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夏の一刻、異世界にて  作者: ピーターヒーラー
1/1

1 異常と邂逅

ユルい異世界ものにチャレンジしたくなって書きました。

どうぞゆるりと宜しくお願い致します。


※ナンセンスギャグ、死語のオンパレードかも知れませんが、許してちょんまげ。

 「オゥ、オゥ、ゼッオッオ~♪」

ノリと勢いで作った鼻歌の響く、馬鹿みたいな炎天下。

サンダル、短パン、しわくちゃなTシャツと、これまた強い日差しを馬鹿にした格好で、邁進する男が一人。

恐ろしく強い熱気の中、頭が煮えているのか異様な雰囲気を漂わす彼は、高校生という自身の肩書が、そろそろ変わるんじゃないかと予感している。

事の発端は、地球は日本標準時で20××年 7月24日 午後2時数分前、とある平穏な家庭の情景に遡る。


~異常~

 「最ッ高!」大きな伸びをしクーラーの効いた部屋、ソファにもたれる。外は30度を超えるというのに、程よい気温に保たれた室内はその不快そうな環境の一片も寄せ付けない。そのギャップからくる多幸感に素直な感想が口をつく。暑いところにクーラーを、寒いところにヒーターを過不足なく供給できれば人類はもっと素直になれるのだろう。

無意味な思考をする昼下がり、今日は何曜日で何日だったか?……

まぁとにかく、高校2年夏休み真っ只中の俺、佐藤 進は至福の一時に身を委ねているのである。

この環境に心から満足している筈だった俺は今日の晩飯や何かのことを考えるうち、一つの欲求に囚われていた。アイスが食べたいのである。

アイスそうアイスクリーム。

だが正確には今の気分的にラクトアイス、しかも乳系でも果実系でもない、爽やかな炭酸飲料系である。

ぶっちゃけるとあれだ、ガ○ガ○くんを若さにまかせて5本位、一気食いしたい。したいというかする。すぐにする。数分後、確実にする。

決意は固い。

人間とはかくも欲求に対してマニアックなのだ。


「ならば、動かなくてはなるまいてぇ」

他者が聞けば全く意味の分からない、決断と覚悟を発しながら俺はソファから身を起こす。

だって外、暑いじゃん。

何事にもモチベーションと意思決定が必要な世の中である。

意外と世の中は不便なのだ。まぁまぁ、能書きはいい。

さぁ行こう。

そう、たかが駄菓子を買いに行くだけである。ほんの数分。

服装?持ち物? 部屋着に、財布、熱いハートがあれば十分だ!

さぁ行こう!


なんて選択をした俺は、ほんの数分後、この一瞬間を後悔する…………


 おかしい、なにかがおかしい。何か違う、そして違い過ぎる。何が違うって自宅から5分も歩けば着く筈のコンビニに未だ着かない。そしてそれ以上に風景が違う。俺の自宅周辺には砂丘も砂浜も、それどころか公園の砂場さへも見当たらないはずである。ところがどっこい、辺りはまるでアラビアン、砂の海。意味不明。

家を出て、お隣のおばさん家を曲がったまでは良い、ごく普通。

何年単位で見慣れたいつもの景色だった筈、というかそうだった。

「いやぁ今日は暑いな」なんて空を仰ぎ、がらにもなく太陽に手を透かし見て、並々ならぬイケメン感を演出。フッと視線を地上に戻した矢先、これだった。慣れないことはするもんで無い。

視界に広がる砂、太陽、砂、砂、岩、砂。…明らかにおかしい。

異常な熱気と出来事は一瞬で平和ボケならぬ、夏休みボケした彼の思考を狂わせる。

Ok.Ok.まず落ち着こう、息を吸って、吐いて~深呼吸。

Ok.Ok.感度良好、落ち着いた、俺は正気だ、俺は大丈夫だOk.Ok.

考えよう、今まで経験したことの無いこの奇っ怪な状況、俺は以前こうした状況の体験記を目にしたことがある。そうだあるんだ、某オカルトサイトで暇に飽かせ腐るほど読んだ筈だ。思い出せ。

ワームホール、次元の狭間、等々……そうそうそんな感じ。

脱出法は?

寺生まれの凄い人に頼る、次元をさまよう凄い人に頼る、全裸になる、唾を吐く、等々……等々……


 気が付けば俺は砂の海で一人、裸になっていた。


 彼は全裸になるや、唾を吐き、えいと二、三度平手で頬を張り、深く呼吸を整える。

熱砂に吹きすさぶ風と、奥深く何かをじっと蓄えるかのような呼吸が、

熱気に塗り込められる…


スポットライトは強い日差し。

彼以外の人間はいない。

無論、拍手で迎える観客もいない。

衣装は無い。

小道具も無い。


しかしもうそこは…

 彼の一人舞台なのだ。…


アン

ヘニャヘニャと、脱力の極み。

優美に舞って、放屁した。


ドゥ

ヘドバンし足を踏み鳴らし、雄々しい舞踏。

地に悠々と仁王立ちし、放尿した。


トロワ

彼の独演は終わらない。

彼は彼の雄々しく猛るモノを激しく掻き鳴らし…


いや、多くは語るまい。彼はまさしくその一時、何もかもかなぐり捨て、舞踏を踏んだのだ。

芸術と言い表すにはあまりに野性的な…舞踏を…


 色々試したが何も、現状を打破する有効打となりえそうもない。

俺は無駄玉を射つのを止め、迫る動悸を堪えた。

汗でベトベトの素肌に布を被せる。…

…あとは歩く、亡者のように。

俺は負けたのだ。


誰がこの異常事態に際した彼の行動を咎めようか、混乱状態においても思考を諦めず、その際において彼が絞り出せるだけの知識を総動員して行動に移したのだ。

…結果とその内容はともかくも。

 ふざけている。この世界全てがふざけている。俺は今、猛烈に世界を恨んでいる。裏で蠢く何かを恨んでいる。

どこのどいつであろうか、生まれてこのかた、自販機の釣銭をくすねた位しか悪事らしい悪事を働かなかったこの俺の、健全で清らかなこの俺の、幸せに満ちた夏休みを粉々に砕く者は。

恨めしい、恨めしい、ただただ恨めしい。

万策尽き、眼前、堂々と横たわる異常に敗北した俺は呪いを振り撒き、暑さを鼻歌で誤魔化しながら孤独な行進を続けている。

…ってか暑い、死ぬ、マジ死ぬ。…もぅマジ無理、死んじゃぅぉー

高校生から死人にジョブチェンジだぅ。頭が、頭が、熱風に溶けりゅ、

……溶ける……溶ける……

俺は砂の中、混乱と呪詛と、熱狂にまみれ卒倒した。



~遭遇、バケーション、天使の毒舌~

 ボン、ボンボン、「大丈夫ですかぁ~、聞.こ.え.ますかぁ!」

髪が外的圧力で頭蓋骨に勢いよく、押し付けられる。

脳味噌の上っ面に響く、髪のごわごわと擦れる音、妙に神経を逆撫でる不快な呼び掛け、彼は、彼自身を意識する。

皮膚を完膚なきまでに照り焦がす、あの熱量が感じられない。

砂の海は、あの灼熱地獄は?

あの異空間から、脱したのであろうか?

声の主が、助けてくれたのであろうか?…

まぁまぁまぁ、ok.ok.手足は、有る。呼吸も、…できる。

「ならば、目覚めなくてはなるまいてぇ」

 小さく決断と覚悟を呟きながら、目を開く。

何者かが屈みつつ、俺の顔を覗き込んでいる。

あぁ羽だ、羽。白い羽……

っていうか金髪、巻き毛のボブカット、外人かー

日本語通じるかな?

日本語、さっき話してたかぁあはは…

全体的にこじんまりしてて可愛い娘だね、その青い瞳、最高だよー…

なんて思考で茶化しつつも、やはり背中には白い羽。

頭は勝手に関連ワードを選び出す。

そっそれれは、あれっすかねもしかして…天のお迎え的な…

やっぱ死人にジョブチェンジ、的…な…

自然と瞼が重くなり、目頭が熱を発する。

焼け付くような液体が、頬を伝う。

「ちょっと、ちょっと!何、泣いてるのよ止めてよ、止めてよ、気持ち悪いわよ!」

可愛らしい天使さんは俺を慰めてくれているようだ。

「俺ばぁ死んだんでずが!」

飛沫が飛ぶ。

「汚な!鼻水飛ばさないでよ!死んでない、死んでないから!

色々こすった手ですがってこないで!」

ガッツポーズが頭上に高く上がる、全てを成し遂げた気分だった。

涙と唾液と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだが声、高らかに喜びを絶叫する。

「俺ばぁ、死んでだい!」

「生ぎでる、イギデデゥ!」……

「あのぉー、余韻に浸っちゃってるとこ悪いんですけどーその顔、汚ならしいし拭いたら?」

喜びに水を指す言葉と共に、ハンドタオルが顔面に投げつけられる。…

さっきから、よくよく考えると口汚いよ天使さん。

いやこんな嫌味な天使、居てたまるか。

この天使っぽいやつは何なのだろうか?

考えつつ、体液で汚れた顔を遮二無二拭きまくる。

色々ぐちゃぐちゃになった脳内を、真っ白にしたかったのだ。…が、

仄黒い疑念はいまだ消えず、生の喜びに震えていた脳内を浸食する。


 「私はミヌスよ。ミヌス=ミニャルコフ。」

名乗りながらパタパタ羽を動かす、金髪巻き毛のおチビちゃん。

格好がどこぞの学校の制服みたいだから、

コスプレしたガキかと思ったが、

地球とは別の星で文明を築いた異星人とのことで。

「先程は取り乱してすみません。自分、日本と呼ばれる国に住んでおりまして…」

俺だって見ず知らずの他人と接するときは敬語でいくさ、もう高校生なんだもの。おまけに可愛い子ちゃんの前とくれば尚更だ。

しかしながら先方のおチビちゃん、俺の事はとっくに知っていたようで…目一杯の紳士的自己紹介にずかずかと割り込んでくる。

「あぁー、貴方のことは知ってるは、太陽系は地球、日本はA県B市住まいの高校生、佐藤進さんでしょう?」

っと突然、彼女は吹き出す

「ブフフゥッ、フッフッその馬鹿丁寧な話し方、何かごめんね?

ブフッ、貴方さっきまで裸で踊ったり、体液撒き散らしてたから…

フフゥッ、笑えてきてしょうがないの。」

いちいち、失礼なガキである。

「何か色々、見てきたような口振りじゃないっすか、俺、貴方に会った覚え無いんすけど?」

「フッフッ、ごめんね?ダンシング体液さん、ブフォッフ、色々あって驚いたでしょ?」

失礼なチビ巻き毛の彼女は始終、彼への嘲笑を滲ませながらなんともふざけた顛末を語り始めた。

「私のとこもね長期休暇なのよ。フフッ、

んで、暇だからアドベンチックに異星の異次元で、異星人とバカンス。素敵でしょ?その異星人ってのがアンタよ。さっきは随分おもしろかったしブフッ、宜しく。」

「それじゃあ何ですか?せっかく休日を楽しんでいた俺を無理矢理、拉致した上に砂漠に放置して殺しかけてくれたのはアンタなのかよ?」

頭が熱い。

「いやぁー本当ごめん。でも、人間死に時こそ本性が出るって貴方のとこじゃ言うじゃない?オーディションだったのよ。殺すつもりも全然ないから、ね?」

「ね?じゃあないっすよ、チビ巻き毛。人様殺しかけといて、たいして謝りもせず、手前の暇潰しに付き合えってのは、都合良すぎんじゃないの?普通にお断りだかんなくそったれ!」

「アッハハ、威勢良いわね。いやね、別にどうしても嫌ってなら構わないのよ?次の瞬間には私と貴方は他人同士、何もしないわ。私も又、別の人探すだけだし全然、okなの。」

「ふざけんじゃねぇよ!どこまで身勝手なんだこのクソ女…」

目の前でヘラヘラと調子に乗るチビを、いい加減張り倒そうかと煮えたぎる脳内。つい、握りしめた拳に視線を落とす。

鬱蒼と茂る雑草を背景に、拳は怒りで強張っている。…

ん?雑草?…つうかここどこだ?

…砂の海も、うだる熱気もない、が、

かといって家の中でも、見慣れた町並みでもない光景が周囲を囲んでいた…

いや、ね?こんな緑の多いところ、緑しかないところ、俺、知りません。

チビ巻き毛は、によによしながら口を開く。

「いやぁ私は構わないのよ?貴方がもうどうなろうが、気にしないだけなんだから。」

俺の意向は既に、分厚い金型に押し込められ成型された後らしい。



~サバイバル偏執狂~

 「ガイドブックに、サバイバルするならここがおすすめって書いてたから、来たのよね♪」

うきうきしながら彼女は言う。

「簡単に言っちゃうと私達、私の星のナイスな便利グッズで別次元に飛んで来たのよ。ロマン有るでしょ?」

「あの、それじゃあ俺達、元の世界に帰れないんじゃ?」

「心配ないわよ、こっちの時間の流れで半年後位には、自動で戻れる設定なの。それにいざとなれば、手動で元の次元を座標指定して即転移すれば問題なし!原理としては同じ夢を見ているようなものだから、元の世界の時間に置いてかれる心配だっていらないわ。」

「そうなんすかぁ…」

常識が、ぐにゃぐにゃ歪む。……


 「だぁからー、さっき言ったでしょ!サバイバルよサバイバル!私はもっとこう、今まで経験したこと無いような、ワイルドで原始的、裸一貫な体験をしたいの!

わざわざ文明人が文明的体験することのどこが冒険なの?全くロマンがなってないわね地球人は!」

ほぼほぼ無理矢理、口の悪いチビと二人旅をすることになった俺は、地球人類を代表してなじられていた。連れの巻き毛の彼女は、この緑溢れる大自然の中でアウトドアがしたいようなのだが、一言、

「折角、異次元旅行できんなら、別の文明とか見てみてぇなぁ。」

とこぼした途端に噛み付いてきた。

いやぁ、俺一人で地球人全員、軽んじられる謂れは無い。だったらお前ら異星の連中は皆、こうも身勝手なのか?

言葉にできないもどかしさが、足下の地面を踏みにじらせる。

「それじゃあ、何からやるんだよ?」

本日19回目の地面えぐりをキメながら、苛立ち8割、疑問2割の質問。

途端、チビの口が重くなる。

「そんなのは…ほらー、川で魚釣って食料確保したり…」

「道具ないじゃん」

「枯れ葉で寝床を作ったり…」

「俺、ダニとかノミに囲まれて寝たくないぞ」

「とりあえず火をおこして暖房を…」

「やり方知ってるの? 俺は無理だと思うぞ」

「何なのよさっきから、揚げ足ばかりとってんじゃないわよぉ…」

意気消沈し、涙声になるチビ巻き毛を見て、少し晴々した。

無論、後ろめたさは微塵も無い。

(よし、追い打ちをかけよう。)決断は早かった。

「ったってよ、どうやれば良いかなんて、具体的に分かりゃしないんだよ。俺だってサバイバルどころか、キャンプだってしたことねえぞ。

下手なことするより、その持ってきた便利グッズとやらである程度、妥協した方が良いんじゃないっすか~」

「そっ…そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!」

「おうそんなに言うんなら試しに、一人でやってみりゃ良い。俺は何も知らねぇからな!」

かくしてチビ巻き毛の奮闘は幕を開けたのである。……

 「ウッシ、サバイバルの基本は火起こしよね!」

なんとも可愛いげのない、ドスの効いた気合いを入れ、彼女は呟く。

と、生木にそこらの木から手折った枝をゴシゴシ擦り付け始めた。

(いや…それ…例え熱が生まれたとしても、種火すら起こせないんじゃ…

…でも巻き毛は楽しそうだし、無駄だと思われるけれども作業に夢中だ…うん、黙って明るい表情を湛えていれば、とても可愛い。

小動物的に!

…暫くおとなしい彼女を鑑賞、もとい見守る事にしよう!)

俺は黙って、彼女の前にしゃがみ込む。



「痛った!」

30分は経っただろうか、突如可愛らしい彼女の唇から、道端でいちゃもんをつけるDQNの如きヒステリックな声が這い出る。

口を開く段階で耳を塞げば良かった。

「何よもう!いつまでたっても火、着かないじゃない‼

手の皮は剥けるし、ふざけてんじゃないの!」

がなりつつ、さっきまで握り締めていた枝を地面に叩きつけ、ストンピングをきめている。

「あ~、止めよ止め、止め止め、時間の無駄だわ」

一生口をつぐんでいた方が、彼女は幸せになれるような気がしてならない。

「つうか、さっきから何?なんでこっち見るだけで何も言わないのよ!」

木々の枝をへし折って、こちらに投げつけてくる。

訂正、動かないで話さなければ、彼女は幸せになれるだろう。うん。…


 「もうサバイバルは良いのか?まだ、魚釣りもしてないし、木の葉でベッドも作ってないじゃん。」

そうなのである、先刻の火起こしヒステリーからチビ巻き毛はずっと、腕の端末をひたすら弄っているのだ。これからどうするのか、とか、頭大丈夫?とか色々不安なので俺は尋ねる。

「あーもう良いの、サバイバル何てクソくらえよ。

およそ文明を手に入れた者がすべき事じゃないわ、私は原始人に下らない幻想を夢見てたのよ。よく考えたらただ野蛮で、臭くて、粗野な生活をわざわざ時間割いて営むなんて、正気の沙汰じゃなかったわ。」

随分、方針転換の早いことで、もう少し過去の自分を大切にしてみても良いと思うが。

「それじゃあこれから、どうするんよ?」

一番の懸念だ。

「どっか適当に文明の有るところに飛んで、ほどよく異文化交流するわよ。期待してなさい!」

少なくとも、安心できる衣食住が確立している所にして下さい。


 …チビ巻き毛が端末を弄くりだしてから、随分経つ。

そろそろ、そこらの雑草を結んでトラップを量産するのにも飽きてきた。

と、生い茂る緑の間からヒステリックボイスが響く。

「ちょっと!どこ行ってるのよ!目的地が決まったんだからさぁ

早くこっち来てよ!!」

「あ~、今いく。」

言いつつ俺は、たぶん最後の作品になるだろう“転倒くん87号”を結び始めた。

遠いどことも分からぬ次元に我ら人類の足跡を残す、偉大な事業のラストである。少し立派に作ってやろう。

「ってか、遅いのよ!」口汚いチビッ子巻き毛天使が草を掻き分けてくる。ドカドカというよりはドチドチといった感じだろうか、まぁ苛立ちは感じられる。…俺のエコ地雷原に突っ込んできた。

「あ~、悪いけど…」二の句を告げる間もなくドチャッと、まぁ何とも可愛らしく、金髪巻き毛は顔面から泥にぬれる。…

「ヴぁ、ヴァッペッベッ、ヴェ~」何とも形容しがたい下品な音を立てながら、チビ巻き毛は泥を吐き出す。

「何?なんなの?最っ低!」

泥だらけの顔を歪め、虚空を睨む彼女には、俺の偉大な事業の事は内緒にしよう。そうしよう。

「おいおい、大丈夫かよ?頭から泥被っちまって、怪我とか無いかよ?」

「うっさい!もぅ、呼んだら早く来てよ!」

拳で地を殴りつけながらチビッ子は、涙目でわめいている。

まぁ、そうっすよね。

「あぁゴメン…ちょっと腹の調子悪くてさ…」

「そっ、それは…大丈夫なの?」

うん、怒っている相手を出し抜くにはやはり、これである。

一番身近で、ある意味とても深刻な事態。

トイレの無い外出先での地獄絵図。

そんな幻影を容易に相手に推し量らせる事ができる魔法の言葉。

俺は冴えている。

「とっ、取り合えず何とかするから、堪えるのよ!」

言いつつチビは端末を弄くる。

口汚いながらも健気な奴である。…


っ!?何が起こった?

目の前にいた泥まみれのチビは、いつの間にかシャワーを浴びて着替えてきたかのごとき小綺麗さを、俺の目に押し付けてきた。

「ん?何すか?なん何すか?」

何かの早口言葉が口をつく。

「何言ってんのよ?それよりどう?お腹は大丈夫?」

あぁ、そういえばそういう設定でしたな。

?、そういえば何となく腹がスッキリする…

「あっ、ああ大丈夫。何かスッキリした。」

「ふふん、少しは感謝してよね。」

「え?何かしたの?」

「うっわ、説明めんどくさ、異星人はこれだから…

あー、簡単に言うとね?私達の星にはメッチャ小さいナノマシンてのがあって、それを使った技術も色々発展してんの。」

「え?泥の汚れも?お腹のスッキリも?」

「それのお陰よ、ついでに言うと今、私達が普通に会話できんのも、他次元に移動できんのもそうね。脳機能への介入、部分的な次元空間の書き換えとか何とか色々、万能なのよ。」

「え?俺、機械腹に入れたの?」

とっさに腹をわし掴む。

「あー、面倒くっさ!大丈夫だって、生き物の体内に入っても害ないから!製品化に際して実証済のパッケージだから!買う時、確認したから!」

いいから次行くわよ、と、チビッ子は踵を反す。

後からしつこいわねと、罵られながらも聞き出したところでは、常に設定数まで増殖する、塵よりも小さい機械が俺達の周囲を絶えず飛び回っているとのことで。

そのちっちゃいやつらが、チビッ子の端末からの指示により数々の奇跡体験を生み出しているらしい…

異星科学様様である。

なんだかんだ、この"冒険"の安全は超科学によって保証されているのだろう…俺は何故か興奮していた。

身の安全を少し信じられるようになったからか、未知に溢れる冒険が楽しみでしょうがない。

「ッホウ!ッホウ!ホウ!」つい昂って小躍りする。

いいじゃない…青春真っ盛りなんだもの、知り合いの居ないところでくらい少し馬鹿やったって…

「やっぱアンタ、面白いっていうか、どこかおかしいのね。」

口汚いチビ巻き毛の異星天使は横で毒づく。

「その奇怪な言動を止めて、ちょっと黙ってて!アホ!」

本当に他人の興を削ぐのが好きだなこのチビは。

「良いって言うまで動かないでよ?下手したら変なトコ落ちて即死だかんね!」

口汚くも気をまわしてくれるあたり、チャーミングだ。

「あとそのニヤケ面は止めて、何か嫌。軟体生物を引き潰したみたい。」

やっぱり口が悪いのは直すべきだろうと思う。

「いい?動くんじゃ無いわよ!」

俺は相当、信用が無いようだ。

チビ巻き毛は俺をじっとり睨み付けるのを止め、端末をタップする。

徐々に、徐々に、周囲が白くもやがかってきた…

おぉ、ファンタスティック!これから他次元に飛ぶのだろうか?

映画館での上映前、そんな感じのワクワクが止まらない。

「動かないでよね!」

ヒステリックな3度目の動くなコールに、冒険ムードは台無しである。

その手の雰囲気の盛り上がりとか、女子は大切にするんじゃないのかよ

と、突っ込みたくなったが…異星人相手に有効なのだろうか?



 


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