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探偵と夜と少女と涙 1-1

そこは、赤かった。赤くて、臭かった。

その臭いは鉄錆とよく似ていたが、それと辺りに漂っているものが全く別物だというのは、この空間に居る誰もが理解していた。

「……」

無言のまま、高坂葵は歩を進める。時には大股に、時には小股に、爪先立ちで進んだりもすれば、飛び跳ねて進むことだってある。

が、葵だって何も好き好んでそんな変な歩き方をしている訳ではない。

仕方ないのだ、そうしなければ、踏みつけてしまいそうなのだから。

隙間が見当たらないほどに飛び散った、かつては『人』だったものを。

――桐山市中心部。〈新山会〉本部ビル。それが、この惨状の現場だ。高さ約二十メートルの鉄筋四階建て。もう二時間もすれば七時となり、出勤や登校で賑わう街の中心部。そんな場所で、この惨劇は起きたのだった。

廊下が終わって大きな部屋へと入る。広い部屋だ。数十人の捜査官がこの場に居る筈なのに、まだまだ余裕があるのだから。

その人ごみの中に、葵の目当ての人物はいた。

半円を作るようにして、一際目立つ人の群れ。立っている数人がただひたすら、一人の男に向かって話しかけている。

葵はその群れに歩み寄り、話しかけられている男に向かって敬礼をして、

「警部」

「――ああ」

男――桐山市警捜査第一課殺人第一係の係長である巌警部は、葵を一瞥して、再び視線を残骸の方向に戻した。

葵はその隣に立って、同じようにそれを見る。

「これは……」

「ガイシャだ」

「……これがですか?」

目にしている『それ』が被害者であるとは――いや、人であるとは、葵には到底思えなかった。何に見えるかと問われれば、『赤色の粘液』と答えていただろう。並外れた量の液体が、茶色の高級そうなカーペットに染みをつけている。端的に、葵たちが見て居るものを言い表すとすれば、そんな感じだった。


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