90/97
幕間3-1
傘があろうが車があろうが、雨の日には外を歩きたくないのが人情というものだろう。少なくとも要はそう思っている。
事務所を出てから十分程、歩き続けている。傍らにユキはいない。出る時に姿が見えなかったので、書置きを残して置いてきた。
平日の正午やや過ぎにしては、人影は少ない。車通りも少ない。やはり皆、雨の日は出来るだけ外に出たくないのだ。それは、要だってそうだ。
手掛かりがなければ、こんな日に外になんか。
瞬間、冷たい感触が、顔に生じる。風に運ばれた雨だれが、傘の隙間である正面から吹き付けて来たのだ。
「……ちっ」
袖で顔を拭う。どうしようもない。そもそも防ぎようがない。嫌なら全身くまなく覆える合羽を着ればいい。
――それが無理なら、さっさと家に帰る事だ。
要は、濡らさないように懐に仕舞ってあったメモを取りだし、その文面を周囲の看板と照らし合わせる。
「……そろそろか」
地名は同じ。数字は、多少差異はあるものの、メモのそれに近づきつつある。
だが。
「で、どこだってんだよ」




