探偵と猫と少女と疑惑 7-1
昼下がりである。
事務所に居る。椅子に座って、机に向かい、報告書を書いている。
報告書だ。依頼された事件のあらましから、結末に至るまでをまとめた書類だ。
そう、依頼はすでに解決したのだ。
――ナイフ男と要の死闘から、二日が過ぎていた。
あの後。通報から間もなく駆け付けた警察によって、男は連行された。それからどうなったかを要は知らないし、また知りたいとも思わない。
この依頼においては、そのような事など枝葉末節に過ぎないのだから。重要なのは『猫のギンちゃんを捜すこと』だ。
結論から言うと、『ギンちゃん』は見つかった。すでに飼い主である藤沢の下に帰されている。
二日前。警察による事情聴取が終わった直後まで、話は遡る。
「お疲れ様でした」
パトカーを見送った要が振り向くと、そこにはユキが立っていた。
要は驚いた。それこそ、心臓が止まるんじゃないかという程に。
何故なら、数秒前までユキは姿を消していたからだ。パトカーに乗って来た警察官が、同じ車に乗って帰るまでの間、ユキの姿はおろか影すらどこにも見出せなかった。
とはいえ、それが悪いと言う訳ではない。もしユキが警官に見られていたら、深夜と言ってもいい時間帯に未成年を連れていることを尋問されただろう。場合によっては面倒な事になっていた筈だ。そう考えると、むしろ好都合だったとすら言える。
だが、それで納得できるわけではない。
先だってもそうだ。ふらりと姿を消したかと思えば、また急に出て来る。
一体どこに行っていたのか、問うべきなのだろう。
本来ならば。
時刻は日付が変わる直前、つまりはド深夜。今日、要は街を一日中歩き回って、さらに格闘までこなしたのだ。そんなことで時間を使うくらいなら、さっさと寝たかった。
「……さっさと帰るぞ、眠たくてしょうがねぇ」
欠伸を噛み殺しながら、要はユキを促して歩き出す。何も言わず、ユキはその後ろをついて行く。
深夜である。辺りはすっかり静かで、人の気配はおろか、道路を通る車すらない。点々と続く街灯を辿るようにして、二人は家へと帰る。
――騒動は事務所を目の前にしたその時に、起きたのだった。




