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探偵と猫と少女と疑惑 6-8

ひとつは、その攻撃が思ったよりも良い位置に入ったことである。鳩尾に、頬に。まるで最初から決まっていたかのように、これまでの危惧は何だったのかと思いたくなるほどに簡単に決まったのだった。

では、もう一つの誤算とは。

蹴りを食らって勢いを失い下がろうとした男を追いかけて、もう一撃食らわせようとしたその瞬間に、その誤算は生まれた。

体勢を崩した敵へ、これで決めてやろうと渾身の一撃をかましてやろうとした要は、男の方へ大きく踏み込んで。

そこで、転んだのだ。

一体何が起こったのか、訳が分からなかった。急に地面が動いたとしか思えなかった。ややあって、何かを踏んだのだと理解した。

近づいてくる地面。傾ぐ視界の隅の方で光を反射して煌めいた何か。カラカラという音。体が倒れるのを感じながら、その音を聞いた要は自分の踏んだものを数瞬遅れて悟った。空き缶だ。暗闇のせいで見過ごしたそれを、踏んでしまったのだ。

だが、悔やんでも、もう遅い。

間もなく、硬いアスファルトに、体が打ちつけられた。

「がっ……⁉」

変な声が出た。背中から胸へと突き抜けた衝撃によって肺から押し出された空気が、無理やりに喉を通って外に出た所為で出た声だ。

ひゅう、と喉が音を立てる。中身のなくなったことにより、肺が反射的に空気を求めたのだ

ビルとビルの間、狭い夜空に輝く星が、仰向けに倒れた要には見えた。転倒によるダメージは、大したものではない。強いて言うなら少し後頭部を打った位で、それだって問題にするほどではない。

そう、問題は他のところにある。

転倒の直後。すぐに立ち上がろうとした要のその腹を、素早く寄って来ていた男が踏みつけた。

速く、強く、容赦のない一撃に、声も出せないほどの激痛が走った。一瞬息が止まり、その後強烈な吐き気が込み上げてきた。しかし踏み付けた足が離れる気配は無い。それどころかどんどん力が籠っていく。

苦痛を堪えながら、要は男の顔を見上げる。全体がバンダナで覆われているせいで目しか見えないが、それだけでも分った。笑っていた。

ぐりぐりと、男の足が腹を踏みにじる。体重が掛けられた靴の踵がどんどん食い込む。

「ぐ、ぐぅ……」

何とか自由になろうと手足を動かすが、どうしようもない。折角その足を掴んでも、痛みを堪えながらでは満足な力など出せないから、どかすことも出来るはずが無い。

だが、それでも要には、抵抗を諦める事など出来なかった。このまま続けていれば、きっと足をどかせる。そうすればすぐに距離を取って、もう一度立ち合いに持ち込める。そうすれば、そうすれば。

――しかし、その希望は脆くも崩れ去る事となる。

要の視界に、男が手を振り上げたのが写った。その手に光る物が握られていたものも、だ。ナイフだ。


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