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探偵と猫と少女と疑惑 8-2

「何ですか?」

言葉とともに吐き出された吐息が感じられそうな程に、近かった。それで要は、続けようとした言葉を呑みこんでしまった。

ごくり、と喉が鳴った。

それにしても、だ。一体いつの間に近づいてきたのか。いや、それより先に訊ねるべきは。

「……なぜに、そんなちかくに?」

裏返りそうになる声を必死に落ち着けながら問うと、ユキは平然と返した。

「ぼうっとしてらしたので、お体の具合でも悪いのかと」

全く平然と、何でもないことのようにだ。

「……」

――確かに、物思いにふける要の姿は熱に浮かされているように見えたかもしれない。しかし、だからと言ってあの近さは。

いや、そんな事は言ってもどうしようもない。

「……そりゃどうも。大丈夫だから、とりあえず離れてくれ」

時間が経って、少し落ち着いた要が促す。

「そうですか、では」

何ごともなかったように、ユキは素直に離れた。

「ったく……」

『一体何なんだ、どうも調子が狂う。

離れたユキは、そのままキッチンに向かった。その姿が壁の向こうに消えるまで目で追ってから、要は髪を掻き毟りながら椅子に座る。勢いよく腰を下ろしたせいか、軋む大きな音がした。

ついでに、机に乗っていた紙も散らばった。

「……クソ、が」

頬が引きつる。そこまでの勢いではなかった筈だが、何の因果か。

思わず舌打ちが出た。紙は机の端から端まで広範囲に散らばってしまった。せっかく綺麗に重ねてあったのが、台無しだ。

めんどくせぇ、と再び舌打ちをしてから、要は紙に手を伸ばす。

が、掴めなかった。

まるで意思を持っているかのように紙は、伸びてきた要の手から遠ざかった。とはいえその距離はほんの少しだったから、それほど苦も無く掴めたのだが。


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