幕間2-5
「……どうかされましたか?」
受話器から梓の声。本日二度目の言葉だ。依頼人に心配される探偵など、笑い話にもならない。
「いえ、何でもありません。」
仕事が忙し過ぎるのでしょうかねと言って、要は笑う。笑いながら、その言葉の空しさに、顔を歪めた。
特に気にした様子もなく、電話の向こうの梓は早々に元の調子に戻って続ける。
『あの、それでですが……ひとつ思い出したことが有るんです』
思い出したこと。
「へえ、それは」
どのようなことですか、と尋ねながら、要は手元に筆記用具とペンを引き寄せる。
そのまま書こうとして、蓋が付いたままであることに気付く。舌打ちをしたい気持ちを抑えながら、口に咥えて外した。
何も手掛かりが無いのだ、縋れるものなら何でも欲しい。
要の準備が終わるのを待ちかまえていたかのような間で、梓は言った。
『住所です。私の家のものではないかもしれないのですが、恐らく捜索には役立つかと』
恐らくどころではない。それ自体が答えではなくとも、答えに繋がる手掛かりである可能性は大いに期待できる。
「どこです?」
一言一句も聞き漏らすまいと、耳に受話器を押し付けみながら問う要に、梓は数字の羅列を一つ一つはっきりと丁寧に、二回繰り返した。




