第一てんご話【男3女2】~ふざけている場合ですか。真面目な話をしているんです。~約30分
第一ってんご話
出演(男3女2)
・虎越 辰哉 (26) ♂ :
・宇佐美 なな子 (24) ♀ :
・丸山 慎二 (24) ♂ :
・丸山 雄之助 (46) ♂ :
・栗原 奈津子 (26) ♀ :
役解説
・虎越 辰哉 (26) ♂
渋谷署の刑事。刑事課係長。ぶっきらぼうだけど優しくて、真面目で、ハートは熱い人。ポーカーフェイス。もう7年も彼女が居ないらしい。丸山親子のようにイタズラをしたり、人が嫌がるようなことはしない。全身脱毛症。
・宇佐美 なな子 (24) ♀
ウエディングプランナー。ヒロイン。気弱でか細い女の子。虎越のことを幼少期から知っており、憧れを抱いている。気配りが出来て家事も出来る「お嫁さんにしたい」タイプ。
・丸山 慎二 (24) ♂
渋谷署の刑事。虎越の後輩。キャリア。犬っころみたいになつっこい。甘え上手。合コンばかり開いて遊び歩いているらしい。誰にでも優しくて明るい。
・丸山 雄之助 (46) ♂
渋谷署の刑事。慎二のお父さん。家族や虎越の前ではテキトーな発言が目立つ。刑事課課長。妻に尻に敷かれている。お小遣いは一日五百円。虎越辰哉の母親、みねねの親友。辰哉の育ての親。
・栗原 奈津子 (26) ♀
池袋署の女刑事。虎越とは警察学校での同期だった。サバサバしていて自信家。ふんわり茶髪でゆるふわカール。女っぽいけど男っぽい所もある。お洒落さん。数年前までは渋谷署に居たらしい。
――再開幕。
自宅アパ-トが火事に遭い、両手を火傷してしまった宇佐美 なな子を、自宅マンションでかくまうことにした、刑事の虎越 辰哉。
翌朝。二人が眠っているベッドの脇にある、目覚まし時計が鳴る。
抱き合うようにして同時に目を覚ます、なな子と虎越。二人で時計をとめる。その手が重なる。
なな子「っ!」 虎越「っ――……」
二人して照れてる。同時に手を引っ込める。
虎越「……ぉ、はよ……」(平静を装う)
なな子「はっはいっ」(恥ずかしくて顔を両手で隠す)
虎越「……病院って何時に行くんだっけ」(ぐちゃぐちゃに乱れてるなな子の髪を直してあげる)
なな子「は八時に来てって神谷さんが言ってました!」
虎越「今七時か……。送ってくから支度しよ」
なな子「はいっ」
虎越「顔は化粧水で拭いて綺麗にすればいいんだっけ」
なな子「はいっ。その後マスクつけて貰えればっ……」
虎越「ちょっとトイレ……」
なな子「あ、私も、洗面台お借りしますっ」
虎越「うん」
トイレに行って。
歯を磨く。
寝室に戻って。自分は先にスーツ着替えてから、クローゼットにまとめてあるななの服を取り出す虎越。
虎越「っしょっと……。菜月が化粧してくれるんだって?」
なな子「ぁ、はい。昨日お願いしました」
虎越「流石に化粧はわかんねえからな……。服は――……スーツか」
なな子「パンスト……」
虎越「パンスト? ぱんぷす?」
なな子「あっ! 黒のストライプのパンツスーツでっ……お願いします!」
虎越「インナーは?」
なな子「そっそっそれっ」
虎越「あっこれな!?」
なな子「レギンス……」
虎越「レギンス?」
なな子「あっ……あの……っ」
虎越「ど、どれ?」
なな子「え~っと……」
寝室に突然入って来る栗原。慎二と雄之助はキッチンに行ってみんなの朝食を用意する。
栗原「っお困りのようねっ!!!! 虎越くんっ! なな子ちゃんっ!!」
超可愛いワンピースを着ている栗原。化粧も昨夜より全然濃い。かなりお洒落さん。
慎二「おはよー」 雄之助「邪魔するぜー」
丸山親子はスーツを着ていた。
なな子「っ!?」
虎越「わびっくりしたっ。なんて恰好してんだ栗原さん」
なな子「あっ!? それって地中海オーディリシャス☆ の冬限定のワンピースじゃ……!」
栗原「ちょっとー!? 虎越くぅん!? 今日最高気温五度だよ!? そのまんまパンツスーツ着させちゃなな子ちゃん寒いでしょーよ! ほらっちょっとどいてっ」
なな子「栗原さん~! 助かります~! すみません~!」
栗原「ほらっ! これがパンスト!」
虎越「これがぱんすと!」
栗原「足入れてーっ!」
なな子「はいっ!」
栗原「この時期は、150デニール以上は欲しいから、タイツのほうがいいかも!」(テキパキとなな子を着替えさせる)
なな子「あーそうですねぇ」
虎越「でにーる?」
なな子「さっき丸山さん居ませんでした?」
栗原「マルさんたち朝食作ってくれてるから! はいっ着替えはオッケー! くるっと回ってっ」
なな子「はいっ!」
栗原「今更だけど下着変えたほうがよかった?」
なな子「かっ変えないですっ! 昨夜虎越さんがつけてくれましたっ!」
栗原「虎越くんハレンチ!」
虎越「しょうがねーだろっ! 朝やること多いし!」
なな子「めっ目は閉じてて貰ったのでっ!」
栗原「本当に~!?」
虎越「ちょっとは……うん」
栗原「っハレンチ!」(虎越のケツを蹴る)
虎越「ぐぁっ!?」
栗原「っなな子ちゃん! 男はみんな狼なのよ! 気を付けないと! いざとなったらいつでも警察に駆けこむのよ!」(ななをドレッサーに座らせて化粧をしてあげる)
なな子「えっ虎越さんは大丈夫ですよ! とっても紳士です! エスコートもしてくれます! 警察官だから! 親切度MAXですっ」
栗原「カぁー……」(ばっちぃゲテモノを見るような目で虎越を見る)
虎越「お俺は別に宇佐美になにも言ってないぞ……!」
栗原「っ洗脳!? 洗脳されてるの!? 調教されてるの!?」
なな子「えっ誰が!?」
栗原「いい!? なな子ちゃん! 警察官にもクズは居るの!!」
なな子「ええぇ!?」
虎越「栗原さん!?!?」
栗原「警察官の男なんて幼児ポルノのことばっかり考えてるの!! だからニュースになるの!!」
虎越「やめて!! そんな人ばっかりじゃない!!」
なな子「幼児ポルノって……」
栗原「虎越くんだって年下が好きよ! 学生が好きよ! 小学生でもたつの!」
なな子「そうなんですか!?」
虎越「いやある程度収入も常識もある社会人がいいよ! バカか! 金で女の子を飼うような真似はしたくない! 十代以下無理!」
なな子「栗原さん! 虎越さんはやっぱり、とってもいい人ですっ。犯罪や悪から市民を守る、ヒーローです!」(とっても目をきらっきらさせて。満面の笑みで)
栗原「(ドブを見るような目で虎越を見て、目線をぐるっとななに落とす)………………ウンッ。(真面目にななの化粧をする)今日ってプレゼンって言ってましたよね。チークはピンクで口紅は真っ赤でアイラインはちょっと強くしましょっか」
なな子「虎越さんは神様みたいな人です! むしろ神!」
栗原「可愛くお化粧しましょうねっ!! 任せて~! 仕事出来ちゃう系ね~! あたし化粧もお洒落も大好きだから!」
なな子「虎越さんは! 天使です!!」
栗原「ん~? ……虎越さんだってねぇ、オトコノコなんだよぉ?」
なな子「っ虎越さんは……素敵です!」
虎越「なんかもうちょっと聞いていられないんだけど……出て行きたい……」
栗原「ダメだよ化粧のやり方ちょっとは見とけや」
虎越「はい……」正座する。
栗原「虎越くんがななちゃんのことかくまうって決めたんでしょー!?」
虎越「そうですその通り」
栗原「じゃあ女の子の着替えと化粧くらいちょっとは出来るようになっとかないとねぇ?」
虎越「頑張ります……」
なな子「はわわ……虎越さん……っ! すみませ……っ!」
慎二が部屋を覗いてくる。
慎二「せーんぱいっ」
虎越「慎二」
慎二「おはようございますっ。朝食もう出来ますよ~」可愛いエプロンをしてる。自前。
虎越「おう、悪いな」
慎二「お父さんもう先に食べちゃってます」
虎越「うん」
なな子「マルくんすみませんっありがとうございますっ」
慎二「いーえー」
栗原「虎越くん先に食べてていいよ~。もう終わるから」
虎越「うん。ありがと。二人のも用意しとくから」
なな子「栗原さんはそんな恰好で出勤間に合うんですか!?」
虎越、部屋を出て行く。
栗原「え? あぁ、大丈夫よ。私今日非番だし。病院も、私が送ってあげる! 暇だしっ! 午後はね、六本木で婚活パーティなんだーっ!」
なな子「えっ!? いっ、あの、あのあのあのあのあの」
栗原「虎越くん今日の朝会議が入っちゃったみたいなんだよね。だから私が警部に頼まれたの。病院、行くんでしょ?」
なな子「は、はい。あの、でも、そんな、ご迷惑じゃ……」
栗原「虎越くんが車で送って行くって話だったんでしょ? だったら誰が送っても一緒じゃない? 私も、なな子ちゃんの手心配だし!」
栗原、ななの髪をアイロンで整えてあげる。
なな子「そ、そう、です……か。あの、おっお昼はご馳走させて下さい!」
栗原「ダーメ。病院終わったらすぐに会社行かなきゃ。大事なプレゼンあるんでしょ? 準備とか。大丈夫なの?」
なな子「う、うう……」
栗原「手が治ったらさ。今度お茶しましょっ。ゆっくり。ね?」
なな子「っ! ――はいっ」
小さい金の薔薇のヘアピンを付けて。なな子戦闘服コーディネート完成!
栗原「ハーイ。おっけー。でーきたっ。かわゆーいっ! さっ。朝ご飯食べよっ。口紅はジャケットのポケットに入れておくねっ」
なな子「はいっ。ありがとうございます!」
栗原となな子、三人が待っているリビングに歩いて行く。
栗原「ジャーンっ。なな子スペシャル完了しましたーっ」
慎二「わあっうさみん可愛いーっ!」
虎越「っ……――」
雄之助「(トラの椅子を蹴って)おい。見惚れてんなよ」
虎越「ちっ違うよ!」
慎二「うさみんっ! 丁度パン焼けたよっ! はいどうぞ!」
なな子「ありがとうございます! いただきます!」
慎二「栗原先輩もどーうぞっ」
栗原「ありがとうっ。いただきまーす!」
慎二「うさみん、珈琲か紅茶かありますけど!」
なな子「あっ……温かい紅茶を頂けますか……」
慎二「はーい。栗原先輩は?」
栗原「あっつい珈琲!」
慎二「了解でーす」
雄之助「栗原それじゃ足んねえだろ」
栗原「大丈夫です! 後でコンビニ寄りますから!」
慎二「えっまだパン焼きます!?」
栗原「焼きます!」
虎越「全部焼いていーよ」
栗原「一斤は食べれる!」
なな子&虎越「一斤!?」
雄之助「燃費悪いわ大食らいだわお前の彼氏になったら地獄だな」
栗原「食費くらい自分で稼いでますよ!」
慎二「栗原先輩も昇級したって池袋署の子に聞いたんですけど?」
雄之助「お前毎月食費に七十万もかけてんの?」
なな子「七十万もかけてるの!?」
栗原「やだなぁそんなにはかかんないですよぉ~」
雄之助「かかったら鬼だろ」
慎二「えー実際幾らかかってるんです?」
栗原「んー二十万くらいかなぁ」
虎越「は?」
栗原「何? はって何? 引いてる!?」
なな子「凄い経済効果ですね!」尊敬の眼差し。
虎越「なんでどこで二十万も使うの? 毎日焼肉なの?」
雄之助「毎食ステーキでもそんな行かねえだろ。外食ってこと?」
栗原「外食が~ややほぼ?」
雄之助「家ん中まず片付けろよ」
栗原「ほんとそれよ。彼氏作る前にまずそれよね!」
虎越「わかってんならやれよ……」
慎二「ん~でも栗原先輩めっちゃごはん美味しそうに食べるし!」
雄之助「ウンコめっちゃ出るし」
なな子「えっ!?」
栗原「ウーンコはぁ普通ですぅー!!」
慎二「っえー!?」
雄之助「そんな馬鹿な。んな訳ねえだろそんだけ食って」
栗原「汗でー出てるんですぅ~!」
慎二「汗で!? そんなに!? 何!? 牛脂が!? ウンコ汁が!?」
虎越「やめろよ飯食ってる時にウンコの話すんの」
慎二「そうですよ! うさみんが僕特製のリエット塗ったパン飲み込めなくなっちゃってるじゃないですか!」
なな子「っ! っ! っっ!!」
栗原「はぁ? ウンコは自然現象でしょうが!」
虎越「きったねえな」
なな子「ひぇぇ……。リエット美味しいです……」
慎二「栗原先輩のせいでうさみん泣いちゃってますよ!」
雄之助「食べたいのに笑っちゃってるやつだなコレ」
慎二「うさみん! リエット余ってるの冷蔵庫入れとくんで!」
なな子「あ、あ、ありがとうございます……っ」
虎越「おい宇佐美のことあんまイジんな」
慎二「なんですか保護者面して! 栗原先輩が今日来てくれなかったら先輩は安全な朝を迎えられてないんですよ!?」
虎越「それはそうですねありがとうございます」
栗原「あっはっはっはっは! 跪いて悦びを表現するがいい!!」
雄之助「何キャラなの」
なな子「んー! んー! ゴホッごほっ」
虎越「宇佐美大丈夫か」
なな子「あはは……笑い死にしそうです」
虎越「そんなに?」
慎二「先輩。これでとりあえず朝の試練はオッケーですね」
虎越「ああ。みんな、助かったよ」
なな子「ありがとうございましたっ」
栗原「なな子ちゃん。プレゼン一緒にするチームの人に、電話一本入れておいたほうがいいんじゃない? 両手が不自由ですって」
なな子「ー!! そうですよねっ! あ、あの、虎越さん。後でスマホいじって貰えますか……」
虎越「うん」
雄之助「あ、トラ。今日七時四十五分から会議入ったから」
虎越「は? 嘘」
慎二「本当ですよ! 先輩メール見てないんですか!?」
虎越「いやあと十分だけど!?」
雄之助「うん。ってことで栗原。後は任せた。これここの鍵。最後うさみんに渡しといて」
鍵を栗原に投げる雄之助。それをキャッチする栗原。
栗原「んっ。了解ですっ」
虎越「マルさん。おっ俺宇佐美のこと病院に連れて行かないと……」
栗原「虎越くん! 車の鍵貸して! あたしがそのお役目引き受けるからっ!」
虎越「え、いいの!?」
栗原「うん! 困った時はお互い様でしょ~! 昨日の上寿司のお礼もあるしねっ」
虎越「昨日のは別にいいのに……」
栗原「車の鍵も後でなな子ちゃんに渡しておくね」
虎越「あ、ああ。わかった。……宇佐美、気を付けてな」
なな子「はいっ」
雄之助「栗原悪ィけどここ片しといてくれるか」
栗原「ハーイ! 喜んで~!」
男三人、出勤して行く。
慎二「うさみん。なんかあったらいつでも電話でもメールでもして下さいねっ」
なな子「ありがとうマルくん」
雄之助「ふぁぁ……」
虎越「栗原さん、ごめん……」
栗原「なんのなんのっ。お姫様、ちゃんと送り迎えしますのでご心配なくっ!」
なな子「虎越さん……お仕事頑張って下さい」
虎越「うん。じゃあまた夜にな。……あっ、車で迎え行くって言ってたんだった」
栗原「ん? そうなの? じゃあなな子ちゃん会社まで送ったら、車渋谷署に持ってくね」
虎越「うん。ありがとう」
慎二「いってきまーすっ」
雄之助「早くあったかくなんねぇかなぁ……」
虎越「いってきます」(なな子の頭をぽんぽんと撫でる)
なな子「っ、いってらっしゃいっ!」
玄関が閉まる。
栗原「……さて。んー、じゃああたし洗い物しちゃうからっ。なな子ちゃんは座ってまったりしててっ」
テキパキと食器を片付ける栗原。
なな子「すみませんお手伝い出来なくて……っ! あ、でも、食器を拭くくらいなら多分でき……」
栗原「ダーメ! 火傷酷くなっちゃったら困るでしょ? 虎越くんの気持ち考えてみー? あれ絶対今日半休取りたかった顔してたわ」
なな子「っ……迷惑ばっかりかけて……」
栗原「迷惑だって、言ってた?」
なな子「……言って、くれなかったです」
栗原「優しいもんねぇ。虎越くん」
なな子「はい……」
栗原「お礼したいんでしょ」
なな子「……はいっ!」
栗原「じゃあ。火傷治そうね。一日も早く」
なな子「はい!」
栗原「ふふ……。……高校の時ね、なな子ちゃんみたいな子と付き合ってたんだよ。虎越くん」
なな子「朝倉まろんさんですか?」
栗原「知ってるの?」
なな子「はい。結構下級生の間でも有名でしたよ。あのお二人」
栗原「そっか……。文化祭とか体育祭でも目立ってたしね」
なな子「まろん先輩のチア凄かったです」
栗原「あー。あれは確かに」
なな子「文化祭のミュージカルも凄かった」
栗原「教室ではすっごい大人しい子だったよ」
なな子「へぇ……。……でも、似てないですよ、私とは」
栗原「そう? 守ってあげたくなるような所が似てると思うけど」
なな子「表舞台の晴れやかなお姿ばかり見ていたので……そういうまろん先輩はわからないですけど……」
栗原「繊細で儚い子だった。舞台の上じゃ何重にも仮面被ってたからねーあの子。わかんないのも無理ないか」
なな子「……アレって……本当なんですか?」
栗原「うん? なにが?」
なな子「虎越さんと付き合う時に……別れる日を決めておいたって……」
栗原「……」
なな子「っ……」
栗原「うん。……そうみたいだね」
なな子「……」
雨が降ってくる。
目覚ましの音で、二人は目が覚める。
虎越「……」 なな子「……」
二人同時に、目覚ましに手を置く。音が鳴り止む。
虎越「っ……おはよ」
なな子「……おはようございます」
虎越「……今日で一週間……か」
なな子「っ……そう、ですね……」
虎越「慣れないんだよなぁ……」
なな子「一緒のお布団で寝ることがですか?」
虎越「いや、それは……もうなんとか……精神統一の修行だと思えば……」
なな子「?」
虎越「風呂がな……。どうしても慣れないなぁって……」
なな子「っ――!!」
赤面して布団に潜り込むなな子。
なな子「すみませんっ……!! ごめんなさいっ!!」
虎越「~……いや……。お前両手の火傷、綺麗に治るといいな」
なな子「はぅぅ……。すみません……っ」
虎越「宇佐美。でてきて」(布団をぽんぽんたたく)
なな子「はいっ」(出てくる)
虎越「メシ食べよ」
なな子「はいっ!」
虎越「……今日って日曜か……」
二人、布団から出て。リビングへ。
なな子「今日私お休みですっ!」
虎越「奇遇ですね。俺もです」
なな子「……」(笑顔固まる)
虎越「なに?」
なな子「あ、あの……」
虎越「うん?」
なな子「虎越さん、私の面倒ばかり見て……疲れてますよね」
虎越「別に平気だけど……。俺かなり体力あるほうだし」
なな子「っ今日からは私がご飯ちゃんと作りますっ! 虎越さんは座って待っていて下さいっ!」
虎越「え、でも」
なな子、お腹で虎越を押してカウンターに無理矢理座らせる。
なな子「平気ですっ! 神谷さんも、無理しなければ料理とかしてもいいよって昨日仰ってましたっ!」
虎越「本当に? まああいつがそう言うならいいのか……」
なな子「はいっ! なのでっ! 虎越さんはテレビでも見ていてくださいっ! はいお茶っ!」
虎越「ああどうも。……無理すんなよ」
なな子「大丈夫ですっ!」
虎越「……包帯いつ取れんのか聞いた?」
なな子「治りが早いから、あと一週間前後かなって言われました!」
虎越「そっか……。それまではまだ不自由するな」
なな子「……すみません……堅苦しい思いさせてしまって……」
虎越「俺じゃなくて。お前がだよ」
なな子「でも結果として虎越さんが……!」
ズカズカといつも通り勝手に入って来る雄之助と慎二。
慎二「おっはよっー。うーさーみんっ!」
なな子「マルくん!? っお帰りなさいっ!」
慎二「はいこれ台湾のお土産ね~」
なな子「わーっ! ありがとうございますーっ!」
雄之助「腹減ったー」
虎越を囲んでカウンター席に座る丸山親子。
虎越「マルさん……一昨日、楪さん来ましたよ……」
雄之助「うっそ、マジ?」
なな子「っマジです! デパートでもお会いして! 大変美しい方でしたっ!」
雄之助と慎二にお茶を手渡すなな子。
慎二「あれ? あれれ? じゃあなんで布団……無いの? 買ったって言ってなかったっけ? 先輩」
虎越「未使用で切り刻まれて燃やされた」
慎二「ウッソ!? ハサミババア!?」
なな子「音速でしたね……」
虎越「マルさん! 宇佐美のこと楪さんに言っておいてねって言ったじゃん!」
雄之助「えぇ? 嘘、そうだっけ?」
虎越「夫婦のコミュニケーション不足!」
慎二「最近うちのパパママ、同居人みたいになっちゃってるの」
なな子「ええーっ」
雄之助「そんなことよりホラ。慎二、お前言ってやれ。虎越テメエ男じゃねえぞって」
慎二「あー」
虎越「とりあえず布団代もう一回頂戴よ」
雄之助「バカヤロウ! もう俺の懐には二十五円しかねえよ! 煙草も買えねえよ!」
慎二「先輩っ! 男じゃないです!」
虎越「え、俺? 何?」
慎二「そうですよう! なんで一週間もうさみんと一緒に寝てて。手出さないんすか?」
一瞬時が止まる。
虎越「……?」
なな子「えっ、えっ、え、え、え、え、えっ……」
虎越「……なんでって何が」
慎二「だからあ」
虎越「なんで台湾に四日間も旅行に行ってたお前が、俺と宇佐美の夜のこと知ってんだよ」
慎二「エッ?」
虎越「おかしいだろ」
雄之助「あっちゃー……」
慎二「えっとねぇ……それわぁ……そうなんじゃあないかなって……予想? 的な?」
虎越「な ん で だ よ」
慎二「えっとねえ、あのねえ、あーほら! 署にはお父さんがぁ居た訳じゃない? だからさ。なんていうかさ、そういう報告なかったなあってお父さん言ってたからぁ」
虎越「普通言わねえだろ」
雄之助「確かに」
慎二「待ってちょっと確かめたいことあんの!」
虎越「何」
慎二「ちょっとうさみんも来て!」
なな子「えっ」
慎二「はやくきてぇ!」
なな子「無理今お味噌汁煮えちゃう!」
慎二「お父さんちょっとキッチンかわって!」
雄之助「はい」
慎二「メンバーチェンジ!」
雄之助、なな子の可愛いエプロンを奪って調理場を占拠する。
なな子「あっ。あの~アクを取ったらすぐに火を止めて下さい。(雄之助「はい、はい」)あとお漬物を切っておいていただけると……」
慎二「はやくしてください!!」
なな子「う~!」
慎二「はい座って」
なな子「はい」
虎越「なんだよお前いい加減にしろよ」
慎二「第一問!」
テッテレ~と、変な音楽が鳴る。
なな子「!?」
虎越「なんの音」
慎二「(スプーンをマイク代わりにして)虎越先輩は、宇佐美なな子さんと一週間夜二人きりで同じベッドに入っていてもなにもしなかったのでしょうか!?」
なな子「!?」
虎越「お前さっきそれ言ってたろ!」
慎二「なにもしなかったのでしょうか!?」(スプーンを虎越のほっぺにグリグリ押し付ける)
虎越「しなかったって! やめて」
なな子、一生懸命頷く!
雄之助がしゃもじでボウルを何度か叩く!! カンカンカンカン!!
慎二「さてここでテレフォンです!」
虎越「テレフォン?」
慎二、キッチンの中へ。雄之助、慎二に耳打ちする。
雄之助「(いい感じのふざけたアドバイスを耳打ちする)」
慎二「っはい!! ~では第二問です!」
虎越「っえ!?」
テッテレ~と、変な音楽が鳴る。
なな子「!」
虎越「どこから音が来てるの」
慎二「虎越先輩は」
虎越「東京都出身です」
慎二「で~す~が~」
なな子「!」
慎二「宇佐美なな子さんと毎晩同じ布団で寝ている際、我慢をしているのでしょうか!?」
虎越「なにが?」
なな子「空腹を?」
慎二「空腹? 空腹ちがぁうなぁ!」
なな子「っはい! はい!」
慎二「っはい宇佐美なな子さん!」
一人で笑っている雄之助。
なな子「あの~、えっと、怒るのを?」
慎二「怒る? 怒りたいんですか?」
虎越「いや別に」
慎二「理由はなんでしょう?」
なな子「あの~私がいつもドジとかしちゃって目覚まし時計とか落としちゃってもイライラしてないようなので……本当は怒りたいのかなって思って……」
慎二「はい違います! お手付きです!! 宇佐美さん解答権が無くなりましたー!」
虎越「……」
なな子「あぁーっ……」
虎越「問題なんだっけ?」
なな子「えっと……」
慎二「聞いてましたか!? ちゃんと!」
虎越「ほぼ聞いてないです」
慎二「なんで! オーディエンス使いますか!?」
虎越「オーディエンス?」
慎二「我慢したか! してないかです!」
虎越「あー。あー。ね」
なな子「四択じゃないところが優しいですね!」
慎二「そうですね~!」
雄之助「目玉焼きがぁ焼けましたッ!」
慎二「っはい目玉焼きが焼けました! 朝食が冷めてしまいます! 時間がありません! さあ解答してください! 5・4・3・2・1……!」
虎越「我慢してます」
慎二「!」
なな子「?」
雄之助「!!」(めっちゃ笑ってる)
慎二、虎越の右手を振り上げて。
慎二「っおめでとうございます! 今回でこのコーナー最終日となりました! おめでとうございます! ありがとうございます! みなさんさようなら!」
雄之助、なな子の前にお味噌汁とごはんとお漬物と焼き魚を置く。
雄之助「先に食ってて」
なな子「! いただきますっ!」(以下の男どもの会話、気になってたまにちらちら振り返りながらごはん食べる)
雄之助「食べて待って下さい」
なな子「はいっ! ……?」
リビングの奥に集まる男三人。
素っぽく話す。演技っぽさとかカメラとかなにも意識してない。素笑いたくさん入れる。
慎二「よかったー俺トラちゃん玉なくなったのかと思ってー」
虎越「我慢してますよ」
雄之助「よかったね」
慎二「玉は」
虎越「玉はありますよ」
慎二「あのねえそれだけどうしても聞きたかったの」
虎越「玉が? ないのかって? そんなに?」
慎二「ちがぁよ玉じゃない。玉じゃなくて。我慢の、我慢」
虎越「我慢ね」
雄之助「とりあえずお前の片想いってことでいいの?」
虎越「それはわかんない」
雄之助「え? どういうこと?」
虎越「だからそれはわかんないんだって」
慎二「でも夜はぁ」
虎越「夜は必死だよね天井のシミとか数えたりしてる」
雄之助「あー」
慎二「え。なんでなにもせんの」
雄之助「この距離だろこのさ。この、この距離」(慎二とおでこをぶつける)
慎二「ちっか!」
虎越「だからあ」
雄之助「え、なんで無理なの? 彼女が」
虎越「だから無理じゃないって全然無理じゃない。大事にしてんの」
慎二「ほんとかよ。そんな何日も耐えられる? ふつう」
雄之助「いや俺は我慢とか無理だけど虎越さんは無理じゃないのかも知んない」
虎越「……はい」
慎二「えっ虎越さんはぁ」(ちょっと訛る)
虎越「あの子はぁ警察官のこと聖人君主だと思ってる……」
雄之助「こっわw」
虎越「あのね、触ろうとするとそういう話されるから。おっとってなる」
慎二「つらー」
虎越「神様だと思われてる」
慎二「え……」
虎越「警察官に対する憧れとね、それ話してる時の目の輝きがヤっバイ」
雄之助「なえちゃうの?」
虎越「なえちゃうっていうか……。熱く語ってくるから……小一時間くらい……」
慎二「ながいんだねぇ」
虎越「あの子多分したことないんだと思う……」
慎二「えーっ。あーそっかぁ」
雄之助「もうあれじゃん? そういう本とかをさ、ベッドにこう……丁寧に並べといたら? 参考までにってどうぞーって」
慎二「wwwwwwwwwwww」
虎越「嫌われたくないからね」
雄之助「ダメかぁ」
慎二「えっ。したいんですよね? 虎越くんは」
虎越「まぁ……あー、いや、でも、んー」
雄之助「なんすか」
虎越「なんていうか……純粋な子なので……」
慎二「純粋な子なので。はぁ」
虎越「のびのびさせときたいというか」
慎二&雄之助「wwwww」
雄之助「お腹痛い」
慎二「わかったわかりました。わかりました」
虎越「ただまあ言えることがあるとするならば僕は欲的なものはなにも薄まってないです」
慎二&雄之助「はい」
雄之助「よかった」
虎越「普通の健康男子の水準だと思う」
慎二&雄之助「はい」
虎越「ごはんを食べていいですか」
慎二&雄之助「はい」
カウンターに戻る三人。
なな子「あっ……お話終わりました?」
虎越「はい」
なな子「?」
雄之助「全然。全然君は食事が進んで無いじゃないか」
なな子「すみません! 骨を取るのに苦戦してしまいましたっ」
慎二「慎二ごはんよそいます!」
慎二、ごはんをよそって全員分のお味噌汁をよそって手渡していく。
雄之助「はいお願いします」
なな子「なんのお話だったのです?」(小声で虎越に聞く)
虎越「えっと……」
雄之助「趣味の、趣味の話だ」
虎越と慎二、笑っちゃう。
慎二「解決しました」
なな子「解決?」
慎二「解決したので。もう大丈夫です」
なな子「そうですか、え?」
虎越「僕に勇気が無い訳ではないんです」
なな子「僕?」
雄之助「いただきます!」
慎二「なんていうかね、タイミングってあるよね」
雄之助「いや」
慎二「ちがう!?」
雄之助「違うなぁ……」
慎二「どうしたらいいのかな」
雄之助「解決したんだろ?」
慎二「はい。解決しました」
雄之助「あれじゃん? もうさ、形から入ってみたら? そういうのを買うとか……付けるとか濡らすとか指を滑らせるとか」
虎越「黙れよ。黙って食えよ」
慎二「お父さん九時になっちゃった」
虎越「お前ら遅刻だよ」
雄之助「あーあ」
慎二「はやく食べて」
雑談しながら。
【次話へ続く】