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探偵と猫と少女と疑惑 8-3

キッチンと事務所を区切る扉のその向こうから何やら音がする。ユキの立てる音だろう。

机の上に散らばったのはすぐに集め終わった。残るは、床に落ちた何枚か。

それにしても、と。

しゃがんで、床に落ちた紙へ手を伸ばしながら、要は考える。

――あいつは、ユキは本当に、何なんだ。

目的も分らなければ、思考も、何もかもがこれっぽっちも分らない。全てが謎。だというのに、何故傍に置いているのだろうか。

何もかもが分らない。分からないから、しゃがみながら要は考え続ける。するとその内、腰に違和感が生じ始めた。ずっと同じ姿勢を取っていたからだろう。

ずきずきと、鈍い痛みが脈打つように走る。伸ばせば治るかと立ち上がるが、しかしすぐには消えない。顔をしかめて、要は腰をトントンとたたく。

と、そこへ横から手が伸びてきた。黒い液体の入ったカップが握られている。手の主が誰かなど、見ずともわかる。ユキだ。中身が何かなど、匂いで判る。コーヒーだ。

顔を向けると、ユキのもう片方の手に、もう一つカップがあった。そちらの中身も黒い液体だ。

「なんだこりゃ」

問うと、ユキは自らの分のコーヒーを口に運びながら答えた。

「コーヒーです」

「ンなもん見りゃ分かる。聞いてんのは、どうしてそれを」

持ってきたのか、と続けようとしたその問いは、しかし途中で遮られた。

「いつも二杯飲まれるでしょう」

「……そいつぁ、どうも」

恐らく、部屋に入って来た時に匂ったのだろう。だから、要がコーヒーを既に一杯飲んだことを知っているのは不思議な事ではない。それより重要なのは。

――こいつ、俺の癖を。

喜べばいいのだろうか。恐がればいいのだろうか。それとも得体のしれない少女に癖まで理解させてしまっている己の単純さを恥じるべきなのだろうか。

どうするべきか、要にはわからない。分からないから、取り敢えず、渡されたコーヒーを少し飲んだ。

己の口の端がわずかに綻んでいることに、気づかぬまま。


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