっ!」
虎越「風呂、もうちょいで沸くから」
なな子「ありがとうございます!」
虎越「あー、リナさん」
リナ「!? はい」
虎越「今日、泊まって……行きますか?」
リナ「はい?」
虎越「車で来たのに酒飲んでたでしょ」
リナ「あっ……えーっと……」
虎越「オレ布団もう一セット買ってくるんで」
リナ「え!? い、いえいえ、そこまでして頂かなくても……あの」
虎越「明日の予定は?」
リナ「あ、ありません。休みです」
虎越「近所の親子がいつも泊まりに来るんですけど、ちょっと前まで使ってた布団数日前にダメにしちゃって。うち、他にも何人も急に泊まりにくるやつらとか居るんで。どうせ必要になるから」
リナ「あの……でも、」
虎越「うちの前にあるホームセンターで帰りに買ってきます。じゃ。あー。宇佐美、お風呂。リナさんに先に入って貰ってて」
なな子「っはいっ!」
虎越、自室で着替えてすぐに外に出て行ってしまう。
なな子「いってらっしゃいっ……」
リナ、四人分の珈琲を淹れてコタツの所に戻る。なな子、つきみ、ちぃちゃんに珈琲を配る。
つきみ「っいいやつじゃ~ん!!」
ちぃちゃん「いや今更? 一緒にエレベータ乗ったあたりからいい人なのはみんな知ってたかと……」
つきみ「っななちゃんあいついい奴じゃーん!!」
なな子「え!? そうですよ!? だって警察官だから!」
リナ「虎越さんって、いつも走りに行ってしまうんですか?」
なな子「あーはい。最近毎日かなぁ。元々の日課だったみたいですけど。……私も何回かご一緒させていただいたんですけど……。虎越さんすっごい足速くて。追いつくの結構大変でした」
つきみ「何キロ走るの?」
なな子「約十五キロって言ってたかな」
つきみ&ちぃちゃん「一時間で!?」
つきみ「アスリートなの!?」
リナ「虎越さんって嫌なところ無いんですか?」
なな子「え……。ないですけど……。強いて言うなら、……い、いたずらしてくる所とか……?」(お風呂でいつも髪で遊ばれてるのを思い出しながら)
つきみ「どんなイタズラ!?」
なな子「えっ!? アッ! いやっ! それは言えないっ」
ちぃちゃん「エロいイタズラ!?」
なな子「言えないもんっ! 絶対黙秘っ! 虎越さんにだってプライベートあるんだから!」
リナ「では他に嫌な所は」
なな子「えー!? なんだろう!? じっ自分に無頓着なとこ!? とか!?」
つきみ「え?」
なな子「自分も疲れてるのに、頼まれたら宿直代わってあげちゃう所とか……?」
ちぃちゃん「それは……」
なな子「自分は焼肉弁当が食べたかったのに、私がからあげ丼かハンバーグ弁当かで悩んでたらその二つを買ってくれる所とか!?」
リナ「えっ……?」
なな子「おっ同じ警察署の刑事さんたちが大勢でいきなりお家に遊びに来て。どつかれたりパシリにされても、文句は言い返すけどはたき返さない所!?」
つきみ「んんー!?」
ちぃちゃん「……リナさん」
リナ「はい」
ちぃちゃん「リナさんどれ食べます? ケーキ」
リナ「あー、ではチョコレートのを……」
ちぃちゃん「はいっ。ななさんは?」
なな子「あっ。私、モンブランがいいなぁ」
つきみ「やったー! 私苺ショート!」
ちぃちゃん「私はチーズケーキにしようっと。なな子さん、ロールケーキはラップしておきましょうか」
つきみ「えー!? 食べちゃおうよっ!」
リナ「太りますよー」
なな子「食べちゃいましょう!」
ちぃちゃん「ダメですよ。ななさんもうワンサイズ落とすって言ってましたでしょ?」
なな子「アッ! そうでした! 今度のマーメイドドレス……! うぅっ……」
ちぃちゃん「それに、虎越さんだって気分が変わって。朝になったらケーキを食べたくなるかも知れないじゃないですか」
リナ「そうですね。そういう朝ってありますよね」
なな子「っそうですね! ラップしときましょう!」
つきみ「あー……フルーツロールぅ……」
リナ「いつでも買えるじゃないですか」
ちぃちゃん「いただきまーす」
なな子「あーっ! 茶鍋カフェのくりたっぷりモンブラン……っ! 食べてみたかったんですよねぇ……! ふふふーっ」
つきみ「ななちゃんだったら自分で作れるでしょ! 二月になったら虎越さんに作ってあげれば!? 甘くないやつ!」
なな子「ふぁ? 二月?」
つきみ「そうだよう。バレンタイン!」
なな子「バレンタイン!? あーいやーでもー虎越さんは帰国子女だし……」
ちぃちゃん「はい?」
なな子「あっあっあっあのっ私ーでもー! 私男の人にばれんたいんとか何か贈ったことないし!」
つきみ「え? 去年社長になにかあげてなかった?」
なな子「妃さんはお兄ちゃんだから……虎越さんとは違うし……」
つきみ「お兄ちゃんねぇ~」
リナ「まあ海外では男性が女性に花を贈る日ですからね」
つきみ「えー? でも虎越さんは欲しいと思うよ! ななちゃんからのチョコとか! お菓子っ! お世話になったんだしさ。何か作ってあげたら?」
ちぃちゃん「っそうですよ! つきさんってたま~にいいこと言いますよね」
つきみ「たまに!?」
なな子「……バレンタインかぁ……」
リナ「まあそれまでにはくっついてるでしょうしね」
ちぃちゃん「ふふふ」
なな子「へっ!?」
つきみ「あっあれは!? なな子写真集とか! どうよ!」
ちぃちゃん「いいですね! セミヌード入れましょう!」
なな子「ええーっ!? ぜっぜったいだめっ!」
リナ「世界限定一冊のみの超レア。初版のみ。中に記事も入れましょうか」
リナ、ちぃちゃん、つきみ、手帳を取り出して何やら真剣にメモり出す。
ちぃちゃん「なな子解体新書!?」
つきみ「なな子の秘密、全部見せます! なな子攻略ナビ!」
リナ「なな子が語るなな子の全て。ベストセレクション……」
なな子「やーめーてーっ!」
リナ「取材の日決めましょう」
なな子「もーっ! リナさんっ!?」
つきみ「虎越解体新書も作る?」
なな子「!? まじか!」
ちぃちゃん「欲しいんかい」
なな子「とっ虎越さんにも取材するなら……! あのっ……あのっ……~」
リナ「なにか聞いて欲しいことがあるんですか?」
なな子「えっ、えっと……。クローゼットの中に、ピンクの外国製の可愛いボトルがあるんですけど。あれってなんなのかなって……」
つきみ「どれ?」
ちぃちゃん「どれ」
なな子「寝室の……っ。こっちっ。こっち来て下さいっ」
つきみ「ほいほい」
なな子、寝室へ。みんな、その後をつける。
なな子「あっ!」
ベッドに二つ並んでいるマクラ。その一つを布団の中に隠す。
なな子「ふっ! えいえいっ」
ちぃちゃん「?」 つきみ「?」 リナ「?」
なな子「あー……あははははっ。どうぞっ」
つきみ「やっぱり二人で寝てるんだぁ」
なな子「ッ!? ちっ違いますー!」
リナ「では何故今ベッドに並んでいた二つの枕の内一つを隠したんです」
なな子「えっえっとっ、ちっ違うの! あの、あのね、虎越さんは枕二つ使う人だから!」
リナ「ではなな子の枕はどこにあるんです?」
なな子「えっとー……! あっ。枕もクリーニングに出し……っ!」
つきみ「別に二人で寝てたっていいじゃーん」
ちぃちゃん「まあでも、二人で九日間も一緒に寝てて何も無いのはちょっと……ねぇ? 警察官っつったって男でしょうに。そんなに我慢しなきゃいけない理由でもあるんでしょうか?」
なな子「いっ一緒に寝てないんですってば~! わっ私の布団は! 二日目に別の刑事さんのお父さんが買って下さったのに、その後その方の奥様に燃やされちゃって~……っ!」
つきみ「はい、はい、はい」
なな子「ほっ本当だよ!?」
リナ「まあその話はいいでしょう。クローゼットって、どちらのクローゼットですか?」
なな子「あっ。こっちの、ですっ! こっちの……これっ」
なな子、クローゼットの扉を開けて、その奥に見えるピンクのボトルを指差す。
つきみ「んー? なにこれ」
ちぃちゃん「ラブチョコローション? って書いてありますね。英語で」(それを手に取って)
リナ「商品説明や成分も英語で書かれてありますね……」
つきみ「ななちゃん英語読めるよね?」
なな子「はい。でも、どういう時に使うものなのかは書いて無くて……」
つきみ「えっちぃやつじゃない!?」
ちぃちゃん「そうですねえ。鑑賞魚のプランクトンの外装にも似ていますが……」
なな子「え、魚用?」
リナ「お風呂で使うものではないでしょうか」
つきみ「なんだ~! 虎越さん、ちゃんと考えてるんじゃ~ん! 良かったねっ。ななちゃんっ」
なな子「え? なにが?」
ちぃちゃん「ふぁぁ……」(大きなあくび)
つきみ「んー? ちゃあ眠くなっちゃった!? 帰る!?」
ちぃちゃん「そうですね……。そろそろおいとま致しましょうか」
お風呂場から、『お風呂が沸きました』とアナウンスが聞こえる。
なな子「あっ。丁度お風呂が沸いたみたいです!」
リナ「あ、私、二人を下まで送るついでに車からお泊りセット取って来ます」
つきみ「そ? じゃあ行こっか」
ちぃちゃん「あ、待って下さい。食器とか片付けないと!」
つきみ「あっ! そうだね」
なな子「いいですよ! 私やりますから!」
つきみ「えー!? いやでもななちゃんは手が……」
なな子「大丈夫ですよっ! もうこんな時間だし、旦那さん心配してるかもよ? はやく帰ってあげて? ねっ」
ちぃちゃん「ななさん……」
リナ「なな子、片付けは私がやりますから。ほら二人とも、出るお仕度なさって下さい」
つきみ「はっはいはいっ」
ちぃちゃん「お二人とも、すみませんっ」
なな子「なんのなんのっ。コタツ、ありがとうございましたっ! 今日もとっても楽しかったですっ」
つきみ「次はもっとゆっくり話したいなぁ」
ちぃちゃん「そうですね。次はみんなでお休み合わせましょう」
リナ「行きましょう。なな子、片付け無理にやらずに座って待ってて下さい」
なな子「は、はいっ……」
つきみ「おやっすみー!」
ちぃちゃん「おやすみなさい。また会社で」
三人、玄関から出て行く。
なな子「……ふぅ」
虎越のマンションの地下駐車場。
なな子の友人、柏木 リナと息成 つきみと東宮寺ちやこが楽しそうに会話をしながら、エレベータの中から出てくる。
つきみ「んーっ。あんまり飲めなかったな~」
ちぃちゃん「つきさんは明日仕事でしょう!? あの位でいいんですよ」
つきみ「えー!? でーもー」
リナ「お二人とも。寒いのでお気をつけて」(つきみのほどけたマフラーを直してあげる)
つきみ「うんっ。あは、ありがとねっ。虎越さんにさぁ、色々とごめんなさいって言っといてっ」
リナ「ふふ、はい」
ちぃちゃん「? なんか、向こう騒がしいですね……」
リナが止めていた車の近くで、知らない男二人が口論していた。
つきみ「うわ、あれケンカ? リナさんの車の近くじゃない? 大丈夫?」
リナ「アッ。結構殴り合ってませんか?」
つきみ「ちょっと……!? ヤバいってあれ! 人呼ぶ!?」
ちぃちゃん「いっ一階の窓口に、警備員の方がいらっしゃいましたよね!? わたくし、呼んできます!」
つきみ「まままま待ってっ。一人じゃ危ないよっ!」
ちぃちゃん「でもはやくしないとっ!」
リナ「やばいです此方に気付かれました」
男二人はリナたちに走って近付いて来た。
つきみ「ちょっ!? に逃げる!?」
ちぃちゃん「ひっ……!」
リナ、つきみとちやこの前に出る。
リナ「お二人は、逃げて下さい」
つきみ「ちょっちょっとリーナ!?」
ちぃちゃん「危ないです! 早くマンションの中に戻りましょうっ! 誰か……っ!」
リナ「っ――男二人くらいなら……っ!」(バックの中に入っているスタンガンを握りしめて)
刃物を取り出した男二人が、リナたちに向かって襲いかかってきた。
つきみ「げっナイフ持って……っ! リナさん……っ!!」
ちぃちゃん「っきゃああああああああああああ……っ!」
リナ「っ――!!」
虎越が横から強烈な蹴りを入れて男二人をかっ飛ばす。
虎越「っ!! ぅらっ!!!!」
つきみ&ちぃちゃん&リナ「っ!?」
コンクリートの上に転がった男二人をまとめて取り押さえる虎越。
虎越「っ――。……またお前らか……っ!」
リナ「虎越さん……!?」
つきみ&ちぃちゃん「虎越さぁんっ!!!!」(歓喜)
虎越「何回やりゃあ気が済むんだよ……」
リナ「あ、あの、私っ結束バンドとガムテ持ってます! 使って下さいっ」
虎越「あ……さんきゅ」
つきみ「えっ。なんでそんなの持ち歩いてるの!?」
リナ「護身用です」
つきみ「護身用!?」
リナと虎越、結束バンドとガムテで、ノビている男二人の両手両足を拘束する。
虎越「っし!! ちょっと、電話します」
リナ「はい……」
虎越、渋谷署に連絡を入れる。
つきみ「虎越さん、手錠持ってないのかな?」
リナ「職務中じゃあ無いですからね……」
つきみ「そ、そっかぁ……」
ちぃちゃん「こ、腰が抜けかけました~……」
虎越「リナさん。タクシー呼んで貰えますか。お二人は帰るんでしょ。怪我は無い?」
リナ「は、はいっ。すみません、私がお酒飲んでなければ、二人を送って行けるのですが……」
リナ、携帯でタクシーの番号を調べる。
虎越「あ、虎越です。すんません、ちょっと暴行で二人……。マルさん居ますか? 慎二か狩野さんでもいーんですけど……。あー慎二は今日日勤か。あ、……は、はい。オレのマンションの下の駐車場に居るんで。……はい。取りに来て貰えませんか。負傷者無し。時刻は今で。こいつら先週もやってて……はい」
つきみ(……虎越さんカッコイイじゃん!)
ちぃちゃん「よかった……。虎越さん居てくださって……ほんとよかったっ……」
リナ「走りに行く前にホームセンターに行かれてたようですね……」
つきみ「あ、布団? 先に買ってきてくれたんだ……」
ちぃちゃん「リナさん、このお布団セットも持って戻れますか? ……あれ? この袋なんでしょ……」(虎越が投げ捨ててた布団セットを拾いに行く。布団のすぐ傍にコンビニ袋が落ちていて、それを拾う)
リナ「あっ。繋がった。……あの、タクシーを一台お願いしたいのですが――」
つきみ「虎越さんっ! 私たち帰っても大丈夫なのー!?」
虎越「あー、大丈夫。こいつら常習だし。……ったく……」
リナ「はい、はい、そうです。では宜しくお願い致します。……虎越さん、タクシー呼びました。すぐ来てくれるようです」
虎越「うん。リナさん、宇佐美にも電話して。リナさんのこと迎えに来て貰って」
リナ「えっ、あ、あの、なな子に……?」
虎越「うん。オレ警察来るまではここ居なきゃいけないから。こいつら目覚ましたら困るし」
リナ「あの、私は、大丈……」
虎越「ちょっと護身術出来るくらいでガタイの良い男二人とやりあおうとしちゃダメだよ。ああいう時はすぐ逃げないと」
リナ「っ……。すみません……軽率でした」
虎越「女の子なんだから」(リナの頭をぽんと撫でて)
リナ「っ……!」
慎二、みんなの背後から自分のバイクを押しながら現れる。
慎二「あれえ? 先輩?」
虎越「? 慎二」
慎二の足元に転がってた男二人を発見する慎二。
慎二「わっ!? なんですか!? あれっ、こいつら先週僕ら捕まえたやつじゃ……」
虎越「丁度良かった。この子うちに連れてっといて」(リナの背中を少し押して)
リナ「っ! あっ、わ私車から荷物出したくて……っ。ちょっと取って来ます!」
慎二「へ? あ? この子たちって、なんですか? 凄い美人揃いですねっ!」
つきみ「だ、だれ?」
ちぃちゃん「知らない……」
虎越「俺の後輩刑事」
つきみ「あっ。そうなんだ!」
ちぃちゃん「こ、こんばんは……」
慎二「かわいい! 先輩! 紹介して下さい!」
虎越「ダメ。二人とも気を付けて。コイツ気が多いから」
つきみ「あたしたち結婚してるんだからっ」(ちぃをぎゅっと抱いて)
慎二「えー!? そんなに若くて綺麗なのに! 旦那さん年上?」
ちぃちゃん「と、年上ですけど……」
虎越「慎二。お前来週も合コン行くんだろうが」
慎二「先輩! 僕今日先輩ん家泊まりますけど!」
虎越「うるせーなー……なんでだよ。あ、リナさん、荷物平気?」
リナ「あっ、はいっ。これで大丈夫です」(足早に戻ってくる)
虎越「慎二。はやくバイク止めてこいって」
慎二「リナ……さん? って、柏木、リナ……さん?」
リナ「はい……って、丸山、くん?」
慎二「わーっ! 柏木リナさんだ! 久しぶりっ」
リナ「は、はいっ。お久しぶり……ですっ」
慎二「先輩! 僕の高校の時の同級生なんですっ! リナさん!」
虎越「あーそうなんだ。ま、いいや。都合いい。上で宇佐美待ってるから。あー慎二、この布団も持ってって」
慎二「え、先輩また布団買ったんですか!? どうせお母さんに燃やされるのに!? まぁでもラッキー! 今日コレ借りますね!」
リナ「えっ?」
虎越「うるせえな……いいんだよ違うよリナさんが今日使うんだから」
リナ「虎越さんは毎晩なな子と寝ているのですから、何個も新しい布団を買う必要は無かったのでは?」
虎越「は?」
慎二「あはは。そうですよお先輩!」
虎越「うるせえ……ほんっとに……。お前今日布団無かったらどうするつもりだったんだよ。なんで……」
慎二「だって今朝からお父さんとお母さんが家で大ゲンカしちゃってぇ。家の中ぐっちゃぐちゃなんですよー。絶対まだお母さん怒ってるだろうし……。家で寝るくらいなら先輩のところが一番安全かなーって。もしまだ布団なかったらソコで買うしなーって! んふふー」
虎越「はぁ……。あ、タクシー来た。二人とも乗って」
ちぃちゃん「はっはいっ。あの、虎越さん! 今日は突然お邪魔した挙句、こんなにご迷惑お掛けして――……っ」
虎越「はい乗った乗った」
つきみ「ちっちょっとっ押さないでっあのっ今度必ずお礼するから!」
虎越「気にしなくていいから。……すいません、お願いします」
ちぃちゃん「お邪魔しましたっ!」
つきみ「お休みなさい! 本当にありがとうっ!」
タクシー、すぐにつきみとちぃちゃんを乗せて出発する。
リナ「虎越さん。このコンビニの袋も虎越さんのですか? ……あ、レディミスト……」
慎二「? え~っ! 先輩女性誌なんか買ってる!」
虎越「あー……」
リナ「ふふふ……。戻って、なな子が写ってるページに付箋貼っておきますね」
虎越「……うん」
慎二「えっ何? 何~!?」
虎越「うるっせえ。慎二はやく行け」
慎二「あっ、僕がこいつら預けときましょうか!? 多分お父さん来ますよ!」
虎越「いーから! しっしっ」
慎二「先輩僕の扱い酷くな~い!?」
リナ「あ、丸山くん、エレベータ来ました。乗りましょう」
慎二「えっ!? でも先輩が……」
リナ「っこれ以上虎越さんにご迷惑掛ける訳にはまいりませんっ! お願いしますっ! (慎二の腕をぐんと引いて無理矢理エレベータに乗らせる) 虎越さん! お先に失礼致しますっ」
虎越「おう。風呂入って布団敷いちゃって」
リナ「はいっ」
リナ、深く頭を下げながら、九階へのボタンを押して。扉が閉まる。
虎越「……フー……。ハァ。……あ、パトカー」
サイレンの音が響く。
なな子「っ!? マルくん!?」
玄関のチャイムが鳴り、なな子が玄関を開けると、そこには満面の笑みで布団を抱えていた慎二と、ばつが悪そうな顔をして寒そうにリナが立っていた。
慎二「やっほ~うっさみ~ん! 今日も可愛いね! お邪魔しまぁす!」
なな子「あっ。お仕事帰りですか?」
慎二「うんっ!」
リナ「只今戻りました……」
なな子「リナさんお帰りなさいっ! 結構時間かかってましたけど……。下でみんなで立ち話でもしちゃいましたっ? ふふ」
リナ「……なな子、すみません。またも虎越さんに多大なるご迷惑をお掛けしてしまいました……」
なな子「えっ?」
リナ「その……。駐車場で突然知らない男性二人に刃物で、その、襲われて……っ!」
なな子「ええええええっ!? ほ、本当ですか!?」
慎二「怖い思いしちゃったね……」
リナ「でもたまたま虎越さんが居合わせて下さって……。助けて頂きました……っ!」
なな子「~っ!! (リナにぎゅっと抱きついて)リナさんも、ちぃちゃんもつきちゃんも無事だったんですね!?」
リナ「は、はい。どこも怪我はありません」
なな子「そっか~!! よかった……っ! っ! 虎越さんは?」
慎二「下でパトカー待ってます。暴行犯引き渡したらすぐに戻って来ますよっ。常習犯だったし。あいつら、先週もやらかしてたんで……! 今度こそ反省させなきゃ!」
なな子「お迎えに行った方がいいんじゃ……」
リナ「だっダメです! わたしたちはここで待ちましょう! 先にお風呂に入ってお布団を敷いて! これ以上虎越さんに余計な労力をかけさせてはいけませんっ! ほら、丸山くん、奥のリビングにお布団運んで下さい」
なな子「?? は、はい……なんか、リナさん、変」
慎二「やっぱむっちゃ怖かったんじゃないですかね?」
なな子「そうですか……私もお見送りすればよかったな……。虎越さん……」
慎二「ん~まあ先輩は大丈夫ですよっ! 待ってましょっ! よいしょーっと」
みんなで奥のリビングへ。
リナ「丸山くん、コタツを片付けてここに布団を敷きたいので。お皿など全てキッチンに運んでいただけますか」
慎二「は~いっ♪」
なな子「マルくん、お腹空いてますか?」
慎二「うん! なにかある? 余り物でいいんだけど……」
なな子「カニ! ありますっ!」
慎二「カニ!? やった~! カニッカニッ♪」
リナ「ではなな子は丸山くんの食事のお仕度をお願いします」
なな子「了解ですっ」
慎二「ごはんも炊いてあるのー?」
なな子「ありますよっ! ごはんもよそいますね!」
慎二「わーいっ。僕今日お昼サンドイッチ二個だけだったから~お腹ペッコペコなんだよ~」
なな子「カウンターにご用意しますね! はいっ先にお茶!」
慎二「ありがと~」
リナ「丸山くんお早くっ! 虎越さんが帰ってくる前に綺麗にしておきたいんですっ!」
慎二「え~? なんで~? なんの使命感~!?」
リナ「いいから運んで下さい」
慎二「は~い~」
慎二が食器やグラスを運び、リナが洗い物をする。
リナ「あれ……? そう言えば先程丸山くんも本日虎越さん家に泊まりたいなどとおっしゃっていましたよね?」
慎二「はい。そうですよぉ。いましたがぁ?」
リナ「……丸山くんのお布団もここに敷けばいいですかね」
慎二&なな子「えっ?」
リナ「? なにか間違えましたか」
なな子「あ、あの、やっぱりお布団もう一セット買って来た方がいいんじゃ……」
リナ「? 何故ですか?」
慎二「布団は足りてるよ?」
なな子「いやっ!? だってっ今日四人ですよね!?」
リナ「はい」
慎二「四人だねー」
なな子「私と、虎越さんと、リナさんと、マルくん……」
リナ「布団は足りています」
なな子「待って~! 足りてないっ! そこに転がってるのは!」
リナ&慎二「二つー!」
なな子「虎越さんの寝室にあるのはー!」
リナ&慎二「ひとつー!」
なな子「ほらあ!」
リナ「?? なな子、頭がおかしくなったんですか?」
慎二「うさみん、先輩のことイヤになっちゃったの?」
虎越、帰ってくる。
なな子「えっ!? そっそんな訳ないです!! 私は虎越さんのこと……! 好きなままです! 今も昔もずっと……っ!」
虎越「そ……っ……んんっ」
慎二「あー先輩」
リナ「お帰りなさい」
なな子「っ!?!? 虎越さんっ!? あっ、あのっ、大丈夫でしたか?」
虎越「あ、ああ。マルさん来てくれたから。すぐ持ってってくれた」
なな子「あっ、あの……っ」
虎越「なんだ。片付けよかったのに……。リナさん風呂入っていいって……」
リナ「すっすみませんっ! 段取り悪くて……っ! 遅くてごめんなさいっ! すぐにやりますからっ!」
虎越「いや別にゆっくりでいいけど……」
なな子(リナさんなんであんなに動揺してるんだろ?)
リナ「あのっ! ではっ! わたしお先にお風呂お借りします……っ! お風呂順番に入って行かないとっ!」
なな子「あっ……! リナさん! なにか必要なものがあればおっしゃってください……っ!」
リナ「後でドライヤー貸して下さいっ」
なな子「はーい。用意しておきますね。あ、タオルなどは脱衣所にあるものをお使いください」
リナ「はいっ」
リナ、お風呂場へ。
なな子「虎越さん。温かいお茶どうぞ」
虎越「ありがと」
虎越、なな子が作業している目の前に座る。
なな子「マルくん。そこもう私やりますから大丈夫ですよ! カニ鍋もうすぐ茹で上がるので、お先にビールとお吸い物とお野菜の天ぷら! 今サッと作ったものですがどうぞ~」
慎二「わ~! すご~い! これ、サッと作れるもん!? あ~天ぷらはごはんと一緒に食べた~い」
慎二、いつも虎越が座っている席に座る。今の虎越が座っている隣の席。
なな子「は~いっ。今よそっちゃいますねっ」
慎二「いただきま~すっ! はむっ! ウんマ~っ!! ん~っ! 先輩はうさみんの料理毎日食べれていいなぁ~! 僕もこんなに可愛いお嫁さん欲しいなぁ~っ!」
なな子「!?」
虎越「慎二お前ソレ食ったらすぐ帰れよ」
慎二「え、なんで!? なんで!? やだよ!」
虎越「やだよじゃねえよ。布団ねーし」
慎二「あるじゃん! あるでしょう!? ワン・ツー・スリーあるじゃんヌ!」
虎越「いや四人じゃんヌ」
慎二「いやっだってっ先輩はうさみんと一緒に寝るんだしぃ……!」
虎越「今日はななの友達来てるし! 無理!」
慎二「いや~! ななの友達おれの高校の同期だしんヌ!」
なな子「ヌってなんですか?」
虎越「宇佐美。オレ布団敷いちゃうから。今夜からはリビングで寝な」(自分の湯呑をカウンターの上に置く)
なな子「え、あ、はい……」
慎二「うさみん可哀想!!」(ジョッキをドンッと置いて)
なな子「えっ」
慎二「今日も先輩と一緒に寝たいよね!?」
なな子「あっ……えっと……」
慎二「お願いだよう~! 先輩にお願いしてよう~っ! 僕今日家帰れないし~!」
虎越、コタツの上にあった最後のゴミや食器を片付けてキッチンの中に持ってくる。
なな子「そ、そうなの? 虎越さん、マルくん事情があるみたいですよ?」
虎越「知るか。ネカフェにでも泊まれ」
慎二「やだよぉ~っ! 可愛がってよお~っ! 愛が足りないよぉぉぉぉ」
なな子「マルくん。ロールケーキが一つ余ってますよ」
慎二「食べるう!!」
なな子「ふふ。はい、……お鍋。熱いから気を付けてね」
慎二「はわ~っ! 天使かぁ~っ」
虎越、コタツをどかして布団を敷いてる。
慎二「……っ! 先輩っ! 布団と布団の間! もっと隙間開けて下さいっ! リナさんが照れちゃうでしょ!」
虎越「なんでだよ。別にリナさんと宇佐美ならこれ位でいいだろ。友達なんだから」
慎二「ちぎゃあう!! くっそおおー! ごはん食べ終わったらすぐにそこで寝てやるう! ぎゃーお! ぎゃーお!」
なな子「あはは……。マルくん、歯は磨いた方がいいと思います。スーツも皺になっちゃいますよー」
虎越「お前本当に迷惑だから帰れよ」
慎二「(カニ食べながら)先輩、Tシャツ貸してください! ジャージも!」
虎越「っだから!」
慎二「む~! いいもん! 先輩が服貸してくんないなら! うさみんの服借りちゃうんだから!」
なな子「あっ。大きいサイズのもありますよ! 私がたまにパジャマにしてるやつ!」
慎二「ありがと~っ!」
虎越「っダメだ! なにも貸すな!」
なな子「えっ、なんで?」
慎二「先輩! 大丈夫ですよ! 胸元の匂いとか嗅がないから!」
虎越「っそういう問題じゃない! お前後で楪さんに電話してやるからな!」
※楪。慎二の母。なんでもハサミで切り刻む鬼嫁と噂されている。
慎二「ざんね~ん! お母さんが厳しいのはお父さんにだけで~す! ハッ! お母さん来たってね! 先輩の立場は変わんないんですよ! こないだ家族会議したんですから!」
虎越「は?」
慎二「うさみんについて!」
なな子「私!?」
慎二「満場一致でうさみんを先輩のお嫁さん候補にすることが決定しました!! (拍手しながら)オメデトウ!! 丸山家は、先輩の幸せな家族計画を応援します!」
虎越「てめ……っ! 何勝手なこと……っ!」
なな子「っ……」(照れてる)
虎越「おい……。宇佐美もなんか言えよ。今日はリナさんと一緒にリビングで寝るだろ?」
なな子「わ、私は……っ」
慎二「っ! じゃあまずリナさんに聞いてきます!」
慎二、お風呂場に駆けてく。
虎越「えっ!? あっ! おい慎二!」
なな子「マルくん……!?」
慎二、風呂場の扉をドンドン叩いて。
慎二「リナさーん!! リナ! さんっ! リナ! きゅん!!」
虎越「酔っ払いかあいつ」
なな子「マルくんてお酒強いんじゃなかったでしたっけ」
虎越「いつも酔ってるよーなもんじゃん……」
なな子「そ、そうですね」
リナ、シャワーを止めて扉を少しだけ開けて顔を覗かせる。
リナ「はい? どうしました?」
慎二「先輩が今日もどうしてもうさみんと同じベッドで寝たいって言ってるから僕と一緒にリビングで新しいお布団で川の字になって寝ましょう!! 願います!!」
リナ「はい、わかりました。いいですよ」
慎二「ありがとうございます!!」
慎二、走って戻ってくる。食事再開する。
慎二「って訳で僕はこっちで寝ますので!!」
虎越「オイコラ」
なな子めっちゃ笑ってる。
慎二「な、なに? 許可取ったよ!」
虎越「許可ってまあ百歩譲ってリナさんが良かったとしてもオレがよくないんだよ」
なな子「私のことイヤだって……」
慎二「っえー!? 先輩最悪! こんな可愛い子捕まえて! なにー!? ちょっとおーっ」
虎越、慎二の足を軽く殴る。
慎二「ちょっと! 暴力!? ななちゃんこの人暴力してきます! 痛く無いけど! 男相手に寸止めする普通!? 優し過ぎでしょ!」
虎越「っ!!」
虎越、ちょっと強めに慎二の背中を何度か殴る。
なな子「やめてあげてw」
慎二「おー。ちゃんと殴られました」
なな子めっちゃ笑ってる。
なな子「よかったねw」
慎二「わかった。わかった。あのね、じゃあさ、今さ、二対一じゃん?」
虎越「へぇ!?」
慎二「だからさ。ここはアレですよ。うさみんの意見をーちゃんと聞いてさ、決めよ? それでね、うさみんがリナさんと一緒に寝たいですって言ったらもう僕は泣く泣く……」
虎越「帰るんだな?」
慎二「いや帰れないから! 帰れないから布団買ってくるよ! そんで、あっちのギターとかドラムとか置いてある暖房の無い部屋で寝ますよ!」
虎越「既にそれでいいじゃん! もう。それだよ! それがいい! そうしろ!」
慎二「はい。(手を大きく一回叩いて)ってーことで僕はちょっとトイレ行ってくるんで。うさみん! 先輩にちゃんと言っといて下さいねっ! んではっ」(トイレへ行く)
虎越、慎二が食べ終わったお皿だけ持ってキッチンに入って行く。
虎越「え? え、いいよね?」
なな子「え?」
虎越「リナさんと一緒のほうがいいだろ?」
なな子「私は……」
虎越「ん……」
なな子「あの、虎越さん……。私……は」
なな子、虎越にそっと近付いて、ほんの少し手に触れる。
二人の距離が、うんと近付く――。
虎越「っ――……」
なな子「わたし……」
虎越「うさ……」
なな子「虎越さんと……っ、い、一緒に、ぃ、いたいです……」
虎越「っ!!」
困り顔で、泣き出しそうな、潤んだ紫の瞳に――吸い込まれそうになった。
つい力が入り、まだ火傷が治っていないなな子の手の平を強く握ってしまう虎越。
なな子「いっ痛っ!」
虎越「あっ……!? ご、ごめん……っ! ごめん……」
なな子「だ、大丈夫です……」
彼女の頭をそっと抱いて。
なな子「っ……!」
虎越「……誤解、されてもいいのか?」
なな子「誤解……?」
虎越「だって、付き合って無いんだし……」
なな子「あっ……!? あ、ああっ! そ、そうですねっ! すみません、私……っ。考えなしでした……っ! ごめんなさいっ……!」
虎越「……宇佐美……」
なな子「私っ。虎越さんを困らせたかったわけじゃ……っ!」
虎越「……今日も一緒に、寝るか……」
なな子「え!? っでも、虎越さん、あのっ!」
虎越「布団も足りないし……。その、」
なな子「……っ」
虎越「俺も、一緒にいたいから……」
なな子「え……」
虎越「でも、出てくんだろ? もうちょっとしたら……」
なな子「は、はいっ……! ここ出て行ったら、もう、虎越さんには関わりませんから……っ! ご迷惑掛けたり、助けていただくことは、もうっ無いようにしますから……っ!!」
虎越「――……」
彼の手も身体も離れて。
なな子「虎越さん……?」
虎越「……なんでそんなこと言うの」
なな子「え?」
虎越「……慎二の着替え、取ってくる」
俯いて。虎越、寝室へ行ってしまう。
なな子「あっ……とっ……」
慎二、トイレから出てくる。
慎二「あ~、出た出た。たっぷりたっぷりうんちっち……あれ? うさみん? 話終わりましたっ?」
なな子「マルくん……」
慎二「先輩は?」
なな子「ま、マルくんの着替え? 取りに行ってくれたみたいです!」
なな子、次の慎二の話の途中で虎越の所へ行ってしまう。
慎二「なぁんだ~やさし~い。流石うさみん。先輩、うさみんのお願いだったらなんでも聞いてくれるでしょ~? じゃあ僕、リナさんお風呂から出たら次入らせて貰おうかな~? あっ、うさみんは先輩と入るっ……あれ? うさみん? あれ? おーい」
寝室。
虎越は低い位置にあるタンスを開けて、慎二に渡すTシャツとジャージを用意していて。
半開きになっていた扉を控えめにノックしてから、なな子は声を掛ける。
なな子「あの……虎越さん」
虎越「ん……。これ慎二に渡しといて」
彼は振り返らない。
なな子「あ……。ありがとうございます。渡しておきます」
虎越「……」
はじめて見る寂しそうな背中が、どうしてか凄く気になって。
なな子「虎越さん、あの、」
虎越「オレやっぱ走ってくるから。宇佐美先に寝てて。風呂、一人で入れる?」
彼は振り返らない。
なな子「っ……はい……」
虎越「……先に寝てていいから」
なな子「あの……っ。帰って来ますよね?」
虎越「……うん」
虎越、立ち上がって。出て行こうとする。
なな子「あの……っ!!」
虎越が着ていたパーカーのフードを、力強く引っ張った。
虎越「っ! な、なに、どした」
なな子「ぃ、行かないで……くださいっ……」
手を離して。俯いたまま、じわじわと泣き出してしまうなな子。両手をぎゅっと握って。掌に爪を立てる――。
虎越「……っ。なんで」
なな子「い、いつも、迷惑掛けてばっかりなのに……。虎越さんはどうしてっ……優しい言葉ばっかり、なんですかっ……!」
虎越「……別に傷付ける理由なんかないし……」
なな子「どうしてはやく出て行けとか言ってくれないんですか……っ!」
虎越、振り向いて。両手で顔を擦っているなな子の頬に、そっと触れた。
虎越「……オレは……」
なな子「私……っ。虎越さんに、いつも身体洗ってもらえるの、う、うれしくて……っ」
虎越「……」
なな子「包帯取れちゃった時とか。服着る時とか……靴履く時とか、ごはん食べる時も、いつも……手のこと気にして貰って……すごく、うれしかったんです……」
撫でたなな子の頭に、自分の頭をくっつけて。そっと目を閉じる。
なな子「あの……」
少しだけ離れて。彼女の紫の瞳を見詰めて。
虎越「そんなふうに、言わないで」
なな子「っ……ご、ごめんなさい……」
虎越「オレだって……。っ……」
なな子「あの……っ! 私、手が治ったら! 虎越さんにしてあげたいこと、二つあって……!」
虎越「なに……?」
なな子「えっと……。手の込んだお料理、もっとたくさん作って。それで、もっと、虎越さんに食べて頂きたいなって……」
虎越「……うん」
なな子「あ、あとはね、」
虎越、手で押してドアを閉める。
虎越「……あとは?」
なな子「っ――!!」(顔を真っ赤にして)
虎越「?」
なな子「やっやっぱりっちがっ、いっ、いいっ、ですっ! まちがいっ」
虎越「なんだよ。ちゃんと言って」
なな子「いやっ、なんかずっとそう思ってたんですけど……っ! なんかやっぱりおかしいのでっ! いっいいっです!」
虎越「……聞いてからオレが決めるから」
なな子「なっなんで!?」
虎越「いいだろ別に」
なな子「だめですっ……! だめっ! わ、私もう寝ますっ!」(慎二の着替えを虎越に押し付けて、ベッドの布団の奥に潜り込んで)
虎越「おい……」
なな子「ぉ、おおやすみなさいっ!」
ななの隣に座って。
隠せていない彼女の頭を撫でる。
なな子「うぅ……」
虎越「手が、治ったら?」
なな子「かっ肩もみ!」(がばっと飛び起きて)
虎越「オレ肩凝らないしなぁ」
なな子「お掃除!」
虎越「んー」
なな子「お料理頑張ります!」
虎越「うん楽しみにしてる。で、もういっこは?」
なな子「うううう……」
虎越「くすぐるぞ」
なな子「っ!? やっややです!!」
虎越「こっちはお前の弱いとこ全部知り尽くしてるからな」
なな子「~!? ひっ卑怯です~! 警察官なのに~!」
虎越「っ」
なな子「……ゎ、わたし、ずっと……。……っ」
虎越「……うん」
なな子「とっ……と、虎越さんに、お礼したくてっ……。それで、ずっと、……手が治ったら……。こ、今度は虎越さんのこと……。ぁ、……洗ってあげたかったんですけど……」
虎越「っ……」
なな子「でも、あの、ほんとは……」
二人の距離が少しずつ近付いて。
なな子「手が治ったら……。と、虎越さんに、ちゃんと……触りたくって……」
虎越、彼女の唇に自分の唇を重ねる。
なな子「んっ……」
虎越「……っ」
なな子「……」
虎越「……」
そっと離れて。
なな子「っ……とっ……虎越、さん……あ、あの、あ、の」
虎越「っ! ご、ごめ……っ」(口元を押さえて彼女から離れようとする)
なな子「えっ……。あ、謝らないで下さいっ!」
虎越「っ……」
なな子「謝らないで……下さい」
彼女の頬に触れて。噛みしめるように笑った。
虎越「……わかった」
なな子「虎越さん……」
起き上がって。照れる気持ちも、胸の高鳴りも抑えながら、彼の傍へ。
なな子「っ――」
虎越「っ――」
すこし震える彼女を、優しく抱き締める。
虎越「なな……」
なな子「っ……大好きです」
虎越「うん……オレも……」
リナ、虎越となな子が居る寝室のドアを軽くノックする。
虎越&なな子「っ」
慎二、強めにノックする。
リナ「虎越さ……」
慎二「せんぱーい!!!! ぱんつ貸してくださいー!!」
なな子&虎越「っ!!」
もう一度触れ合いかけた唇と唇も、身体ごと瞬時に放すななと虎越。
虎越「んん゛っ……! ゲホッゲホッ」
なな子「っ! ま、マルくん……っ! 今持って行きますっ! 先にお風呂に入っててくださいっ! 脱衣所に着替えまとめて持って行くので……っ!」
慎二「あっ、了解で~すっ! ありがと~っ! じゃあお先にいただきま~すっ」
リナ「あの、お風呂ありがとうございました!」
なな、ドアを開ける。
なな子「っ。どう致しましてっ!」
リナ「えっと……。なな子は虎越さんと一緒に入るんですよね?」
なな子「えっええっ!?」
リナ「え?」
虎越「え!?」
リナ「え?」
なな子「いっ一緒になんて入らないですよ~! リナさんてば何言ってるんですかっあはは……」
リナ「でもなな子は手が……」
なな子「あ~っ! そ、そうですよねっ! き、き今日は一人で頑張らずに、リナさんと一緒に入れば良かったなぁ……っ! そうすれば背中流していただけたのに~っ! あははははっ」
リナ「……。丸山くんが、なな子は両手火傷しているからって……虎越さんに毎晩お風呂や着替えを手伝っていただいていると、仰っていましたよ」
なな子「っ!!」
なな、虎越を見て顔を歪める。
虎越「あ……あー……えっと」
リナ「ドライヤー、お借りしても宜しいですか?」
なな子「あっ! は、はいっ! どうぞ! ってかここ使って下さいっ! わっ私が髪乾かすの! おて! おてつだい! しまっ……!」
ドレッサーの所に置いてあったドライヤーをリナに手渡すなな。
リナ「いえ……私は、脱衣所の所にある洗面台お借りします。お二人はごゆっくり。あ、それ、丸山くん用の着替えですか? お預かりします」(慎二に用意した着替えを受け取る)
なな子「あっ! リナさ……っ!」
リナ「失礼しました」
ドアを閉めるリナ。
なな子「あぁ……」
微妙な空気になる。
虎越「……気ィ遣われちゃったかな……」
なな子「っ虎越さんっ!」
虎越「は、はい」
なな子「……っみ、みんなに言われました……っ。もうちょっと甘えてみたらどうだって。だっ、だから……あのっ、でも、あの、……っどう……したらいいですかっ」
虎越「……いいと、思う。……すきに、甘えれば」
ななの指先に触れて。手を取ろうとする。
なな子「私が……殺人犯の、娘でも?」
虎越「……――関係無いよ。それに、そうじゃないかも知れないんだし。あんま気にすんな」(彼女の頭を撫でる)
なな子「っでも! 虎越さんも、私のこと今でも疑ってますよね……?」
虎越「……いや」
なな子「?」
虎越「お前は、二十二年前も、あの時の誘拐事件の時も。巻き込まれただけだよ」
なな子「っ……私の言ったこと、信じるんですか……?」
虎越「ああ。信じるよ」
なな子「どうして……?」
虎越「勘と経験?」
なな子「っ……」
虎越「お前、おっちょこちょいで恥ずかしがり屋なんだもん。一週間以上一緒に居て、ずーっと鈍臭いんだよな。裏表無いし。気ばっか遣って。優しくて。弱いだけ」
なな子「そっそんなに!? そんなに鈍臭いです!?」
虎越「その両手が証拠だろ?」
なな子「ううう……っ!?」
虎越「長年料理やってんだから。火が熱いってことぐらい知ってんだろーが」
なな子「ご、ごめんなさい……」
虎越「オーブンの中の鉄板とか、素手で触ったりしねーだろ?」
なな子「は、はい……」
虎越「だから。バカで鈍臭いお前が、あいつを容易く誘拐出来るとは、オレは思えない」
なな子「でっでも! 私っ……! 妃さん位になら……! 関節技で勝てます!」
虎越「間宮と辰賀には勝てないだろ? 体重だって全然違うし。何よりあの二人は実践経験だってある。お前じゃ勝てない」
なな子「っでも!」
虎越「なな!!」
なな子「ッ――」
虎越「自分のこと、もう疑うな」
なな子「……でも、でも、」
虎越「オレが、お前の本当の両親……必ず見つけるから」
なな子「っ……」
虎越「どこに居るのか……まだわからないけど……でも、きっと。きっと見つかるから」
なな子「っ二十二年前の事件の時……。被害者は……五人じゃなくて、七人のはずなんです……っ!! 私の両親だけ、遺体が見付かっていないんです……!! 最初に殺されたはずなのに……!! 警察は見付けてくれなかった……っ!!」
虎越「っ――!? な、なんだよソレ、オレそんなの知らな……」
なな子「雄之助さんも……?」
虎越「なんでずっと黙ってたんだ!」
なな子「だって……っ! 雄之助さんが……っ!」
虎越「マルさんがお前のこと口止めしたのか!?」
なな子「そう……です。両親が消えた時期がおかしいって……。本当に、犯人なのか被害者なのか、わからないからって……誰にも言うなって……」
虎越「宇佐美……」
なな子「……私の証言なんて……誰も信じてくれませんよ。だって、まだ二歳だったんだから。どんなにちゃんと覚えてたって、信憑性ないって……っ」
虎越「……くそ」
なな子「あ、あのっ! 雄之助さんは、私のことちゃんと庇ってくれました! 昔も、今も……。虎越さんだって雄之助さんのこと、信じてるでしょ……?」
虎越「お前が殺人犯の娘なんかじゃないって証拠見付けらんなきゃ、意味無いよ……」
なな子「雄之助さんのこと責めないでください……」
虎越「……っ」
なな子「虎越さん……」
虎越「明日、ちょっと聞いてみる」
なな子「あの、っ……」
虎越「宇佐美は、なんも心配しなくていいから。……お前がビクビクしないで、平和に心穏やかに暮らせるように……。オレが、ちゃんと解決してみせるから。これ以上……お前の人生、誰にも邪魔させない」
なな子「っ……あ、っ私にもなにか出来ることはありませんかっ……!?」
虎越「えっと……」
なな子「っ」
彼女の前髪を控えめに掻き分けて。
虎越「……オレの傍に居て」
なな子「っ……」
虎越「……」
なな子「はい……っ!」
長く触れていると。
手が同じ温度になるんだって……はじめて知った。
つよく、抱き止めた。
【次話に続く】