表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/97

探偵と猫と少女と疑惑 6-11

そう語るユキが男に向けているその目は、明らかに『モノ』に対してのそれだった

「いやいい。ってか、絶対にすんな」

慌てて要はユキを制止する。言葉にするだけではなく、余計な気を起こされる前に、と男の方へ走る。

傍らにしゃがんで、顔を覗き込むと、男は白目を剥いて、口の端から涎を垂らしていた。肩に手を置いて揺すってみるも、意識を取り戻す気配は無い。どうやら本当に、気絶しているようだ。

外傷はない。ないが、念のためにと、口の前に手を置いてみる。呼気の当たる感触はあった。胸も上下している。大丈夫だ、生きている。要は胸をなで下ろす。

「……ったく」

安心した途端、腹が立ってきた。こんな迷惑をかけた相手の顔、見なければ気が済まない。

顔を覆うバンダナを外すと、そこにはあどけない青年の顔があった。いや、青年と言えるかどうかも怪しい。多く見積もっても、中学を卒業したかどうか位だ。

拍子抜けした。こんな子供と本気になって戦っていたかと思うと、何だか笑えてきた。

とはいえ勿論、子供だからと言ってナイフを振り回していたことや、野良猫を殺していたことが許されるわけではない。

要は立ち上がると、懐から電話を取り出す。

番号を打ち込んで、電話を掛ける。繋がる先は、言うまでもない。

「あ、もしもし。警察ですか?」

喋りながら、ふと視線をユキに向ける。

暗い路地でも――否、暗い路地だからこそか。ユキの肌のその際立った白さは、はっきりと分った。まるでそれ自体が光を放っているかのようで、それ故、他の場所は色が薄れて見えなくなっていて。

「……」

いや、他に目立つ色があった。服の袖口、微かに赤黒い色がついていた。数メートルほど離れているというのに、吸い寄せられたかのように目が留まった。

間違いない。あれは、血だ。

別に驚くようなことではないだろう。壁にめり込む程に強く殴ったのだ。付いていても、不思議ではない。

だが、何故だろうか。不思議ではないと判っていながらも、どこか納得できていない己を、要は感じていた。

どこがどうとは言いづらいが、どこかが、何かが、おかしいような。

――得体のしれぬもやもやを抱えたまま、要は通報を続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ