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探偵と夜と少女と涙 1-3

ほらそこに、と顎で指し示されたその先には、大きな陶器の皿があった。本来ならば白と青の色だったのだろうが、今はそこに血の黒っぽい赤色が加わっている。

その皿に人数分の指が乗っている光景を、葵は思い浮かべる。まるでソーセージだ。

しかし。

「五百人。それはまた、多過ぎじゃないですか」

「組全体での総会議だったそうだ。ビル全体で、護衛含めりゃそのくらいにはなるだろうよ。」

会議はちょうどこの部屋でやっていたんだと、と言ってから、男は口の端を歪めて笑った。

いや、待て。と、いうことは。

「〈新山会〉幹部は――」

思わずつぶやいていた葵のその言葉尻を、引き取ったのは巌だった。

「――全滅、と言う事になるな」

「……」

言おうとしていたことではあるものの、巌の口を通して明言されたことでより現実味が増して、葵は身震いを起こした。

罪名を挙げれば殺人、脅迫、薬物密売、武器の不法所持などなど。対象を挙げれば、庶民から議員、国の誰もが知っている企業の社長まで。ありとあらゆる犯罪を、〈新山会〉は組織ぐるみで行ってきた。本拠地を置かれている桐山市警にとっては何よりも先に倒さなければいけない相手であったが、しかし、幹部を逮捕されようが武器麻薬を押収されようが、どれだけ攻撃を加えられても〈新山会〉はその全てを乗り越えて、生き延びてきた。だが、今回の件は、致命傷だろう。幹部が全滅した今、後に残されるのはいずれ自分から手錠をかけてもらいにくるような連中だけだ。少なくとも、〈新山会〉として再建する事は、もう出来まい。

「……生き残りは、いないのですか?」

唇を噛みながら、葵は問う。無念だった。出来ればこのような形ではなく、きちんと白日の下に晒したかった。

が、男は首を振り、

「会長とその夫人並びに傘下組織の幹部連中の、合計百人は全員死亡確認。その他のここにいた筈の奴等の名前はすぐに分からないから、照合しようにも時間がかかる。各地の警察から。各傘下団体の人員名簿を貰わなけりゃな。」

「では、顧問弁護士は?」

「残念ながら、この場に居たそうだ」

つまり。

「全滅だよ。文字通りに、跡形も無く。」

重い沈黙が辺りを包む。誰一人として、口を開く者は居ない。皆、意味ありげな視線を交わし合うだけだ。

そう、この出来事が示すのは、強大な犯罪組織の壊滅だけに留まらない。その強大な犯罪組織を倒せるほどの力を持った正体不明の何かがこの街に居るということなのだ


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