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幕間2-1

灰色の空から、絶え間なく、雨が降っている。

事務所の中に、要はいる。椅子に座って、机に肘を着けて頬杖をついて、窓をじっと眺めている。

外の景色はよく見えない。打ち付ける雨だれによって全体がほぼ覆われているからだ。一つの粒が別の粒と混ざって大きくなって、自重で滑り落ちたと思った次の瞬間には既に、新しい粒がその位置にある。入れ代わり立ち代わり、切れ間などない。

「はぁ……」

無意識の内に、ため息が出ていた。

不愉快だった。立てている肘の皮膚が、机にぺたりとくっついている感触も、まとわりつくような空気も、そして、こんな天気であるにもかかわらずこれから外に行かなければならないと云うことも、何もかもが不愉快だった。

――発端は、つい数分前。昼食を食べて、食後のコーヒーを口にしていた時に鳴った電話だった。

 カップに半分ぐらい残っていた中身を、要はぐいと流し込む。冷めていたせいか、それとも自分で淹れた所為か、何やら酸っぱいようなえぐいような味がした。

立ち上り受話器を取ると、聞こえてきたのは懐かしい声だった。

『お久しぶりです、幅木さん』

余りに久しぶり過ぎて、すぐには反応出来なかった程だ。

恐らくは妙齢の、女性の声。久しぶりと云うことは、前に会った事がある。敬語と云うことは、それほど会った訳ではないということだろう。

情報をパッチワークのように切り貼りする。かかった時間は数秒。ああ、と思い出してから要は、そのことを相手に気取られないように気を付けながら答えた。

「こちらこそ、お久しぶりです。」

梓さん、と。

要は相手であろう人物の名前を呼んだ。

果たして、返って来たのは笑い声だった。

『あら、覚えて下さっていたのですね、嬉しいですわ。てっきり忘れられているんじゃないかと』

揶揄するような響きが、そこには含まれていた。恐らく、ばれている。

が、しかし、それを非難している訳ではないようだ。少なくとも要には、そんな風には聞こえなかった。

直接的で、明確で、明るい。どちらかといえば、面白がっているように聞こえた。いや、きっと当人もそう思って喋っている。

ならば。

「……何を仰るのやら、依頼人樣の名前を忘れるなどそんな失礼な事をするはずが無いじゃないですか」

道化になった気分で要は、はっはっは、とわざとらしい笑い声を上げる。


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