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とらななちょころし!【声劇用】【舞台用】男1女1以上【連載中!!】  作者: 七菜かずは
第二章●虎越一族との再会!! なな子、心ふりふりふりまわされて。
11/12

第九話【男1女1不問7~男1女1不問2】~蒼となな。ときめきおでかけ。~約60分

第九話


出演(男1女1不問7~男1女1不問2)※蒼哉となな子とメイクさんと美容師さんは同じシーンに出てくる為、掛け持ち出来ません。

宇佐美うさみ なな子 (24) ♀ :

虎越とらこし 蒼哉あおや  (28)  ♂  :


・美容師さん  性別不問  :

・メイクさん  性別不問  :

・カフェの店員さん  性別不問  :

・ショップの店員さん  性別不問  (※店長役と同じシーンに出てくる為、店長役とはかけもち出来ません)  :

・店長  性別不問  (※ショップの店員さんと同じシーンに出てくる為、ショップの店員さんとはかけもち出来ません)  :

・バー店主  性別不問 (※出来れば男性希望)  :

・ナレーション   性別不問  :






役解説

宇佐美うさみ なな子  (24)  ♀

 ウエディングプランナー。本作ヒロイン。気弱でか細い女の子。照れ屋さん。気配りが出来て家事も出来る「お嫁さんにしたい」タイプ。すこし悲観的で臆病。自分の根本にあるネガティブさを隠す為にいつもポジティブ&笑顔でいることを強く心がけている。連絡がマメで、同性の友人が多い。人見知りしない。身長155センチ。靴は23センチ。


虎越とらこし 蒼哉あおや  (28)  ♂  

 主人公辰哉 (なな子の旦那さん)の実兄。虎越家長男。FBI。本当は捜査よりも父と同じ警察内部の憲法学者か会計士に戻りたいと思っている。辰哉にかなり容姿が似ており、全身脱毛症。家族や幼馴染は辰哉と蒼哉の見分けがつくらしい。背は辰哉よりも高く、骨格は微妙に違う。辰哉とは顔と首のほくろの位置も違い、蒼哉のほうが若干垂れ目で優しい表情をすることが多い。右耳に赤黒いイヤリングとピアスをたくさんしている。弟の辰哉はバイクや車や楽器や筋トレやゲームなど男っぽいものに詳しいが、蒼哉はとにかく可愛いものが好きで、怖がり。警察に入ったのは自分の弱さを少しでも強くする為。スポーツや武道は何をやらせても腕が立ち、冷静な判断力も十分にある為、蒼哉が本当は気弱で大人しいと思っている人間は少ない。誰よりも心が優しく、うさぎや小動物、粘土アニメやぬいぐるみが好き。特にサンリオの可愛いキャラクターが好き。






 ――再開幕。


ナレーション「新婚生活を幸せに送っていた、なな子。そんななな子のもとにあらわれた、辰哉の家族たち。普段アメリカで生活している虎越一家の核・母親みねねの命令で。虎越兄の蒼哉とともに渋谷中を連れ回されてしまうなな子。警察署に朝まで出勤中の辰哉はそんなことはつゆ知らず……。なな子の年末は慌ただしく過ぎて行くのでした」


ナレーション「渋谷内某所。フルヘアメイクが出来る美容室にて。この美容室の若い店員さんたちに囲まれ。髪と化粧を綺麗に豪華に整えて貰っているなな子。その姿を部屋の隅から見守っている蒼哉。蒼哉はなな子がモデルをしている結婚雑誌『レディミスト』の最新号を手に、たまにちらちらと心配そうになな子を傍観しています」


メイクさん「ちょっと彼氏! 彼氏イケメンですね! なんでスキンヘッド!?」


なな子「あーあのー彼氏じゃないんですけど……」


美容師さん「えっ。彼氏じゃないの!? え~じゃあ~ねえあの人なんの仕事してる人なんすか?」


なな子「けっ……! っ……!」


 警察官だと言っていいものか迷うなな子。


メイクさん&美容師さん「??」


なな子「あっあの! 蒼哉さん……!」


蒼哉「?」


 蒼哉、なな子の傍に来てくれる。


蒼哉「どうしたの?」


メイクさん「背ぇっ高っ!! ……ですね!」

蒼哉「え……」

なな子「あああ蒼哉さんのご職業が知りたいって言われて……っ!」


蒼哉「え? あぁ……」


美容師さん「お兄さん、その赤い目、カラコン?」


蒼哉「あ、いや。違います」

美容師さん「えっ地なの!? ウケる! すごいっ」

蒼哉「あ……」

美容師さん「カッコイイね!!」

蒼哉「えっ……あ……」


メイクさん「ねーねーね。なな子ってレディミストの宇佐美なな子ちゃんと同じなな子!? っつか肌キレー! 何歳ですかっ!?」

なな子「あ……っ、えっ……」


美容師さん「ねえねえお兄さんっ。なな子ちゃん、ちょっとゆるふわ髪巻いちゃって~。こ~んな感じでアップにしたいな~って思ってるんすけど。どーお?」


蒼哉「あぁ、可愛いかも」


美容師さん「むっちゃくっちゃ可愛くなろうねっ」


なな子「ありがとうございます!」


メイクさん「最初に電話くれたのってお兄さんのお母さんです?」


蒼哉「うん」


メイクさん「なんかオーラありましたもん! オーラ、似てるっ」


蒼哉「そうかなぁ……」


メイクさん「ハーイ。なな子ちゃんちょーい上向いてくださ~い」

なな子「はいっ」


美容師さん「んっでっ。仕事なにしてんのっ!? 彼氏!」


なな子「あの、だから彼氏じゃ……」


蒼哉「連邦捜査官」


メイクさん「ファッ!?」


美容師さん「あれじゃん!? アメリカじゃん!? 知ってる!」


メイクさん「えっ、アメリカ!? アメリカの人!? です!?」


蒼哉「日本人だよ」


美容師さん「なな子ちゃんも!?」


なな子「にっ日本人です!」


メイクさん「銭形警部じゃん!?」

美容師さん「えー!? ルパン捕まえる人!?」


蒼哉「あー……まあ……ああいう感じかなぁ」


メイクさん「あっははっはっはっは! 逮捕してぇーっ!」


美容師さん「ちょっと。最近下品過ぎるって怒られたばっかっしょ!」


メイクさん「んー。お兄さんいい体格してるもんね~。そこに惚れちゃったんですかぁ~?」


なな子「あ、あの、だから……」


美容師さん「お兄さんは、ずっとその頭なの?」


蒼哉「うん」


美容師さん「そうなんだぁ。じゃあなな子ちゃんの髪とかいじってあげればいいじゃんっ。自分に時間かかんない分さ~」


蒼哉「……女の子って自分でやりたいのかと思ってた」


メイクさん「えーそんなことないけどっ! ね! ななちゃんも、髪触られるの好きでしょっ!?」


なな子「えっ? あー……そうですねぇ……」


美容師さん「髪触られると心許しちゃうよね~」


蒼哉「そうなんだ」

なな子「えっ!? あ、あの、蒼哉さん……」


蒼哉「なな子の旦那さんに伝えておきます」


メイクさん&美容師さん「へっ?」


蒼哉「おれの弟がその子の旦那さんだから」


メイクさん「マジ!?」


美容師さん「ななちゃん結婚してんの!?」


なな子「は、はい。一応……っ」


メイクさん「お兄さん、ほんとにお兄さんだったんだ!」


蒼哉「ふ。そうだね」


美容師さん「今日は付き合ってあげてるのー?」


蒼哉「弟が朝まで仕事なんだ」


メイクさん「ありゃあ……。そりゃ寂しいですねえ」


美容師さん「写真いっぱい撮ってね! 絶対可愛くなるからっ!」


なな子「あ、ありがとうございます……っ!」


メイクさん&美容師さん「はいっ完成っ!」


蒼哉「はやっ!」

なな子「わ~! 神速!」


メイクさん「あたしたち、高速セットで売ってるんですよっ」


美容師さん「この後は? 服とかネイルとかも? イメチェンするのかなっ?」


メイクさん「どおっ? お兄さんっ! ななちゃんの紫の瞳とキューティなフェイスが引き立つように! 小顔に仕上げましたよっ」

蒼哉「かわいい」


美容師さん「髪もねっ! ふんわりゆんわ~りな感じでっ! ひゅっときゅっとびゅっと! 題して冬に咲くピンクのチューリップ……! 的なっ!?」


蒼哉「フェアリル!」


メイクさん&美容師さん「っフェアリル!!」


蒼哉「フェアリル!」


メイクさん&美容師さん「っフェアリル!!」


 謎のフェアリルコールをしながら盛り上がる三人。


なな子「あ……あの……」


蒼哉「可愛いよ。なな子。君以上に可愛い子には会えないね」


 蒼の優しい瞳に、顔を真っ赤にしたなな子の姿が映る。


なな子「あ、ありがとう……ございます……っ」


蒼哉「お二人も。ありがとう。びっくりした。お会計いいですか」


メイクさん「ハーイ。ではこちらにどーぞー」


 お会計を済ませる蒼。とっても綺麗に仕上げて貰ったなな子を、横目で見て。


美容師さん「なんかお直しとか必要だったらまた来てくださいねっ! うち結構遅くまでやってるからっ」


なな子「ありがとうございますっすみませんっ!」


美容師さん「ねねっ……ななちゃんっ」(なな子にコートを手渡しながら。こそっと耳打つ)


なな子「? はい」


美容師さん「お兄さんって……ななちゃんのこと好きでしょ」


なな子「へっ……?」


美容師さん「え。気のせいじゃ無いと思うんだけど……」


なな子「わ、わたし……結婚しているのでっ……」


美容師さん「うーん……。まあ、そう、よねっ。うん。お幸せにねっ。今夜はご家族とディナーなの? パーティ?」


なな子「あ……えっと……」


蒼哉「なな子、次はドレスと靴! 選びに行かないとっ! 時間作ってネイルと装飾品も選ばないとっ。行こうっ」


なな子「あっはっはっはい!」


美容師さん「あっ。転ばないよーにねっ」


メイクさん「ななちゃんっ。この口紅、今来てくれた人に配ってるの! ななちゃんが今つけてるのと同じ色ですよっ。あげますねっ」


なな子「あああありがとうございますっ!」


蒼哉「すみません。助かりました。では」


 なな子と蒼哉、美容室を慌ただしく出て行く。


メイクさん&美容師さん「ありがとうございました~」


 ドアが閉まる。


美容師さん「……弟の妻の美容院に、わざわざ義理の兄が付き添う?」

メイクさん「付き添わないっ」


美容師さん「好きでも無い女のことあんな風に褒める!?」

メイクさん「いや。無いっ。アメリカンジョークにしても冗談が過ぎるでしょー!」


メイクさん「……っお兄さん、あの子のこと絶対好きでしょ!」


美容師さん「んーでも、なな子ちゃん気付いてるっぽかったな~」


メイクさん「あれ……? ねえね、やっぱり本人かも……!」


美容師さん「うん? 何……?」


 待ち席に開いて置いてあったレディミストの、なな子が写っているページを二人で見て。


メイクさん「宇佐美なな子ちゃん!」

美容師さん「ああっ!!」






 エレベータに乗り込むなな子と蒼哉。


蒼哉「えっと……。次は……」


なな子「あっあのっ。私、行きたい所があるんですけど……っ!」


蒼哉「え? どこ?」


なな子「えーと……。あっ。地下二階に行きますっ!」(エレベータのボタンを押す)


蒼哉「え、あっ……うんっ」


なな子「すみません。私……どうしても喉乾いちゃって……っ」


蒼哉「え……。っさっき美容院で、紅茶飲んでたよね?」


なな子「あっ……」


蒼哉「?」


なな子「きょ、今日って。ほら。乾燥……しません? 外は寒いですけど! ビルの中は暑いしっ! コートなんて着てられないし……っ!」


蒼哉「う、うん……っ」


なな子「ごめんなさいっ。時間無いのにっ」


蒼哉「いいよ。大丈夫。まだ五時間以上あるし。導線がすんなり行くように、今日行く場所、もう一度練ってみるね」


なな子「……そういう考え方も、お母さん譲りですか?」


蒼哉「え、っ……」


なな子「蒼哉さんは……辰哉さんに外見はとても似てますけど……。でも、中身は全然違いますね……」


蒼哉「た、頼りない……?」


なな子「え、いえ。……蒼哉さんは立派です。私には出来ないこと、辰哉さんにも出来ないこと、たくさん出来る人なんだと思います」


蒼哉「っ……」


なな子「考えも深くて。自分のまわりの人間のことを守る力がきちんとあると――思うんです。……あっ! って……っごめんなさい。偉そうに……。蒼哉さんとは、まだ会って日も浅いのに……。あの、でも、そう感じるんです……」


蒼哉「っ……嬉しいよ。そういう風に見てくれるのは……」


なな子「でも……。っ。蒼哉さんは……」


蒼哉「?」


なな子「いつだって、誰かの為に笑ってらっしゃる……のに。いっぱい我慢して……っ。……愛される自信が無くて、ビクビクしてるんですか……?」


蒼哉「……おれは――」


 地下二階に着く。


なな子「あーっ。地下二階に着きましたっ! 蒼哉さんっ! カフェに行きましょうっ!」


蒼哉「あっ、うっうんっ」






 限定ショップカフェに入ったなな子と蒼哉。店内は混み合っていて。二人は窓際の二人掛けの席に座っている。


蒼哉「うっ……ゎぁ~~~~~~~~っ……! ほんとにすごいすごいっ!」(メニューを見て目を輝かせている)


なな子「あ。ラテアートなんですけど。リルリルフェアリルのりっぷちゃんとすみれちゃんを描いて頂くことって出来ますか?」


カフェの店員さん「ハーイ♪ 出来ますよっ! サンリオキャラならなーんでも♪」


なな子「じゃあ、チョコレートラテはりっぷちゃんで。カプチーノはすみれちゃんでお願いしますっ!」


カフェの店員さん「かしこまりました♪ えーと、それと、あと、キキララのワッフルプレートと、マイメロちゃんパフェお一つずつですね♪」


なな子「はいっ。お願いします!」


カフェの店員さん「かしこまりましたっ♪ お飲み物はいつ頃お持ちしますか?」


なな子「あ、いつでも……。先だと嬉しいです」


カフェの店員さん「はいっ! 少々お待ちくださいませっ」(キッチンのほうへ下がって行く)


なな子「やっぱり蒼哉さん、甘いものお好きだったんですねっ」


蒼哉「えっ、あっ、あぁ……うんっ」


なな子「辰哉さんは甘いものあんまり好きじゃないけど。でも、朝食ビュッフェの時、蒼哉さん甘いものも果物も……普通に召し上がってたから」


蒼哉「うーん。辰哉だけ、いつも甘いものあんまり食べないんだよね」


なな子「それってやっぱり、辰哉さんだけ生活の場が違っていたからでしょうか……」


蒼哉「そうかもね。日本に居たのは父方の祖父母なんだけど。あの二人は辛いものとか香辛料とか薬味とか……? うん。そういうものを集めるのが好きだったみたいだから。辰哉もそういう所に影響されたのかもね」


なな子「そうなんですね。……私、蒼哉さんと一緒にここに来れて良かったです。このカフェがサンリオとコラボしているのって、明日までらしいので……」


蒼哉「もしかして、調べておいてくれてたの?」


なな子「あっ……。い、一応……。はい……」


蒼哉「おれの……為に?」


なな子「蒼哉さん、喜ぶかなってっ……」


蒼哉「っ……なな子……」(テーブルの上のなな子の右手に、自分の左手を重ねる)


なな子「っ……」


蒼哉「ありがとう……。君はやっぱり、幸運の天使だね」


なな子「えっ……」


蒼哉「……おれは、自分をこうして優先して貰ったことってないから……。今凄く感動しているよ」


なな子「そ、それは……。蒼哉さんがお兄さんだからですか?」


蒼哉「うーん……。そう、かな……? 双子の弟のほうが、おれよりも手がかかったからかなぁ」


なな子「えっと……すぅやさんと、げんやさん、ですか?」


蒼哉「うん。あの二人、エレメンタリースクールの時……あ、小学校。までは……喘息が酷くて。小学校からは、アトピーが凄く酷くて……」


なな子「お二人とも、ですか?」


蒼哉「うん。流石のお母さんとお父さんも、結構まいっちゃう位。本当に酷い症状だったんだよね……。使用人さんたちが、毎日のように違う病院に連れて行ったり。入院までさせてたこともあるから……」


なな子「蒼哉さんは、持病とかはなにも無かったんですか?」


蒼哉「うん。辰哉と同じ全身脱毛症だけ、かな。だから。家庭教師とか塾とかスポーツとか習い事は……おれに一番お金掛けて貰ったかも……」


なな子「そうだったんですか……。大変だったんですね……。今も、お二人の病院通いは続いているんですか?」


蒼哉「ううん。二人が二十歳はたちくらいの時にパタッと症状が無くなって。今じゃもう病気の痕も何も無いくらい。嘘みたいに普通なんだ」


なな子「そうなんですね! それは嬉しかったでしょうね。みねねちゃんも、お父さんもっ」


蒼哉「っ……なな子……」


なな子「はいっ」


蒼哉「おれ、君と家族になれて嬉しいよ」


なな子「……っ」


蒼哉「か、カリフォルニアにもね、キティカフェがあって……」


なな子「えっ! あっ、やっぱりあるんですか!」


蒼哉「うん。あ、写真あるかも……」(自分のスマホを操作して。なな子にキティカフェの写真を見せてあげる)


なな子「っ見たいです!」


 写真には、キティちゃんデコが施された大きなクッキーと、リボンの形のイチゴやベリーがくっついている豪華なケーキを持っている双子の男の子が写っていた。

 二人とも楽しそうに笑っていて。キティちゃんのリボン型のペットボトルも手に持っていた。

 

蒼哉「えー……と。あ、これだ。はい」


なな子「わ~かわい……。あ、これって……弟さん……ですか?」


蒼哉「うん。八重歯長くて目尻にほくろがあるのが朱哉すぅや


なな子「えっと……ではこちらが玄哉げんやさん……?」


蒼哉「うん。スーよりも色白でクマがあるのが玄哉」


なな子「……一卵性、ですよね」


蒼哉「うん。そっくりでしょ」


なな子「あ、でも……。すうやさんは……辰哉さん。げんやさんは……蒼哉さんに、似てる気がしますっ。目とか……っ!」


蒼哉「そう?」


なな子「はいっ」


蒼哉「もっとめくると、他にも色々……。マカロンとか、ドーナツのデコのも……っ」


なな子「可愛い~っ!」


蒼哉「あ……あの」


なな子「? はい」


蒼哉「弟たちもおれの趣味のこと許容してくれてるけど……。なな子は男がこういうの好きでも気にならないの? い、今更、なんだけど……」


なな子「え? あぁ……そうですね……。私は全然。気にしませんよっ。私の友人、女の子が多いんですけど……。結構みんな、男の子っぽい趣味が多くて。バイクとか、車とか、昆虫採集とか? ふふっ」


蒼哉「へえ……?」


なな子「それに……。好きなもの好きだって正直に言える蒼哉さんは、すごいです」


蒼哉「……っ、え、なな子だって……」


なな子「私は……。ずっと、逃げてました。辰哉さんにまた忘れられちゃうのが怖くて……。……好きってずっと言えなくて。一人でめそめそして、ばっかりでっ。……あの、っ……私……。辰哉さんからずっと、……っ離れたくて……っ。……離れたかったんです……。好きなんて気持ち忘れて。楽になりたかった……。もう傷付きたく無くて……っ」


 蒼哉、なな子の話を聞いてる途中で立ち上がり、彼女の手を引いて。そのままなな子のことを抱き締める。


蒼哉「っ……」

なな子「っ! あ、蒼哉さん?」


蒼哉「ごめん……。おれは誤解してた……」


なな子「え……?」


カフェの店員さん「お待たせしました~っ♪ チョコレートラテとカプチーノですっ♪」


蒼哉&なな子「あっ……」


 慌てて席に座る二人。店員さんが、チョコレートラテをなな子の前に。カプチーノを蒼哉の前に置く。


カフェの店員さん「こちらで宜しいですか?」


なな子「あっ……」

蒼哉「ありがとうございます」


カフェの店員さん「ごゆっくりどうぞ~♪」(満足気に下がって行く)


 なな子と蒼哉、そっとカプチーノとチョコレートラテを交換する。


なな子「あぁ……」

蒼哉「やっぱり普通、女の子のほうが甘いもの頼むって思うよね」


なな子「あ、私がちゃんとカプチーノだって主張しなかったからっ……」


蒼哉「可愛いね! りっぷとすみれ」


なな子「っ写真撮りましょうっ!」(スマホでカプチーノとチョコレートラテを撮る)


蒼哉「わぁ、わぁ、すごいね。ホントに。かわいすぎる」


なな子「あっ、あの、蒼哉さんに頂いた名刺って……電話番号とか書いてありましたっけ……」


蒼哉「うん。あとメールアドレスも」


なな子「いつも、年末年始は何日まで日本にいらっしゃるんですか?」


蒼哉「三日までかな。そうしたらまた、ずっと会えないね……」


なな子「……あ、……」


蒼哉「なにかあったらいつでも連絡して。お休み取れたらなな子もこっちに遊びに来て欲しいな」


なな子「はっはいっ」


蒼哉「あ。お父さんが、辰哉が長期休み取りにくいんだったら、お嫁さんだけでも遊びに来て欲しいって伝えてって言ってた」


なな子「ほ、ほんとですかっ。いいのかな……」


蒼哉「お友達と一緒でもいいよ? 部屋はたくさんあるし。観光名所も近いから。あ、ほら」


蒼哉&なな子「ディズニーランドとか!」


なな子「ふふっ。みねねさんにとっては楽園ですね。皆さん年間パス持ってるんですか?」


蒼哉「うん。お爺とお婆が買ってくれた」


なな子「おじいさんとおばあさんも、ディズニー好きなんですかっ」


蒼哉「そうだね。だからあそこに土地と家を買ったみたい……」


なな子「あぁ……。成程」


蒼哉「なな子は英語普通に喋れるんでしょ?」


なな子「えっと……。まあ、そ、そうですね……。達者かどうかは自信がありませんけど……」


蒼哉「……っ」(はにかむように、微笑んで)


なな子「……蒼哉さんって……人見知り……ですか?」


蒼哉「えっ」


なな子「なんだか、段々顔が緩んできたっていうか……。最初はもっとずっと、表情が……かたかったっていうか……」


蒼哉「ひ、引きつってた?」


なな子「っ……。……私のこと、こわかったですか?」(蒼哉の頬に、ほんの少しだけ触れて)


蒼哉「え……っ……そ、そんなこと、ないよっ」(俯く)


 なな子、すぐに手を引っ込める。


蒼哉「おれは……」


カフェの店員さん「お待たせしましたっ。キキララのワッフルプレートと、マイメロちゃんパフェですっ♪」


なな子「あっ。ありがとうございます」


カフェの店員さん「ご注文は全てお揃いですか?」


なな子&蒼哉「はいっ」


カフェの店員さん「ごゆっくりどうぞ♪ あっ。お写真撮ります!?」


なな子「っ! いいですか!? お願いしますっ」(立ち上がって自分のスマホを店員さんに手渡す)


カフェの店員さん「は~い。えっーと……あっ。もっとくっついてーっ。もっと! もっと寄ってくださいっ」


蒼哉&なな子「えっあっあっ……あっ……」


カフェの店員さん「あはは! お二人ともかわいーですねー。付き合いたてですか? ハイ笑って~」(なな子に手渡されたスマホで何枚か写真を撮る)


なな子「ちっ違いますっ!」


カフェの店員さん「へっ? あ、撮れましたよ~」


なな子「ありがとうございますっ!」


蒼哉「兄妹なんです」


カフェの店員さん「へえ~……? お兄さん、こーんな可愛い妹さんだったら、お嫁に行っちゃった時イヤでしょ~!」


なな子「えっ」


蒼哉「あ……そ……っ」


カフェの店員さん「あっ。すみませんっ。では、失礼しますねっ」


蒼哉「あ、ありがとうございました」


なな子「後でメールで送りますね! 写真っ」


蒼哉「ありがとう……」


なな子「飲みましょう食べましょうっ」


蒼哉「あ、うんっ」


なな子「ラテアート、可愛いから崩すの勿体ないですけど」


蒼哉「でも、冷めちゃうほうが勿体ないよね」


なな子&蒼哉「いただきますっ」


 二人同時に。ティースプーンで飲み物をかき混ぜる。






 一時間後。

 ヒカリエの中のサンリオグッズ限定ショップに来た、なな子と蒼哉。


なな子「蒼哉さんっ! 地下一階のこの限定ショップには、キティちゃんデザインの下着やドレスが売ってるみたいです!」


蒼哉「へ~すごい。やっぱり日本のほうがグッズとかなんでも揃うね」


なな子「あっ見て下さいっ! 大人用の下着とキャミソールも……っ! かわいーっ! 色もきれいだし触り心地も……っ。あっ……」


蒼哉「っ……そ、そういうのは……っ。み、見せたい人と一緒に選んだ方がいいんじゃないかな……」


なな子「すっすみません……っ! わ、私奥に展示してあるドレス、見てきます……っ!」


蒼哉「あ、なな子……っ」


 蒼哉、女の子だらけの店内を見渡して。入り辛く。廊下の隅に移動する。着信。スマホが震えた。


蒼哉「? (着信を取る)……Hello」


 同僚からの着信だった。蒼哉の顔付きが変わる。


蒼哉「Go home after one week……」


 なな子はキャンディーやチョコの香りがするファンシーでカラフルなドレスやワンピースを見てテンションが上がる。


なな子「うっわ~っ……! このドレス、すっごい可愛い……っ!! ……ん、あれ? このメーカーって……」


ショップ店員さん「お客様。ご試着も出来ますが如何ですか?」


なな子「あっ……いえっ、その……っ」


ショップ店員さん「あれ……? 宇佐美なな子さん?」


なな子「っ!!」


ショップ店員さん「の、そっくりさん?」

なな子「あっ、あっ、あの……」


ショップ店員さん「いやっ本人! その紫の目とそばかすと色白の肌とぷっくりした唇は本人っ! レディミストの宇佐美なな子さんですよね?」


なな子「は、はい……っ」


ショップ店員さん「ひゃあ~! どうしたんですかっ!? これ、来週着て貰うやつなんですよ!!」


なな子「えっこっこれですか!?」


ショップ店員さん「はい! あ、まだ他のデザインのやつも色々たっくさんあって……っ。今日って、お一人ですか?」


なな子「あ、あの、いえ、兄と来てて……っ」


ショップ店員さん「兄? どこどこ?」


なな子「あ……っ。あそこの柱で、通話してる……」


ショップ店員さん「呼んできてあげますよ! ねっ。ドレスとワンピース! 来週着ないやつ、試着しません!? ほらほらっ試着室どうぞっ!」


なな子「ええっ!? あっあっあのっ」


ショップ店員さん「ん? お時間無い感じです?」


なな子「あ、い、いえっ! 実はちょっと大人っぽいドレスワンピとそれに合う靴を探してて……」


ショップ店員さん「えー!! じゃあ丁度いいのが結構ありますよ! 入荷したんで! 待っててくださいっ! とりあえずねっ、これとこれとこれっ! 着てみて下さいっ! ねっ!」


なな子「あっはっはっはひ~……」


ショップ店員さん「お兄さん、呼んできますねーっ! ……っと、その前に……っ!」


 ショップ店員さん、事務所の中の社員に声を掛けて、他のドレスやワンピース、靴を用意させる。


ショップ店員さん「店長っ!」(ノックをして、事務所に顔だけ出して)

店長「むおっ!?」(休憩してた)

ショップ店員さん「今レディミストの宇佐美なな子ちゃんが来てて……っ!」

店長「えええっ!? マジ!?」

ショップ店員さん「マジです! んでっ! 今すぐドレスとワンピとヒール類全部並べて出して下さいっ!」

店長「オッケー!! なな子ちゃんって足23だよね!?」

ショップ店員さん「そうですっ! お願いしますっ!」

店長「はいよっ!」


 指示を終えた後。ショップ店員さんは蒼哉のほうへ走って行く。


蒼哉「Since the time being report only finish.A little more straddle……」


ショップ店員さん「……あのー……」


蒼哉「It takes the three days to be early return.Year-end and New Year holidays can not leave the original family…….I'm sorry, I ask」


 通話を切る。


ショップ店員さん「ペラペーラ……」


蒼哉「わっ!?」


ショップ店員さん「あっ……あの。宇佐美なな子ちゃんのお兄さん、ですか?」(日本語通じるのかな?)


蒼哉「は、はい」


ショップ店員さん「あっ。日本語わかるんだ!」


蒼哉「えっ。あっ……はい」


ショップ店員さん「あのっ。今なな子さん、着替えてて……っ」


蒼哉「えっ!?」

ショップ店員さん「んっ!?」


蒼哉「あ、し、下着が可愛いって……言ってたからかな」


ショップ店員さん「え、下着? あっ。下着も欲しいのかな?」


蒼哉「え」


ショップ店員さん「お兄さん、見てあげて貰えます?」


蒼哉「えっいや……あの」


ショップ店員さん「はやくはやくっ。今色んなのに着替えて貰っててっ……!」


 ショップの中から外に出てくるなな子。

 白いドレスに、赤いリボンがたくさんついていて。銀色に光るヒールの靴は、ドレスとよく合っていた。


なな子「あ……っ」


蒼哉「っ――」


ショップ店員さん「あっ! なな子さんっ。すごいっめちゃくちゃ似合ってるっ! サイズどうですー!? 前回のと同じサイズで作ってあるはずなので、ぴったりのはずなんですけどっ!」


 まわりのお客さんからも、注目を集めてしまうなな子。


なな子「えっと……前回よりも着心地も良くって苦しく無いですっ。サイドはゴムになってるんですね! フリルとスカートも思ったよりくどく無いし。これならジャケット着ちゃえば余所行きで着れますねっ!」


ショップ店員さん「そうそう~っ! そうなんですよーっ! 流石わかってるーっ! ねっお兄さんっ! 可愛いでしょ!? どうです!? あっ。なな子さん。ジャケット、革ので結構カッコイイのがあるんでそれ持ってきますね! 合わせるとめっちゃいいと思うんでっ!」


なな子「ありがとうございますっ! ……えっ……と……っ。蒼哉さん……っ。ど、どうですかっ」


蒼哉「え、あっ……う、うん……」(蒼哉のことを見上げているなな子の両手を取る。彼女に見惚れて)


なな子「?」


蒼哉「か、かわいいよっ」


なな子「あ、よかったですっ……。ほんとに可愛いですよね。このキティちゃんドレスっ」


蒼哉「……っ……なな子……」


 蒼哉、なな子の額に自分の額をくっつけて。繋いでいた両手もぎゅっと引き寄せて。


なな子「っ」

蒼哉「誰にも見せたくないくらい可愛いよ」


なな子「えっ」

ショップ店員さん「えっ!」(何故か照れる)


蒼哉「えっ!? あっ……ご、ごめんっ……」(手も身体も離す)


なな子「あ、蒼哉さん……」


ショップ店員さん「やだもぉ~! お兄さん、シスコン!? んまーこんな可愛い子が妹だったらねえ……。……あれ? あんまり似てないような……。本当の兄妹?」


なな子「あっ。いえ。私の旦那さんのお兄さんで……」


ショップ店員さん「エッ!! なな子さん、結婚したの!?」


なな子「はっはいっ」


ショップ店員さん「そうなのね、おめでとうございますっ! お兄さん、弟のお嫁さんが宇佐美なな子だなんてそりゃ鼻高いですねえ~!」

なな子「えっい、いやっ私はっ芸能人でもなんでもな……っ!」

ショップ店員さん「なな子さん、結婚に憧れる女子の中じゃ結構有名でね。なんてったって今じゃもうあのレディミストの看板モデルだもん……! 素朴に見えて、海面のきらめきが良く似合うっていうかぁ……。ドレス着せるんなら宇佐美なな子! ってなってる位でねっ! 色んな雑誌編集が、なな子さんのモデル起用を何度も何度もそちらの本社に頼み込んでるらしくって……っ!」

なな子「あーあのーあのー! 私全然そんなことなくてっ……! 他にもモデルさんはいっぱい居ますし……っ!」


蒼哉「なな子はやっぱりすごいんだね……。誰が見ても可愛いんだ……」


ショップ店員さん「っそう! すごいのよ! あっ。なな子さん、これジャケットね。はい着て」


なな子「はっはいっ……!」


ショップ店員さん「夏の、モデル人気投票の時なんか。そこいらの女優さんをおさえてっなんと二位だったんですから!」


蒼哉「えっ!?」


なな子「あああ、あれはレディミスト掲載モデルっていう限定された小さい枠での人気投票だったし……っ!」


ショップ店員さん「でもエントリーは読モ含めた二百人ですよ? すっごくない?」


蒼哉「すっごい!」


ショップ店員さん「で。お兄さん。このジャケットとドレスと靴って……すっごく似合ってると思うんですけど。……お兄さんが、お金出してくれるんですか?」


蒼哉「はいっ!!」


なな子「えっ!?」


ショップ店員さん「あっ。下着も欲しいって言ってましたっけ?」


なな子「あっ。しっ下着は自分で買いますっ!」


ショップ店員さん「サイズはさっき持ってたやつでよいです?」


なな子「はいっ!」


蒼哉「っまとめて払いますっ」


なな子「え!? いやっ支払いは私が……っ!」


ショップ店員さん「あっ♪ そうだっ! キティちゃんのペンダントとイヤリングとミニボックスバッグもありますよ! 全部大人っぽいデザインで。シンプルなんですけど高級感もあって質感もよくって……! パーティとかでも使えちゃうっ」


蒼哉「っそれも買います!」


なな子「えっ!?」


ショップ店員さん「毎度ありー♪」


蒼哉「お会計お願いしますっ。あっ。カードでっ」


なな子「あのっあのっあのっ」


ショップ店員さん「ハーイ♪ ではこちらへっ!」


蒼哉「あ、あの。今着てるの、このまま彼女が着て行ってもいいですか?」


ショップ店員さん「あっ。いいですよ~! じゃあタグ切っちゃいますね! 店長~! なな子さんがさっき着てた服と靴、袋にまとめてくれますー!?」


店長「了解ですー!」


蒼哉「なな子っ。あとはネイルだね!」


なな子「いやっあのっ! 蒼哉さんっ! 私っお金……っ! おかねはらいはすっ」


ショップ店員さん「あっ。そーだ。これ私からお二人にっ。キティちゃんの限定ストラップ! スマホとかにつけて下さいねっ♪」


なな子&蒼哉「えっあっ」


ショップ店員さん「可愛いでしょ! お兄さん、キティちゃん好きなんですよね?」


蒼哉「は、はいっ」


ショップ店員さん「オッケー。いいね~サンリオ男子! また来て下さいねっ! あっ。店長!」

店長「はいはいっ」

ショップ店員さん「なな子さん、下着も買ってくれて……。一緒にまとめて一番大きい紙袋に入れたいんでっ……」


なな子「お、大荷物になっちゃいますね……っ」


蒼哉「おれ持つから。大丈夫だよ」


なな子「えっいやっ私がっ……」


ショップ店員さん「なな子さんっ。ペンダントとイヤリング、今つけちゃいます!?」


なな子「はっはいっ」


蒼哉「わ……本当にお姫様みたいだね……」

店長「お似合いです!」


なな子「えっいやっ」


ショップ店員さん「神田うのにも負けてないですよっ!」


なな子「あ、あ……どうも……ありがとうございます……いやしかしそんなことはないと思うっですよっ」


蒼哉「かんだうの??」


なな子「えーと、結婚式を挙げるのが趣味の芸能人で……。キティちゃんのドレスとかデザインしてて……」


蒼哉「へー……」


ショップ店員さん「私はなな子さんの顔のほうが好きですよ!」


なな子「えっ!? あっ」


ショップ店員さん「――はいっお兄さん。領収書です」


蒼哉「ありがとうございます。なな子、行こうか」

なな子「っ蒼哉さん! 私っコートとバッグは自分で持てますっ! ってか持ちますっ!」

蒼哉「あっ、あー……」


店長「ありがとうございました~!」

ショップ店員さん「ありがとうございました! またお越しくださいませっ!」


 蒼哉となな子、エレベータに乗り込む。


蒼哉「えっと……ネイルサロンは……。あっ、地下一階、だねっ」

なな子「あっ。二階に行きましょうっ!」(二階のボタンを押す)


蒼哉「えっ……?」


なな子「蒼哉さん、先程のお電話って、職場から……ですか?」


蒼哉「え、あ……うん……」


なな子「ホテルに戻ったほうが、いいんじゃないですか?」


蒼哉「えっ!? っ……あ、いや……あの……」


なな子「さっきお電話してる時、蒼哉さんすごくこわい顔してたから……。なんだか気になって……」


蒼哉「っ……なな子……」


なな子「……私、ネイルサロンには一人で行けますから。蒼哉さん、もし気になるようなことや急用があるなら……。先程のお電話折り返したり、ホテルにお戻りになってください」


蒼哉「……ごめん、ありがとう……っ」


なな子「あっ……。蒼哉さんたちがお泊まりになっているホテルの地下のバーに、二十時はちじに行けばいいんですよね?」


蒼哉「あっ、う、うんっ! 場所、後でメールするっ!」


なな子「はいっ。わかりましたっ。では、また後で」


 二階に着く。


蒼哉「なにかあったら電話して。あっ……お、お金っ!」


なな子「いいですからっ! ほらっ! 行って来て下さいっ! 着きましたよっ」(蒼哉をエレベータから追い出す)


蒼哉「ま、また後で……っ!」


 エレベータのドアが閉まる。


なな子「……。あっ。荷物も全部預かれば良かった……。……っ……車に乗せておいて下さるかな……」


 蒼哉、走って車がある場所へ。






 夕方過ぎ。サンリオ風の可愛いネイルをして貰ったなな子は、何度も自分の爪を見て、にまにまと微笑む。

 スマホを取り出し、蒼哉からのメールを開く。地図を表記し。渋谷駅近くのホテルへ徒歩で向かう。


なな子「グランベルホテル……。あっ、経済大学の方かぁ……」


 上品なヒールの音が鳴り響く。

 迷うこと無くホテルに辿り着いて。


なな子「あっ。着いたっ。ここだっ」


 辺りを見渡して。


なな子「ちょっと早く着いちゃった……。っでも、皆さんを待たせるよりは……っ。いい、よねっ。えーと……。地下の、バーは……どこから行けばいいのかな……」


 地下への階段を探すなな子。


なな子「あっ。看板。ここだ。……バー、みお……」


 地下への石階段を進む。


なな子「……薄暗くて、雰囲気いい感じ……」


 バーの中は細長い造りになっていて。店主は一番奥に居る客に飲み物を提供し終えると、なな子を迎えてくれた。


バー店主「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」


なな子「あっ……二十時はちじに予約していると思うのですが……。すみません、私だけ少しはやく着いてしまって……」


バー店主「ああ、蒼、もう居ますよ」


なな子「えっ……」


バー店主「なんだか忙しそうだけど……」


 バーの店主が奥の席に目配せする。一番奥の席には、書類とパソコンと睨めっこしている蒼哉の姿があった。通話が来て携帯が震える。すぐに電話を取る蒼哉。


蒼哉「……Hello」


 蒼、メモを取りながら。


蒼哉「……Arrest warrant, indictment, wonder if the affidavit is necessary……」


 なな子、蒼哉から見えない位置に座る。


なな子「あの、私、こっちに座ってます」(ウイスパーで)


バー店主「え。そうですか?」


なな子「はい。邪魔をしたくないので……」


バー店主「何か飲みますか」


なな子「あ……なにか軽めのカクテルを頂けますか?」


バー店主「かしこまりました」


蒼哉「I want to finish the investigation……」


なな子「……」(なな子、スマホを開き。蒼哉の電話番号とメールアドレスを電話帳に登録する)


蒼哉「Maybe, I think there was a exchange of money and goods……」


 バーの店主、なな子の目の前に、真っ赤なカクテルを置く。


蒼哉「I want to continue monitoring……」


バー店主「はい。ホットカンパリでございます」


なな子「わ。ホットワインですか……?」


バー店主「ええ」


なな子「わあ……。丁度温かいものが飲みたかったんです。ありがとうございます」


バー店主「どうですか? 虎越の家に入って。なにか変わりましたか」


なな子「っ! あ、えっと……」


バー店主「辰哉、昔から大人びててカタブツでねえ」


なな子「ふふ。……そうですね……」


蒼哉「White compromise if you want to change the world……? Not I have that kind of talk……」


バー店主「……なんかあいつ怒ってんな」


なな子「えっ」


バー店主「ん、ま、今……蒼と君しか居ないからいいけどね」


なな子「……大変なお仕事ですよね……。FBIって……。なにをどこまでが捜査範囲なのかとか……ネットで色々調べたんですけど……。思ったよりも凄く大変そうなお仕事だなって……」


バー店主「あいつ、FBIなんて無理してなちゃって。……本当はすぐにでも辞めたいんだろうな」


なな子「え……っ」


バー店主「大声出したりとかさ。キャラじゃないだろ?」


なな子「ああ……。そうですね……」


バー店主「今度見合いするって聞いたんだけど、またダメだろうな」


なな子「えっ。あ、蒼哉さんがですか?」


バー店主「いつも話がよく来るらしいんだよ。日本の警察のお偉いさんのご令嬢とか。アメリカ支部の独身の売れ残りとか? ははっ」


なな子「……マスターは……みねねさんのお知り合いだって聞きましたけど……」


バー店主「ああ。向こうで警察やってた時にね。世話んなったんだよ。みねねとバディ組んだりして」


なな子「えっ。あっ……そういう経歴が……」


バー店主「今じゃもうやんなっちまって。こっちで気ままに飲食やってんの。まだ五年だけど」


なな子「そうなんですね……」


バー店主「あんたモデルさんなんだって?」


なな子「えっあっいえ……その……」


バー店主「これ、あんたでしょ?」(レディミストの今月号。プール付き結婚式場ではしゃぐなな子の無邪気な笑顔が何ショットも写っているページを見せてくる)


なな子「うおっ……!」(大声を出さないように手で口を押さえる)


バー店主「結構人気なんでしょ? これ、朝みねねが持って来たんだよ」


なな子「あっ、……そっ、いやっ……あの……なんていうか……」


蒼哉「っ……ふう……っ」


 通話を切る蒼哉。

 バーの店主、蒼哉の前に立ち。指でカウンターを叩く。


蒼哉「? なに? ……っ?」


 バーの店主はその指で階段のほうを指さす。

 蒼哉は立ち上がり、なな子が居るほうへ……。


なな子「あっ。みねねちゃんのアドレスも登録しておこうっと」

蒼哉「なな子?」


なな子「っ! あ、あおやさん……」


蒼哉「びっくりした。いつから居たの?」


なな子「あ、えっと……。ついさっき……? あ、蒼哉さんお電話してたから……っ」


蒼哉「ごめん気付かなくて。……一緒に座ろ。おいで」


なな子「はいっ……」


 蒼哉の後について行き、席を移動するなな子。

 蒼が座っていた席の隣に座る。

 蒼、書類やパソコンを鞄にしまって。

 先ほどショップで貰った紙袋の中から、店員さんにいただいたストラップを取り出す。


なな子「もうお仕事はいいんですか?」


蒼哉「うん。そろそろお母さんも来ると思うんだけど……」


なな子「玄哉げんやさんと、朱哉すぅやさんも、こちらのホテルに泊まってるんですよね?」


蒼哉「ああ……あの二人は……約束とかしてもお母さんより意味無いっていうか……。まあでも、ここで飲んでるって言ってはあるから、気が向いたらもしかしたら来るかも」


なな子「そ、そうなんですか……っ」


蒼哉「なな子。さっき貰ったストラップ。た……辰哉と付けたら? ほら」(キティちゃんのストラップを二つとも、なな子に手渡す)


なな子「えっ、いやっ……それは、えっと……」


蒼哉「おれとお揃いでも、困るでしょ」


なな子「そっそんなことないですっ! 辰哉さんは、キティちゃんとか……好きじゃないですよ。この間も、私がうさぎのぬいぐるみとかゲームセンターで狙ってても、無反応でしたからっ」


蒼哉「ああ……。キャラものとか好きじゃ無いんだよね……辰哉」


なな子「そ、それに。店員さんからは、私とお兄さんにって貰ったんですから……。もう一つは……あ、蒼哉さんが貰って下さいっ」


蒼哉「……うん……」(一つを受け取る)


なな子「っ……。あ、あの、私ちょっとお手洗い行ってきますっ……」(小走りでトイレへ)


蒼哉「あ、う、うんっ……」


バー店主「……おい。ッ」(カウンターの外に出て来て蒼哉のすねを蹴る)


蒼哉「いったっ! な、なに」


バー店主「お前人のもんに色目使ってんじゃねーよ」


蒼哉「はぁ!? つっ使ってないよっ!」


バー店主「あーゆー小悪魔タイプに何度騙されりゃ気が済むんだよっ! 目を覚ませっ」(何度も蹴る)


蒼哉「痛い痛いっちょっと待ってっ! なな子は妹だよ……っ!」


バー店主「んなら特別な目で見るなっ!!」


蒼哉「っ! 誤解だってっ……!」


バー店主「結局最後お前が傷付くんだろ」


蒼哉「……家族だよ。弟のお嫁さんだよ。……何があってもおれのものにはならないよ……」


バー店主「あお……」


蒼哉「って言うか、五十にもなって恋人は二十歳はたちがいいとか言ってる人にうちの家族のことどうこう言われたくないなぁ」


バー店主「こっちの話は置いとけよ」


蒼哉「なんで」


 蒼哉の携帯がカウンターの隅で震える。


バー店主「ケータイ鳴ってるよ」


 みねねからの着信。すぐに取る。


蒼哉「あっ……。っ、もしもし、お母さん? 今どこ? もう着く? ……えっ……。は、なにそれ、……うーん……。そうっかぁ……。……わかっ、ったー……。はいはい、まあ好きにして……。……うん……。なな子にはおれから謝っておくから。じゃあね」


 通話を切る。


バー店主「来ないって?」


蒼哉「うん……」


 なな子が帰って来る。


なな子「戻りましたー」


蒼哉「おかえり」


バー店主「二人、腹は減ってんの? なんか作ろうか?」


なな子「あっ……」


蒼哉「まあそこそこかな」


なな子「わ私も……すこしお腹空いてます」


バー店主「なんでもよければテキトーに作るけど」


蒼哉「うん。なんでもいいかな」


なな子「? え、あの……」


蒼哉「あ、ごめん。お母さん、スーとゲンと一緒に、勢いでディズニーランドに行っちゃったみたいで……」


なな子「ええっ!? そ、それは……千葉の……」


蒼哉「うんそう、千葉の……。絶賛パレード観劇中……」


なな子「ふふふっ。きっとどうしても行きたかったんでしょうね」


蒼哉「年末年始なんて混むだろうなぁ……」


バー店主「お前ら誘われなかったの?」


蒼哉「おれ人混み嫌いだし……。最初はちゃんと二十時はちじにここ戻って来る気でいたみたいだけど……」


バー店主「ですがぁ、気付けばこの時間だったと」


蒼哉「うん……。なな子、ごめんね……。丸一日散々連れ回しちゃって……」


なな子「えっ。で、でも、私が今日いっぱいお洒落させて頂いたのって、ここのバーのマスターにご挨拶する為ですよね?」


バー店主「えっそうなの?」


なな子「目的は一応果たせたような気がするのですが……」


蒼哉「そうだけど……」


バー店主「んでもなな子さんって、普段から別に普通に化粧もお洒落もするんでしょ?」


なな子「は、はい。一応、人並みには……気を付けているつもりです……」


バー店主「ファッション誌とか結婚情報誌のプランナー兼モデル兼社長秘書なんでしょ?」


なな子「はいっ……」


バー店主「みねね、蒼となな子さんをただ仲良くさせたかっただけなんじゃないかな」


蒼哉&なな子「えっ?」


バー店主「――って思ったんだけど……? え、だって今日二人、朝から一緒に居たんでしょ?」


なな子「は……そうなんですか?」


蒼哉「さあ……どうかなぁ」


バー店主「よし。昼間に作った肉団子が余ってるから。肉団子付きオムライスにしてやろう!」


なな子「わー楽しみですっ」


バー店主「ちょい待ってな!」


なな子「私もディズニーランド行きたかったなぁ」


蒼哉「……今から行ってももう閉園しちゃうか」


なな子「っていうか、私も混雑とか並んだりとかってあまり得意じゃないので……。シーをただ散策したりするのが好きなんですけど……」


蒼哉「あー」


なな子「蒼哉さんは、三日までにピューロランド行くんですか?」


蒼哉「う~ん……行けるかなぁ……」


なな子「? お仕事のこと、気になってるんですか?」


蒼哉「……っ」(ななの顔をじっと見つめる)


なな子「??」


蒼哉「なな子ってちょっと天然? っぽいのに……察しがいいよね……?」


なな子「褒めてないです?」


蒼哉「ほ、褒めてるよ」


なな子「天然じゃないですよ」


蒼哉「あはは」


 蒼、ななの頭をなでなでして。


蒼哉「大丈夫だよ。そんなに気を遣ってくれなくても」


なな子「……でも、」


蒼哉「辰哉が羨ましいよ」


なな子「っ……」


蒼哉「おれも、なな子みたいな可愛いお嫁さん欲しいな」


なな子「……あ、蒼哉さんならきっと、すぐに出来ますよっ。ねっマスター!」


バーの店主「え? ああ、うん、ごめん聞いて無かった」


蒼哉「ってか玉ねぎちょっと切るだけで何分かかってるの」


バーの店主「うるへいっ! 涙が、ううう」


なな子「あ、あらあら……」


蒼哉「そんなに料理得意じゃないんだから……」


なな子「マスター、私やりましょうか」


バー店主「え、ホント? 助かる~!」

蒼哉「えっ」


なな子「私これでも一応調理師免許と栄養士の資格持ってるのでっ」


バーの店主「あ、国立調理学校出身だって雑誌に書いてあった」


なな子「はいっ。料理は得意なほう、ですっ」


 なな子、カウンターの脇へ。


バーの店主「あっ。手、そこで洗って!」

なな子「はいっ」

蒼哉「ちょっと」


バーの店主「これエプロン!」

なな子「はいっ」

バーの店主「はいっ」


 黒く長いエプロンを手渡され。それを身に着ける。


蒼哉「本当にやるの?」


バーの店主「いいじゃん。暇でしょ?」


蒼哉「いや一応客なんだけど……」


なな子「包丁お借りしますね」


バーの店主「あ、もう好きにやっちゃって。調味料とかはここ」


なな子「はいっ」


バーの店主「冷蔵庫はこっちで、後ろのが冷凍庫」


なな子「おっけーですっ」(高速で野菜を切っていく)


バーの店主「よし。これで酒が飲めるぞ。あ~よっこいしょ」(なな子の席に座る)


蒼哉「ちょっと……」


なな子「マスターもお腹空いてますか?」


バーの店主「あっ、うん! あの、すごい手つきが。すごい。すごいね」


蒼哉「料理って、同時に色んな作業しなきゃいけないから。頭よくないと出来ないんだよ」


バーの店主「うん。えっ? バカにされてる?」


蒼哉「なな子、料理好きなんだね」


なな子「はいっ大好きです!」


蒼哉「っ……」


バーの店主「辰哉はいい嫁さん貰ったなぁ」


蒼哉「なんで料理出来ないのになんか作ろうかとか言ったの」


バーの店主「今日は出来る気がしたんだけどな」


蒼哉「ぬか漬けとかは得意じゃなかったっけ……」


バーの店主「ぬか漬けってお前それ料理か……?」


蒼哉「あれは美味しかったよ。何年か前の……えーと、焼き鳥?」


バーの店主「あれは裏で買って来たやつをレンチンしたやつ」


蒼哉「そうだったの……」


バーの店主「やめてそういう目は」


なな子「マスター。冷蔵庫の中のほうれん草としめじって……」


バーの店主「あ~使いかけのやつ! 使っちゃえる?」


なな子「はいっ」


バーの店主「やっぱり料理が出来る奥さんていいよね」


蒼哉「おれも婚活する……」


バーの店主「え、蒼まだ二十代でしょ」


蒼哉「また少しは家出たいし……」


バーの店主「なんで。長男なのに」


蒼哉「いや、そ……っ」

バーの店主「んまあでもみねね多分あと七十年くらい現役で生きるだろうから。当分は好きに生きてもいーのか」


蒼哉「そんなに生きる……?」


バーの店主「わ~いい匂いしてきた」


なな子「もうすぐ出来ますよ」


バーの店主「済まないねえ……はやいねえ……素晴らしいねえ」


蒼哉「なな子の得意料理はなに?」


バーの店主「カレー!」


蒼哉「え?」


なな子「う~ん……。なんですかねえ……? マーボーナスとか……?」


バーの店主「お~」


なな子「和食だったら、出汁巻き卵とか……茶碗蒸しとかかなぁ」


バーの店主「へえ~っ。やっぱ普通に料理得意なんだなぁ」


蒼哉「仕事も出来て家事も出来て可愛くて……」


バーの店主「今時こんな子も居るんだなぁ。性格も良さそうだし」


蒼哉「優しくて気遣いも出来るいい子だよ」


【次話へ続く】

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