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幕間3-5
そう自分を納得させてから、要は礼儀正しく老婆に頭を下げて感謝の言葉を述べ、踵を返し、歩き出そうとした。
が、その時。その背に声が投げかけられた。
「あの」
「……はい?」
要が振り向くと、老婆は、おずおずといった具合に訊いた。
「貴方は、その、どなたからこの依頼を」
「……」
依頼人の名。
探偵の業務上の倫理と善意との兼ね合いに少しのあいだ逡巡を巡らせてから、要は答えた。
「お考え通りの人物から、ですよ」
そうしてから、再び歩き出した。
老婆は、灰色の傘が見えなくなるまで、ずっとそこに立っていた。




