毒持つ淡水魚
――淡水魚は毒を持っている。
僕の学校では有名な話だった。
誰が言い出したかなんて分からないけど、そんなことは関係ない。
とりあえず知っていれば、誰にも何も言われないし、笑われない。
それが事実かどうかなんて僕は知らないけど、多分皆知らないんじゃないか。
でも、それがいいんじゃないか、とも思う。
知っているけど、知らないからこそ、生まれる一体感がある。
奇妙な協調性があるからこそ、僕らは成り立っているんじゃないか。
――淡水魚は毒を持っている。
だから、この話はこうして受け継がれているんだと思った。
けど、彼女は言った。
「調べてみようじゃないか、その話」
彼女は外から来た人(転校生)だった。
彼女はこの話を聞くなり、調査しようと言い出した。
ホントかどうか確かめてみよう。彼女は協力してくれる人を捜し回った。
けど、皆彼女の話を断った。彼女は諦めなかった。
あらゆる手を使って、協力者を探し回った。
朝の日課とも言える朝会をジャックして、スピーカーを最大の音量にして大声で、
「調べてみようじゃないか、淡水魚」
これには皆驚いて迷惑がった。先生ですら、彼女の行動に眉を顰めて、彼女を呼び出した。
「協調性を持って行動しなさい」
彼女に説教をする先生の声を、偶然僕は耳にした。
それを覗けば、彼女が先生に言い返しているのが見えた。
「だって気になるじゃないですか、淡水魚」
「そんなこと、気にする必要ありません」
「何故ですか」
「和が乱れるからです」
「和が乱れる……。何故ですか?」
「何故って……」
「些細なことなのに、何故和が乱れるんですか? 教えてください」
彼女の質問は尽きることなく、先生達を苦しめた。
やがて、先生達は彼女のことについては匙を投げて放置するようになった。
理由は簡単。
自分達の手には負えないからだ。
彼女が何かしても、何かを言っても、誰も何も言わなくなった。
そのうち彼女も何も言わなくなった。そして、彼女はいなくなった。
親の都合だそうだ。
彼女の存在に頭を悩ましていたから。皆、心の底から安堵した。
彼女がいなくなったことに。
やがて、時は過ぎ、僕らは卒業式を迎えた。皆が涙する中で、僕はふと思い出す。
――淡水魚は毒を持っている。
あの話は結局、何だったのか?
ウソだったのか。それとも、ホントだったのか。
僕らは知らない。知らないまま、卒業した。




