それでも世界は平田のものではない
せっかく男に生まれたんだから世界征服をしようと思うのはトーゼンだ。
頭のかしこいボクは、すぐに行動に移した。
「まずは世界征服の仕方を勉強しないとな」
次の日の昼休み、僕は新品のノートとエンピツを持って、エドガア先生に聞いた。
「先生、世界征服って、どうやったらいいんですか?」
3組の担任のエドガア先生はホントウは江戸川先生でこの時ベントウを食べていた。
エドガア先生はゴクンとした後、ザンネンだけど世界征服はムリだと言った。
「エドガアは子どもの夢をつぶすダメ教師だ」
先生が教えてくれないとなると、自分で調べるしかない。
調べるとなると、平田家に生まれた僕は運がいい。
テレビもあるしインターネットもあるし電話もあればスマートフォンもある。
こんなにたくさんのものがあれば、きっと誰かが世界征服のやり方を教えてくれるに違いない。
まず最初に「子ども何でもそうだんセンター」という所に電話してみた。
リアルに電話したのだ。
相手はおばさんだった。
最初はとてもやさしそうな声だったのに、電話を切る時はオニババアだった。
「テメーゼッテーロクナオトナニナンネーカラナクソガキ」
世界征服の仕方は分からなかったけれど、おばさんは急に怖くなる生き物だということを勉強した。
次にインターネットで調べてみた。
インターネットはできるが、調べる目的で使ったことはない。
「それにしても探して見つける作業っていうのはたいへんなものなんだな」
【世界征服 やり方】で左クリックしてみる。
……と、画面が変わったまではジュンチョーだったのだが、そこから先がむずかしくてわけ分かんなくなった。
なんだかそれっぽいのがいっぱい出てくるし、一つをクリックしてみても、またその中にいっぱい出てくるし、もうそれはむげんの迷路といってよかった。しばらくはがんばったけれど、そのうち一時間ぐらいで頭がくらくらしはじめたのでやめた。
でも、結果的にくらくらしたのは、タダではなかった。
いくつか、いいことが分かったからだ。
ボクは分かったことをノートに書いた。エドガアの時に使うはずだったのだが、使わなかったのでまだ新品のノートだった。だから名前もキレイに書いた。
インターネットで見たものを1ページ目にまとめてみた。
【世界制服のやりかた】
① アメリカ=てき。 世界制服のためにたおさないといけない。強いブキ、“かく”が必要だ。
② お金はぜったいいる。たくさんのお金でまるごと買う。
③ どくさいせいじ。ぶ力でみんなをしもべにする。そのために強いブキがいる。
うーん、かしこいボクでもだんだん分からなくなってきたぞ。
その時、ろうかから田中の足音が聞こえた。いつも黒の革靴で、みんなよりも音を立てて歩くから、すぐに田中と分かるのだ。
(そうだ! 田中は年よりだから、世界征服のやり方を知ってるかもしれない)
ボクはすぐに田中を自分の部屋に呼んで、しつもんしてみた。
「……さすが平田家のおぼっちゃま。その年で世界征服とは“こころざし”が高うございます」
田中はボクをほめた。やっぱりボクはかしこいんだな。少しほっとした。
その時、田中がどこかに電話をした。
2分ぐらいすると、誰かがドアをノックした。
田中が開けたら、そこには黒いスーツを着た大きな男の人が立っていた。
固そうなケースを手に持っている。
田中はそのケースを受け取ると、カギを開けて、ボクに渡した。
「夢を持ったおぼっちゃまへの、わずかながらのゴホウビでございます。夢を叶える第一歩はいつでも小さいものです。ですが、どんな大きな目標も少しずつ努力しつづけることで、必ずかないます。お父様もそうやって、会社を大きくしてきたのです」
「田中、これいくら入ってるの?」
「少ないですが一億円です」
「これで世界征服できるかな?」
「残念ですが、額が少ないですので」
「いくらぐらいいるの?」
「もっとたくさん、ですな」
「……ボクのお小遣い全部でも足りない?」
「現在のおぼっちゃまの銀行口座には8500億円ほどございますが、それでも……」
「そっかあ……じゃあ強いブキっていくらぐらいするの?」
「例えば、どのようなものですか?」
「みんなをしもべにできるなら何でもいい」
「……さすがです。お金をもっと欲しいと言わずに、お金以外で世界を手に入れる方法を考えるとは……」
「かしこいからね」
「ただ、ブキやしもべにかんしてなら心配はいりません。すでにおぼっちゃんは、いつでも使えるブキを持ってらっしゃいますし、買うことができます。また、この男たちはおぼっちゃまのためなら何でもする“しもべ”です。もちろんこの男だけではありません。500万人ほどでしたら、すぐにしもべを呼ぶことができます」
その時、別の男が部屋に入ってきた。
手に膨らんだビニール袋を持っている。
「おぼっちゃま、これを」
中には、人間の頭が入っていた。見たことのないおばさんの顔だった。
「これは何だ?」
「おぼっちゃまに対して失礼な発言をしましたので、しゃべれなくしました」
「……そんなことされたかなあ」
「これとは別に学校担任の頭もございます」
その時、午後三時を告げるベルがなった。
毎日の“遊ぶ”時間だ。
「もうそんな時間か」
「おぼっちゃま、行きましょうか」
「うん、そうだね」
部屋に移動するため、田中と一緒にろうかを歩く。
「新しい人増えた?」
「今日は5人ほどでございます。今回、ぼっちゃんが好きだと言っていたアイドルの方が手に入りましたよ。あとは先日町で見かけた8才の女の子もおります、リボンをしていた」
「えっ、ホント!! じゃー古いの捨てちゃおっかな」
「さようでしたら、不要な者を教えていただければ、ジイの方でショブンいたしますが」
「大丈夫だよ。もう大人なんだから自分でやる。それにあまり働きすぎたら、ジイもくらくらしてしまうだろう?」
「何というありがたいお言葉。おぼっちゃまは……優しすぎます」
部屋のカギを開けた。そこにはハダカの女の子たちが20人いる。
ボクの女の子たちだ。みんなボクのことが大好きなので、部屋にやってくるとすぐにボクの取り合いになる。
「おぼっちゃま、おかえりなさいませっ!」
「さびしかったですーっ♪」
「早くこっちにいらして下さい♪」
「いえいえ、こっちにおこし下さい♪」
「待って待って順番ね、脱いだらすぐに行くから! で初めての子は?」
「部屋のすみでブルブルふるえちゃってまーす」
ずりおろしたパンツを田中に渡しながら、ボクはつぶやいた。
「ボク、世界征服できるかなー」
「おぼっちゃまに叶わない夢はございませんよ。おかしこいのですから」