探偵と屋根と少女と出逢い2-5
けれどもやはり、何か釈然としない気持ちも確かに心のどこかにあって、
「お前学校じゃねえのか。それともまさか」
要は抵抗をを試みた。が、
「サボる訳ないでしょ。今日は創立何十周年の記念日とかで式典だけで終わったの」
そう説明した有紗は最後に、アンタじゃないんだからと憎まれ口を付け加えた。説得力のある説明に、要は否応なしに納得させられる。
子供じみた抵抗も、こうして残念な結果に終わったのだった。
完敗である、もはやどうしようもない。こうなれば取れる手段はひとつだけである。即ち、
「悪かったよ。事務所に居なかったんでな」
不承不承ではあるが、要は素直に謝った。
それを聞いた有紗は、フンと鼻を鳴らすと、
「……別に、元気ならそれでいいわよ」
店へ帰ろうと思ったのだろう。そのまま要へ背を向けようとして、
「……」
その動きを、中途半端なところで止めた。
顔だけを要の方を向いたまま、訝しげな表情で何かを見つめている。
一体何を見ているのか。要は辿るようにして、その視線の先を確かめて――
「あ」
理解した。思わず口から声が漏れた。
有紗の視線が向けられていたのは、要のズボンの裾。
そこに、赤黒い染みがハッキリとついていた。
恐らく黒服に殴られた時の物だろう、水でも落ちていなかったのは不幸という他ない。
面倒なことになる、と直感した要は誤魔化そうと口を開きかけたが、時すでに遅し。
「ねえ、それって――」
血、よね。そう言うが速いか、有紗は要の方に向き直ると、ずんずんと近づいてきた。
階段を上り、腰を曲げて、裾を手で持って確かめる。指で触る、爪で擦る、臭いをかぐ。
そして、そのなすがままにされていた要の顔を再び見て、
「ねえ」
「いや、それはだな」
「何で血が付いてるのよ」
「いや、だから」
「ねえ、ねえってば」
「……」
面倒なことになった、と要は、じっと見つめてくる有紗の目から顔を背けながら内心で呟いた。