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幕間2-4

本当に少年かは分らない。見えるのが見上げても最上段にある書名が分らない本棚と、白くて小さくて柔らかそうな手だけだからだ。もしかしたら少女かも知れない。その可能性もある。

だが要は、それが少年であることをよく知っていた。誰よりもよく知っていた。

少年の右手が何やら動いている。手に持っている本の頁をめくっているのだ。

果たして内容を理解出来ているのだろうか。それは少年の細い体の左右にわずかにはみ出ているのが見える程に大きくて、少年の細い腕では五分と持っていられない程にぶ厚い本なのに。

理解出来ている訳が無い。そもそも少年はそんなことを望んで分厚い本の大きなページをめくっている訳ではない。

では何のために少年はその本を手に取って、ページを捲っているのか。

それは――

やめろ、と要は少年の背に言葉を投げつける。が、反応は無い。当たり前だ、声が出ていないのだから。それで止められるわけがない。

それは要自身がよく分かっている。けれど、それでも投げかけずにはいられなかった。

ふと、少年の頁をめくる手が止まった。そのまま右手が動いて、何かをつまみ上げた。

封筒だ。長い年月を経ているのだろう、いくらか皺が寄っているようにも見える。

口は切られている。

少年はその切り口に手を突っ込んで、中身を探る。

やめろ、やめろ。要は叫ぶ。

やがて、探っていた手が止まり、引き抜く動作へと変わる。

切り口から抜け出たそこに掴まれているのは、四つ折りにされた紙。

それが何かを、要はよく知っていた。故に、鼓動が高鳴る。目を見開く。

やめろ、やめろ。頼む、止めてくれ。それをあった所に戻して、全てを忘れろ。

そうすれば、と要は叫び続ける。止める事など出来はしないと、誰よりも分かっているのに。

ゆっくりと、少年の小さな手が、四つ折りの紙を開く。

開いて、それが手紙であることを理解する。

手紙であることを理解したから、何が書いてあるのかと文に目を移して。

そして。

――さん。

『幅木さん?』

「はいっ⁉」

己へと呼びかけて来るその声で、要は我に返った。

気が付けば辺りには音と景色が戻って来て居た。雨の音。汚い事務所。わずかに漂う、コーヒーの残り香。

夢を見ていたようだ。古い、嫌な白昼夢を。


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