第二話【男3女5~男1女4可能】~女の逆襲!? とらななチェック!!~約60分前後
第二話
出演CAST(MAX男3女5~男1女4可能)
・虎越 辰哉 (26) ♂ :
・宇佐美 なな子 (24) ♀ :
・丸山 慎二 (24) ♂ :
・丸山 雄之助 (46) ♂:
・狩野 真理恵(三十代) ♀ :
(※狩野さん役は、オバサン演技が出来る方なら誰が掛け持ちしてもOK)
・息成 つきみ (24) ♀ :
・東宮寺ちやこ(ちぃちゃん) (24) ♀ :
・柏木 リナ (24) ♀ :
・ナレーション1(誰がやってもよい):
・ナレーション2(誰がやってもよい):
役解説
・虎越 辰哉 (26) ♂
渋谷署の刑事。刑事課係長。ぶっきらぼうだけど優しくて、真面目で、心根は熱い人。ポーカーフェイス。クール。もう7年も彼女が居ないらしい。丸山親子のようにイタズラをしたり、人が嫌がるようなことはしない。システミカルアロペシア(全身脱毛症)。なな子のことは、自分が彼女に手錠を掛けた過去の逮捕歴のこともあり『教師と教え子』のようなものだと思っている。一緒に暮らす内に徐々になな子に惹かれ始めている。
・宇佐美 なな子 (24) ♀
有名女性雑誌制作会社のウエディングプランナー兼社長秘書。本作ヒロイン。最近は自社の雑誌限定でモデルをやることもある。気弱でか細い女の子。薄いそばかすと紫の瞳と色白なのが特徴的。照れ屋さん。虎越のことを幼少期から知っており、強い憧れを抱いている。気配りが出来て家事も出来る「お嫁さんにしたい」タイプ。悲観的。
・丸山 慎二 (24) ♂
渋谷署の若手刑事。虎越の後輩であり弟分。キャリア。犬っころみたいになつっこい。甘え上手。合コンばかり開いて遊び歩いているらしい。誰にでも優しくて明るい。家族や友人をとっても大切にする。
・丸山 雄之助 (46) ♂
渋谷署の刑事。慎二の実のお父さん。家族や虎越の前ではテキトーな発言が目立つ。刑事課課長。ハードボイルド。不精髭。妻に尻に敷かれている。お小遣いは一日500円。アメリカに居る虎越辰哉の母親、みねねの親友。22年前、親友を何人も殺され、その事件の犯人を個人的に追っている。昔から欲や感情を表にあまりむき出しにしない辰哉のことを、凄く心配してきた。
・狩野 真理恵(三十代) ♀
(※狩野さん役は、オバサン演技が出来る方なら誰が掛け持ちしてもOKです)ベテランの女刑事。昔からずっと渋谷署に居る。世話焼きで母性があり、署のお母さん的存在。
・息成 つきみ (24) ♀
新婚さん。小さい商店街で旦那家族と一緒に果物屋と八百屋を経営していたが、なな子の紹介で一年前ウエディングプランナー兼社長秘書の職に就く。なな子の小学生の時からの幼馴染。じゃじゃ馬。強気。江戸っ子。黒髪ふんわりおだんご頭。ポニーテールなこともある。なな子には昔から恩があり。友人としても同僚としてもなな子の心の弱さをずっと心配してきた。
・東宮寺ちやこ(ちぃちゃん) (24) ♀
新婚さん。お金持ちの家のご令嬢。旦那さんは婿養子。親の偉大さのせいでやや肩身が狭い思いをして生きてきたらしいが、つきみとなな子のお陰で腐らない人生を送れてきた。明るい茶髪リボン型ポニーテール。AJILIAの社長秘書の面接をきちんと受けて入社したのはリナとちやこだけ。他の女の子たちは皆、コネや紹介で雇われている。つきみの良心。常識力が高い、が、なな子のことになると愛情と心配が行き過ぎてちょっと暴力的な発言をするようになる。
・柏木 リナ (24) ♀
独身。恋人なし。男に興味がない? 長身。美女。金髪ゆるふわロール。機械のように喋る時がよくある。つきみ、なな子、ちやことは今の職場で出会い、自然と仲良くなった。今まで友人がほとんど居なかったが四人で女子会など開くことも多く。他人に心の壁を作りやすいリナも、つきみなな子ちやこには腹を割って物事を話すことも多い。警視庁警視総監の娘だという噂がある。色んな車を持っている。就職当初まで、会社への出勤退勤勤務中にもボディーガードを付けられていたが、自分が自由に車を運転したい気持ちと孤独を愛していたこともあり何度か両親にブチ切れ、結果家出。現在は都内某所で一人暮らし中。なな子が火事に遭った時は沖縄へ関東から車で一人旅に出掛けていた。昆虫や蝶も好き。趣味が小学生っぽい。
――再開幕。
ナレーション1「ひょんなことから出会い、ひょんなことから一緒に暮らすこととなってしまった虎越 辰哉と宇佐美 なな子。ななは自宅マンションが火事に遭い、両手を火傷してしまった為。ななの生活をカバーしながらも、刑事としての職務を全うしていく虎越。二人は友人として一定の距離を保ちつつも、徐々に気になる存在になってきてしまい……?」
ナレーション2「っ~そんなこんなでとらななの共同生活は今日で九日目! 有名女性雑誌レディミストのウエディングプラン記事を担当しているなな子は、兼任している秘書課に今日も出勤するやいなや。新婚旅行に出掛けていた同僚の二人に、凄い剣幕で壁ドンされて、おりました♪」
とらななが一緒に暮らし始めて九日目。の昼頃。
つきみ&ちぃちゃん「っどうして何も言ってくれなかったの!?!?」
なな子「えーっと……」
渋谷。女性向け雑誌制作&ウエディングプラン会社AJILIAの最上階。同じ秘書課の友人、息成 つきみと、東宮寺ちやこ(ちぃちゃん)に同時に左右から壁ドンされている宇佐美なな子。
つきみ「電話くれたじゃない!」
なな子「でも新婚旅行中だったんでしょ?」
ちぃちゃん「それでもですわ!」
なな子「ごめんなさい……。でも、幸せいっぱいな所に、水差したくなくて……」
なな子を抱き締めるつきみとちぃちゃん。
つきみ「ななちゃんが不幸続きなのに……ハネムーンになんて行ってる場合じゃないよぉっ……!」
ちぃちゃん「そうです。仕事でもプライベートでも、いつも助けて貰うばかりで、ごめんなさいね、ななさん……」
なな子「つきちゃん、ちぃちゃん、気にしないでっ」
つきみ「気になるよお! 両手に火傷までして! アパートは全焼しちゃって!?」
ちぃちゃん「半年前にケンイチさんとシズカさんが亡くなったばっかりだっていうのに……。ななさんどこまで不運なのよぉ~!」
つきみ&ちぃちゃん「わぁぁあああああん……」
なな子「ちょっちょっとっ! 私は大丈夫ですから! ねっ! 集中してPCに向かっているリナさんにうるさーいって言われちゃいますよっ!?」
三人の少し離れた場所。PCがあるデスクにて、真剣にPCの画面を見ている金髪美少女の柏木 リナ。
リナ「……はい?」(ヘッドフォンを取る)
なな子「す、すみませんリナさん。騒がしくしちゃって……」
リナ「先程程度の騒音は問題ありません。この間買った昆虫のDVDを観ていました」
なな子「勤務中にみんな自由にしてる!」
つきみ「リーナはどう思うの!? ななちゃんの今回の一件について!」
リナ「……そうですね……」
ちぃちゃん「刑事にかくまって貰ってるって言ってましたけど、どうもそいつ信用出来ないと思いません!? 最近は警察官が起こす事件だって多いし! 私たちの大切なななさんに勝手に手ぇ出したらボコボコにしてやらないと!!」
なな子「ひええ!? 誤解誤解!」
リナ「では、直接確かめに行くのは如何でしょう」
つきみ「確かめに……?」
リナ「はい。なな子、今夜わたくし達でお宅にお邪魔しても宜しいでしょうか? 是非その、虎越刑事もご一緒に。五人で鍋でも致しましょう」
つきみ「な、鍋ぇ……!?」
ちぃちゃん「鍋なんて! 仲良しの友人や、家族がやることじゃありませんか!」
リナ「なな子は虎越刑事と仲良くやって行きたいのではありませんか?」
なな子「は、はいっ! 虎越さんは、とてもお優しくて。紳士的で……。私、両手がきちんと治ったら。虎越さんにお礼をしたいんですっ! だから……」
つきみ「むむむ……」
リナ「つきみもちやこも、今回は少し我慢して下さい。なな子がどのように彼と過ごしているのかをその目でしっかりと見れば……。今より納得出来るのではありませんか?」
ちぃちゃん「そう……かも、知れないわね」
つきみ「っそうね!! ってことでななちゃん! その虎越さんとやらに電話してっ!! 今夜友達連れて行きますって!!」
なな子「へっ!? あっ、はっ、はいっ……! いいのかな……えーと」
なな子、虎越に携帯で電話を掛ける。すぐに繋がる。なな子の携帯に一緒になって耳を当てるつきみとちぃちゃん。
渋谷警察署の食堂に居た虎越。交通課のミーハーな女の子たちに手を振られ、彼女らに会釈しながらななと通話をする。
虎越『はい。宇佐美?』
なな子「はっはいっ! 虎越さん! あの……っ! すみません! 突然お電話してしまって……っ!」
虎越『いや別に平気だけど……どうした……?』
つきみ(好きだって言ってみて!)と、ななに耳打つ。
なな子「えっ? あっ、虎越さん! 好きです!!」
虎越『はッ!? はっ、んっ!?』(携帯を落とす)
なな子「……虎越さん!?」
虎越『っ……(携帯を拾い上げて)な、なに……? どうしたんだよ急に……』
ちぃちゃん(びっくりした? って聞いて下さいまし!)と、ななに耳打つ。
なな子「びっ、お、驚きましたか……?」
虎越『うん……』(早足で署内の奥へ。人気のない広い階段。地下へ)
つきみ(よかった!)と、ななに耳打つ。
なな子「……っ。……あの、……虎越さん……」
つきみとちぃちゃん、ななからすこし離れて。
なな子、部屋の隅に行き、しゃがむ。
虎越『オレは……オレ……あの……』(動揺しながらも、今の自分の気持ちを正直に伝えようとする)
なな子「今日! 友達が、その、どうしても虎越さんと一緒にお鍋したいって言ってて……」
虎越『ん、鍋……?』
なな子「あのっ! 私の幼馴染なんですけど……。火事に遭ってから虎越さんにお世話になってるって言ったら……お家を見たいって言われて……。今夜」
虎越『今夜!? ちょっと待ってよ。布団無いことはなんて言うつもりだ!?』
なな子「ああ……っ!」
虎越『せめて来週とかにして貰ったほうがいいんじゃないか?』
なな子「そ、そうですよね、突然今夜なんて言っちゃって。非常識でしたね!」(混乱)
虎越『もしかしてオレ彼氏だとかって疑われてる? うーん……。オレが夜勤専で宇佐美と生活リズム違うとかって言うとか……っつってもなんか無理あるか……』
なな子「えーと……ちょっと待って下さいね。あの、みんな、虎越さんは私の恋人じゃ無いんですけど……」
つきみ&ちぃちゃん「っだから問題なんでしょ!!!!」(電話越しの虎越に聞こえるくらいのボリュームで叫ぶ)
なな子「っ……あ、あの……」
つきみ「ゲスじゃない男かどうかが知りたいの!!」
ちぃちゃん「っそう!! 過激なSMプレイグッズとかが無いかチェックしてやります!!」
虎越『成程……』
リナ「なな子、代わって下さい」
なな子「は、はいっ。あの、虎越さん。同じ秘書課の方とちょっと代わります」
虎越『え、あ、うん』
リナ「はじめまして。わたくしAJILIAコーポレーション、ウエディングプランニング企画部、妃様専属秘書課、秘書グランドSVの柏木 リナと申します。虎越 辰哉様の携帯電話で宜しいでしょうか」
虎越『は、はい』
リナ「妃社長からの命令で。今夜、虎越様のお宅に鍋の具材を持って十八時に参ります。突然の訪問をお許し下さい」
虎越『妃の手下か……』
リナ「妃社長の代わりに伺います」
虎越『わ、わかった。わかった……。いいよ。どうぞどうぞ。どうせ元々うち色んな人の出入り激しいし』
リナ「かしこまりました。では、食材につきましてお好みなどございましたら宇佐美の携帯にメールにてお願い致します」
虎越『はぁ、はい』
なな子「虎越さんはカニが食べたいって昨日言っていました!!」
虎越『ちょっと!?』
リナ「了解です。今から市場に行きましょう」
なな子「やったーっ」
つきみ&ちぃちゃん「カーニッカーニッ」
リナ「虎越様。それではまた後で。失礼致します」
虎越『あー……はい……』
通話を切る。
なな子「っ妃さんって……京都に長期で新婚旅行行ってますよね……。リナさん、連絡取ったんですか?」
リナ「いえ。わたくしが社長とお言葉を交わしたのは、二週間半前の夕方四時頃が最後です」
なな子「ってことは……。アレ?」
つきみ「ななちゃんコート着てーっ!」
なな子「ふぁっ!?」
ちぃちゃん「お酒も買わないとですね!」
リナ「卓上コンロはあるのですか?」
なな子「あっあります!」
つきみ「コタツは!?」
なな子「こっコタツ!? ないです!」
つきみ「えっコタツない!? 買おう!」
なな子「えええ!?」
つきみ「引っ越し祝いっていうか火事にあってから家具とかろくに揃えてないんでしょう!?」
なな子「そ、そうだけど……」
リナ「ではわたくしのトラックを呼びましょうか?」
なな子「トラック!?」
リナ「新しいアパートはいつ頃見つかる予定なのですか?」
なな子「大家さんが、三週間は欲しいって言ってたから……あと二週間前後はかかっちゃうみたいです」
リナ「そうですか……」
四人ともコートを着て。自分の鞄を持って。タイムカードを切って。地下駐車場へのエレベーターに乗り込む。
なな子「あっ。でも! 家具家電つきのお部屋をお願いしたのでっ!」
リナ「すみません。うちに泊めてあげることが出来ず……」
なな子「いっいいんですよっ! 私、リナさんのお家のワンちゃんたちにかなり嫌われてますから……」
リナ「なな子が来ると夜も吠えてますしねぇ……」
つきみ「ごめんね、うちも無理で……」
ちぃちゃん「うちも……ごめんなさいね。三世帯ですし、介護もあるし……部屋数は多いけれど……両親が厳しくて……」
なな子「二人は新婚だもんっ! いいのいいのっ!」
リナ「どこか部屋をすぐに借りれたとしても……。なな子はその手では一人じゃ出来ないことがありますしね……」
つきみ「着替えとか?」
ちぃちゃん「お風呂とか?」
なな子「っ……」
つきみ&ちぃちゃん「あれ……?」
妙な空気が流れる。
つきみ「っやっぱり変態なんじゃないの~!?」
ちぃちゃん「あやしいです!!」
エレベーターから出てリナの車に向かって歩いて行く四人。
なな子「ちっ違うっ! 虎越さんはいい人だもん!」
ちぃちゃん「いい人演じてるんじゃありませんの!?」
なな子「えええ~っ!? そ、そんなこと無いのにぃ……」
リナ「虎越刑事の階級は?」
なな子「えっと……警部にあがった? って、言ってたかな」
つきみ「警部って下から何個目? 一番下ぁ!?」
ちぃちゃん「一番下は巡査? とかじゃありませんでしたっけ」
リナ「ノンキャリアですか?」
なな子「えーと、高卒だと仰ってたので……多分そうですね」
つきみ「え~!? 高卒~!? なな子、やめときなっ!」
なな子「え?」
リナ「虎越さんはお幾つですか?」
なな子「私の二個上なので……二十六歳……ですかねっ」
リナ「ノンキャリで二十六の若さで警部の役職まで上るのは相当優秀な方でないと出来えないことです」
つきみ「えっ」
ちぃちゃん「そうなの!?」
リナの車に乗り込む四人。リナが運転席。なな子が助手席。後ろにつきみとちぃちゃんが乗った。
リナ、エンジンを入れてすぐに発進する。みんなシートベルトを締める。
なな子「あ……。警察官って、毎年、昇進試験があって。それ毎回受かってるみたいです。っ凄いですよね!」
つきみ「へぇ~……」
ちぃちゃん「警察官って何? 国家公務員?」
つきみ「年収いいの!?」
なな子「お、お金!?」
リナ「警察官の平均生涯推定年収は三億八百九十四万円と言われています。退職金を含めればもっと上がります」
つきみ「はぁ?」
ちぃちゃん「億ー!?」
なな子「そ、そんなに……?」
つきみ「ハッ! 金があるからなんだっていうのよ! 我々は彼の人格を調査しに行くのですよ!」
ちぃちゃん「そうですーななさん。お金だけいっぱいあったって意味ありませんから! 重要なのは愛とか! 常識力とか! ななさんだって稼いでるんですし! お金に釣られたりはしないでしょうっ!?」
なな子「そ、それはそうですけど……。なんだか勢いだけでこんなんなっちゃいましたけど……。虎越さん、絶対困っただろうなぁ……」
リナ「大丈夫ですよ。なんの得も無いのにただの知り合いだというだけでなな子をかくまっているような心の広い方ですよ? 今夜のことだって別になんとも思っていないはずです」
なな子「そ、そうかなぁ……?」
リナ「男前でハスキーで優しい声でしたし」
つきみ「イッケメン!?」
なな子「すっスキンヘッド!」
つきみ&ちぃちゃん「スキンヘッド!?」
なな子「システミカルアロペシアなんですって」
つきみ「は?」
リナ「全身脱毛症……ですか?」
なな子「それですそれです! すべすべなんですよ! 男の人なのに! 顎とか! つるすべ!」
ちぃちゃん「えっどこもかしこも!?」
つきみ「あそこは!? あそこも!?」
なな子「あっあそこ!? あっあそこも!? あそこって!?」
リナ「そこも今日確かめるんですか?」
なな子「え!? みんなでお風呂に入るの!?」
つきみ「いやそれは流石に悪いわ……。こっちが襲っちゃってるみたいな図になっちゃうじゃん」
ちぃちゃん「ななさんは、別に異性として見てる訳じゃないんでしょ? 虎越さんのこと」
なな子「……えっ?」
リナ「え?」
つきみ「え?」
ちぃちゃん「え?」
なな子「えええっ!? いっ、いせい!? いせいって!?」
ちぃちゃん「えっ!? 恋人にしたいかどうかってことですが!?」
なな子「こっ恋人ー!?!? そっそんなっ! 恐れ多い! 私が!? 虎越さんは神様なのに!?」(むっちゃ暴れる)
リナ「なな子。危ないです。落ち着いて下さい」
ちぃちゃん「神様って!?」
なな子「神様なの……」
つきみ「どういうことなの……?」
ちぃちゃん「好きなの!? 嫌いなの!?」
なな子「きっきききらいなわけないじゃないですか! 神様だよ!?」
ちぃちゃん「神って何!? そう思ってくれって言われましたの!?」
なな子「違うーっ! 私が勝手にそう思ってるだけーっ!」
つきみ「ななちゃんそんなんでいつも彼とどうやって会話してるの!?」
なな子「え、えっと……虎越さんは……ゎ、私がはらはらしてる時は……い、いつもっ頭撫でてくれて……っ! 泣いてる時とかも頭撫でてくれるよっ」
リナ「そうされると落ち着くんですか?」
なな子「う、うんっ! 虎越さんはっ! てっ天使!!」
つきみ「スキンヘッドの天使……? 刑事っていうからにはゴリラみたいな体型してるんだろうしな……ゴリラ天使か!」
ちぃちゃん「謎だわ虎越さん」
リナ「今夜が楽しみですね」
つきみ「ねー虎越さんってケーキとか甘いもの好きー? ケーキ食べたーい」
ちぃちゃん「おっ。いいですねー」
なな子「ケーキかぁ……。甘いもの食べてる所見たこと無いけど……。でも嫌いなものはないって言ってたから大丈夫なんじゃないかなぁ?」
リナ「余ったら分けて食べればいいんですよ」
つきみ「っそうだねー! そうしよー!」
なな子「ちぃちゃんとつきちゃん、ちゃんとお家と旦那さんに連絡した!?」
つきみ&ちぃちゃん「もっちろーん」
なな子「私、後で怒られるの嫌だよぉ……?」
つきみ「大丈夫大丈夫!」
渋谷警察署。刑事課。(※声劇時のみ、男性が足りない場合、このシーンはカットOK)
慎二「せーんぱいっ。始末書と残業報告書書き終わりましたっ♪ パトロール行きましょっ♪」
虎越「……ハァ……なんか買ってったほうがいいのかな……」
慎二「先輩? おーい」
虎越「最初のはびっくりしたけど……。言わされただけか……。ちょっと……残念だな……って何言ってんだオレ! キモ!!」(自分の机にガンッと頭突きして突っ伏す!)
慎二「わっ!? とらくーん!? おーい。おーい、おーい……」
虎越「来るのは宇佐美と……あと三人、くらいかな……。っ! やっぱ布団買ってもう帰ろう! 早退しよう! そうしよう! なんか心配で吐きそうだし! それで完璧! 布団が無い以外に……あとなんか見られちゃいけないものあったっけ……」
慎二「おいっ虎越くん!? 虎越係長ー!?」
虎越「っ洗濯物を取り込もう! よし! そうだ! 掃除もしよう!」
慎二「おい無視しないで! パイセン!」
虎越「丸山警部補!」
慎二「はっはい!?」
虎越「オレは精神崩壊しそうなので早退する! します! じゃあな!」
慎二「ええーっ!? ちょっと待ってーっ!? 何どゆことー!?」
虎越が颯爽と去ったあと。慎二の所へ同じ刑事課のベテラン女刑事、狩野さんが書類の束を持ってやって来る。
狩野「あれ? 虎越くんは?」
慎二「あっ、狩野さぁん……。先輩、なんか悩みがあるって言って帰りました」
狩野「えっ。帰っちゃったの!? ……あっ……そう……。えっ? 悩みがあるってゆって帰ったの? 腹痛とか頭痛とかそういうんじゃなくって!? 悩み!?」
慎二「多分恋煩いです! あとはーなんかー色々たまってるから!」
狩野「あっ……そう……。まぁ虎越くん家近いし。この間も窃盗で夜中呼び出されてたし。疲れたまっちゃってるんじゃないっ、かな? なんかあったら呼び戻せばいいんじゃない?」
慎二「あははっ! そうですよね! あー……。それでいいのかなぁ」
雄之助がかったるそうに歩いてくる。
雄之助「慎二ー。煙草買ってきてー」
慎二「ちょっと課長! 署内で慎二はダメでしょ!」
雄之助「千円貸してくり~」
慎二「昨日も五千円貸したのにー!? どこ行っちゃったのー!」
雄之助「今ねえ、俺五十六円しかないの。(お財布をひっくり返す)」
慎二「うわっ! ホントだ! 給料日まであと十日以上あるのに!」
雄之助「うへへへ」
狩野「虎越くんって、彼女でも出来たの? ってか同棲中?」
慎二&雄之助「ぅえっ!?」
雄之助「な、なんで? あいつそんなこと臭わせてたか?」
狩野「布団買わなきゃとか言ってた」
慎二「ああ~……」
雄之助「うさみん、出て行く気ィ満々だったしなぁ……。ま、布団必要か」
慎二「えっ!? うさみん出て行くの!? 嘘でしょ!」
雄之助「よーっし。俺は昼寝でもすっかなぁ」(自分のデスクに腰掛けて)
狩野「課長! 昨日の書類! やってからサボってくださいよ! あっ一昨日の報告書もまだでしょ!」
雄之助「おーおー。やりますともやりますとも。しかしなぁ、こーんなにお天道様が元気な日は……眠く……ふぁあぁぁ……」
慎二「~っ! お父さん! うさみんのこと説得しなくちゃ!」
雄之助「あぁ? ……イヤ流石に……。こればっかりは本人が決めることだろ」
慎二「でも……!」
雄之助「虎越のこと、信じてやれ」
慎二「……僕は……あの二人凄くお似合いだと思うんだけどなぁ」
狩野「あの、質問」
雄之助「あん?」
狩野「虎越くんって。課長は自分の息子のように育てたんですよね?」
雄之助「あー、まぁそうだな」
狩野「つまりマルくんのお兄さんみたいなものなのよね?」
慎二「そうですね。昔はたっつーって呼んでましたよっ」
狩野「なんで呼び方変えたんです?」
雄之助「そりゃ仕事仲間だし……」
狩野「別によくないですか? 家族なことに変わりはないじゃないですか」
慎二「先輩が言い出したんですよ。下の名前で呼ぶなって」
狩野「あっ、そうなの!?」
慎二「はい。ね、お父さん」
雄之助「んー……まぁ……そうだな」
狩野「警察に入ってからですか?」
雄之助「高校入った時くらいからかな?」
狩野「思春期かな……。あっ、でも虎越くんはマルくんのこと慎二って呼んでるじゃない」
慎二「交換条件出したんですよ。僕は」
狩野「慎二って呼べって?」
慎二「はい。そうしたら先輩って呼んでもいいよーって」
狩野「なんだかあの子……。他人とそこまで距離を取らなくったっていいのに……」
雄之助「そう言ってやってよ」
狩野「……虎越くんって、あんまり自分のこと大切にしてないっていうか。休みの日とか一日中寝てそう」
慎二「あはは。まあ、友達に遊びに連れまわされることも多いみたいですけどね。一人だったら確かに。ずーっと寝てるかも」
狩野「なんの為に警察やってんだろーって、たまに思っちゃう」
雄之助「……」
狩野「課長、なにか知ってるんでしょ」
雄之助「……そうだなぁ……」
狩野「虎越くん、この間二十二年くらい前の未解決事件の資料探してたけど……。もしかしてそれ?」
雄之助「はっ……。二十二年も前なんて、あいつ生まれてねーだろ?」
狩野「生まれてますよ。課長、はぐらかさないで」
雄之助「……あいつが決めたことだからなぁ」
狩野「私だって、まだ追ってる事件あります。でもそれは刑事になってからのこと。自分のせいで取り逃した犯人とか。行方不明の遺体のこととか。 あとは……!」
雄之助「マリ。……虎越は、俺の為に刑事になったんだ」
狩野「えっ?」
慎二「どういうこと?」
雄之助「……虎越にも面子がある。今はまだ、そこまでしか話せねぇ」
慎二「お父さん!」
雄之助「んだよ……」
慎二「僕と狩野さんは知る権利があるでしょ!? 同じ警察官なんだから!」
雄之助「……俺は、……お前らに幻滅されたくねえんだよ」(自分を嘲笑うように)
慎二「っ――」
雄之助「ちょっと仮眠室行ってくるわ~んじゃな~」
慎二の肩を強く叩き、その場から去る雄之助。
慎二「お父さん……」
狩野「噂なんだけど……」
慎二「?」
狩野「課長、昔……刑事仲間に、『どうしても殺したい奴が居る』って話してたことがあったらしいの」
慎二「こ、ころす……? まっさか。お父さんに限って……そんな」
狩野「もしかしてだけど。課長を殺人犯にしたくなくて。虎越くんは警察官になったんじゃない? だから、『課長の為』に――……」
慎二「……。先輩に、直接聞いてみます」
狩野「話してくれるかな?」
慎二「話してくれなきゃ……っ。なんの為のコンビかわかりません!」
暗転。
つきみ「え?」 ちぃちゃん「え?」 リナ「はい?」
なな子「あっ!」 虎越「あっ!?」
15時過ぎ。虎越のマンションの駐車場でバッタリ遭遇してしまう五人。
なな子「虎越さん……っ」(布団を持ってる虎越に笑顔で駆け寄る)
つきみ「!?」
ちぃちゃん「えっ? 今日仕事だってさっき……」
リナ「結構イケメンですね」
なな子「虎越さん、今日は日勤だって……」
虎越「あー……いや、お客さん来るなら掃除とかしようかと思って……」
なな子「えー!? お仕事は大丈夫なんですか?」
虎越「今日は人足りてるし……。なんかあったらまたいつもみたいにすぐ電話かかってくるから平気」
なな子「そ、そっか……っ。あっ! 虎越さん、紹介しますね。私の友人で同僚の……」
つきみ「あーななちゃんっ! 家行ってからじゃダメ!?」
ちぃちゃん「寒い……っ」
リナ「割と重いです……コタツが」
虎越「コタツ?」
なな子「あ、あのっ。私の火事ご愁傷様ってことでみんなが買ってくれて……っ!」
虎越「あーそうなんだ」
なな子「み、みなさんっ! 此方ですっ!」(エレベータに向かって走る)
リナ「エレベータ乗り切りますかね……これ……」
大きなコタツと大量の鍋の具材とお酒とおつまみとお菓子。
なな子「大きいエレベータなので大丈夫ですよっ!」
ちぃちゃん「あの……まだお菓子とかお酒とか大量に持ち切れてないのでっ……!」
つきみ「あと三回は往復しないと……!」
虎越「オレ持ちますよ。コタツ」
リナが超重くて苦戦していたコタツを軽々持ち上げる虎越。
リナ「っ!? あ、ありがとうございます……。細身なのに凄い力持ちですね……」
虎越「はは。握力九十あるんで」
つきみ「九十!? 何!?」
ちぃちゃん「リンゴは!? リンゴ!」
虎越「え?」
リナ「素手でリンゴは潰せるのかと聞きたいようです」
虎越「あー……やったことないですけど、多分出来るかと……」
つきみ「なな子この人凄い!」 なな子「!?」
ちぃちゃん「筋肉があるってことですの?」
リナ「握力に筋力は関係ありません」
つきみ「えっなんで!?」
リナ「握力は、持って生まれた腱の太さと靭帯の位置、それと骨・関節のつき方で決まります。なので腕が細くても虎越さんはその神に与えられし才能で腕相撲もお強いはずです」
なな子「あのっあのっ! 私っ! 私もっ! 役に立たないと! えーとー腕に引っ掛けてくれればなにか持てます!! あの、あの!」
虎越「宇佐美は先に行って鍵開けて中入ってて」
なな子「!?」
ちぃちゃん「そうですわ! 怪我人は足手まといです!」
つきみ「悪化させたら怒るからね……」
リナ「なな子、今日買ったものに勝手に触ったら貴女のカニは無いと思って下さい」
エレベーターが到着する。
なな子「は、はい……あの……」
つきみ「っはやくボタン押して!」
なな子「はいっ!!」
ちぃちゃん「狭い~っ!」
虎越「あー……」
リナ「私は次ので行きますので乗らずに待機してます。車の施錠もありますので」
エレベータのドアが閉まる。
虎越家。リビング。女子たちはお鍋の準備をしていて、虎越は大きな緑のラグを敷いた上でコタツのセッティングを行っている。
なな子は虎越の傍で彼の作業を見守っている。
なな子「虎越さん。……おだんごの子が、つきみちゃんで」
つきみ「どうも~」
なな子「今お野菜を切ってる茶髪でメガネの方が、ちやこちゃん」
ちぃちゃん「突然お邪魔してすみません」
なな子「で、長身で美人でクオーターの」
リナ「(虎越の側へ。深くお辞儀をして)柏木 リナと申します。本日はお約束も無しに申し訳御座いません」
虎越「あぁ……。妃の代わりだって嘘ついた子か」(作業を続けながら)
なな子「えっ!?」
リナ「……刑事のカンですか?」
虎越「あいつとはゼロ歳からの付き合いだから。オレに黙って手下を送って来るとは思わない。あいつならまず、オレにからかいの電話一本でもしてくるだろうな」
リナ「……そうですか」
なな子「リナさんが笑った……っ!?」
リナ「なな子、この方面白いです。っと……。なな子、お箸ととんすいとれんげの場所を教えて頂けますか」
なな子「あっ、は、はいっ!」
リナとなな子、キッチンの中へ。すれ違い様につきみが座布団を抱えて虎越に駆け寄る。
つきみ「虎越さーん。座布団も買ってきたので!」
虎越「ああ、はい」
つきみ「敷いちゃいますねー。いや~広いリビングでよかった~」
つきみ、五枚の座布団を適当に敷いて。すぐにキッチンに戻る。
なな子、リナと一緒にお箸ととんすいとれんげを持ってきて、虎越が組み立て終わったコタツの上に並べる。
なな子「虎越さん、あの、私が引っ越す時に必ずちゃんとソファーとか元の位置に戻しますのでっ!」
虎越「え? 出て行くの?」
なな子「えっ?」
虎越「いつ?」
なな子「そ、それは、まだ、決まって……なくて、すみません……」
虎越「……ずっと居てもいいのに」
そっと彼女の髪と耳を撫でる。
なな子「えっ?」
虎越「……」(優しく彼女の手を取って微笑む)
なな子「……っ」(照れて笑いながら俯く)
リナ、その場に居辛く、キッチンに逃げ込む。
つきみ(ちょっと集合ーっ! ななちゃんと虎越さんて付き合ってないんじゃなかったの!?)
ちぃちゃん(そうななさんは仰ってましたけどっ! 嘘なのでは!?)
リナ(見てられない位アツアツで良かったじゃないですか)
つきみ「なっなんでぇ?」
リナ「優しそうな方ですよ」
つきみ「でも握力九十だって! 乱暴されたら終わりじゃない!?」
ちぃちゃん「警察官なんですから女に手を上げることはないでしょう」
つきみ「わっかんないよ~!? さっき調べてたんだけどね! 警察官が起こした暴行事件ってのも過去何件もあって~!」
なな子「みなさんっ♪」(カウンター越しからキッチンの中を覗いて)
つきみ「はっはいっ!?」
なな子「お鍋、もう持っていけますか?」
リナ「はい。丁度完璧です。開始しましょう」
なな子「わーっ。カニカニ!」
つきみ「ちょっと!? ななちゃんと虎越さんは邪魔だから下座に座らないでっ!」
なな子「あっ、はっ」
虎越「あっ……はい」
ななと虎越、部屋の奥側に座り直す。
ちぃちゃん「ちょっと。邪魔だなんて言い方は失礼です……!」
虎越「あーいや」
つきみ「こっちが用意したり色々ウロチョロやりたいんだから。二人は座って出されたもの食べてればいーのっ」
なな子「あはは……」
虎越「手、大丈夫か?」(なな子に)
なな子「はいっ! もうかなり! お箸くらいは全然持てますっ! 神谷さんが、指の所はもう包帯巻かなくても大丈夫だねーって」
ちぃちゃん「神谷さんって?」
なな子「あっ。虎越さんのお知り合いで。外科のお医者さんです! いつも丁寧に怪我を診て下さって……美人で、敏腕で!」
つきみ「はーいっ。カニ鍋置くよーっ!」
なな子「わーっ!」
ちぃちゃん「えーと、飲み物皆さんどうしましょうか」
つきみ「ななちゃんは怪我してるから、一応お酒は無しねっ」
なな子「はーい」
ガスコンロの上でじっくりと鍋に火が入るのを、みんなで待つ。
リナ「虎越さん、幾つか質問をしても宜しいでしょうか」
虎越「ん、はい?」
リナ「質問に答えていただけますか?」
虎越「まあある程度なら……」
つきみ「一人何個まで!?」
なな子「えっ!? 私もしていいんですか!?」
虎越「え!?」
ちぃちゃん「血液型は!?」
虎越「A」
つきみ&ちぃちゃん「やっぱり~!」
虎越「え?」
リナ「タグがついているあの布団はなんですか?」
虎越「あっ……」
さっき虎越が買ってきたばかりの布団セットが、リビングの端っこに転がっていた。
虎越&なな子「あれは……」
虎越「えーと……」
なな子「~っ」(血の気が引いていく)
リナ「このお家にはお布団は虎越さんのベッド以外にはないのですか?」
虎越「あ、あるよねっ」
なな子「う、うん」
リナ「なな子がいつも寝ている布団はどれですか?」
なな子「えっ……えーと」
虎越「あっ朝コーヒーこぼしちゃって!」
リナ「え?」
つきみ&ちぃちゃん「え?」
なな子「そっそうなんです! ここで寝てて! 朝寝ぼけてて!」
リナ「それは何時何分のことですか」
なな子「ッ――! えっと、えっと、」
虎越「朝の八時くらいだよな」
なな子「そうです! そっそれで――えっとー」
虎越「すぐにクリーニングに出して!」
なな子「っそうですね!」
リナ「そうですね?」
なな子「そっそうなんですっ! それで! それでええーっと!」
虎越「俺が宇佐美が今日! 今日寝る用の布団、買ってきて!」
リナ「クリーニング屋さんなら数時間で布団の洗濯は完了するのでは? そんなにヒドイ染みだったのですか?」
なな子「あっそう! そうなんですよ! 何日もかかるなぁ~って言われて!」
リナ「どこに預けましたか? クリーニング屋さんのお預かり票のお客様控えを見せて下さい」
なな子&虎越「ええ!?」
リナ「預かり票、無いんですか?」
虎越「えーと」
なな子「あ、ありましたっけ?」
虎越「貰って無い気がするな……」
なな子「あっ。でも住所は書きましたっけ!?」
虎越「電話番号は書いたかな」
なな子「虎越さんレシート無いの?」
虎越「宇佐美がお金払ったんだから」
なな子「えぇ!? そ、そうっかぁ」
虎越「電話して確認する?」
なな子「あっ。そうですね!?」
虎越「クリーニング屋の電話番号わかる?」
なな子「あっ! ポイントカードあるかも!?」
虎越「あー! そこに書いてあるかも!?」
なな子「うん!?」
虎越「うんって!?」
なな子「ふふふっ……」
リナ「……ふふ……」
つきみ「リナさんまた笑ったっ」
リナ「虎越さん。私と、つきみと、ちやこは、なな子に対して友情以上の……家族に近い愛情に近いものを抱いています。それは……大袈裟ではなく、彼女に命を救われたり、貧乏だった時に彼女の温かい料理やスイーツに支えられたり。……あとは、そうですね……。私の場合は、彼女に人間らしさというものを教えていただきました。宇佐美 なな子は、私たちの、――」
カニ鍋が煮えて。吹きこぼれかけたので、つきみが蓋を取ろうとする――。
つきみ「っぶえっっくしっ!!!!!!」
ちぃちゃん「あらあら」
リナ、つきみにティッシュをあげる。
つきみ「あーごめんー」
なな子「あ、あの、私……っ! すいませんトイレ行って来てもいいですか!?」
リナ「どうぞ」
なな子「しっ失礼しますっ!」
なな子、トイレに駆け込む。
虎越「……三人は宇佐美のことが心配なんですね」
つきみ「当然でしょ! 私、警官ってあんまり好きじゃないしっ! 昔からの知り合いだからってちょっと信用出来ない!」
ちぃちゃん「ちょっちょっちょっとっそんなストレートに! 失礼でしょう! あー……えっと……。虎越さん。わたくしたちがななさんに恩があるのは、本当なんです。小学生の時から宿題や課題を手伝って貰ったり……家庭科の時間に料理や手芸を手取り足取り教えて貰ったりして……」
つきみ「私なんて、いっつも読書感想文ななちゃんに書いて貰ってた!」
リナ&ちぃちゃん「えええ!?」
虎越「まじ。ははっ」
ちぃちゃん「そ、その……っ。オホンッ。……――と、いうような事情もありまして。……彼女に足を向けて寝られないような、不出来な人間なんです。わたくしたちは。でも、そんなズルいわたくしたちを知っていても、彼女はいつも、責めてはくれなくて……」
虎越「宇佐美は……。そういうとこありますね」
リナ「あの、どうしてただの知り合いなのになな子をかくまっているんですか? 好意はあるんですか? 結婚願望はあるんですか? あの子を幸せに出来るんですか」
つきみ「リナさんがこんなに怖い顔するのはじめて見たわ!」
虎越「……オレは、」
つきみ&ちぃちゃん&リナ「っ……」
虎越「……小さい時、宇佐美のことが好きだった……らしいんだ」
つきみ「……え?」
虎越「でも、その当時の記憶が全く無くて。宇佐美のことだけが、抜け落ちてる。……昔の写真を掘り出して。それ見ても……ピンとこなくて」
ちぃちゃん「なんで……」
虎越「わからない……。毎日、一緒に遊んでたよって家族は言ってたけど……オレは全然、わかんなくって……」
リナ「つきみとちやこがなな子と仲良くなったのは、いつ頃からですか?」
つきみ「小三か小四くらいかなぁ? 同じクラスになってね」
ちぃちゃん「そうそう。萩原先生の時です」
リナ「……虎越さんは、八歳からは……?」
虎越「あ、八歳からはカリフォルニアの家族の所に行ってて……。学校も、アメリカで何年か」
リナ「虎越さんは、なな子との幼少期の消えた記憶が気になって、いま傍に置いているんですか?」
虎越「それは……」
足音。
なな子が足早に戻ってくる。
なな子「うー……」(お腹をさすりながら帰ってくる)
つきみ「あ、ななちゃんお帰りーっ!」
ちぃちゃん「カニ! カニ食べましょう!」
つきみ「あー、私なんかなんとなくお腹痛くて……。下のコンビニでお薬買ってきます」
リナ「付き添いましょうか?」
なな子「平気ですっ! 皆さん、先に食べてて下さいっ! ちょっと行ってきますっ」
なな子、財布と上着を持って玄関へ。そのまま外に出る。
つきみ「お、追い掛ける!?」
リナ「いえ、下ってこのマンションの真下のコンビニですよね? 一人でも平気でしょう。それよりも、虎越さん。なにか理由があるなら、教えて下さい」
虎越「……うん」
リナ「……」
女子三人の視線が痛い。
虎越「……わかった。本当のことを話す」
リナ「虎越さん……」
虎越「オレは、二十二年前のとある事件を追ってるんだ。……妃や、オレの同僚の家族が……殺された。……オレの姉も。惨い死だった」
つきみ&ちぃちゃん&リナ「……」
虎越「宇佐美は……犯人の娘なのかも知れない」
つきみ「え……?」
虎越「確証は無い。だからこそ犯人を捕まえて確かめたい。どうしても。……宇佐美にいつか犯人が会いに来るかも知れない。宇佐美まで、殺しに来るかも知れない。……あいつも、そのこと、誰にもなにも言わないけど……どこかで勘付いてる。自分は殺人犯の娘なんじゃないかとずっと疑ってる。だからオレや妃たちに負い目があるんだ」
ちぃちゃん「っそんなのななさんは関係ないじゃないですか! なんで……っ!」
虎越「そうだよ。関係無いんだ。でもあいつはそうは思ってない。一体どこの誰の子供なのか、誰もわからないんだ」
リナ「……」
虎越「オレの良く知る刑事も、オレに昔から良くしてくれた探偵の人たちも……。みんな被害者の家族で。……犯人を、見付けて復讐……――殺そうとしてる。……オレはそれを止めたい。宇佐美は、……宇佐美の安全の為にも……今は傍に置いておきたい。それに……」
つきみ「それに……?」
虎越「偶然も重なったけど。……まだ、昔のことは思い出せないけど……。……二週間近く一緒に暮らして、あいつのこと……。オレは……。特別な感情は……ゼロじゃないと……思う」
つきみ&ちぃちゃん&リナ「……」
リナ「……良かった……っ」(涙目になって)
虎越「……」
ちぃちゃん「ッカニが冷めます!!」
つきみ「わーっ! 取ろう取ろうっ!」
ちぃちゃんとつきみでカニ鍋をみんなに分ける。みんな、食べながら。
つきみ「んっ! お出汁美味しい!」
ちぃちゃん「特製昆布とかつお節とお高めの煮干しを買いましたからっ」
つきみ「野菜うまうま! ポン酢無くてもいけそう!」
ちぃちゃん「カニも中身がすぐに食べれるように切っておいたので。食べやすいと思いますよ」
つきみ「流石っ……女子力? 主婦力? 高いなぁ~。はふはふ……もぐもぐ……」
リナ「……虎越さん、あの、疑ってごめんなさい」(頭を深々と下げる)
虎越「いや……。良かったよ。いい友達が居て」
リナ「でも……こんなに話して良かったんですか? かなり、秘密なことだったのでは……」
虎越「まあ、宇佐美には言わないで欲しい。オレから、ちゃんと……話したいから。あー、あと妃。特に妃。あいつは自分の両親のこと、ホントに何も知らないから。オレが裏でコソコソやって、あいつの両親の仇を捕まえようとしてること……知ったら多分、滅茶苦茶怒るだろうから」
ちぃちゃん「社長も……大変だったんですね……」
つきみ「ご、ごめんなさい。無理矢理聞き出したーみたいな感じになっちゃって……。虎越さんは……信念があってななちゃんのこと……」
虎越「あーもう終わり終わり。もう勘弁して。宇佐美帰って来ちゃうし」
ちぃちゃん「っそうですねっ! とりあえずは第一関門クリアということでっ! お酒! ワイン! 開けましょうっ」
虎越「第一関門……」
つきみ「そーだよう。ななのこと本気なら、ななに相応しいかちゃ~んっとチェックしないと~!」
虎越「はは……」
リナ「なな子が火事に遭ってから、面倒を見て下さって、本当にありがとうございました」
ちぃちゃん「ほら。つきさんも! 一緒に謝りましょう」
つきみ「えーっ? うーん。謝る必要ある?」
虎越「いいですよ。宇佐美のこと心配だっただけでしょ」
つきみ「そうだよ。……ななちゃん、あんなに幸せそうなの、はじめて見たなぁ」
虎越「え……」
つきみ「虎越さんもさ、ななちゃんと一緒に居ると癒されるでしょ?」
虎越「まぁ……そうかな」
つきみ「そうかなって何?」
ちぃちゃん「ちょっとー! 喧嘩腰なのはやめてっ!」
つきみ「宇佐美 なな子は癒し系なんですうー!」
リナ「感じ方は人それぞれですよ。まぁわたしも癒されますけど」
虎越「癒されますよ」
つきみ「っほら見ろー!!!!」
ちぃちゃん「つきさんうるさいです」
リナ「なな子の寝顔見ました?」
つきみ「っはあ!?」
ちぃちゃん「え、マジ切れ?」
虎越「見たことは……ありますけど」
つきみ「可愛かったでしょ(怒)」
ちぃちゃん「なんで怒ってますの」
虎越「まぁ……。あー、夜寝言言ってること多くて。そのほうが気になるかな」
リナ「寝言、ですか?」
虎越「はい」
ちぃちゃん「なんて?」
虎越「んーオレ夜勤行くときだったんだけど……。なんかめっちゃオレの名前呼んでたから、どしたーって行ったら、おんぶしろって拗ねてたりとか……」
つきみ「え? ソレ寝言?」
リナ「可愛いですね」
虎越「あとは先週……? カボチャがくるーカボチャがくるーってうなされてたりとか……」
ちぃちゃん「カボチャ?」
虎越「スーパーで大きいカボチャ見たからかな」
つきみ「あっ。ななちゃんって、夢よく見て夢日記つけてるって言ってた!」
虎越「あーそうかも」
つきみ「でも夢って起きた時に忘れちゃわない!?」
リナ「え?」
ちぃちゃん「私案外覚えてますけど……」
つきみ「えー!? じゃあ最近どんな夢見たー!?」
ちぃちゃん「んーと……」
リナ「私は……エジプトのピラミッドの中を探検する夢を見ました」
つきみ「ちゃあは!?」
ちぃちゃん「わ私は……何故か旦那様と二人で羽田空港でお煎餅を買っていました……」
つきみ「虎越さんは!?」
虎越「えっ!? えーと……」
つきみ「ん? 虎越さんも、夢忘れちゃうタイプ?」
虎越「あー、じゃあそれで」
つきみ「は!?」
ちぃちゃん「これは絶対嘘ですわよ!」
リナ「本当はどんな夢を見たんです?」
虎越「待って本当に言えない」
つきみ「何!? エロい夢!?」
ちぃちゃん「人を刺しちゃうとか!?」
リナ「なな子が出て来たんですか?」
虎越「……じゃんけんして」
つきみ&ちぃちゃん&リナ「じゃーんけーん……! ポン!!」(リナさんがパーで二人はグー)
リナ「勝ちました。お願いします」(虎越に耳を傾けて)
ちぃちゃん「ぐぉぉ……」 つきみ「負けたぁ……!」
虎越「えっ? 本当に話すの!? 嘘でもいい!?」
リナ「ダメです。嘘をついたらこのスタンガンでケツの穴を狙います」
虎越「おっ鬼か!! ……あー……とー……」
虎越、嫌々ながらもリナに耳打ちする。
虎越「……(ななにキスされた)」
リナ「おお……そんなことが……」
つきみ「何!?」 ちぃちゃん「教えて!」
リナ、正座して。咳払いして。
リナ「なな子を押し倒してキスをしたようです」
虎越「ちょっと!?!?」
つきみ「っぎゃははははははははは!」 ちぃちゃん「えええ――――!?」
つきみ「ねー夢占いのサイト見てよー!」
リナ「了解です」(ポケットから携帯を取り出し、検索する)
ちぃちゃん「虎越さんって嘘つけないんですか……?」
虎越「いや、なんていうか……」
つきみ「ななちゃんめっちゃ可愛いもんなぁ~わかるう~」
ちぃちゃん「ななさんはモデルでも食べて行けますよね~きっと」
虎越「モデル?」
つきみ「ありゃ? 知りませんのん? ななちゃん、うちの雑誌で限定モデルやってるんですよ。社長の思い付きで強引にーだったけど、結構いいよね!」
ちぃちゃん「これ、うちの看板雑誌の今月号です! あっ。気に入ったらちゃんと買って下さいましね♪」
ちぃちゃん、自分の鞄からやや厚みのある女性誌を出し。なな子が写っているページを見開いて虎越に手渡す。
そこには、様々なウエディングドレスを着て楽しそうにチャペルで過ごすなな子の姿がたくさん写されていた。
虎越「――……」
つきみ「っ可愛いでしょー! 余計にキスしたくなっちゃったでしょー! お嫁さんにしたいでしょー!」
虎越「っ……これどこで売ってますか?」
ちぃちゃん「下のコンビニでも売ってますよ」
つきみ「昨日発売日だったしね!」
リナ「夢占いヒットしました。キスをする夢」
リナ、つきみとちぃちゃんに自分の携帯を手渡す。
つきみ「あっ。さんきゅーリーナっ。どれどれぇ……?」
ちぃちゃん「“あなたが、相手ともっと精神的なつながりを求めていることのあらわれです”っですって!!」
虎越「あ゛ー……」(座布団で顔を隠す)
つきみ「ヒュウ~!! 何何ィ? “好きな彼女とキスしたい気持ちを、キスの夢を見ることで解消しようとする心理が働いているようです”だってー!!」
虎越「まだちゃんと好きかわかんな……」
ちぃちゃん「はい? なんです?」(目がこわい。キレそう)
つきみ「この期に及んでそんなこと言う!?」
虎越「す、すいませ……」
リナ「よいしょ」(立ち上がる)
ちぃちゃん「リナさんお手洗いですか?」
リナ「いえ、なな子がそろそろ戻ってくる頃だと思うので……薬を飲むのにお水を用意しておこうかと……」
虎越「宇佐美大丈夫かな……」
リナ、つきみから携帯を返され、そのままキッチンに行ってしまう。
つきみ「リナさんは先輩なのに気が利くなぁ~」
ちぃちゃん「ほんとですよね」
虎越「リナさんのが先輩なんすか」
つきみ「そーそ。順番的には~」
玄関のほうから物音がする。
つきみ「お。帰って来たかな?」
リナ「なな子?」
なな子「はわっ。あっ、ただいま帰りました~」
リナ「お腹大丈夫ですか? こちらお水です。どうぞ」
なな子「ありがとうございます! 大丈夫です。飲んじゃいますね」
リナ「はい。虎越さんも心配してらっしゃいましたよ」
なな子「えっ。あっ……虎越さん~」
キッチンにやって来る虎越。
虎越「大丈夫か」
なな子「はい……。ちょっとお腹冷えちゃったみたいで……」
虎越「あったかくして。オレ風呂洗ってくる」
なな子「は、はいっ」
虎越、お風呂場のほうへ行ってしまう。
リナ「なな子、お湯でも沸かしてお茶淹れますか?」
なな子「あ……。そうしようかなっ」
つきみ「ななちゃん平気ー!?」
なな子「はーいーっ」
ちぃちゃん「リナさんっ。お鍋、具材足します!?」
リナ「ああ、そうしましょう」
つきみ「ななちゃんっ! 虎越さんに色々聞いちゃったっ!」
なな子「へー!? なっなにを!? 宇佐美への愚痴!?」
ちぃちゃん「いやそれは聞いてません」
女子四人、鍋のもとへ再集合する。
なな子「っいただきますーっ!」
つきみ「それ冷めちゃったんじゃない?」
リナ「鍋に戻します?」
なな子「えっ!? いあっ! 大丈夫ですよっ! カニだし!」
つきみ「あれ、虎越さんは?」
リナ「お風呂を洗いに行ったようです」
つきみ「えっ何? 泊まってっていいってこと?」
ちぃちゃん「いや違うでしょう」
なな子「二人は既婚者なんだから帰らないと!」
リナ「そうですよ。……私は泊まりたいですけど。お酒飲んじゃいましたし。車だし」
なな子「えっ。あ、虎越さんに聞いてみないと……」
リナ「いや冗談ですよ」
なな子「あのっ。みんな虎越さんに何聞いたんですか!?」
つきみ「ああーななちゃん押し倒してキスした話とか」
なな子「……は?」
つきみ「キス」
なな子「えっえっえっえっええ?」
つきみ「したって言ってた」
なな子「いつう!?!?」
ちぃちゃん「ちょっと! つきさん」
つきみ「チッ。なんだ、やっぱり夢の話か……」
リナ「キスしてないんですね」
つきみ「いやっでも! 寝てる時にしたのかも!?」
なな子「いやっしないでしょ!! 虎越さんと!? 私が!? なっなんで!? うっ」
つきみ「そんなに拒否る!?」
なな子「だ、だって……」
ちぃちゃん「虎越さんのこと、ななさんは嫌なの?」
なな子「い、いやというか……」
【次話へ続く】