幕間3-3
そう、まさに葬式だ。線香の存在が、さらにその想像を補強する。弔意を表す喪服に黒い傘に、お供え物としての菊。全てが当てはまる。だったら――
「……あの?」
様子を窺うようにして、老婆が声を発する。それで、要は我に返った。
「え? あ。いえいえ。失礼しました」
そんな言葉を口にしながら、笑みを浮かべた。警戒を解こうとしたのだ。
しかし、それが失敗だったようだ。
見る見るうちに、老婆の顔に浮かぶ表情はいよいよハッキリとしたものになった。当然だろう。見慣れているだろう土地に見知らぬ若い男が立っていて、そいつが己の姿形を見てぼうっとしているのだ。よほど自意識過剰でなければ、そうなる。
駄目だ、と要は判断した。このままでは仕事に支障をきたす、と。
だから。
「いや、あのですね。私、けっして怪しいものではなくてですね」
言いながら、要は一歩足を進める。対する老婆は、同じ分だけ退く。
「ちょっとした仕事のためにですね、ええ。あの、この近くに」
もう一歩、足を進める。対する老婆もまた、同じ分だけ退く。
「小山さん、という方が住んでいたという話をお聞きになったことはありませんか?」
もう一歩、要は歩を進めた。
対する老婆の足は――動かない。
「……今、なんと?」
「え? あ、ですから、小山さんという方が住んでいたという話を聞いたことはないか、と」
要は、同じ言葉を繰り返す。繰り返しながら、老婆の顔を見つめる。
疑惑から驚愕へと、その顔に浮かぶ表情は、明らかに変っていた。
だから確信した。この老婆は何か知っていると。
「……ご存じなんですね? 小山さんを」
もう一言、踏みこむ。答えが返って来るまでには、数秒を要した。
「……」
老婆は一度口を開きかけて、しかしすぐに閉じて。
けれど一旦口にしようとした事を留めきることが出来なかったのだろう、またゆっくりと口を開いて、小さな声で言った。
「知っています……知っていますとも、ええ」
言いながら、老婆は手に持っていた白い菊を地面に置いた。そして手首に嵌めていたブレスレット――否、数珠を両掌で擦り合わせ、目を瞑りながら呟くようにして何かを唱え始めた。
微かに聞こえて来るそれを要は、お経だと、判断した。




