幕間2-2
上げながら、出来るだけ物音を立てないようにして、机の上やら引出やら、辺りを漁る。ふざけているばかりではいられない。依頼人から電話があったのだから、応えなければならないだろう。
目当ての物は、本棚にあった。それを掴み、隣しているファイルを崩さないようにそこから引き抜いて、表紙を開き、書いてあることを読み上げる。
「ええと、確か口頭でのご依頼は、『大切な物を捜して欲しい』でしたね」
『すみませんね、酷く抽象的な内容で』
まったくだ、と要は思うが、しかし口には出さない。資料の頁をめくりながら思い出すのは、調査の顛末だ。
――依頼の詳細は口頭ではなく、書簡にて伝えられた。会ったのにもかかわらず、その場では、詳細は明らかにされなかったのだ。理由は分からない。きっと相応の事があるのだろうと、いつの間にか要は自分を納得させていた。
書面によれば、捜して欲しいその大切な物とは、『家族』なのだという。
かつて一緒に暮らしていた家族と、離れ離れになってしまった。だから、見つけてほしいのだという。
しかし。
「ええと、調査の経過に関してですが……大変申し訳ありません。ご報告できるほどの情報はありません」
申し訳ありませんと、もう一度要は繰り返す。言葉の上だけではない。心の底から、無念だった。
依頼を受けてから今日まで一週間。一週間という期間があったにも関わらず、これといった情報を手に入れられなかったのだ。
金銭を受け取っている者のしていい事ではない。
『そうですか……いえ、お気になさらないで下さい。』
電話の向こうで、梓は穏やかな口ぶりで告げる。
が、気にするなと言われても、『そうですかそれなら』とはいかない。曲がりなりにも看板を出している身であるにも関わらず、この体たらくは。
「……」
――しかし、それにしても。
『……どうかされましたか? 幅木さん』
「え? あ、いえ。」
別に何でもありませんと、要は穏やかに答える。
心にもない嘘だ。何でもないことはない。頭の中で、『謎』が渦を巻いている。




